○○系女子の扱いには苦労する

黄緑 碧

1話―4「ここは妥協しておく」

「え~」
「邪魔なんだよ。着替えるのに」
「祐君なら出来るよ」

 いや、絶対無理でしょ。
 腕を組まれた状況でどうやって着替えるんだ。
 手品師でない限り不可能である。

「無理だろ。妃奈子が腕組んでるんだから
「……しょうがないな」

 パッと腕を離し、俺から遠ざかる妃奈子。
 なぜ俺が聞き分けが悪いみたいになってんだよっ。
 先に階段を上がる妃奈子のパンツを見ながら二階。
 個々の部屋に入って着替えを済まし、リビングへ戻った。
 自分の部屋でゆっくりしようと思ったが、どうせ妃奈子が侵入してくるだろうし、それで夕飯が遅くなるのは困るので、そそくさとリビングに戻ることにした。

「祐君遅くない?」

 あれ、先に妃奈子がいた。
 急いで降りた意味がないっ。
 急ぎ損じゃないか!

「いや、妃奈子の方が早いんだよ」
「私はジャージだから」
「にしたって早すぎだろ」
「祐君が遅いんだよ」

「何の話?」

「あ、お母さん」

 くだらないことで議論していたら、いつの間にやら母親がいた。
 一体いつからいたのか。

「いつからいた?」
「今来たばかり」

 思わず訊いてみたら、ニコっと笑顔を浮かべられた。
 これは、わりと前からいたな。

「そうか」
「今日は悪いけど、惣菜ね」
「今日はって、いつも惣菜じゃないか」

 首を回して凝りをほぐし、手にしてしたビニール袋をテーブルの上に置いて親指を立てるお袋。
 意味分からん。何も良くないっての。

「んじゃ、あたしはお風呂でも入ってくる」
「はいはい」
「あ、覗いてもいいからね。いつもみたく」
「えっ……。祐君」

 お袋の爆弾発言に、俺を冷めた目で見る妃奈子。
 さっきまでの好意はなんだったのかと誰かに尋ねたくなるほどの変貌ぶりだ。

「見てるわけないだろっ。信じる相手間違ってるぞ!」
「……」
「それじゃ」

 なんて酷い母親なんだろ。
 あることないこと言って、飽きたらそのままかよ!
 依然虫けらでも見るような目付きで俺を攻撃してくる妃奈子。

「ホントに見てないんだよ」
「……」
「第一母親の裸体みてもつまらないし」

 なに真剣になって弁解してんだろ、俺。


「そうだよね! 知ってた」
「は?」

 急にコロッと表情が変わった。
 無表情だったのが、パァッとお花畑が背後に広がるかのような明るい表情をしている。

「演技してたの。どういう反応するかと思って」
「演技には見えなかったぞ?」
「演技です」
「……はい」

 丸め込まれてしまった。
 まぁ、いい。演技だったのなら面倒なことにならないし。
 演技ということにしておこう。

「とにかく食べよ?」
「そうだな」

 俺は、これ以上めんどくさいことにならないよう妃奈子の言うことに従い、母親が買ってきた惣菜をレンジでチン。
 湯気のたつ立派なおかずになった。
 ていうか、別に惣菜を買わなくても妃奈子がいるじゃん。
 
 ☆☆☆

 普通に美味しい夕飯を食べ、自室へ戻ったらなぜか妃奈子がいた。
 ついさっきトイレに行くっていったばかりなのに。

「祐君、お邪魔してるよ」

 俺のベットに座った妃奈子が足をバタバタと振っている。
 困ったな。
 丁度妃奈子の下に特殊な教材がしまってあるのだが……。

「祐君も男の子だね」

 手遅れだった。
 ニコッと笑顔の妃奈子が怖い。

「何の話だ?」
「幼なじみと一緒にす――」
「あーー!! 男の子ですからね。そういうのも持ちますとも!」

 やけくそだ、バカヤロッ。
 第一妹にとやかく言われる筋合いないんだけど。

「……」

 俺の口から特殊な教材の存在を明かしたら、ポンポンとさも自分の部屋のベットのごとく妹が隣に座るよう促してきた。
 大人しく指示に従っておこう。
 タイトルを知られてしまった以上むやめに断って円芭にチクられるのだけは避けたい。
 指示通り妃奈子の横に座る。

「あの本はどうしたい?」
「で、出来れば取っておきたい」

 何せ高校生が易々と手に出来るものではない。
 苦労してゲットした大切な本だ。

「ん~、じゃあ言うから」
「は?」
「かずちゃんにチクるってこと」
 
 マジかよ……。
 この流れは、本を捨てますって言わないとずっと交渉が停滞しそうだな。

「捨てましょう!」
「よろしい」

 あっさりと交渉が成立したぜっ。
 ……。…………。

「あ、そうそう。また買うの無しね」
「そんなことするわけないだろ」
「ならいいけど」

 こいつは鬼か!
 微笑む鬼否妹を気づかれないように睨む。

「……」
「でも、一つだけチャラにしてあげられるかもしれないことがあるよ」
「なんだ?」

 嫌な予感しかしないけど、一応聞いておこう。

「祐君の膝の上に座らせてくれたら本も捨てないしチクらない」
「……分かった」
「やった! じゃあ、失礼して」

 最初からそういう目的だったなっ。
 妃奈子は、俺がオッケーしてすぐ膝の上に腰を下ろした。
 女子特有の柔らかさを太ももに感じる。
 妹だが、少しドキドキするという男の性。
 それにしても、しかし、高一にもなって兄の膝の上に座るとか甘えん坊なんだかただのブラコンなのか。
 どちらにせよ俺が一番迷惑なんだよな。
 前者も後者も彼女なんて出来やしない。

「えへへ~」
「重い……」

 わざと嫌われるようにしなければ!

「酷いな、私軽いよ?」
「それは見れば分かるけど、膝の上に乗せるにしては重いんだよ」
「あ~、なるほどね」

 正直妃奈子はメチャクチャ軽い。
 さっきも言ったが、太ももに柔らかさを感じてならない。
 まぁ、年々こいつも女の子らしくなってきてるってことか。
 そう俺の膝の上に座る妹の背中を見ながらほっこりしていた。


 ☆☆☆


 時は移りて日曜日。
 最近中々一人になる時間が無かったので、今日こそは一人で過ごしたい。

「さてと」

 服をラフな格好に着替え、ドアまで歩く。
 あ、そうだった。
 歩みを止め、耳を済ます。

 日曜の朝ということもあり、まだ誰も一階にはいないのか物音ひとつしない。
 なぜわざわざ歩みを止め耳を済ましたかというと、

『一番乗りすると家事をしなければならない』

 そんな謎のルールが存在するため。
 料理が苦手な俺としては誰よりも早く一階に降りるのは自粛している。

 ガチャ。

 お、誰かが部屋を出たらしい。
 だが、まだ油断するのは禁物。
 トイレということもあるから。

 ピポンっ。

「ん?」

 また耳を澄ませようとしたら、スマホが鳴った。
 こんな朝早く誰だよっ。

 腹を立てながらスマホを見る。
 画面には円芭と送り主の名が書いてあった。
 ……珍しいな。
 こいつが自分からメールを送ってくるなんて。
 え~と、内容は……。

『付き合って、買い物に』

 一瞬ドキッとした。
 つか、主語述語が逆なんだよっ。
 既読をつけてしまった以上スルーするわけにはいかないので、返事を送ることにした。
 ホントは、のんびりしていようと思ったが、折角円芭の方から誘ってきたし断るのも気が引ける。 

『良いぞ』

 と返事をして、俺はラフな学校から再度外に出ても恥ずかしくない服装に着替えた。
 やっぱり幼なじみに会うだけとはいえ、そこそこ人の目が気になる。
 あと、そもそも円芭がうるさい。
 俺専属ファッションコーディネーターかと突っ込みを入れたくなるくらいだ。
 一階に下り、先にリビングにいた妃奈子と朝の挨拶を交わしていつもの自分の席へ腰を下ろす。
 妃奈子もまだ眠いのか大人しい。

「祐君、今日どこか……行くの?」
「まぁな」
「行きたい!」

 と思ったら、朝から元気だった。

「それは、ちょ――」
「でも、今日は……どうしても外せない用事があるから……我慢する」
「そ、そうか」

 目を擦りながら冷蔵庫をいじりだす妃奈子に拍子抜けしてしまう。
 まさか我慢するなんて言うとは……。
 よほど重要な用事なんだな。

「なに食べたい?」
「何でもいいよ」
「一番何でもいいよが困るんだよ、祐君」
「じゃあ、ウインナー」
「分かった」

 どうして妃奈子は何でもかんでも俺に聞いてくるかね……。
 まぁ、今は俺しかいないからしょうがないけど。

「ところでさ、誰と行くの?」
「知り合いと」
「ふ~ん」
「何だよ」
「いや、誰と行くの? って訊いたのに、知り合いって言うから怪しんでるの」

 ……しまった。
 気づかないかと思ったが、さすがに分かったらしい。
 目を細めこちらを見つめてくる妃奈子。
 つか、怪しんでるのをいっちゃうんだ。
 と、とりあえず伊津美と行くと答えておこう。

「伊津美と行くんだよ」
「最初からそう言えばいいじゃん」
「す、すまん」

 何で謝ってんだ、俺。

 ☆ ☆ ☆

 妃奈子に理不尽な謝罪をしてから早二時間弱。
 円芭と待ち合わせしていた自宅から十分くらいのところにあるショッピングモールに俺はいる。
 居ない……。

 大型ということもあり、駐車場も多く存在するのに駐輪場を待ち合わせ場所に指定したのは間違いだった。
 待ち合わせ時間を十分過ぎても遭遇しないので、入れ違いか別の場所で待っているのかもしれない。
 ちなみにメールを送っても、既読がつかない。
 失敗したな……。
 一緒に行けば良かった。

「どこ行くの?」

 と、後悔していたら、円芭の声。
 良かった~、早く見つかって。

「円芭探そうと思って移動しようと思ってたんだよ」
「ごめん。ちょっとウトウトしてたら待ち合わせの時間になってた」
「そ、そうか」

 後悔して損した……。
 単なる寝坊とかありかよ。
 普通人と待ち合わせしてるのに寝坊するか?


「待った?」
「いや、そこまで待ってないぞ」

 待った待った、凄い待った。
 とは、言わない。
 そこまで器小さくないから。
 どこかの雑誌にそういう男はモテないと書いてあった。


「……」

 睨まれた。
 あ、あれ?
 予想外の反応なんですけど。

「な、何だよ。その目は」
「本当のこと言ってないでしょ」
「そんなことないぞ」
「嘘だよ。ホントのこと言ってない顔してる」

 どんな顔だよ!
 つか、そんなこと顔に出るものか?
 喜怒哀楽なら表情に表れるかもだけど。

「待ったよ」
「ほら~!」
「普通は待ってないって言うだろ」
「え~、私は言わない」

 そうだろうよ。
 大体検討つくわ。
 今の流れからして“待ってない”とは言わないだろ。

「とりあえず買い物しようぜ」
「確かに」
「んで、何買うんだ?」
「シャーペン」
「……」
「……」

 あれ、ずいぶんためるな。
 ……。…………。………………。
 長いな。
 もしかして、シャーペンだけか?

「そ、それだけっ?」
「文句ある?」

 シャーペンだけだった!
 じゃあなにか?
 俺は、それだけ買うためだけに付き合わされてるのか。
 ずいぶんと人の時間を無駄に使ってくれるな。

「いや、全く」
「じゃあ、言わないで。あと、近く寄るの禁止」
「これ以上離れたら会話できないですけど」
「元からする気無い」
「……」

 俺いる意味無いじゃん!
 ……まぁ、でもここまで円芭自ら会話してきただけでもよしとするか。 

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