○○系女子の扱いには苦労する

黄緑 碧

2話―3「嫌な予感……」

 そう言ってお袋は、手にしていたビニール袋を少し上に掲げて見せる。
 空気読めないな……。
 ホントに俺この人の子供なのだろうか。
 あまりに性格が似ていないので疑ってしまう。

「……」
「あ、言っておくけど、これは主役のやつじゃないからね」
「それを早く言ってよ」
「ごめんごめん」

 妃奈子のしらけた目を見て、お袋は誤解だと言わんばかりの口調で釈明した。
 手にしていたビニール袋から惣菜を取りだし、リビングを出るお袋。
 今日が妃奈子の料理担当日って忘れてたな。


 ☆ ☆ ☆


 翌日。
 ザーザーと激しく音を立てて雨が降っている。
 まさか本当に雨が降るとは思わなかった。
 あいつらには申し訳ないが、真面目なことはあまりしないでもらおう。

 体育の時に降らしてくれるのなら大いに歓迎だが、体育の無い日に雨を降らせるのだけは勘弁してほしい。
 というのも、カッパを着るのが単純にめんどくさい。

「今日は勧誘の内容について前半議論するから」

 と、顧問が手を叩きつつそう言った。
 時刻にして午後三時五十分を少し過ぎた頃。
 いわゆる放課後。
 今日は一日中ネットを見れると思ったら、まさかの顧問の言葉に高田先輩が異議を申し立てた。
 ちなみに、今日はまだ抱きつかれていない。
 どうやら充電はまだあるらしい。

「何で今日なんですか?」
「あなた達決めるのに時間かかるじゃないっ」
「……そんなことないですよ」

 図星を突かれたのか一瞬どうしようか考えたようだ。
 高田先輩達がこういう決め事が苦手だとは思わなかった。
 勝手なイメージだが、ちゃっちゃと決めそう感じがしてたわ。

「じゃあ、何その間は」
「顧問なのに生徒達のこと信用してくれないんだ~と思っただけです」
「先生だって信用したいよ。でも、前科があるじゃない」
「……」
「……」

 高田先輩が黙ってしまった。
 どうやらさらに痛いところを突かれたようだ。
 去年のことなのでさっぱり状況が分からないが、顧問が”前科“というだけあって相当決めるのに時間がかかっていたのかもしれない。

「ほら、そんなわけだから考えて」
「分かりました」
「優莉愛の裏切り者っ」
「いや、裏切ってないし。つか、手を組んだ覚えもないけど」
「ぐぬ……」

 宮城先輩の言葉に何も言えなくなってしまう高田先輩。
 さすが宮城先輩。
 高田先輩を黙らせるプロだわ。

「まったく……。すみません、先生」
「うぅん、宮城さんは悪くないよ」
「何が言いたいんですかっ」

 そのままの意味ですって。
 心当たりがないのがむしろ尊敬するわ。

「別に~」 
「というか、前回と同じで良いじゃないですか」
「あ、やっぱり?」
「はい。こうやっていっぱいあのやり方で入部してくれたわけだし」

 と言いながら、俺達を見渡し微笑んでる高田先輩。
 いいから早く決めてほしい。

「じゃあ、前回と同じやり方で」
「みんな異論ある?」

 何で高田先輩が仕切ってるんだよ。
 部長である宮城先輩が仕切るならまだしも。
 つか、もし異論があったとしてもその言い方じゃ言えないだろ。

「無いみたいだね」
「じゃあ、決定ということで」
「とりあえず内容的には、ネットサーフィンがたまにできるっていうだけなんだ」

 いや、たまにじゃないじゃん!
 検定とかの後は自由なんだから毎日じゃないかっ。
 純粋にパソコンの知識をつけたい人が来たらショックを受けて止めてしまいそうだけど。
 そういうことは、どうやら抜きにして考えているらしい。

「そんなわけだからあと自由にしていいよ」

 自由にしていいって言っても、下校まで全然時間があるんですけど。
 隣の友人二人は自由な時間が得られたとはしゃいでいるが……。
 正直俺もいつもなら一緒になってはしゃいでいる。

 だが、明日は身体測定。
 勧誘方法が決まった今それどころではない。
 どうにかして身長を早く伸ばす方法を見つけないと!
 この歳で150センチいくかいかないかは恥ずかしいっ。

「ずいぶん気分悪そうだな」
「明日身体測定だろ」
「……どんまい」
「おい、待て。まだ抗うぞ」
「絶対無理だって。一日じゃ大して変わらないだろ」
「そんなの分からないだろ!」

 自分が身長が高いからって余裕な顔しやがって。
 今に見てろよ、二十歳くらいになったら身長抜かしてやる!


 ☆ ☆ ☆


 良い湯だな。
 今日の疲れも吹き飛ぶくらいだぜ。
 やっぱり日本人に生まれたからには風呂で疲れを癒すのがホピュラーだよな。
 最近はシャワーに変わりつつあるらしいが。

 確かに、光熱費のことを考えると、明らかにシャワーの方が安く済むのは目に見えている。
 それでもなお風呂に入りたいかと問われれば、入りたいと間違いなく答えるだろう。
 まぁ、光熱費とか言いながら実際お金払ってるのは親だけど。

『ねぇ、祐君』
「なんだ?」

 扉越しに妃奈子が問いかけてきた。
 ……ん? さりげなさ過ぎて普通に答えてしまったが、何で洗面所にいるっ。

「祐君って何部に入ってるんだっけ?」
「情報科学部」
「え、科学部なの?」
「いや、パソコン部だ」
「へぇ、そうなんだ。ありがとう!」

 と、テンション高めに礼を言った妃奈子の去っていく足音。
 ……。…………。
 非常に嫌な予感がするっ。


 ☆ ☆ ☆


 ……やっぱり遺伝なのかな、身長って。
 諒に啖呵を切ってしまったので、少しでも伸ばそうとありとあらゆる方法を使ってみた。
 だが、立ってみてもいつもと視界が変わらない。
 ということは、イコールの話な訳で……。

 まさかの身体測定が昼食べたあとという残念なタイミングだし。
 学校側に悪意があるとしか言いようがない。

「お腹空いた……」

 と、たまたま身体測定場所に向かうタイミングが一緒になった円芭が、周りには聞こえず俺には聞こえる声で話しかけてきた。
 何か食べ物をよこせとでも言うような口調。

「俺は自力で食べ物は生成出来ないんだが」 
「知ってるよ、そんなの」

 じゃあ、なんで言うんだよ。

「だったら、もう少しお茶目な感じに言ってくれ。勘違いする」
「何年幼なじみやってるの」
「……」

 いやいやいやっ。
 幼なじみでも無理だから。
 そんな真剣なトーンで言われたら、あれこの子ガチで言ってる? って普通思うよ。
 俺が黙っていたら、突然拗ねたような顔になり、

「十四年だからっ」

 そう語気を強めてきた。
 知っとるわ!
 俺が黙ってたのは、別に年数を忘れて無言だった訳じゃないんだよ。
 まぁ、言葉には出さないけど。

「出席番号順に並んでー」
(覚えておいてよっ)

 身体測定をする教室につき、先生が誘導しているのを見た円芭は呟きながら俺の後方へ歩いていった。 
 嫌でも覚えてるよ。
 むしろ忘れる方がおかしいわ。
 というのも、ことあるごとに親共が円芭と俺の歴史を嬉しそうに話してくるので忘れるはずがないのである。

「それじゃ、そのまま新入生への部活紹介をかねた勧誘をやるから一年はスクリーンを見て」

 え、身体測定しながら部活紹介やるの!?
 斬新すぎる。
 いや、まぁ何か身体測定にしては一ヶ所に集まりすぎだなとは入ってきた時に思ったけど。 
 この教室が全学年入る方が驚きだわ。
 あの校長の考えることはひと味もふた味も違うと言うわけか。
 ただの変な親父じゃないかもしれない。

「まず先に文化部から紹介をしていきます」

 お、早速じゃないか。
 パソコン部からさきかっ。

「それでは、パソコン部から」

 どんな紹介をするんだろう。
 やっぱり部活の時に話してたやつか?

「ほとんど遊んでます!」

 おーい!
『たまに』っていう言葉入れなかったら誤解されるじゃないかっ。

「練本」
「は、はい」
「これに乗って」
「分かりました」

 担当教師に促され、身長と体重どちらも測れる計測器に乗る。
 あ~、伸びてるといいな。

「やったな、練本。去年より二センチ伸びたぞ」
「おっしゃ!」
「残念ながら体重は増えてるけどな」
「……」

 あげて落とすなよ、バカヤロー!


 ☆ ☆ ☆


「新しい子来るかな」
「絶対来るよ!」

 さっき測定してくれた先生が体重の増加を防ぐアドバイスをくれたのだが、女子の食事の仕方ってどんなのだろう。
 気の早い部員達を尻目に、俺はネットに助けを求めていた。
 どうせそんなすぐ新入部員がくるわ――


 ガラガラ!


 なぬ!?
 扉が開く音がして、そこへ振り向く。

「祐君ヤッホー!」

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