内政、外交、ときどき戦のアシュティア王国建国記ー家臣もねぇ、爵位もねぇ、お金もそれほど所持してねぇー

こたろう

01-34

セイファー歴 756年 6月28日


「領主様、て……て、敵襲です!!」
「なにぃ!?」


ジャッド=リスが治めるジャッド領に総勢四◯の兵が攻め込んできたとの知らせが入った。ジャッドがちょうど朝食をとろうとしていた時のことであった。


どこの軍勢かは未だに不明であるとのことだが、おそらくファート家だろうと推測はしていた。というよりも同派閥では争いが御法度のため、ファート家以外には考えられなかったからだ。


アシュティア家の可能性も考えてみたが、その後のことを考えると得策では無い。あの小僧がそんな過ちを犯すとはジャッドも思ってもみなかった。


しかも、その敵はジャッドが治める領土の唯一の村には向かってこず、その東部に居座り続けているようであった。そこでジャッドは一つの決断を迫られてしまった。それはもちろん、この敵を追い払うかそのままにしておくか、である。


正体不明の敵がそのまま延々と居座り続けると、領土の約三割を削られてしまうこととなる。しかし、ジャッドが出兵をして返り討ちにあった場合、全てを失ってしまうのだ。もちろん、己の命も含めて。


ジャッドが動員できるのは十五名の兵のみ。もちろん、領民を徴兵すればその限りでは無いが今は農繁期である。徴兵してしまえば領民からの求心力も信頼も低下するのは確実であり、また、リス領が食糧難になることも確実となってしまうのである。


また、傭兵を雇うと言う選択肢も考えられる。費用はそれなりに高くつくが人的な損失は皆無である。他にも東辺境伯に泣きつく手だって考えられる。だが、これはジャッドのプライドがそれを良しとしなかった。


「どうして、こんなことになってしまったのだっ!」


ジャッドは大声で叫んだ。それの原因は今から約一ヶ月前に遡ることとなる。




セイファー歴 756年 5月28日


リベルトは父親とその重臣たちの前で高らかに宣言をした。


「父上、私は先の戦の敗戦の責を負って父上の後を継ぐことを辞退いたします」


まさにゲルブムにとっては寝耳に水であっただろう。言葉が出て来ずにいる。リベルトは周りから諌められてもその意思は固く、決意を翻らせるようなことはしなかった。


「まぁ良いではありませんか。本人がそう仰るのであれば、こちらはその意思を尊重するまででしょう」


満面の笑みを浮かべたレガンデッドが進み出てリベルトの肩に手を置く。リベルトはその手を払い退けたくなる衝動に駆られるが、グッと堪えた。


「そうか。仕方がないな」


ゲルブムが不承不承ふしょうぶしょうではあるが本人が決めたことであるなら認めざるを得ないと考えていた。


事実、先の戦の敗戦に関しては未だ誰も責任を負っておらず、近いうちに声が上がっていたであろうとゲルブムも考えていたからである。


「その代わりと言っては何ですが、兵を少しばかりお貸し願えませんでしょうか」
「兵を借りてどうするんだ?」
「もちろん、リベンジするまで」


正直、ゲルブムには勝てる見込みなぞ見えておらず、自棄になった息子が何かしでかすのではないかと危惧したのだが、ここでもまたレガンデッドが進み出でた。


「よろしいではありませんか。勇ましいことは結構なことでございます。兵は……三◯ばかりでよろしいか?」
「はい。それだけ借りれれば十分です。それでは失礼します」


こうしてリベルトは皆の前を後にしようとした。そしてキャスパーの前を通り過ぎる時に「すまなかった」とキャスパーにだけ聞こえるほどの小さな声で謝罪をした。




「どうだった?」
「なんとか。了承は得られたし兵も三◯ばかし貸してくれるようだ」
「ボクのとこからも一◯は出すから。四◯もあれば十分だね。やはりレガンデッドに根回しをしておいて正解だった」


リベルトはそのままの足で銀毛亭に向かっていた。そしてそこには見知った少年が一足先に腸詰めを堪能していたのである。支払いはもちろんリベルトだ。


「後は東辺境伯と南辺境伯を黙らせることができれば問題なしだね。東辺境伯の方は根回し済みだから、あとは南辺境伯の方だけだ」
「なにか考えはあるのか?」
「ない」


そう言ってセルジュは腸詰を口に運んだ。ボイルされた腸詰がパリッと小気味良い音と立てる。


この返答にはリベルトもがっくりである。しかし、何もセルジュは無計画に話を進めてるわけではないとこは理解しているリベルト。ここはセルジュを信じることにした。


「速度を大事にしよう。素早く動いてしまえばこちらの勝ちは目に見えてる。まぁ、念の為に南辺境伯にも渡はつけておきたいけども。こちらから連絡しておくよ」


セルジュの元にはジョルトがいる。彼ならばモパッサにも連絡が取れるだろうとセルジュは考えていた。


「ジョルト、そう言うわけだからモパッサ殿をコンコール村まで呼んできてくれるか?」
「承知しました」


こうなることを見込んでいたセルジュはジョルトを護衛としてアルマナまで連れてきていた。セルジュ自身は護衛など必要ないと思っていたのだが、先日、バルタザークに危機管理の甘さを指摘されていたので南辺境伯の息が掛かったジョルトを連れてきたのだ。


「それからお金は必要になるからちゃんと用意しておくんだよ。貰える物は貰って奪えるもんは奪ってきな」
「考え方が強盗のそれだな」
「無いと困るくらいなら強盗の方がまだマシだ。レガンデッドも喜んで餞別を出してくれるよ。あ、あとヤグィルも買っておいた方が良いと思うよ」


セルジュが長々とリベルトにアドバイスを授ける。セルジュの頭の中には泉の如くに知恵がどんどんと湧き出ていた。リベルトは自分が酔って勘違いをしているのでは無いかと、目の前の人物に確認をする。


「お前は本当に五歳児か?」
「いや、今は六歳児だよ」


その後も二人は今回の戦略と、その後の取り分に関して議論を続けるのであった。

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