内政、外交、ときどき戦のアシュティア王国建国記ー家臣もねぇ、爵位もねぇ、お金もそれほど所持してねぇー
01-16
ゲティスは直ぐに後ろで起こった出来事を即座に把握した。そのため、目の前の子ども二人を討ち取ろうと決めにかかるのだが、討ち取れないでいた。良い仕事をしていたのが二階に配置されていた狩人たちであった。
ジェイクやジョイが危なくなるとすかさず援護射撃をしてゲティスの邪魔をしていたのである。いくら達人のゲティスと言えど二人がかりの兵士に援護射撃が二人では打つ手がなしと言ったところだろう。
そして、ゲティスを苦しめる最大の要因が焦りであった。ゲティスがセルジュを討ち取らないとバルタザークがリベルトを討ち取ってしまうと考えたからである。
焦りは判断を誤らせるとは良く言ったもので目の前のジェイクとジョイ、それからセルジュの幼い見た目に騙されたゲティスはオレなら簡単に一捻りできると思い込んでしまったのだ。
それでも四人がかりと互角に相対しているゲティスは相当の猛者と言っても過言ではないだろう。このゲティスの判断が、明暗を分けてしまった。
「お前たちの大将は生け捕った。大人しく武器を捨てろ!」
大声で叫んだバルタザークの方を見るとリベルトが肩に担がれていた。こうなってしまってはどうすることもできないとゲティスは大人しく武器を捨て、それを見た周囲のファート軍の兵士たちも大人しく投降することとなった。
時は遡ること五分前。バルタザーク隊は背後からリベルト隊に襲い掛かっていた。兵の練度という点ではリベルト隊に一日の長があったのだが、兵の数ではバルタザーク隊の方が有利であった。
リベルトの近衛兵たちはバルタザークを止めに行きたかったのだが、バルタザーク隊の槍が鬱陶しく対処に遅れていた。バルタザークは事前に子飼いの兵士たちに「勝たなくて良い、負けるな。そして二人一組を常に維持しろ」と言いつけておいたのである。
「お前が大将だな。オレはアシュティアの……将軍、バルタザークだ」
「アシュティアに将軍がいたのは驚きだ。私はファート軍の大将であるリベルト=ファートである」
バルタザークはこの名前と容貌で一瞬で理解した。目の前の大将は士爵家に連なる人間だと。バルタザークは槍を逆に持ち、リベルトに素早い一撃を繰り出す。
それをなんとか剣でいなしながら、袈裟斬りで反撃を仕掛けるリベルト。バルタザークは驚きつつバックステップで躱し、自身に奢りがあったことを反省した。
「なぜ槍を逆に持っている?」
「だって逆に持たないと死んじゃうでしょ? 君が」
この一言で頭に血がのぼったリベルトがバルタザーク目掛けて突っ込んできた。バルタザークは一対一の環境を作り出してくれた部下たちに感謝をしながらリベルトの突きを躱して鳩尾に重い一撃を叩き込んだ。
こうしてアシュティア防衛戦が幕を閉じたのであった。
「うおぉぉぉっ! やったぜ領主さま!」
領民たちは勝鬨をあげて浮かれていた。バルタザークとその部下十二名は勝って兜の緒を締めよといわんばかりに敵兵の捕縛と治療に当たっていた。
それを済ましてから館の中に隠れていた領民たちを解放する。すると領民たちも敵兵の捕縛と治療を手伝い、その後に真っ直ぐに我が家へと戻った。しかし、そこには何も残っていなかった。正確には黒焦げになった木材が散在しているだけであった。
それでも村人たちの顔は沈んでいなかった。それもそのはず、ファート軍の被害が死者八人に負傷者八十六人だったのに対し、アシュティア軍は誰一人として死なずに負傷者十二人で済んだのだから。
それにセルジュに言われた通り、全ての食料を館に運び込んでいたので飢え死にする心配もない。畑に関しても土を起こす前の侵略であったので大きな問題にはならなかった。
「無くなっちまったのは残念だけど、家なんてまた建てりゃあいいさね」
領民たちはそう言って腹から声を出して笑うと踵を返して館に戻り、防護柵や納屋に眠ってある材木を根こそぎ持っていった。
セルジュもこの火急の事態に対し、納屋を解放しビビダデとモドラムに建築資材を手配するよう連絡を飛ばしたのである。
「問題はお金だなぁ」
セルジュは力なく横たわっているファート兵の一人を見つめながらそう呟いた。
「も、もうしあげます! リベルトさまの軍、全滅にございます!」
激突があった日の夜、ゲルブムは軍監として内緒で派遣されていた兵士の凶報を耳にした。そしてその報告を信じることができずにいた。いや、信じたくないとゲルブムは思っていた。
これがゲティスだけの出兵であればゲルブムもそこまで動転はしなかっただろう。だが今回は嫡男であるリベルトが軍を率いているのだ。しかも相手は格下、これで動転するなと言う方が難しいだろう。
「それは誠か! リベルトは……ゲティスはどうなった!?」
ゲルブムは伝令の兵士に詰め寄る。もちろんゲルブムはリベルトの安否を心配していたのだが、それでは兵士に示しがつかないと思い直してゲティスの安否を取る形とした。
「リベルトさま、ゲティスさま共に捕虜となってございます」
それを聞いてゲルブムは大きく息を吐いた。捕虜にしたということは交渉のカードとして使うということを暗示しており、それはつまり殺さないということを意味していたからである。
「至急、バーグを呼べ」
「はっ!」
軍監はそのまま下がってバーグを呼びに行った。ゲルブムはイスに深く腰を落とすと大きな溜息を吐き出して天井を見上げた。
【後書き】
書き溜めてありますので、随時更新してまいります。
もし、いいなと思って頂ければ、感想・ブックマーク・評価などをしてもらえると嬉しいです。
とても励みになります。
ジェイクやジョイが危なくなるとすかさず援護射撃をしてゲティスの邪魔をしていたのである。いくら達人のゲティスと言えど二人がかりの兵士に援護射撃が二人では打つ手がなしと言ったところだろう。
そして、ゲティスを苦しめる最大の要因が焦りであった。ゲティスがセルジュを討ち取らないとバルタザークがリベルトを討ち取ってしまうと考えたからである。
焦りは判断を誤らせるとは良く言ったもので目の前のジェイクとジョイ、それからセルジュの幼い見た目に騙されたゲティスはオレなら簡単に一捻りできると思い込んでしまったのだ。
それでも四人がかりと互角に相対しているゲティスは相当の猛者と言っても過言ではないだろう。このゲティスの判断が、明暗を分けてしまった。
「お前たちの大将は生け捕った。大人しく武器を捨てろ!」
大声で叫んだバルタザークの方を見るとリベルトが肩に担がれていた。こうなってしまってはどうすることもできないとゲティスは大人しく武器を捨て、それを見た周囲のファート軍の兵士たちも大人しく投降することとなった。
時は遡ること五分前。バルタザーク隊は背後からリベルト隊に襲い掛かっていた。兵の練度という点ではリベルト隊に一日の長があったのだが、兵の数ではバルタザーク隊の方が有利であった。
リベルトの近衛兵たちはバルタザークを止めに行きたかったのだが、バルタザーク隊の槍が鬱陶しく対処に遅れていた。バルタザークは事前に子飼いの兵士たちに「勝たなくて良い、負けるな。そして二人一組を常に維持しろ」と言いつけておいたのである。
「お前が大将だな。オレはアシュティアの……将軍、バルタザークだ」
「アシュティアに将軍がいたのは驚きだ。私はファート軍の大将であるリベルト=ファートである」
バルタザークはこの名前と容貌で一瞬で理解した。目の前の大将は士爵家に連なる人間だと。バルタザークは槍を逆に持ち、リベルトに素早い一撃を繰り出す。
それをなんとか剣でいなしながら、袈裟斬りで反撃を仕掛けるリベルト。バルタザークは驚きつつバックステップで躱し、自身に奢りがあったことを反省した。
「なぜ槍を逆に持っている?」
「だって逆に持たないと死んじゃうでしょ? 君が」
この一言で頭に血がのぼったリベルトがバルタザーク目掛けて突っ込んできた。バルタザークは一対一の環境を作り出してくれた部下たちに感謝をしながらリベルトの突きを躱して鳩尾に重い一撃を叩き込んだ。
こうしてアシュティア防衛戦が幕を閉じたのであった。
「うおぉぉぉっ! やったぜ領主さま!」
領民たちは勝鬨をあげて浮かれていた。バルタザークとその部下十二名は勝って兜の緒を締めよといわんばかりに敵兵の捕縛と治療に当たっていた。
それを済ましてから館の中に隠れていた領民たちを解放する。すると領民たちも敵兵の捕縛と治療を手伝い、その後に真っ直ぐに我が家へと戻った。しかし、そこには何も残っていなかった。正確には黒焦げになった木材が散在しているだけであった。
それでも村人たちの顔は沈んでいなかった。それもそのはず、ファート軍の被害が死者八人に負傷者八十六人だったのに対し、アシュティア軍は誰一人として死なずに負傷者十二人で済んだのだから。
それにセルジュに言われた通り、全ての食料を館に運び込んでいたので飢え死にする心配もない。畑に関しても土を起こす前の侵略であったので大きな問題にはならなかった。
「無くなっちまったのは残念だけど、家なんてまた建てりゃあいいさね」
領民たちはそう言って腹から声を出して笑うと踵を返して館に戻り、防護柵や納屋に眠ってある材木を根こそぎ持っていった。
セルジュもこの火急の事態に対し、納屋を解放しビビダデとモドラムに建築資材を手配するよう連絡を飛ばしたのである。
「問題はお金だなぁ」
セルジュは力なく横たわっているファート兵の一人を見つめながらそう呟いた。
「も、もうしあげます! リベルトさまの軍、全滅にございます!」
激突があった日の夜、ゲルブムは軍監として内緒で派遣されていた兵士の凶報を耳にした。そしてその報告を信じることができずにいた。いや、信じたくないとゲルブムは思っていた。
これがゲティスだけの出兵であればゲルブムもそこまで動転はしなかっただろう。だが今回は嫡男であるリベルトが軍を率いているのだ。しかも相手は格下、これで動転するなと言う方が難しいだろう。
「それは誠か! リベルトは……ゲティスはどうなった!?」
ゲルブムは伝令の兵士に詰め寄る。もちろんゲルブムはリベルトの安否を心配していたのだが、それでは兵士に示しがつかないと思い直してゲティスの安否を取る形とした。
「リベルトさま、ゲティスさま共に捕虜となってございます」
それを聞いてゲルブムは大きく息を吐いた。捕虜にしたということは交渉のカードとして使うということを暗示しており、それはつまり殺さないということを意味していたからである。
「至急、バーグを呼べ」
「はっ!」
軍監はそのまま下がってバーグを呼びに行った。ゲルブムはイスに深く腰を落とすと大きな溜息を吐き出して天井を見上げた。
【後書き】
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