魔女はきょぬーになりたかったので転生して好きに生きます。

秋先秋水

第三話 神魔皇、ノーサツする

 ケモミミ少女と共に家の目の前にゆっくりと降り立つ。
 飛行中は杖に横座りをして少女を抱えていた。
 浮遊魔法をかけていたので全然重さを感じなかった。


 ちなみに、ずっとおっぱいに埋もれさせていたら顔が真っ赤になっていた。


「な…………なんで、空を……? しかもこんなところに家……?」


 話すこともままならないらしく、ふらふらしながらセラに尋ねてきた。


「それは、歩けばよかったのになんで空を飛んだのかっていう質問? それとも、どうやって空を飛んだのかっていう好奇心?」


 首を傾げながらセラが逆に聞き返すと、ケモミミ少女は正気に戻ったのかぶんぶんと首を横に振った。


「あなたは何者なんですかっ!? 浮遊魔法を使えるなんて……はっ、まさか宮廷魔導士様!?」


 なぜか興奮気味のケモミミ少女。
 どうやらこの時代での浮遊魔法は、宮廷魔導士という職業じゃないと使えないようだ。
 だがセラの職業は魔法使いと決めている。


 決して魔導士などという心躍らない響きの職業ではない。
 なんでもできるエロいお姉さん魔法使いとして生きると決めているのだ。


「違うよ。私は魔法使い。魔法使いのセラだよ」


 腰に手を当てて胸を張る。
 たゆん、とおっぱいが揺れたのがわかる。
 妙に誇らしい気持ちになったのは内緒だ。


「魔法、使い……? 精霊使いでも魔術師でも魔導士でもなくて……ただの、魔法使い?」


 なんと、セラの常識がまた一つ打ち壊された。
 魔法を扱う職業にもいろいろあるらしい。まぁ知ったこっちゃないが。


「そう。魔法使いセラ。おねーさんって呼んでもいいのだよ? ほら、中に入って」


 言いながら家の扉を開ける。


「――!? あ、す、すみません。おじゃま、します」


 ケモミミ少女が家の中を見て息をのんでいた。
 どうしたのだろうか。
 ソファとかクッションとか大量にあるからちょっと引いちゃったのかもしれない。


 しかし、先ほどから少女の行動が可愛いとセラは感じていた。
 おろおろしたり耳をピコピコさせたりしているのだ。


 もふりたい。


 ソファに座らせた後、しばらくセラの家を見つめて呆然としていたケモミミ少女だったが、すぐさま勢いよく頭を下げた。


「……セラさん。助けていただいてありがとうございました。あのままでしたら私は今頃魔物に食われていたかもしれません」


 あ。おねーさん無視された。
 まぁ仕方ないと割り切ろう。
 同じくらいの年だから恥ずかしいのかもね。


「気にしなくていいよ。名前はなんていうの?」


「失礼しました。私はリーエルといいます。……なんとお礼を言えばいいか」


 再度頭を下げるリーエル。
 礼儀正しいところを見ると、どこかの貴族の生まれなのだろう。


「何してたか知らないけど、素手で森に入るなんて危ないことしちゃだめだぞ? どうしても入らないといけない理由でもあったの?」


 暗に何をしていたのか尋ねてみる。
 見た限り、リーエルは短剣なども持っておらず、魔法も使えないようだったのだ。


「はい……実は私、リドルの街の冒険者で……でも、レベルも低いし、魔法も使えない女だから誰もパーティーに入れてくれなくて……」


 冒険者。
 セラの胸が高鳴る。


 そういえば冒険者なるものが前世でもあった気がする。
 地上を荒らした時に、手練れの冒険者たちが相手をしてくれた。


 その時の様子は忘れもしない。
 今でも思い出すことができる。


 かっこいい装備を身にまとった者たちが一心不乱に自分に向けて攻撃スキルを放ってきたり、チームで立ち向かったりしてきた。
 前衛の剣士が二人、支援の弓術士、回復の法術士、そして後衛の花形――魔法使いという構成のパーティだった、


 誰もがセラ――ルクレツィア・シャイターン――を恐れていたが、立ち向かってくる者たちの目は一様にして覚悟が決まっており、最高にかっこよかったのを覚えている。


 無論、こちらも誠意を込めて皆殺しにしてあげたが。


 でも変だ。魔法が使えない者たちもパーティを組んで冒険者をやっていたはずなのだが。
 時代が変われば冒険者の在り方も変わるということだろうか。


「それでエルちゃんは一人で森に入って、魔物に襲われちゃったのか~」


「エルちゃ――?」


「え? だめだった? リーエルちゃんだから、エルちゃん」


「い、いえ、大丈夫です。……エルちゃん……にゅふふ」


 嬉しそうな顔を浮かべて顔を赤くしているリーエルを見てセラは思う。 


 まるで歩く優良物件だ。
 こんな無害そうな女の子はあまりいない。


 他人行儀なところはちょっとアレだが、それは時間が解決してくれるだろうとセラは思った。
 いい友達になれそうだ。


 考えていると、ぐぅぅ~というお腹の音が鳴った。
 腹の虫を泣かせているのはリーエルだ。
 顔を赤くするリーエルに微笑みかける。


「ねぇエルちゃん。ご飯作ってあげるから少し一緒に話さない? 冒険者さんの暮らしってよくわからないから聞きたいな」


「で、でも迷惑じゃないですか?」


 ごはん、という言葉に敏感に反応している。
 だけど申し訳なさのほうが勝っているのだろう。もじもじしている。
 なんていい子なのだろうか。


「いいのいいの。そろそろこの森を出ようかなぁって思っていたところだし、情報が欲しいんだよねぇ。だから、エルちゃんの情報と引き換えに私がご飯を提供するの。取引成立?」


「そ、そういうことなら……取引成立ですっ」


 右手を差し出すと、嬉しそうにリーエルが握手をしてくれた。






――――――――Side リーエル




 私は腕利きの冒険者を夢見て街で不自由なく育ってきました。
 冒険者になるために体を鍛えて、剣を振るっていました。


 お父さんもお母さんも私が冒険者になるのを反対していました。
 ですが、私は反対を押し切って冒険者になりました。


 でもすぐに、お父さんもお母さんが冒険者になるのを止めた理由を知ることになったのです。


 冒険者登録を終えて一日目、パーティメンバーを募集するために掲示板に張り紙をしました。
 でも、いつまでたってもパーティになってくれるという人は現れませんでした。


 二日目、掲示板の前を通りがかるパーティに声を掛けますが、全員に首を横に振られました。
 たまたまだろうと思いなおし、三日目も、四日目もそれを続けました。


 ……それでもダメでした。


 冒険者ギルドの人に聞いてみたら、女性の冒険者で魔法が使えない人は歓迎されないと聞きました。
 なぜかと理由を聞いても答えてくれません。


 「女だから」


 ただそれだけの理由だそうです。意味が分かりません。


 怒った私は無謀にも一人で森に入ることを決意しました。
 歩いて二日かかる場所にある『嘆きの森』。


 街道沿いにある森の中でも危険度の高い場所です。
 最近はグリムベア―なる魔物も出ると聞きましたが、私は自分は鍛錬しているからどんな魔物にでも勝てると思っていました。


 その結果はセラさんも知っての通りです。


 弱いといわれているホーンラビットに戦いを挑みましたが、まるで歯が立たなかったんです。
 剣を振っても当たらず、当たったと思ったらホーンラビットの角にあたって剣が粉々になりました。


 その衝撃で私は気を失い、セラさんに助けられたというわけです。


 ……初めてセラさんを見たときはびっくりしました。
 まるで人形のように綺麗で、かわいくて、……エッチな格好をしていたからです。


 最初は通りがかりの貴族様かと思いましたが、すぐに考えを改めました。
 彼女は一人で、しかもふよふよと宙に浮いていたのですから。


 浮遊魔法なんて見たことも聞いたこともありません。
 お話の中で宮廷魔導士様が使っているというのを聞いたことがあるだけです。


 有無を言わさずお家に連れていかれましたあと、私はさらに驚きます。
 森の中に異質な建物があったからです。


 鬱蒼とした森がその部分だけ拓けていて、こじんまりとしたレンガ造りの家が佇むその光景は、違和感しか感じません。


 中に入ったら見た目以上に広くてまたも驚きました。
 ソファは今までに座ったことないくらい上質なものだし、本棚に詰まっているのは見たこともない言語のものばかり。


 そこで私は確信します。セラさんはただの魔法使いなんかではないと。
 私よりはるか高みにいる、名うての大魔法使い様なのだと思いました。


 エッチな体で何人もの男をノーサツしてきたに違いありません。
 現に私もノーサツされてしまいました。


 綺麗でかわいくて……しかもお料理もすごくおいしいのです。
 ギルドの仕組みについて真剣に話を聞いている姿は、とてもかっこよかったです。


 お風呂にも入らせてもらいました。
 おっきかった……それだけは言っておきます。


 一緒にお風呂に入った後、鼻血を出した私にポーションを飲ませてくれました。
 たちどころに元気になって、なんでもできる気がしました。


 もしかして、あぶないお薬だったのかな?
 でも、一緒に過ごして痛いほどよくわかります。
 セラさんはとってもいい人です。


 それはもう、私なんかに手を差し伸べてくれるほどやさしい方なのです。


 今だって髪の毛を梳かしてくれています。
 最高です。
 もうセラさんの傍にずっといたい衝動に駆られてしまっています。


 なんでしょうこの気持ちは。


「ねぇエルちゃん」


「は、はい、なんでしょう?」


 ああ、後ろから抱き着かれて、セラさんのいい匂いがします。
 最高です。
 耳元のささやき声はまずいです。


「エルちゃんの冒険者パーティーに入れてくれない?」


 私の頭が真っ白になったのは言うまでもありません。

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く