戦神兄妹

ジェダ

第10戦 木星軍、宣戦布告しちゃいました。

前回の宇宙海賊との戦いから一日が過ぎ、月面大戦終結から続いた長い休みが終わった。

イズモコロニーのASスクールには再び生徒達が集まって来た。

これからは通常通りの授業が始まるのだ。

タカヤ、リリ、サクヤが教室に入ると、ゼルとノエル、フィリアとジークが既に来ていた。

久しぶりに第七中隊が全員集結したのだ。

「来たか…。」

「おはよう…ございます…。」

「これで全員揃ったね。」

「ま、いつも通りに頑張ろうぜ。」

全員で話をしていると、クリス隊長が教室に入って来る。

「みんなおはよう!もう休みは終わりよ。休んだ分はビシビシ行くから覚悟しといてねー。」

クリス隊長が笑顔で生徒達を見つめる。

だが、目が笑っていないのは明らかだった。

「な、なんか今日の隊長…なんか怖いんだけど…。」

タカヤはクリス隊長の顔を見てすっかりびびってしまっていた。

「お兄ちゃん、この時の隊長はめちゃくちゃ厳しいから気を付けてね…。」

リリが隣から小さい声でタカヤに話す。

「そうですわ。特に訓練は今まで以上にきつくなりますわよ…。」

サクヤも隣からタカヤに小さい声で話し掛ける。

すると、クリス隊長が三人の方に振り向く。

「そこの三人!何喋ってるのかなー?」

クリス隊長は笑っているが、目が怖い。

「い、いえ、何でもないです!」

三人はとっさに同じ台詞を口にする。

「ならいいんだけどね。」

話しているのがバレてないようだった。

三人はようやくホッとする。



そしてお昼休みに入り、タカヤ達は一息つく事が出来た。


しかし、昼休みが終わってもこの地獄は終わらなかったのだった。


「みんな、体なまってるでしょー? これからの特訓メニューはいつもの倍にするわよー!」

なんと、特訓も今まで以上にきつくすると言うのだ。

クリス隊長は笑顔だが、生徒達の顔はひきつっていた。

それはタカヤ達も同じだった。

こうして地獄の特訓が再び始まろうとしていた…。



こうして、数時間に及んだ地獄の特訓は終わった。

生徒は休憩室で休んでいるが、ほとんどが体力を使い果たしたのか、ぐったりとしていた。

タカヤは今にも倒れそうなぐらいにぐったりとしている。

リリとサクヤがタカヤの側についていた。

死にそうな顔のタカヤを二人は心配そうに見ている。

リリとサクヤもさすがに今回の特訓はキツかったのか、少し疲れているようだった。

「お兄ちゃん、大丈夫…?」

「あまり無理しないでくださいね…。」

「な、なんとか…。し、死にそうだけど…。」

リリとサクヤだけでなく、ノエルとジークもかなり疲れているようだった。

「今日の特訓…、連休のあとはやっぱり厳しいですね…。」

「まったくだ。いつもの事だけど勘弁して欲しいぜ…。」

タカヤ達とは対照的に、ゼルとフィリアは疲れの色が見えない。

クリス隊長の特訓に余裕でついて来れたのはこの二人だけのようだ。

「まったく、確かに君達なまり過ぎだよ!任務のない時でも鍛練は欠かさない事だね。」

「この程度…、どうと言う事はない。」

やはり休暇中でも訓練を続けていただけはある。

「お兄ちゃん、ほんとに大丈夫?」

「お兄様、保健室に行きますか?」

「だ、大丈夫だよ、なんとか…。」

とは言っても、タカヤの顔は今にも死にそうではある。

そんなタカヤを、ノエルも心配そうに見つめている。

そんな時、休暇室のテレビからニュース速報が流れる。

テロップには[木星連合、地球圏、火星圏に宣戦布告]と書かれていた。

死にそうにぐったりしていた生徒達がテレビモニターに注目する。

宣戦布告と言う事は、木星連合も木星の資源採取に失敗したという事だ。


生徒達の間にも緊張が走る。

さらに全校舎にアナウンスが流れる。

「特務科の全生徒は至急、それぞれの教室に集合せよ。繰り返す、特務科の全生徒は…。」

特務科の生徒に召集命令が下ったのだ。

タカヤ達もすぐに教室へ向かう。

だが、タカヤはくたくたでなかなか立ち上がれなかった。

「ほらお兄ちゃん、一緒に行こう!」

「しっかり掴まっててくださいね。」

リリとサクヤがふらふらになったタカヤを支えながら教室に向かう。

「俺達も行くぞ…。」

「は、はい…。」

ゼルとノエルもタカヤ達の後を追う。

「兄さん、行くよ!」

フィリアがジークの方を見ると、疲れきった顔でフィリアの腕を掴んでいるジークがいた。

「妹よー…。俺もおぶってってー…。」

ジークはタカヤ達みたいにおぶって行って欲しいようだ。

しかし。

「うるさい!さっさと行く!」

フィリアは常に持参している刀の柄でジークの腹に一撃を食らわせる。

「うぐっ!」

そのままジークは気絶してしまった。

「まったく、兄さんったら…!」

フィリアは気絶したジークを引きづりながら教室へ向かった。



タカヤ達が[SSA-7]の教室に入ると、全生徒が席についていた。

クリス隊長も戦いの時のような真剣な表情になっている。

「みんな集まったわね。集められた理由はわかってると思うけど、木星圏が地球圏と火星圏に宣戦布告したわ。」

クリス隊長は木星圏政府が木星の資源の確保に失敗した事を説明した。

全生徒が不安そうな顔をしている。

それはタカヤ達も同じだった。

無理もない。これからは資源を懸けた地球、火星、木星による全面戦争が始まるのだから。

「これからは今までのような戦いとは比べ物にならないぐらい厳しくなるわよ。特に特務中隊のみんなは覚悟しといてね。」

これからは本格的な戦争が始まるのだ。

第七中隊の戦いはこれから苛烈を極める事になる…。




火星圏。

木星圏政府が宣戦布告した事は、火星圏でも大きな衝撃を与えていた。

テレビの番組は全て中断され、木星圏の宣戦布告に関する特別番組が流され、各コロニーに住む人々は不安に駆られていた。

それは軍にとっても同じだった。

地球軍だけでなく、木星軍とも戦わねばならないのだ。

火星軍は使えるだけの資源を使い、軍備拡張を進めていた。

木星軍との戦いに備えて…。



マーズ・エンパイアコロニーにある兵器開発研究所。

地下深くにあるシークレットラボには、親衛隊の隊長、レオ・ブレイザーとその副隊長、ミア・フィーリスがいた。

「やあ、来たみたいだね。早速見て欲しい物があるからね。」

二人の前に現れたのは、白い髪にツインテールが特徴の少女、ユーノ・インキュベ(以下略)だった。

「見せたい物とは機械少年の事か?」

「そうだよ、新しいのがいっぱい出来たから見せてあげるね!」

ユーノは二人をラボの奥に案内する。


すでに来た事のあるラボの最深部。

そこには数十人といる銀色のASを装着した人間が水槽の中に入れられていた。

しかも全員見た事のある人間ばかりだった。

そう、先日までAS部隊の候補生だった青年ばかりだったのだ。

彼らはイービルと同じく、機械少年に改造されていたのだ。

ASのヘルメットから見える彼らの顔には生気がない。

「ひどい…。」

ミアは思わず目をそらしてしまう。

レオはやはり怒りを抑えているようだ。

「すごいでしょ?これがボクの新しい機械少年、[TYPE-β]、すなわち量産型だよ!」

なんとユーノは量産型の機械少年を密かに研究、開発していたのだ。

「前回の[TYPE-α]に比べてニュートロンフィールドは使えないけど、それ以外はほとんど同じ性能だよ。」

ユーノは新しく作った玩具を自慢するかのようにレオとミアに笑顔で説明する。

「さらにこれがボクの新しい最新作だよ!」

ユーノが指差した水槽の中には大型のASを装着した人間がいた。

その顔は候補生の一人、ガイだった。

「彼はニュートロン耐性が高かったからね。特別に[TYPE-γ]の実験台になってもらったよ。」

ガイは新型の機械少年にされてしまったようだ。

人をまるでモルモットのように扱うユーノに、レオの怒りも爆発寸前だった。

しかし、レオは怒りを必死に抑えている。

「…こんなもので本当に地球軍や木星軍に勝てると思っているのか?前回の戦いでも地球軍には勝てなかったんだぞ…!」

「隊長…。」

ミアが心配そうにレオの顔を見る。

怒りを爆発させたらユーノに掴みかかりそうな雰囲気だ。

「レオ隊長、わかってる?この計画は大統領、そして軍上層部の正式な命令だよ。逆らったらどうなるか…わかるよね?」

ユーノは笑顔で言うが、その裏には威圧感が感じられる。

ここで彼女に意見したらどうなるかわからない。

「くっ…、わかっている。新型のお手並み、次の戦いで見せてもらう。」

非人道的な計画とはいえ、軍の命令に逆らう事は許されない。

ここは素直に従うしかないのだ。

「やっぱり理解できないなぁ、人間の価値観は…。」

ユーノはぼそっと呟いた。

「何か言ったか?」

「ううん、何もないよ。」

レオは聞かなかった事にしておいた。

聞くとややこしい事になりそうだからだ。

「ミア、行くぞ…!」

「は、はい!」

レオとミアはラボの地上へ出るエレベーターに向かう。

「あの子達は親衛隊で使ってもらうから、よろしくねー!」

ユーノはエレベーターに乗り込む二人を笑顔で見送った。




研究所を出たレオとミアはマーズ軍基地へと戻る。

ネーナ艦長が面倒を見ていたプレシアと合流する。

プレシアを連れて親衛隊専用の会議室に入るとメンバー全員が集結していた。

「隊長、おかえりー!」

「…ご苦労様。」

「あたし達全員集まってるぜ!」

マリー、エリー、ミリー。

「おっ、帰って来たか!」

「お待ちしてました!」

ガルバにアリア。

「隊長!」

「お、お疲れ様であります…。」

ゴードンとファサリナ。

レオが率いる親衛隊のメンバー達だ。

「集まってるな。」

「これより、私達のこれからの任務について説明します。」

ミアが親衛隊のこれからの任務についての説明を始める。

親衛隊のメンバー全員に緊張の色が見えていた。

木星軍まで宣戦布告して来たのだ。今まで以上の激戦になるのは間違いなかった。


メンバー全員が真剣に説明を聞いている。

ガルバだけがだるそうに聞いているだけである。

早く戦いたくてウズウズしているようでもあった。

「今回の任務は衛星ダイモス宙域にある採掘基地の防衛だ。ここは木星軍に狙われる可能性が一番高い。」

親衛隊の今度の任務はダイモス軍と協力して衛星宙域の採掘基地を防衛する事だった。

ダイモス宙域にある資源採掘基地は、辺境の宙域にあるものではかなりの規模を誇り、木星軍が真っ先に襲撃される可能性があった。

そこを失うと、火星圏はかなりの痛手を被る事になる。

この基地だけは絶体に守り抜かねばならないのだ。

ミアが説明を続ける。

「今回の任務から私達に新しい戦力が与えられます。ユーノ博士が開発したPS[パペットソルジャー=機械少年]と新型戦艦が支給されます。」

親衛隊には機械少年だけでなく新型戦艦まで与えられるようだ。

「…それはまた見てのお楽しみだがな。今回の説明は終了だ。」

任務の説明が終わると、親衛隊のメンバーは会議室を後にした。



マーズ軍基地近くの病院。

会議を終えたレオはミアを連れてレオの妹、ユリのいる病室へ向かっていた。

これからの戦いはさらに厳しくなるだろう。

ユリのお見舞いに行く時間も無くなってしまうのは間違いなかった。

行ける時には行っておかなければならないのだ。


病室のドアを開くと、ベッドに座っているユリが笑顔で迎えてくれた。

「お兄ちゃん!ミアさん!」

「元気そうだな、良かった。」

「ユリちゃん、久しぶりね。」

ユリはミアとも何回か会った事があるのだ。

今回はあまり楽しく話が出来そうにはなかった。

しばらくはユリに会えなくなるのだから。

「お兄ちゃん、木星軍とも戦争になったんだよね…。」

「ああ…辛いが、しばらくはお前に会いに行けなくなる。」

「そうだよね…お兄ちゃん、親衛隊長だもんね。」

ユリはすっかり元気がなくなってしまっていた。

戦争はさらに激しくなり、兄ともしばらく離ればなれになってしまうのだから。

「心配するな。戦いの合間には必ずまたここに来る。」

「お兄ちゃん、ほんとに…?」

ユリはレオを見つめる。

「ええ、私達を信じて待ってて、ね?」

ミアがユリに優しく微笑む。


「うん、信じてる!」

ユリの顔に笑顔が戻る。

「ユリ、最近の身体の調子はどうだ?」

「うん、最近は良くなってきたよ。けど、まだ入院が必要だって…。」

「そうか…。」

ユリの謎の病はそう簡単には治らないようだ。

「隊長、そろそろ基地に戻らないと…。」

「そうだな…。ユリ、俺達は行かなければならない。」

「うん、また来てね。約束だよ!」


「ああ、約束だ。」

レオとミアは病室を出た。

これから今まで以上の厳しい任務が待っているのだから…。



数日後、火星圏の平穏は打ち破られる事になる。

ダイモス宙域の資源採掘基地、ファルスベースに木星軍が攻撃を仕掛けて来たのだ。

火星軍の予想が見事に適中してしまった。

親衛隊にもすぐに出撃命令が出た。

メンバーは青と白にカラーリングされた新型戦艦に乗り込む。

新型機動戦艦[ヴァルホーク]。

地球軍の特務艦と同様に人型形態[バトロイドモード]に変形出来る戦艦である。

今まで親衛隊が運用していた[オリンポス]は可変型戦艦開発のテスト艦だったのだ。

火力、防御力、機動力も[オリンポス]よりも上がっている。

人型形態の操縦はもちろんプレシアが担当する。

親衛隊のメンバーを乗せたヴァルホークは衛星ダイモス宙域へと進路を向けた。



資源採掘基地、ファルスベース。

木星軍の襲撃を予想し、既にダイモス軍が駐留している。

だが、今はまだ平穏そのものだった。

「隊長ー、退屈ですねー…。」

ASを装着している見張りの兵士が退屈そうに漆黒の宇宙を見ている。

「我慢しろ、これが俺達の任務なんだからな。」

警備部隊の隊長は真面目に周囲を見張っている。

「そんな事言ったってー…。」

《大丈夫ですって、こんな辺境の基地なんかに来ないですよ、ハハハハ…。》

もう一人の兵士は気が緩んでいるのか、楽天的だった。

しかし、その平和な時は突如終わりを迎える。


その時、宇宙の彼方から小さな光点が輝く。

「何だ?…うわぁっ!」

笑っていた兵士がビームで撃ち抜かれる。

しかもRFが機能せず、爆死してしまった。

「何だ、攻撃か!?」

「隊長、宙域に木星軍が!」

突然の木星軍の襲撃に、火星軍は取り乱していた。

しかもRFが無効化されている。

どうやら木星軍もRFキャンセラーを持っているようだ。

超遠距離から木星軍がビームを撃ちまくる。

隊長は数人の部下と共に迎撃に向かう。

「俺達が奴等を食い止める!お前等は基地に戻ってマーズ軍に救援要請を出せ!」

「でも、隊長達が…!」

《俺に構うな、早くいけ!》

「わ、わかりました…!」

一緒に監視していた部下を基地に戻し、隊長達は敵を探す。

「どこにいる…!」

レーダーにはASの反応はない。

一体どこに隠れているのか。

と、その時だった。

遠距離からビームが放たれ、隊長を直撃した。

「馬鹿な…!」

ビームは隊長のASのエンジンを貫き、爆発した。

「た、隊長!」

残る部下達も次々とビームで貫かれ、死亡した。

放れた所に漂っている隕石の陰からは、大型ランチャーを持ったASがいたのだった。




木星軍特殊部隊旗艦[アオバ]。

その艦橋ではガニメデ軍特殊部隊[デス・ブレイムズ]の隊長、キール・デスターク大尉が先行していた狙撃部隊の戦況を見ていた。

「やるな、カナン!腕は鈍ってないみたいだな。」

モニターにカナンの顔が映し出される。

「ありがとう…隊長…。」

キールに誉められて、カナンの顔が少し赤くなっている。

カナンはダークブルーにカラーリングされた小さなASを装着している。

JAX-016[桜雅(オーガ)]。

ミーアの[夜叉(ヤクーシャ)]とは対照的に、遠距離狙撃と後方支援用に作られたカナン専用のASである。

カナンは採掘基地から放れた所から隕石の陰に身を潜めながら敵を狙撃していたのだ。


遠距離から何のいきなり狙撃された火星軍はかなり混乱しているようだ。

一斉攻撃を仕掛けるには絶好のチャンスである。

「ねー、あたしの出番まだー?」

ミーアは退屈そうだった。

早く戦いたくてウズウズしているようだ。

「大丈夫だって、もうそろそろ俺達の出番が来るぜ。」

すると、カナン達狙撃部隊から出撃のGOサインが出た。

採掘基地に攻撃開始の時だ。

「ミーア、出番が来た!行くぜ!」

「待ってましたー!」

キールとミーアはAS格納庫へと向かった。

ついに木星軍の資源奪取作戦が開始されたのである。




親衛隊のメンバーを乗せた戦艦[ヴァルホーク]は資源採掘基地ファルスベースへと向かっていた。

今回のミッションからは親衛隊には新型戦艦や機械少年だけではなく、バージニア級護衛艦二隻に、マキシム級輸送艦四隻が新たな戦力として与えられていた。

これだけの戦力があればいつ戦いが起きてもすぐに駆けつける事が出来る。

親衛隊のメンバーは艦内の休憩室で待機していた。

「さっすが新型戦艦だねー。どこも綺麗だよー!」

「部屋も広くなったし…。」

「ここの飯も美味かったしな!」

マリー、エリー、ミリーの三人は新型戦艦に大満足のようだった。

「オリンポスから離れるのは寂しいですけど、ヴァルホークもいい艦ですよね。」

アリアもヴァルホークの乗り心地には満足しているようである。

「俺は早く木星軍と戦いてぇんだけどなー。」

血気盛んなガルバは落ち着きがないようである。

ゴードンとファサリナは格納庫で自身のASの調整を行っている。

真面目な性格の二人らしい。


すると、艦内にアナウンスが流れる。

親衛隊メンバーはブリーフィングルームに集まるようにとの事だった。



ブリーフィングルームにはレオとミアとプレシアが待っていた。

そこにマリー、エリー、ミリー、アリア、ガルバが入って来る。

数分後、遅れてゴードン、ファサリナも到着した。


これで親衛隊メンバーが全員揃った。

「みんな、揃ったな。」

「先程、ファルスベースが木星軍の襲撃を受けたわ。」

レオとミアが現在のファルスベースの状況を説明する。

既に木星軍はファルスベース周辺の資源採掘基地をいくつか制圧してしまったらしい。

ベース本拠にも既に侵攻を許してしまっている状態である。

これ以上資源を取られる事は許されない。

「木星軍のベース侵攻を何としても食い止めるんだ。」

「木星軍の戦力は未知数よ。みんな、気を付けてね。」

「了解!」

ブリーフィングは終わり、親衛隊は戦闘準備に入った。



親衛艦隊がファルスベース宙域に到着した。

既に火星軍と木星軍の戦闘が始まっている。

親衛隊が到着した時には、木星軍にベース侵入を許してしまっている状態だった。

急いで叩かねばならない。

親衛隊メンバー全員がASを装着し、出撃の時を待つ。

そして、その時が来た。

「待ってました!行くよー!」

「これ以上好きにさせない…。」

「派手に暴れるよぉ!」

[マックスイーグル]を装着したマリー、[アクセルシャーク]を装着したエリー、[ラッシュパンサー]を装着したミリーがそれぞれ出撃する。

「木星軍も全員ぶっ潰してやんよぉ!」

「い、行きます!」

[ハルパー]を装着したガルバ、[エピデンドラム]を装着したアリアも出撃する。

「ファサリナ、行くよ。」

「よしっ!任せな!」

[ダンガード]を装着したゴードン、[ヴァレリオン]を装着したファサリナも出撃した。

残りはレオとミアだけだ。

二人共専用AS[コバルトファルケン]、[フェアリオン]を装着し、電磁カタパルトの前に立っていた。

「あの、隊長…。食事に行く約束、また守れませんでした…。」

ミアはバイザー越しのレオの顔を見つめる。

月面大戦の時に約束した二人で休暇を取って食事に行く事が未だに出来なかった。

戦いが終わっても予定が山積みでそれどころではなかったのだが。


木星軍との戦いも始まった今では、いつ時間が空いてるかもわからない。

「その事か…。この戦いが終わったら行こうか。」

ミアの顔に笑顔が戻る。

「はい!」

レオの表情はいつも通り平静そのものだが、それでもミアは嬉しかった。


「レオ少佐、ミア大尉、出撃OKです!」

最後の二人も出撃の時だ。

「おしゃべりはここまでのようだ。行くぞ。」

「は、はい!」

ASに追加装甲を装着した二人は電磁カタパルトで宇宙空間へ飛ばされた。



ヴァルホークから出撃した親衛隊メンバーは既に火星軍と木星軍が戦っているファルスベースへと向かう。

護衛艦からもAS部隊と戦闘機が出撃する。

「親衛隊各員へ。俺達はダイモス軍を援護しつつ、ベースに近づく木星軍を叩くぞ。ゴードン、ファサリナはベースに侵入した敵を叩け。」

レオ達はそのまま戦闘エリアへ向かい、ゴードンとファサリナはファルスベースへ向かう。

「各員、奴等の戦力はわからないが、とにかく生き延びる事を優先に考えろ、いいな。」

「了解!」

隊員達の気合いの入った返事が飛ぶ。

「プレシア、聞こえるか?」

レオは艦にいるプレシアに通信を入れる。

「はーい、きこえるよー!」

「新兵器の運用はお前に任せる。ネーナ艦長、プレシアの事を頼む。」

「わかりました、少佐。お気をつけて!」

「うん、わかったー!」

プレシアとネーナ艦長との通信を終えようとすると、ユーノが割って入って来る。

彼女は機械少年運用のオブザーバーとしてヴァルホークに乗艦していたのだ。

「レオ隊長、機械少年は出さないの?」

「…機械少年は我々が不利になったと判断したら出す。それまで待機だ。」

「ふーん。ま、出すタイミングは隊長に任せるよ。」

量産型の運用はレオに任せると言ったのだ。文句は言わせない。

できればあんな非人道的な兵器は使いたくないのがレオの本音だ。



それに親衛隊の戦力であればそんな兵器に頼らなくてもいい可能性がある。

木星軍の戦力は未知数の為、油断は出来ないが。

「全隊員へ。木星軍に攻撃を仕掛けるぞ。」

戦闘宙域に到着したレオは木星軍部隊に攻撃を開始した。



木星軍艦隊はファルスベース宙域の資源衛星を次々と制圧し、資源を確保していた。

専用ASを装着したキールは次々と襲いかかる火星軍部隊を右腕に装備した実体剣で切り裂く。

「オラオラぁっ!この程度かぁ!」

専用AS[夜叉(ヤクーシャ)]を装着したミーアも大型ハンマー[ミョルニア]を軽々と振り回し、敵を撃退する。

「ほーら、どいたどいたー!」

二人の力もあり、ベースの守備隊は壊滅し、後はファルスベースを制圧するだけだ。

「隊長ー、大丈夫ー?」

念願の実戦にテンションが上がるミーアはキールに声を掛ける。

「大丈夫だって。俺を誰だと思ってんだ?」

「さっすが[斬撃のキール]だねー!」

キールが装着しているのはJAX-020[E.D.G.E(エッジ)]。剣による接近戦を重視したキール専用のASである。

キールはこのASを駆り、[斬撃のキール]という異名で敵から恐れられている。

「隊長…、火星軍の新たな増援が接近中。」

後方から遠距離攻撃を担当するカナンから通信が入る。

火星軍はコロニー戦争に馴れているだけあって、対応が早い。

木星軍部隊の一部が採掘基地の侵入に成功したが、いつまで持つかわからない。

これ以上ベースに火星軍を行かせる訳にはいかないのだ。

「おもしれぇ、まだまだ骨のある奴がいそうだな。ミーア、行くぞ!」

「オッケー!」

キールとミーアは火星軍の増援が現れたエリアへ向かった。



ファルスベースが見える範囲まで到着したレオとミア。

ダイモス軍の守備隊はやはり苦戦している。

すぐに救援に向かわなくてはならない。

「ミア、行くぞ!」

「はい!」

二人が守備隊を援護しようとしたその時!

警告音が鳴り敵の接近を知らせる。

しかもデータにはない敵だ。


「隊長、あれを!」

ミアが迫り来る敵を発見する。

敵は二体。

「あれは…!」

そこに現れたのはただの一般兵用ASではなかった。

一般用ASに大型の武装や装甲が追加されている。

背部には大型ブースターまで付いている。

今まで見た事がない兵器だ。


木星軍は木星探査に使用していた強化外装[アーマードモジュール]を戦闘用に転用していたのだ。

もちろん、ASの防御性能も上がり、生存率も高い。

量産性重視の為、ニュートロンエンジンではなくプラズマジェットエンジンを使用している為、ニュートロン兵器が使えないが、宇宙空間での機動性は高い。

左腕に格闘用クローとプラズマガトリング、右腕はミサイルポッドや高周波ソード等、武装の付け替えが可能だ。

二体の強化外装型ASはプラズマガトリングを連射しながらレオとミアに接近して来る。

二人はそれをなんとか避ける。

「危なかったですね…。」

「ああ、だが倒せない相手じゃない。」

体勢を立て直そうとすると、二体の強化外装型は一体が右腕からミサイルを放ち、もう一体が右腕に装備された高周波ソードで斬りつけて来る。

「そうはさせません!破壊の妖精!」

ミアは無線誘導ビット[フェリシア]を複数転送すると、ミアとレオの周囲に飛ばす。

フェリシアはミサイルを打ち落とし、敵の高周波ソードを破壊した。

同時攻撃を全て防ぎきったのだ。

「よくやったミア、後は任せろ。」

レオは右腕に配備されたばかりのニュートロンライフルを転送し、装着する。

「ついにこれを使う時が来たか…!」

火星軍もついにニュートロン兵器の実用型に成功したのだ。

レオ達ニュートロン耐性の高いランダーに配備される事になったのだ。

再び迫って来る強化外装型二体にライフルを向ける。

プラズマガトリングの砲撃を回避し、レオはライフルを敵に向ける。

ライフルからニュートロン粒子が放たれ、強化外装に直撃する。

さすがに光の速さで放たれる粒子を避けられず、強化外装は爆発し、ランダーもそれに飲まれた。

「まず一機…!」

もう一体がレオに迫るが、ライフルから放たれた粒子が二発直撃し、爆発した。

なんとか木星軍の新型を二体撃破に成功した。

「手強かったですね…。まさか今の兵器は量産型…?」

「おそらくそうだろうな。」

ミアの不安は的中していた。


そして火星軍が木星軍に苦戦している理由もわかった。

木星軍はAS用の強化兵器を量産化させていたのだ。

地球軍が月面大戦で使用した兵器に似ている。

通常装備のASでは太刀打ちは出来ないだろう。


やはり機械少年を出すしかないのか。

その時、ヘルメットのレーダーが新たな敵の接近を知らせる。

木星軍のASが一機。

データベースにはないが、量産型ではない。

間違いなくエース級だ。

接近して来たエース級は両手に持った実体剣でいきなり斬りかかって来る。

レオはそれを軽くかわす。

木星軍のエースから通信が入る。

「お前が火星軍の蒼き鷹か?」

若い男の声だ。

「そう呼ばれているな。何者だ?」

「木星軍特殊部隊[デス・ブレイムズ]隊長、キール・デスターク大尉だ!蒼き鷹、俺と勝負しろ!」

荒削りなタイプのようだが相当な実力があるようだ。

専用ASも剣による接近戦重視のように見える。

「ほう…。俺は火星軍親衛隊隊長、レオ・ブレイザー少佐だ。確か貴様は[斬撃のキール]だったな。」

「俺の名を知ってたのか。なら話が早いな。やろうぜ!」

「命が惜しくないなら相手をしてやる。来い。」

「自信あるとか?」

「あるな。」

キールは剣を構える。

レオも左手に電磁ランサー[イーグルレイジ]を転送する。

「そんじゃ、行くぜ!」

先にキールがレオに向かって来た。

対するレオもキールに突進する。

ミアもそれに同行する。

「隊長、私も援護します!」

二人でキールに挑もうとしたその時!

キールの後方からビームがいきなり放たれた。

ビームはミアの側をかすめた。

「隊長、後方にも敵が!」

「ミアは狙撃型の敵を叩け。キールは俺が相手をする。」

「わかりました。隊長、気を付けて。」

「ああ、お前もな。」

ミアはビームで狙撃して来た敵の元へ向かう。

これでレオとキール、一対一の戦いになった。


キールはレオとの真剣勝負がお望みのようだ。

「これで邪魔者はいなくなったぜ。よし、行くぜ!」

「望む所だ…!」

火星軍と木星軍の絶対的エース同士の戦いが始まろうとしていた。



レオ達が木星軍の精鋭と戦っている頃、マリー、エリー、ミリーの三人は木星軍の大部隊と交戦していた。

一般兵の中には新兵器である強化外装[アーマードモジュール]を装着した兵士も含まれており、火星軍のエースである三人も苦戦を強いられていた。

「このーっ!」

マリーは大型の弓矢[イーグルアロー]から高熱の矢を連射し、迫り来る木星軍兵士と強化外装装備型兵士を次々と撃墜する。

「こいつら…しつこい…。」

エリーは二本の槍[ハイドラ]を巧みに操り、強化外装装備型兵士を一体撃墜する。

「うっとおしいんだよ!」

ミリーは大型斧[パニッシャー]を全力で振り回し、多数の敵兵士を一瞬で殲滅させる。

数分の内に三人は木星軍の大部隊を全滅させていた。

「はぁ、はぁ…。あいつら強いよぉ…。」

「これは…、予想外…。」

「これじゃあたし達がもたねぇよ!」

しかし、木星軍兵士の実力は思った以上に高く、強化外装の性能もあり、三人にはかなりの疲労がたまっていた。

だが、休む暇もなくセンサーが新たな敵の反応を知らせる。

敵ASは四体。

その中の一人はどうやらエースのようだ。

「また来たよぉー!」

「来る…!」

「くそぉ!かかって来いよぉ!」

敵の姿がやがて見えて来た。

一人は専用ASを装着したエース。

見た目は小さい女の子のようだ。

そして三人の兵士は厄介な事に強化外装装備型だった。

「来たよ!あたしとミリーであいつをやる!エリーはアーマー付きをお願い!」

「…わかった。」

「気を付けろよ!」

エリーは強化外装装備型兵士を迎え撃った。

マリーとミリーは敵エースを叩く。

そして敵エースがマリーとミリーの前に立ち塞がる。


見た目は小さな女の子のようだが、右手には大型のハンマーを持っている。

専用ASを与えられるからには相当な実力の持ち主だろう。

小さな女の子だと侮っていては痛い目を見る事になる。

「やっほー、火星軍のエースさーん!」

木星軍エースがマリーとミリーに通信で呼び掛けて来た。

「あたしは木星軍特殊部隊のミーア・テリウスだよ!あんた達を殲滅しに来たからよろしくねー!」

声からしても10代前半ぐらいの少女のようだ。

「もうあたし達に勝ったつもりなのかなー?」

「わざわざ名乗り出て来るなんてな…面白いじゃん!」

エリーとミリーは武器を構える。

「火星軍の人達みんな弱くてつまんなかったからー、お姉ちゃん達は楽しませてねー!」

かなり自信満々な子だ。ベースの前衛部隊を壊滅させたのも彼女のようだ。

「あたしは火星軍親衛隊のマリー・オドニスだよ!あたし達を簡単に倒せると思わないでね!」

「同じくミリー・オドニスだ!あたい達に喧嘩売った事を後悔させてやるよ!」

「うん、よろしくー!それじゃ思いっきり戦おうよ!」

先にミーアがマリーに向かって来た。

ミーアは大型ハンマー[ミョルニア]をマリーに向かって降り下ろそうとする。

しかし、その前にミリーが立ち塞がり、大型斧でハンマーを受け止める。



子供とは思えない程のパワーだ。

もちろんASで身体能力が強化されているが。

「マリー!あたいがあいつを引き付ける!後ろ任せた!」

「オッケー!でっかいので決めてあげるわよー!」

ミリーが接近戦でミーアを引き付け、マリーが得意の狙撃でミーアを仕留める。

ミーアがどれ程の実力を持っているかは不明だが、一気に叩かないと面倒な事になる。

ミリーは大斧を振り回し、ミーアにおそいかかる。

ミーアはハンマーでそれを受け止めようとするが、強烈なパワーでふっ飛んでしまう。

「まだまだ!」

ミリーはさらに追撃を加える。


ミリーは大斧[パニッシャー]をライフルモードに切り替え、先端からプラズマ弾をミーアに向けて連射する。

斧から放たれたプラズマ弾はハンマーで全て防がれてしまう。

「こんなの効かないよー?」

ミーアは余裕そのものだ。

「今だ、マリー!」

ミリーが呼び掛けると、マリーは弓矢を構えていた。

その照準はミーアを捉えている。

「行くよ、リミッター50%解除!」

マリーは兵装のパワーリミッターを解放する。

「いずれ血となり骨となるんだから、やられちゃいなさい!」

矢に高熱化したエネルギーが溜まっていく。

「エクスプロージョン・アロー!」

高熱化した矢が炎のオーラに包まれながらミーアに向かって飛んで行く。

マリーの必殺の一撃の前でもミーアは余裕だった。

「おねーちゃん達強いねー。けど、まだまだだね。」

ミーアはハンマー[ミョルニア]に蓄積されているプラズマエネルギーを開放する。

「そーれそーれ、一撃粉砕ー♪」

ミーアは向かって来る炎の矢をプラズマエネルギーで包まれたハンマーではじき返してしまった。

マリーの必殺の矢は宇宙空間のあらぬ方向へ飛んで行ってしまったのだ。

「そんなー…、あたしの必殺技がぁ…。」

渾身の一撃を破られた事で、マリーは戦意を喪失してしまったようだ。

「マリー!何やってんだよ、ヤツが仕掛けて来るぞ!」

ミリーが呼び掛けてもマリーは動こうとしなかった。

「悪いけどー、一気に片付けちゃうよー!リミッター30%解除!」

ミーアも兵装リミッターを解除する。

解除されるとハンマーが巨大化される。

「プラズマ・ハリケーン!」

ミーアが巨大ハンマーを振り回すと、プラズマエネルギーの竜巻がマリーに向かって飛んで行く。

戦意喪失したマリーは動かない。

しかもマリーのASはリミッター技を使った為、エネルギーの再チャージまで性能が落ちてしまった。

逃げる事は不可能だ。

「くそっ!」

ミリーは全速力でマリーの前に立ち、プラズマエネルギーの竜巻を迎え撃つ。


「プラズマフィールド全開!」

ミリーは大斧からプラズマフィールドを最大出力で展開する。

そしてプラズマエネルギーの竜巻はミリーに直撃する。

「くぅぅぅぅう!」

なんとかミーアの強烈な一撃を防ぎきったミリーだったが、ASのシールドゲージが60%まで減少してしまっていた。

次に同じ技を食らったらもたないかもしれない。

「はぁ…はぁ…。」

「ミリー、大丈夫!?」

「ああ、大丈夫だよ。それよりあいつ、来るぞ!」

ミーアは攻撃の手を緩めないようだ。ダメージを受けたミリーに向かって来る。

「マリー、動けるか?」

「う、うん!」

「そんじゃ、行くぞ!」

マリーとミリーは向かって来るミーアを迎え撃った。



「敵は…どこなの?」

遠距離攻撃を仕掛けて来た敵を撃破すべく、無数の隕石が漂う暗礁宙域へ向かったミア。

しかし、この辺りはレーダーの障害が激しく、敵を感知出来ない。

攻撃に備え、無線誘導ビット[フェリシア]は複数を展開状態にする。

すると、どこからか長距離ビームが放たれた。

フェリシアを二機失ったが、どこから撃たれたのかは特定出来た。

「そこね、攻撃開始!」

ミアは敵が隠れていると思われる隕石に向けてフェリシア二機を飛ばす。

フェリシアは隕石の陰に隠れていた敵を撃破する。


「まずは一人…!」

さらに、またどこからかビームが放たれる。

またもフェリシア一機が撃ち落とされたが、ミアはなんとか避ける事が出来た。

「行けっ!」

ミアは敵が隠れている隕石に向けてフェリシア二機を飛ばし、狙撃兵を撃ち落とした。

すると、レーダーにASの反応があった。

それは木星軍だった。

先程撃破した二人は一般兵だったが、今回は違う。

専用ASを装着したエースだ。

大型のビームランチャーを構えている。

見た目は小さな女の子のようだが、油断は出来ない。

「ようやく現れたわね…。」

「ターゲット、落とす…。」

敵のエースはかなり物静かな子のようだ。

この少女こそ、木星軍特殊部隊の一員、カナン・フォルテスだった。


カナンは無言でランチャーからビームを撃ってくる。

しかもただのビームじゃない。

ニュートロン粒子のビームだ。

直撃したらシールドを破られて即死亡だ。

なんとしても当たるわけにはいかない。

「手強いわね…!一気に決めないと!」

ミアはフェリシア五機をカナンに向けて飛ばす。

三機も失ってしまった為、攻撃力のダウンは痛いが、やってみるしかない。

五機のフェリシアはカナンを包囲し、プラズマ弾が放たれる。

「行ける…!」

ミアは全弾直撃を確信した。

だが、カナンのASの装甲の一部がピンク色に発光していた。

ピンク色の装甲から桜の花弁の形をした光の弾が複数展開される。

まるで桜吹雪のようにカナンの周りを舞うと、次々と襲いかかるフェリシアを全て撃ち落としてしまう。

「そんな!?」

これでミアは主力兵器を失ってしまった。

ミアはプラズマカタールライフルを両手に転送し、接近戦を挑もうとする。

しかし、カナンのランチャーにエネルギーが充填されていた。

まずい予感しかしない。

ミアは急いでカナンから離れようとする。

「させない…!」

カナンのランチャーのエネルギー充填が完了した。

「リミッター30%解除…。アクエリアス・レーザー、発射…!」

ランチャーから高出力の巨大レーザーが放たれる。

「くっ!」

ミアはなんとか避けるが、その威力はすさまじく、後方で戦っていた火星軍部隊も消し飛ばしてしまったのだ。

「何て事…!」

だが、カナンがリミッター技を使った為、エネルギー補給まで隙がある。

これは攻撃のチャンスである。

だが、カナンから通信が入る。

「よそ見しててもいいの…?」

「どういう事!?」

すると、レーダーに敵の反応。

[強化外装]を装着した敵兵士がニ体接近してきたのだ。


多人数で攻めこまれては主力武器を失ったミアが不利になる。

しかも味方部隊は次々と追い込まれている。

「隊長、まさかあのPSを出すつもりじゃ…。」

その後、ミアが思っていた事は的中する事になる。




[蒼き鷹]レオと[斬撃のキール]こと木星軍のエース、キールとの戦いは互角だった。

キールは両腕からニュートロン・ソードを出し、積極的にレオに斬りかかる。

レオもニュートロンコーティングを施した電磁ランサー[イーグルレイジ]を右手に転送し、キールの攻撃を受け止める。

「どうした、レオさんよぉ!あんたの力はその程度かよ!?」

「俺を甘く見ない事だ…!」

レオは左腕に装備したニュートロン・ライフルを二発撃つ。

ライフルから放たれた二発の粒子はキールのニュートロン・ソードで弾かれる。

「そんなもん効くかっての!」

木星軍もニュートロン兵器を実用化させていたのは知っていたが、まさか地球軍とほぼ互角のレベルだったとは。

地球軍と同様に油断出来ない相手だ。

レオは得意の接近戦を挑もうとする。

「面白れぇ!思っての接近戦の真髄、見せてやるぜ!」

それに応えるようにキールも接近して来る。

キールはレオに蹴りを繰り出す。

レオはそれを難なくかわす。

だが。

「ふん…!」

「甘めぇよ!ケーキみてぇに!」

さらにキールが右足で蹴りを繰り出す。

その瞬間、右膝の装甲から実体剣が飛び出す。

「何!?」

レオはそれをかわそうとするが遅かった。

キールの右膝の剣の一撃はレオのASの装甲をかすめてしまった。

胸部の装甲に切り傷がついた。

だが、戦闘に支障が出るレベルではない。

「やるな…!」

「だろ?まだまだこんなもんじゃねぇぞ!」

キールはさらに左膝の装甲から実体剣を出し、膝蹴りを繰り出す。

レオはその膝蹴りから繰り出される斬撃を電磁ランサーで受け流す。

レオはその一瞬の隙を見逃さなかった。

「ブルー・インパルス!」

電磁ランサーに内蔵されているプラズマエネルギーをキールに向けて放出する。

「何っ!?」

キールはかわそうとするが間に合わない。

プラズマエネルギーの衝撃波はキールのASの右肩アーマーの一部を吹き飛ばした。

避けるのが遅かったら直撃していたかもしれない。


「へぇ…、さすが[蒼き鷹]だ。やるじゃんか。けど、あんたらは追い込まれてるぜ。」

「やはりか…!」

キールの言っている事はハッタリではなかった。

火星軍は木星軍に押され始めているのだ。

火星軍にはマーズ軍と親衛隊が加わったとはいえ、新兵器を投入した木星軍に力負けしている。

このままでは火星軍はファルスベースにある資源を奪われてしまう。

「大人しく降参して資源を俺達によこした方がいいぜ?」

自信に満ちたキールの言葉。

だが、火星軍にもPSと言う切り札はある。

使いたくはなったが、追い詰められている今では使うしかない。

「やはり、やるしかないのか…。」

レオは左腕から青色の信号弾を上に向けて撃ちだした。




マーズ軍親衛隊旗艦[ヴァルホーク]の艦橋でも、青い光を放つ信号弾を確認していた。

「艦長、レオ少佐からの信号弾を確認しました!」

青色の信号弾は、PS、すなわち機械少年を出撃させよとの合図だったのだ。

ユーノは副長席に座りながら嬉しそうな笑みを浮かべる。

「ふーん、ようやく決断したみたいだね。さ、ボクの可愛い機械少年達を出撃させるよ。」

ネーナ艦長はすぐに指示を出す。

「PS全機、出撃させるわよ!」

「了解、PS出撃準備!」

ついにユーノが改造した量産型機械少年達が宇宙に放たれたのだ。

ヴァルホークから出撃したのは量産型機械少年[TYPE-β]が8機と、最新型である[TYPE-γ]が1機。

[TYPE-γ]を先頭に、後ろに続く[TYPE-β]がそれに続く。

「敵対スル者ハ、スベテ抹殺スル!」

ニュートロン・ガンを構えた機械少年達は木星軍に攻撃を開始した。



機械少年の投入により、火星軍と木星軍の戦況は逆転する事になる。

機械少年の性能は圧倒的で、一般兵はおろか、木星軍の最新型である[強化外装]の部隊すらも次々と撃ち落としていく。

量産型機械少年[TYPE-β]はニュートロンフィールドがないが、それでも並みのASを越える性能を持っていた。

量産型AS[グール]を装着した機械少年β型は右手に装備されたニュートロン・ガンを撃ちまくり、次々と木星軍兵士を撃ち落とす。

特に活躍したのが最新型機械少年[TYPE-γ]だった。

月面大戦で投入された[TYPE-α]に似ているが、 さらに性能が上がっていた。

専用AS[スケルトンⅡ]を装着したγ型は右手に装備したニュートロン・ライフルと左手に装備したニュートロン・ソードを使い、立ち塞がる木星軍兵士を次々と撃破する。



[ヴァルホーク]の艦橋でその戦いを見ているユーノは楽しそうにそれを見ていた。

「さすがボクと契約した子達だね。けど、性能はまだまだこんなものじゃないよ。」

ユーノの右手にはスイッチのようなものが握られていた。

「エントロピー・エクストラクター、作動だよ!」

ユーノがスイッチを押す。

すると、γ型の身体が青く輝き、背中から光の翼のようなものが表れる。

γ型は通常時より戦闘力がアップした。

展開されたニュートロン・フィールドは戦艦からの攻撃すらも防ぎ、目で追う事すらも難しい程の速さで木星軍兵士を倒し、戦艦一隻を撃墜してしまう。

活躍したのγ型だけではなかった。

β型の一人がもう一人のβ型を突然持ち上げる。

持ち上げられた方のβ型の全身全がニュートロンエネルギーで包まれる。

すると、そのβ型を敵艦隊に向けて勢いよく放り投げた。

放り投げられたβ型は
ミサイルのように高速で戦艦に飛んで行き、木星軍戦艦の艦橋に直撃する。



投げ飛ばされた機械少年は木星軍戦艦を破壊すると、後方にいた二隻の木星軍巡洋艦にも貫通し、破壊した。



ユーノは戦艦[ヴァルホーク]から機械少年の戦闘を見ていた。

量産型機械少年が特攻兵器のように敵戦艦を沈める光景を見ながらユーノがつぶやく。

「まったく、友達をミサイルみたいに放り投げるなんてどうかしてるよ。」

「あんたが作ったんでしょ…。」

艦長席で指揮をとっていたネーナ艦長が思わず小さい声でツッコミを入れてしまった。

「…何か言った?」

聞こえていたのか、ユーノが笑顔でネーナ艦長の顔を見る。

「別に…。」

ネーナ艦長は思わずユーノから視線を反らした。

顔は笑っているが殺気を感じたのだ。

機械少年の戦闘データを取っていたユーノはテンションが上がっていた。

「すごいや!エントロピーを凌駕するなんて。機械少年はこれからの主力兵器間違いなしだね。」

次第に機械少年達が木星軍を追い詰め、両軍の初めての戦いはいよいよ最終局面を迎えようとしていた。



キールがレオと死闘を繰り広げている頃、木星軍が火星軍の新兵器の前に押されていると言う知らせを受ける。

戦艦も何隻かは沈められており、このまま戦闘を続ければ資源の奪取も困難になる。

「まさかあんな隠し玉を持ってたなんてな…。」

「俺達の勝ちだな…。」

レオは火星軍の勝利を確信していた。

「くっ…、ミーア、カナン!撤退するぜ!」

キールは戦闘中のミーアとカナンに通信を入れる。

「レオさんよ、今日の所はこれぐらいにしてやるよ。次は全力で潰すからな!あばよ!」

キールは攻撃を止め、撤退した。

「キール・デスタークか…。面白い相手だったな。」

レオはキールとの再戦を楽しみにしているようだった。



火星軍親衛隊のマリー、ミリーと交戦中のミーアに、キールからの通信が入る。

「ミーア!ただちに撤退しろ!」

「えー、なんでー!火星圏まで来て手ぶらで帰る訳にはいかないんだから!」

「いや…、もう資源は確保してるから。このままでは俺達が不利だから、さっさとずらかるぜ!」

ミーアはようやく自分達が不利に追いこまれている事を知る事になる。


「もうちょっと遊びたかったのにー。帰ろっと。」

ミーアが撤退しようとすると、大斧を持ったミリーが追撃して来る。

「逃がすかよ!」

「もう、しつこいなぁー。これでも食らって!」

ミーアはミョルニアのプラズマエネルギーをチャージすると、プラズマ衝撃波を向かって来るミリーに飛ばす。

プラズマ衝撃波はミリーに直撃し、ミリーは動けなくなる。

「ね、マイルドでしょー?じゃーね!」

ミーアは二人に手を振りながら逃げて行った。

「待て、こんにゃろー!」

ミリーの叫びも虚しく、ミーアの姿は宇宙の彼方へと消えて行く。

「ミリー、無理はだめだよー。」

マリーは動けなくなったミリーの元へ向かう。

そこに、敵兵士との戦闘を終えたエリーが合流する。


「エリー!無事だったんだねー。」

エリーのASは無傷のようだ。

「これぐらい当たり前。ちょっと手こずったけど…。」

これで三人共、無事に帰還出来る。


「…あの敵は?」

「逃げられちゃったよ。」

「あいつ、強かったよー!」

「ふーん、戦ってみたかったな…。」

「そうだねー。そんじゃ、早く帰ろっか。」

「…うん。」

マリー達はすぐにヴァルホークへ帰艦するのだった。



火星軍親衛隊のミアと激闘を繰り広げていたカナンに、キールからの通信が入る。

「うん、わかった。すぐ戻る…。」

カナンは攻撃をすぐに中止する。

「お姉さん、今日の所はこれでおしまい。それじゃ…。」

カナンは残存部隊と共に撤退して行った。

「危なかったわね、さすがに…。」

今回ばかりは戦闘が長引いたらミアが危なかった。

フェリシアが全て落とされ、遠距離戦ではかなり不利だったのだ。

手持ちのプラズマカタールライフルだけで勝てる相手ではなかった。

子供ながら相当な手練れのランダーだった。

「それより隊長は、無事かしら…。」

ミアはレオの元に再び向かった。



レオ達が戦っている頃、旗艦[ヴァルホーク]は木星軍艦隊の攻撃を受けていた。

木星軍戦艦からビーム砲が次々と放たれる。

しかし、ヴァルホークのネーナ艦長は余裕の表情だった。

何故なら、ヴァルホークには最新型の新兵器があるからだ。

ネーナ艦長は既にバトルルームで待機しているプレシアに指示を出す。

「プレシアちゃん、例のバスター・フォーメーション、使うわよ!準備はいい?」

プレシアは[オリンポス]と同様の球状のバトルルームにいた。

「うん、だいじょうぶだよー!」

プレシアは銃型のコントローラーを握る。

「いくよ、バスター・フォーメーション!」

プレシアがコントローラーのスイッチを押すと、ヴァルホークがゆっくりと変形を始めた。

しばらくして変形が終わると、ヴァルホークは銃のような形態に変化していた。

この形態こそ、ヴァルホークの必殺形態、バスター・フォーメーションなのだ。

ホログラムのプレシアが宇宙空間に投影され、銃形態のヴァルホークを握り、敵艦隊に向けて構えている。

バトルルーム内で、プレシアはターゲットスコープを覗き込み、木星軍艦隊に照準を定める。

「エネルギー充填完了!行けるわよ!」

「はーい!ニュートロン・バスター!」

プレシアがコントローラーのトリガーを引くと、ヴァルホーク先端の二つの銃口から高出力のニュートロン粒子が放たれる。

ニュートロン粒子は向かって来る木星軍艦隊全てを一瞬で消滅させてしまった。

そのあまりの凄まじさに、ネーナ艦長やクルー達も呆然としていた。

「すごーい!あたしやったよー!」

プレシアだけはバトルルーム内ではしゃいでいた。

「敵艦隊、沈黙。よくやったわね、プレシアちゃん!」

「うん、すごいでしょー!」

プレシアは女性兵士に連れられてバトルルームを出る。

「これで、この戦いも終わりね…。」

ネーナ艦長はすぐにいつもの表情に戻る。

これで木星軍は戦闘継続が不可能だろう。

ネーナ艦長は敵残存部隊が素直に撤退してくれるよう、静かに願った。


レオ達が帰還しようとしていた所、ヴァルホークから木星軍艦隊を新兵器で撃退したとの報告があった。

プレシア達があの新兵器を使ったのだ。

「プレシア達…やってくれたようだな。」

レオは戦闘中、敵艦隊を飲み込むニュートロンの光が見えていた。

「隊長、ご無事ですか?」

他の敵と戦っていたミアが合流して来た。

「隊長ー!あたし達も無事だよー!」

マリー、エリー、ミリーの三人もやって来た。

ミリーのASが損傷しているが、帰還には問題ないようだ。

「よし、木星軍は撤退した。俺達も帰るぞ。ゴードンとファサリナにも艦に戻るように言ってある。行くぞ。」

「了解!」

部下と合流したレオはヴァルホークへ進路を向けた。



ファルスベース内では、ゴードンとファサリナはベース内に進入した木星軍兵士を迎撃していた。

「サーベル・ファング!」

ゴードンの刀から無数の衝撃波が放たれ、敵兵士を次々となぎ倒す。

「ドリルボンバー!」

ファサリナはドリル槍を振り回しながら敵兵士に突撃し、複数の兵士をぶっ飛ばして行く。

すると、敵兵士はこれ以上の侵攻を諦め、ベースから撤退して行く。

すると、レオから通信が入る。

「ゴードン、ファサリナ、無事か?」

「は、はい!」

「あたしも大丈夫ですよ!」

「木星軍は撤退した。お前達も艦に戻れ。」

レオ隊長が撃退したようだ。ファルスベースを守りきったのだ。

二人はようやく安堵の表情を浮かべると、ベースを出てヴァルホークに帰還する。



こうして、無傷とは行かなかったが、ファルスベースの防衛には成功した。

ベース周辺の資源衛星からは資源を根こそぎ奪取されてしまったが、ベースにある大量の資源を守れたのが幸いであった。

火星軍の被害も大きかったが、親衛隊は誰一人欠ける事なくヴァルホークに戻る事が出来た。

レオとミアもヴァルホークの艦橋へ戻って来た。

「ご無事で良かったです、隊長。」

艦橋に入ると、ネーナ艦長とプレシアが出迎えてくれた。

「艦の被害は?」

「ほぼゼロですよ。例の新兵器で木星軍艦隊も退けましたし。」


「あたしがんばったよー!すごいでしょー!」

ヴァルホークの新兵器で敵を退けたプレシアは満面の笑みを浮かべる。

ミアはプレシアの頭を優しく撫でる。

「よくやったわね、プレシアちゃん!」

「うん!」

これで親衛隊のミッションは終了したが、レオとミアはコロニーに戻ってもまだやる事があるのだ。

「よし、マーズコロニーに戻るぞ。これ以上の長居は無用だ。」

「了解です!」

ネーナ艦長はヴァルホークと親衛艦隊にマーズ・エンパイアコロニーに進路を向けるよう指示を出す。

木星軍との初戦闘は火星軍の勝利に終わった。

だが、地球軍、木星軍との戦いはこれからが本番なのだ…。



火星軍との戦いで甚大な被害を受けた木星軍艦隊は木星圏へ撤退を開始した。

特殊部隊旗艦[アオバ]は無事だったが、多数の戦艦が火星軍の新兵器により撃沈されてしまった。

黒星スタートになってしまったが、資源運搬用の輸送艦が無事だったのが幸いだった。

戦闘を中止したキールはミーアとカナンとも合流し、アオバへ帰還した。

「お前ら、大丈夫みたいだな。」

「うん、大丈夫…。」

カナンはいつも通り口数は少ないが大丈夫そうだ。

「えー、もうこれで終わりなのー?」

初の火星軍との戦いを楽しんでいたミーアは不満そうだ。

「しょうがねぇだろ。戦艦があんなにも沈められたんじゃな。」

「あれ以上の戦いは、無理…。」

キールが撤退を指示しなけるば、もっと被害が大きくなっていたのは間違いなかっただろう。

「火星圏まで来て手ぶらで帰る訳にはいかないんだから!」

「いや、手ぶらじゃないって…。まあ資源は最低限は確保したぜ。」

「あ、そうだったんだー。」

ミーアは資源を奪取出来ずに撤退したと思っていたようだ。

実際はファルスベース周辺の資源衛星から少量のニュートロン等を確保したのだ。


ファルスベース内の資源は奪えなかったが、今は生きて帰れただけでも良しとしなければならない。

「そんじゃ、木星圏に帰るぜ。行くぞ!」

「はーい!」

「了解…。」

キール達はアオバへ進路を向ける。

今回は負けてしまったが、このような資源を奪い合う戦いがこれからも続くというのか…。

「お前はこれでいいのか、リリア…。」

キールは妹の名を呟くと、アオバへと帰還した。




無事にファルスベースを守り、マーズコロニーへと向かう火星軍親衛艦隊。

初めて実戦に出した機械少年[TYPE-β]と最新型の[TYPE-γ]は、TYPE-β一体を失っただけで、残り全機はヴァルホークに帰還した。

レオは機械少年を出さずに勝つつもりだったが、木星軍は予想以上に手強かった。

機械少年がいなければファルスベースは陥落していたかもしれない。 


ヴァルホーク内にあるユーノ専用の私室。

ユーノは機械少年の戦闘データを分析していた。

そこにはレオとミアもいた。

「レオ隊長、お手柄だね。今日はいっぱい戦闘データが取れたよ!これからもあの子達をいっぱい戦わせてね!」

機械少年が今回の戦いでかなりの戦果を挙げた事で、ユーノはかなり大喜びだった。

「くっ…。」

非人道的な実験で生み出された兵器を再び実験投入してしまったのだ。

勝ったとは言えレオもミアも素直に喜べるはずもなかった。

そんな表情をする二人を前にしてもユーノの笑顔は変わらない。

「気持ちはわかるけど、これも火星圏の為なんだよ。それに帰ってもまた任務があるんでしょ?」

「ああ。」

マーズコロニーに帰ってもレオとミアにはまだやる事が残っているのだ。

「あの子達はボクに任せて、安心して任務に集中してね。」

「わかっているさ…。」

親衛艦隊は順調にマーズコロニーへと向かっていた。


レオ達がマーズコロニーに戻ると、すぐに軍基地に向かった。

任務を終えたマリー達と別れたレオ、ミア、プレシアの三人は基地内にあるマーズ軍新隊員のオーディション会場へと向かった。

会場には特別顧問である、カーネル・タケハイラ少佐とこの前集まった新隊員候補が集まっていた。

相変わらず「喧嘩上等!」とでも言わんばかりのピリピリした雰囲気だ。

そして、いよいよ新隊員(と言うかまた機械少年の素体)を決めるオーディションが始まった。


「お前らよう来たの。これから始まるオーディションは、これじゃ!」

カーネルが指差すと、そこには模擬戦用のバトルフィールドが接地されていた。

「クリティカル!25~♪」

いきなり会場内にBGMが流れた。

そこにはいつの間にか二人の男女が立っていた。

「パネルバトル、クリティカル25!司会のモダマ・ツヨシです。」

一人のこのオーディションの為に呼ばれたベテランのアナウンサーのようだ。

「お、同じく司会のアリア・ワイズマンです…。」

何故かアリアまで司会をやらされていたのだった。

(何で私まで~…。)

アリアは何故司会をやらされたのか困惑気味のようだ。

それにしてもどうやって新隊員を決めるのか。

司会のモダマがルールを説明する。

候補生はこのオーディション専用のASを装着し、相手のASのシールドゲージを0にした方が勝利となる。

だが、ただ攻撃してダメージを与えればいいと言うのではない。

ASの至るところに設置された25ヵ所の「クリティカルポイント」に攻撃をヒットさせなければならず、さらに出題されるクイズに正解しなければ攻撃がヒットしたとは認められないのだ。

こんな戦いで本当に新隊員が決まるのか。

レオとミアも注目していた。

しかし、候補生からはブーイングが飛ぶ事になる!

「聞いてないんじゃコラ!」

「クイズなんか出来るかコラぁ!」

血気盛んな候補生達が司会のモダマとアリアに押し寄せる。

「み、みんな落ち着いて~…!」

アリアの制止の声も候補生達にの耳には入らない。

どうやら、候補生達は今回のオーディションのルールは何も聞かされていないようである。

すると、カーネルがとんでもない行動に出る!



カーネルの手にはいつの間にかショットガンが握られていた。

抗議を続ける候補生に向けて、カーネルは無差別にショットガンを乱射する。


候補生達が次々と散弾の直撃を受けてその場で絶命していく。

すると、候補生達はすぐに抗議を止め、おとなしくなった。

カーネルは静かになった候補生達を睨み付ける。

「お前らのぉ、また暴れてみぃ。全員皆殺しにするけぇの!わかったんか!?」

「は、はい!」

候補生達は完全に恐怖で震え上がっていた。

それを見ていたレオはミアの方を見る。

「キレ具合がそっくりだな…。」

確かにミアもキレたら銃を乱射してしまうのだが。

するとミアは顔を真っ赤にして慌てふためく。

「わ、私はあんなにひどくあるません…!」


カーネルの銃乱射で候補生がおとなしくなった所で、ついに新隊員を決めるオーディションが始まろうとしていた。

「それではオーディションを始めます!候補生の皆さんは指定のASを装着してください。」

モダマの指示で候補生達がASを装着する。

ASは火星軍の量産機だが、色が赤、緑、白、青と4パターンのカラーがある。

候補生達がASの装着が完了すると、いよいよ対戦がスタートする。


会場内のバトルフィールドにASを装着した二人の男が立つ。

赤いASを装着しているのは以前カーネルに食ってかかったリーゼントの男だった。

カーネルはリーゼント男に声を掛ける。

「よう来たの。覚悟は出来たんやろうな?」

「ジョトダコラ!(上等だコラ!)やってやんよ!」

相変わらずカーネルには反抗心剥き出しだった。

「よし、そろそろ始めるか。」

カーネルの指示で二人の試合が始まる。

赤いASのリーゼント男は片手剣、相手の緑のASの男も同じ片手剣を装備している。

「そ、それでは試合開始です!ファ、ファイト!」

アリアの合図と同時に二人が同時に動き出す。

先に攻撃を繰り出したのはリーゼント男だった。

リーゼント男は剣ではなく、右手に持ったマシンガンで対戦相手に向けて乱射する。

その攻撃は複数のクリティカルポイントにヒットし、クイズの解答権を得た。

「赤の方、解答権獲得!それでは大事な、クリティカル、チャーンス!」

モダマが何故か鬼気迫る表情で拳を握りしめるポーズをとる。

そしてアリアが問題を読む。

「量産型ASに使われている動力源はプラズマジェットエンジンですが、ランダー専用ASの動力源に使用されているのは何でしょう?」

リーゼント男はすぐに即答した。

「ニュートロンエンジン!」

「結構、そのとーり!」

リーゼント男が正解し、相手にダメージを与えた。

すると、AS内に内蔵されていた起爆装置が作動したのだ。

一体いつの間に装備されていたのか。

しかも首の部分に仕掛けられていた。

すると、そこにユーノが現れたのだった。

ユーノが現れると言う事は、ろくでもない事が起こると言う事だ。

レオとミアの顔が険しくなる。

「リーゼントの人の勝ちだね。悪いけど、敗者には死と言うルールがあるんだよ。悪く思わないでね。」

ユーノは無邪気な笑顔で恐ろしい事を言う。

そんなルールを聞いていない対戦相手の顔がみるみる青くなる。

「と、言う訳で火星の為に死んでちょうだい!」

ユーノが微笑むと同時に、対戦相手のASの起爆装置が爆発する。


対戦相手はすっかり怯えた表情になる。

「い、嫌だ…、死にたくな…」

その瞬間、対戦相手の頭は木っ端微塵に吹き飛んだ。

それを見た候補生達の表情はすっかり青くなる。

逃げ出そうとすると、ユーノが笑顔で候補生にクギを刺す。

「ここから逃げ出たら問答無用で処刑だよ。わかってる?」

すると、会場から逃げようとした候補生の足が止まる。

「は、はい…。」

これで彼らは勝つしか生き延びる方法がなくなった。

これを見たレオとミアは怒りを隠せなかった。

ミアはこの凄惨な光景をプレシアに見せまいと目隠しする。

「なんて事を…。滅茶苦茶ですね…。」

「そうだな…!」

確かにユーノのやる事は滅茶苦茶だが、二人にこのオーディションを止める権限はない。




リーゼント男が勝利した事で、次の対戦が始まろとしていた。

青色のASと白いASを装着した候補生が対戦する。

「結構、そのとーり!」

青いASの候補生が勝利し、白いASの候補生の頭が爆発する。

そして赤いASと緑色のASを装着した候補生の対戦が始まる。

「赤の方、何番?」

「じゅ、十二番!」

赤いASの候補生がクイズに正解し、相手にダメージを与える。

結果は赤いASの候補生の勝利となり、対戦相手の頭が起爆装置により、血しぶきを上げながら吹き飛ぶ。

機械少年計画を外部に漏らさない為の口封じなのだろうが、いつまでこんな事を続けるのかと、レオは怒りを押さえていた。


次は最後の対戦相手だ。

白いASを装着した候補生、イトーと、前にアリアやカーネルに突っかかった不良、フジとの戦いである。

フジは青いASを装着している。

そして、イトーとフジの対戦が始まる。

イトーは電磁槍、フジは大剣を装備して挑む。


試合が始まると、先に仕掛けたのはイトーだった。

槍の鋭い一撃を胸部のクリティカルポイントにヒットさせる。

「決まりました!それでは大事な大事な、クリティカル、チャァァァァンス!」

モダマが拳を握りしめるポーズをすると、アリアが問題を読み上げる。

「ニュートロンの兵器開発は日々進歩していますが、最初に実用化させたのはどこの軍でしょう?」

イトーは即答する。

「そりゃマーズ軍でしょ?」

沈黙がしばらく続くと、モダマが口を開く。

しかし、ブザーが鳴る。

ブーーー!

「残念!正解は地球軍でした!」

イトーは不正解だった為、ダメージを与えられなかった。

しかし、彼は次々と不正解を繰り返す事になる。

「く、クリティカル、チャァァァァンス!」

「ざーんねん!」

次の問題もまた外れ。

「くっ、クリティカル…、チャァァァァンス!」

「ざ、残念!」

不正解を繰り返す度に、モダマの疲労もピークに達するのであった。

「ク、ク、ク、クリティカル…、チャァァァァンス…。」

モダマの表情はもう死にかけ寸前だった。

「も、もうやめた方が…。」

アリアは心配そうにモダマを見る。

しかし、次の問題はまたしても外れ。

失敗続きのイトーの表情が険しくなって行く。

そしてついに、イトーの不満も頂点に達しようとしていた。

その後、会場がとんでもない事態に!



「はぁ、はぁ、そ、それでは次の問題に参ります…。」

モダマが次の問題に進めようとすると、イトーがカーネルに食ってかかる。

「おたくらさぁ、いつまでこんなクイズ続けるわけ?難し過ぎて先に進まねぇじゃんかよ?」

イトーの抗議にもカーネルは表情を変えない。

「正解するまでじゃ。お前らは黙って続けてればええんじゃ。」

しかし、イトーも怯まない。

「だったらちょっと問題を簡単にしてくださいよ。」

「ルールは変えん。黙って試合続けてればええんじゃ。」

カーネルもルールを変えるつもりは全くないようだ。


だが、イトーも引き下がるつもりはないようだ。

「なぁ、どうやったら簡単にしてくれんの? 金払えばいいの?」

「あぁ?何が金やお前!?」



『金払えばいいんでしょ?』

イトーの言動に激怒し、イトーの胸ぐらを掴み、詰め寄るカーネル。

カーネルに睨みつけられてもイトーは怯まなかった。

「金払えば簡単にしてくれるんでしょ?月謝払えば教えてくれるんでしょ?」

「お前、ふざけんなよマジで?」



『お金払って仲良しこよし、お手て繋いでチーパッパでいきましょうよ。』

イトーの人をナメた言動にカーネルの怒りも頂点に達する。

するとカーネルは、ショットガンを持ち出すと、イトーの頭に銃口を向ける。

カーネルは何の躊躇いもなく引き金を引き、イトーの頭部を一瞬で吹き飛ばす。

「はい、お前帰っていいよ。」

カーネルの残虐ぶりに候補生達が全く動けなくなっていた。

すると、カーネルが意外な言葉を口にする!


「よし、ここに生き残った全員合格にしてやるよ。」

何と、現在残っている候補生達を合格させると言うのだ。

まだ一回戦すら終わっていないと言うのに。

「本当にいいのかい?」

ユーノは改めてカーネルに確認をする。

「いいですよ。全員地獄見せちゃるけぇの。」

オーディションはうやむやのまま終わってしまったが、次の新部隊のメンバーは決まった。

「本当に地獄を見る事になるけどね…。」

ユーノは一人笑顔を見せていた。

そう、彼らは後に機械少年にされてしまうのだから。



第11戦へ続く。



























































































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