内政、外交、ときどき戦のアシュティア王国建国記ー家臣もねぇ、爵位もねぇ、お金もそれほど所持してねぇー
01-22
セイファー歴 756年 3月16日
ジャッド=リスは届いた資料に目を通すと満足そうに頷いてから果実酒を口に含んだ。その資料とはアシュティア領へ向かうための通行税の資料であった。
「よし、順調に通る人間がいなくなっているな」
その資料によるとリス領からアシュティア領へと向かう人々が増税により大幅に減少したことが記されていた。
ジャッドはその資料に書かれているアシュティアと言う文字に段々と怒りを覚え、遂には資料を破り捨ててしまった。
「何故あんな小僧にオレが抜かれればならんのだ!」
ジャッドは自尊心の高い男であった。同じ地方領主の身分であったアシュティア家が一つ上の準貴族である騎士に陞爵されると耳にしたため、アシュティア家は意図せずにその自尊心を大きく傷つけた形となってしまったのだ。
特に今の領主であるセルジュは未だ五歳の小僧である。三十路を迎え、頭頂部が少し気になり始めたジャッドがその小僧に劣ったと村々で噂されれば怒りも怒髪天を衝く勢いだろう。
しかし、だからと言って短慮に事を起こす男ではなかった。こちらが行動を起こせば敵対視していることが明確であり、さらに同派閥での争いなどもっての外であった。
そこで一計を案じだのだ。アシュティア領はジャヌス王国の最東端に位置している。つまり、アシュティア領より東は無いのだ。
であればアシュティア領を通り抜ける必要もあるまいと通行税を今までの銀貨一枚から大幅に値上げして金貨一枚としたのであった。
しかし、それに困る者はほぼ皆無であった。何故ならこの道を通る者はアシュティア領で商いをしたい者が多く、大方の者は封鎖されても困らなかったからである。
ファート領へと行きたい者はリス領で南下してからアルマナへと向かえば良く、北のスポジーニ領も同様であった。
「じわじわと苦しめば良い」
ジャッドは自身の手を汚すことなくセルジュを真綿で首を締めるが如く苦しめていくのであった。
セイファー歴 756年 3月17日
セルジュはこの税の値上がりに関してどう対処すべきか頭を捻っていた。前と同じく考えられる対処法を乱雑に考えていく。今回の目的は販路の開通である。
まず一つ目の解決策がジャッドに通行税を元に戻してもらうことである。これが一番手っ取り早いがジャッドは首を縦に振らないだろうとセルジュは推測していた。
ジャッドとしてはアシュティア領へと繋がる道を開通させる必要が無いのだ。リス領の領都であるモリステンも領土の西側に位置しており、東側はほぼ手つかずと言っても過言ではないだろう。
次に考えられるのが別のルートの開拓である。アシュティア領と他に接しているのはデルド=モスコ=ウィート卿のウィート領であるが、残念ながら道が無い。領境が渓谷となっており橋を架ければ人の行き来は可能だが荷馬車ごと渓谷を荷馬車ごと移動するのは現実的ではない。
となると残されるのは南側なのだが暗黙の了解に抵触してしまう恐れがある。しかし、一番現実的なのが南下するルートだろう。実際、道の整備を行っているのもアシュティア村からコンコール村という南北に伸びる道だ。
セルジュはさっそくビビダデとモドラムを呼び出して南下案を進めていきたい旨を伝えた。
「私は構いませんよ、ええ。私は既にファート領の方々ともお付き合いがございますから」
ビビダデは二つ返事で即座に了承した。新興の行商人としては既存のルートを辿っていては儲からないのだ。なので、ビビダデはリスクを侵してでも東辺境伯派と南辺境伯派の領土を行き来していたのだ。
変更に困ったのはモドラムである。彼は東辺境伯派閥の領土を渡り歩く行商人だ。このことが他に知られたら商売に影響をきたすだろう。セルジュはモドラムからは切り出せないと思い、自分から切り出すことにした。
「モドラムには無理だよね。それにこちらも無理強いをすることはできない。ルートが開通したらまた遊びに来てよ」
「ご配慮、痛み入ります」
父の代から親交のあったモドラムを失うのは痛いがどうすることもできない。今は自領の流れを良くすることだけに知恵を注ぐことにした。それがモドラムが戻ってくる最短ルートだと信じて。
モドラムが退席した後、セルジュはビビダデと南の販路を広げるための作戦会議を開いていた。と言ってもセルジュの頭の中には明確なプランが浮かび上がっており、それを実行するための障害について検討を行っていた。
プランが煮詰まるとセルジュは移動する準備をしてアシュティア村の村長へ新しい村の計画書と幾つかの指示を出した。計画書には村のどのあたりに何を建てるかがこと細かに記されていた。
そして指示の内容とは領主館と納屋に入っている一切合切を新しい村の開拓予定地に運んでほしいということ。
それから資材や食料は自由に使っても良いが使用した物と量を記録しておくこと。領主館と納屋は自由に使って良いこと。この三つだ。
それを済ませるとセルジュとビビダデは荷馬車でアシュティア村から南下を始めた。途中でバルタザークたちが新しい領主館の建築予定地に居たので、建築予定地に目印を付けさせてアシュティア村の再建を手伝うよう伝えた。
「お前さんは何処いくんだ?」
「え、ちょっとファート領まで」
バルタザークにそう伝えるとオレも行くからお前ら後は頼むとジェイクとジョイに後を託して荷馬車に乗っかってきた。護衛だと思えば安いものである。
セルジュはファート領の領都であるアルマナに向けて移動を続けていった。
ジャッド=リスは届いた資料に目を通すと満足そうに頷いてから果実酒を口に含んだ。その資料とはアシュティア領へ向かうための通行税の資料であった。
「よし、順調に通る人間がいなくなっているな」
その資料によるとリス領からアシュティア領へと向かう人々が増税により大幅に減少したことが記されていた。
ジャッドはその資料に書かれているアシュティアと言う文字に段々と怒りを覚え、遂には資料を破り捨ててしまった。
「何故あんな小僧にオレが抜かれればならんのだ!」
ジャッドは自尊心の高い男であった。同じ地方領主の身分であったアシュティア家が一つ上の準貴族である騎士に陞爵されると耳にしたため、アシュティア家は意図せずにその自尊心を大きく傷つけた形となってしまったのだ。
特に今の領主であるセルジュは未だ五歳の小僧である。三十路を迎え、頭頂部が少し気になり始めたジャッドがその小僧に劣ったと村々で噂されれば怒りも怒髪天を衝く勢いだろう。
しかし、だからと言って短慮に事を起こす男ではなかった。こちらが行動を起こせば敵対視していることが明確であり、さらに同派閥での争いなどもっての外であった。
そこで一計を案じだのだ。アシュティア領はジャヌス王国の最東端に位置している。つまり、アシュティア領より東は無いのだ。
であればアシュティア領を通り抜ける必要もあるまいと通行税を今までの銀貨一枚から大幅に値上げして金貨一枚としたのであった。
しかし、それに困る者はほぼ皆無であった。何故ならこの道を通る者はアシュティア領で商いをしたい者が多く、大方の者は封鎖されても困らなかったからである。
ファート領へと行きたい者はリス領で南下してからアルマナへと向かえば良く、北のスポジーニ領も同様であった。
「じわじわと苦しめば良い」
ジャッドは自身の手を汚すことなくセルジュを真綿で首を締めるが如く苦しめていくのであった。
セイファー歴 756年 3月17日
セルジュはこの税の値上がりに関してどう対処すべきか頭を捻っていた。前と同じく考えられる対処法を乱雑に考えていく。今回の目的は販路の開通である。
まず一つ目の解決策がジャッドに通行税を元に戻してもらうことである。これが一番手っ取り早いがジャッドは首を縦に振らないだろうとセルジュは推測していた。
ジャッドとしてはアシュティア領へと繋がる道を開通させる必要が無いのだ。リス領の領都であるモリステンも領土の西側に位置しており、東側はほぼ手つかずと言っても過言ではないだろう。
次に考えられるのが別のルートの開拓である。アシュティア領と他に接しているのはデルド=モスコ=ウィート卿のウィート領であるが、残念ながら道が無い。領境が渓谷となっており橋を架ければ人の行き来は可能だが荷馬車ごと渓谷を荷馬車ごと移動するのは現実的ではない。
となると残されるのは南側なのだが暗黙の了解に抵触してしまう恐れがある。しかし、一番現実的なのが南下するルートだろう。実際、道の整備を行っているのもアシュティア村からコンコール村という南北に伸びる道だ。
セルジュはさっそくビビダデとモドラムを呼び出して南下案を進めていきたい旨を伝えた。
「私は構いませんよ、ええ。私は既にファート領の方々ともお付き合いがございますから」
ビビダデは二つ返事で即座に了承した。新興の行商人としては既存のルートを辿っていては儲からないのだ。なので、ビビダデはリスクを侵してでも東辺境伯派と南辺境伯派の領土を行き来していたのだ。
変更に困ったのはモドラムである。彼は東辺境伯派閥の領土を渡り歩く行商人だ。このことが他に知られたら商売に影響をきたすだろう。セルジュはモドラムからは切り出せないと思い、自分から切り出すことにした。
「モドラムには無理だよね。それにこちらも無理強いをすることはできない。ルートが開通したらまた遊びに来てよ」
「ご配慮、痛み入ります」
父の代から親交のあったモドラムを失うのは痛いがどうすることもできない。今は自領の流れを良くすることだけに知恵を注ぐことにした。それがモドラムが戻ってくる最短ルートだと信じて。
モドラムが退席した後、セルジュはビビダデと南の販路を広げるための作戦会議を開いていた。と言ってもセルジュの頭の中には明確なプランが浮かび上がっており、それを実行するための障害について検討を行っていた。
プランが煮詰まるとセルジュは移動する準備をしてアシュティア村の村長へ新しい村の計画書と幾つかの指示を出した。計画書には村のどのあたりに何を建てるかがこと細かに記されていた。
そして指示の内容とは領主館と納屋に入っている一切合切を新しい村の開拓予定地に運んでほしいということ。
それから資材や食料は自由に使っても良いが使用した物と量を記録しておくこと。領主館と納屋は自由に使って良いこと。この三つだ。
それを済ませるとセルジュとビビダデは荷馬車でアシュティア村から南下を始めた。途中でバルタザークたちが新しい領主館の建築予定地に居たので、建築予定地に目印を付けさせてアシュティア村の再建を手伝うよう伝えた。
「お前さんは何処いくんだ?」
「え、ちょっとファート領まで」
バルタザークにそう伝えるとオレも行くからお前ら後は頼むとジェイクとジョイに後を託して荷馬車に乗っかってきた。護衛だと思えば安いものである。
セルジュはファート領の領都であるアルマナに向けて移動を続けていった。
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