内政、外交、ときどき戦のアシュティア王国建国記ー家臣もねぇ、爵位もねぇ、お金もそれほど所持してねぇー
01-07
セイファー歴 755年 7月1日
セルジュが今度は庭に小さな貯水池をつくろうと奮闘しているところ、思わぬ来客者がアシュティア領の領主館を訪れた。
「元気そうで何よりだ」
それは父の死を告げに来たダドリックであった。今日は前回訪問時とは違ってえらくラフな格好をしている。おそらく公的な用ではないためだろう。頭皮と髭だけは前回と同じだ。
「前回は色々と骨を折ってくれてありがとうございました。お陰で良い行商人と出会うことができました」
「そうか、それは良かった。これでも心配したんだぞ」
ダドリックはそう言いながらセルジュのそばへと歩み寄り、一通の手紙を差し出した。
「ほら、前回のお願いのお返事がきたぞ。五年は無理だが三年なら良いとの仰せだ」
ダドリックはセルジュがまだ文字を読むことができないだろうと考えて気を利かせて結果を口頭で伝えたのであろう。この知らせはセルジュにとっては僥倖の知らせとなった。まさか三年も通るなどと思ってもいなかったからである。
ダドリックはそれだけを伝えるためだけにわざわざ辺境のアシュティア領までやってきたのだ。セルジュはこのダドリックは信頼に足る男だと判断することにした。
「ほかに何かあれば儂が手伝えることであればできる範囲で協力しよう」
ダドリックの中に未だセルジュをひとりぼっちにしてしまった負い目があるのだろう。別にダドリックの責任ではないのだが東辺境伯家に仕えている以上、気になってしまう性分なのであった。セルジュはこれ幸いと考えて目下の悩みを打ち明けることにした。
「情報を教えて欲しいです」
「情報?」
セルジュはこの国のことを何も知らない。父親が命を落とした戦も、なぜ起こったのかすらセルジュは知らないのである。セルジュはそのことを素直にダドリックに伝えた。
「そうか。これは済まないことをしたな。先の閣下と南辺境伯の戦は南辺境伯が仕掛けて来たものよ。『父祖伝来の土地の引き渡し』と言う口実であったな」
ダドリックの説明はこうであった。どうやらアシュティア領とリス領は数十年前まではベルドレッド南辺境伯の土地であったらしい。
そのため、その返還を今さら訴え出たのであった。その結果、戦へと発展しベルドレッド南辺境伯の当主は重傷を負った。そのため、息子が当主の座についたとのことであった。
現在、ジャヌス王国は八つの派閥に別れていた。まずは、国粋派である。これはもちろん国王一派だ。と言っても国王はお飾りに過ぎず、実際に政を執っているのは王弟のベラスケス大公であった。
王都を抑えており人口はジャヌス王国で一番多く、また兵も近衛兵が中心となっており中心と言っても過言ではなかった。しかし、人が多いため意見をまとめるのに苦労すると言う。そこが難点だろう。
その次がレグニス公とジグムンド候とカルディナス侯になっている。レグニス公が西側にジグムンド候が北西、カルディナス侯が北東に位置していた。ジャヌス王国にとって西と北が鬼門となっている。
これは東側はグレン山脈が堅固な盾の役割を果たしており、南も湖――セルジュは海だと思っていた――が外敵の侵入を阻んでいるという。つまり、北と西から攻められる可能性が高いため、有力諸侯を宛がっているとのことであった。
そしてさらに東西南北に辺境伯が置かれている。立場は皆一様に辺境伯ではあるが、先の例の通り北と西の辺境伯が優遇されていた。
ここまでを八大貴族と呼ぶ。それはジャヌス王国の中枢を担っている貴族たちであった。その下に伯爵やら男爵やらがごまんと居るようだ。
もちろん、土地を持っている貴族も居れば土地を持たない宮廷貴族も居る。宮廷貴族は宮廷において役職を拝命し、その俸給で生活をしている。ここまでがジャヌス王国の運用体制となっているようであった。
「ありがとうございます。これでおおよその概要は掴めました」
「それは重畳。ほかに困りごとはないか?」
ダドリックは果実酒で口を湿らせるとセルジュに他の悩みはないかと催促を促してきたので、セルジュは素直に答えることにした。
「んー。人材が足りてないこと、ですかね」
「人材か。それはやはり村の経営に関する人材か?」
「それもありますが、今のところは領民の皆さんのお陰でなんとかなっています。今欲しているのは武に長けた人材です」
セルジュの推測では早ければ三ヶ月後、遅ければ来年の秋にファート軍が攻めてくると考えているからだ。
三ヶ月後であればどうすることもできないが、来年であれば今から準備を行えば防衛くらいはできるかもしれないとセルジュは考えているのだ。
そのことをダドリックに伝えると「なんとかしてみよう」と言い、来たばかりだというのに馬に跨って去って行ってしまった。
確かにダドリックが仕える東辺境伯としても他人事ではない。自分の派閥の人間が敵対派閥に襲われるかもしれないというのだから。
ただ人材の募集ばかりはダドリックほか行商人の口コミに期待するほかなく、セルジュはただ待つしかなかった。
セルジュが今度は庭に小さな貯水池をつくろうと奮闘しているところ、思わぬ来客者がアシュティア領の領主館を訪れた。
「元気そうで何よりだ」
それは父の死を告げに来たダドリックであった。今日は前回訪問時とは違ってえらくラフな格好をしている。おそらく公的な用ではないためだろう。頭皮と髭だけは前回と同じだ。
「前回は色々と骨を折ってくれてありがとうございました。お陰で良い行商人と出会うことができました」
「そうか、それは良かった。これでも心配したんだぞ」
ダドリックはそう言いながらセルジュのそばへと歩み寄り、一通の手紙を差し出した。
「ほら、前回のお願いのお返事がきたぞ。五年は無理だが三年なら良いとの仰せだ」
ダドリックはセルジュがまだ文字を読むことができないだろうと考えて気を利かせて結果を口頭で伝えたのであろう。この知らせはセルジュにとっては僥倖の知らせとなった。まさか三年も通るなどと思ってもいなかったからである。
ダドリックはそれだけを伝えるためだけにわざわざ辺境のアシュティア領までやってきたのだ。セルジュはこのダドリックは信頼に足る男だと判断することにした。
「ほかに何かあれば儂が手伝えることであればできる範囲で協力しよう」
ダドリックの中に未だセルジュをひとりぼっちにしてしまった負い目があるのだろう。別にダドリックの責任ではないのだが東辺境伯家に仕えている以上、気になってしまう性分なのであった。セルジュはこれ幸いと考えて目下の悩みを打ち明けることにした。
「情報を教えて欲しいです」
「情報?」
セルジュはこの国のことを何も知らない。父親が命を落とした戦も、なぜ起こったのかすらセルジュは知らないのである。セルジュはそのことを素直にダドリックに伝えた。
「そうか。これは済まないことをしたな。先の閣下と南辺境伯の戦は南辺境伯が仕掛けて来たものよ。『父祖伝来の土地の引き渡し』と言う口実であったな」
ダドリックの説明はこうであった。どうやらアシュティア領とリス領は数十年前まではベルドレッド南辺境伯の土地であったらしい。
そのため、その返還を今さら訴え出たのであった。その結果、戦へと発展しベルドレッド南辺境伯の当主は重傷を負った。そのため、息子が当主の座についたとのことであった。
現在、ジャヌス王国は八つの派閥に別れていた。まずは、国粋派である。これはもちろん国王一派だ。と言っても国王はお飾りに過ぎず、実際に政を執っているのは王弟のベラスケス大公であった。
王都を抑えており人口はジャヌス王国で一番多く、また兵も近衛兵が中心となっており中心と言っても過言ではなかった。しかし、人が多いため意見をまとめるのに苦労すると言う。そこが難点だろう。
その次がレグニス公とジグムンド候とカルディナス侯になっている。レグニス公が西側にジグムンド候が北西、カルディナス侯が北東に位置していた。ジャヌス王国にとって西と北が鬼門となっている。
これは東側はグレン山脈が堅固な盾の役割を果たしており、南も湖――セルジュは海だと思っていた――が外敵の侵入を阻んでいるという。つまり、北と西から攻められる可能性が高いため、有力諸侯を宛がっているとのことであった。
そしてさらに東西南北に辺境伯が置かれている。立場は皆一様に辺境伯ではあるが、先の例の通り北と西の辺境伯が優遇されていた。
ここまでを八大貴族と呼ぶ。それはジャヌス王国の中枢を担っている貴族たちであった。その下に伯爵やら男爵やらがごまんと居るようだ。
もちろん、土地を持っている貴族も居れば土地を持たない宮廷貴族も居る。宮廷貴族は宮廷において役職を拝命し、その俸給で生活をしている。ここまでがジャヌス王国の運用体制となっているようであった。
「ありがとうございます。これでおおよその概要は掴めました」
「それは重畳。ほかに困りごとはないか?」
ダドリックは果実酒で口を湿らせるとセルジュに他の悩みはないかと催促を促してきたので、セルジュは素直に答えることにした。
「んー。人材が足りてないこと、ですかね」
「人材か。それはやはり村の経営に関する人材か?」
「それもありますが、今のところは領民の皆さんのお陰でなんとかなっています。今欲しているのは武に長けた人材です」
セルジュの推測では早ければ三ヶ月後、遅ければ来年の秋にファート軍が攻めてくると考えているからだ。
三ヶ月後であればどうすることもできないが、来年であれば今から準備を行えば防衛くらいはできるかもしれないとセルジュは考えているのだ。
そのことをダドリックに伝えると「なんとかしてみよう」と言い、来たばかりだというのに馬に跨って去って行ってしまった。
確かにダドリックが仕える東辺境伯としても他人事ではない。自分の派閥の人間が敵対派閥に襲われるかもしれないというのだから。
ただ人材の募集ばかりはダドリックほか行商人の口コミに期待するほかなく、セルジュはただ待つしかなかった。
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