○○系女子の扱いには苦労する

黄緑 碧

1話―2「分かりやすっ」

 早速クラスメイトの女子と話す円芭を一瞥して諒が一言呟いた。
 ごもっともである。

「そろそろ席つくか」
「そうだな」

 気分が悪そうな諒と共に自分の席を探す。
 進級したので、自分の机がどこにあるのか分からない。

「祐あったぞ。お前の机」
「マジかっ」
「席つけ~!」

 もうそんな時間か。
 担任と思われる男性が教室の入り口で着席を促す。
 それによりクラスメイト達が各自のイスに座っていった。

「おし、自己紹介したいところだが、校長のくだらない話を聞きに体育館に行くぞ」

 くだらないって……。
 最もいっちゃいけない人が平然とした顔で言うもんだから、思わず笑ってしまった。

「ほら、動けー」

 手でアクションを起こす担任と思われる男性に動き出すクラスメイト達。
 にしても、座らせる意味あったのかね?
 まぁ、いいや。俺も行くか。
 席を立ち、教室を出る。
 廊下はぞろぞろ体育館に向かう生徒で渋滞していた。
 何で一斉に向かわせるかね……。
 混雑させたら効率悪いだろ。

「どうにかしてよ」

 円芭が話しかけてきた。
 しかも、さりげなく。
 別に普通に会話しても大丈夫だと思うんだけど……。
 女の子の気持ちは分からぬ。

「こればっかりはどうしようもないな」
「……」

 睨まれても困るんですけど。
 まったくもってとばっちりである。
 何とも言えない雰囲気の中体育館まで中間の距離に差し掛かってきた。

「須藤さん、この間のアニメ観た?」
「観た観たっ」

 すぐクラスメイトの質問に答えるため俺を睨むのを止めて、俺に横顔を見せた。
 名前は知らないが、円芭に声をかけたクラスメイトナイス!

『所定の位置についたら着席してください』

 っと、そうこうしてる内に体育館についた。
 司会進行役の先生に促され、所定? の位置に座る。
 学校側の人物がくだらないというのだから、よほどくだらない話をここの校長は話すのだろう。

「それでは、これより全校集会を始めます」
「よっ! おはようさん」

 半ば担任を疑っていたが、第一声で疑いはきれいさっぱり晴れた。
 何だよ、よっ! って……!
 これはもうくだらない話をするオーラしかしない。

「真面目に挨拶してください、校長!」
「至って俺は真面目だ」
「そうは見えないから言ってるんですっ」  
「取り方は人それぞれだろ」
「……」

 ま、まけるなっ。
 あなたが折れたら全校集会が校長の話だけで終わってしまう!
  校長を睨む司会進行役の先生を見てにやける校長。
 ヤバいのが赴任してきたな……。


 ☆ ☆ ☆


 全校集会らしい集会をやったのは、あれから三十分を過ぎた辺りからだった。
 さて、現在時刻十二時四十分。
 売店へ駆けるクラスメイト達を見ながら、自分の弁当箱のふたを開ける。

 今日の弁当は彩りがよい。
 どうやら母親が作ったようだ。
 というのも、俺には年が一個下の妹がいるのだが、その妹と母親で交互に弁当を作っている。

 ちなみに、彩りがまったく無視されているのが妹が作った物で、細部にもこだわっているのがお袋が作った物と見分け方が分かりやすい。
 味はなぜか妹の方が旨いんだけど。

「一緒に食おうぜ」

 諒が弁当箱片手に近づいてきた。
 ここはひとつ、伊津美みたくふざけてみよう。

「え……ヤダ」
「冗談きついぞ、祐」
  
 とか言いながら、もう俺の机の上で弁当広げてるじゃないか。
 バレバレというわけか。
 諒のくせして生意気だな。

「あ、チンジャオロースだ」
「切り替え早いなっ」

 ついさっきまで不満を口にしていた諒が、俺の弁当の中身を見てボソリと呟く。
 それに思わず突っ込んでしまった。

「お前の悪ふざけに構ってる場合じゃないんだよ! 今日は五時間目で終わりだろ?」
「恐らく」
「だからこのあとハンバーガー屋行けるように満腹中枢刺激しないようにしてるんだよ」

 だったら食べなきゃいいのに。
 弁当食ったら少なからず満腹中枢刺激されるだろ。
 まぁ、こいつのことだからどうせ弁当食べても問題なくハンバーガー屋いけると思うけど。

「お前なら普通に弁当食ったあとでも、ハンバーガーぐらい食べられるだろ」
「食えるけど、それだと純粋に美味しく食べられないじゃん」
「なるほど」

 面白いことするな、こいつ。
 グゥ……。俺も食うか。
 諒が食う姿見て腹減ってきた。
 今日の弁当は青椒肉絲と野菜サラダ・プチトマト他多数。
 さぁて、どれから食うかな。

「全部手作りか」
「多分な」

 正直作ってるのを見たわけじゃないので、全部手作りかは分からない。
 サラダは恐らく手作りだと思うけど、チンジャオロースは冷凍食品という可能性がある。

「羨ましいっ」
 バシン!「くっ」
「どさくさに紛れて取ろうとするな」

 まったく、油断も隙もない。
 俺が叩いた手を擦りながら、諒は自分の弁当を食べ始めた。
 普通に頂戴と言えば、あげたのに。
 つか、何度も何度も弁当は手作りだって訊いてきすぎなんだよね。
 昼食が給食から弁当に変わった高校に入った直後から、この有り様だからいい加減にしてほしい。
 第一身内が作った手作り弁当だから、そこまで嬉しくないし。

 ガラガラ!

「ん?」

 ずいぶん勢いよく扉を開けるな。
 迷惑な人物はどんなやつかと扉を見ると、担任が立っていた。
 一体何ごとだろうか。
 皆目検討もつかない俺達が先生を見ていたらおもむろに紙を掲げてきた。

『昼食べ終わったら、帰っていいよ』

 何で口で言わない。

『んじゃ』

 仕事はこれにて終了とばかりに担任は踵を返し去っていく。
 担任もヤバい系のやつかよ……。

「……あ」

 残念に思いながら、青椒肉絲を食べようと弁当へ視線を落とすと、俺の弁当へ箸を伸ばしている諒と目があった。
 ここにもヤバい系のやつ居ったわ……。

「なぁ、青椒肉絲が無いんだけど」
「さ、さぁ~」

 どうやらシラを切るつもりらしい。
 首をかしげるそんなアホな諒の口元には、青椒肉絲のタレがついている。
 嘘をつくならもっと高度にしてほしいもんだ。

「タレついてるぞ」
「えっ!?」

 はい、犯人確定。
 ここでついてないとか言ったら、そのまま流してやろうと思ったのに。
 指摘して驚かれたら、こっちも気づいてませんとはいかないだろ。

「食べたな」
「はい……」
「普通に欲しいって言えよ」
「悪い……。一口のつもりがつい全部食べちまった」

 止まらなくなってんじゃねぇよ。
 気持ちは大いに分かるけど。

「今から出すよ」
「何をだ?」
「チンジャオロース」
「どうやって」
「吐く」
「止めろっ。そこまでしなくていいっ」

 つか、誰が人が食ったやつを食べるアホがいる。
 ホントこいつには時々驚かされるわ。

「冗談だよ。んじゃ、行くか」

 おいおい、自分さえ良ければいいのかよ。
 弁当箱をしまい、席を立つ諒。

「俺まだ食べてるんだけど」
「しょうがないな。待ってるから早く食べてくれ」
「どんだけハンバーガー食べたいんだよ」
「凄く食べたいっ」

 少年みたいに言われても困る。
 目がキラキラだ。

「分かったよ。これ食うの手伝ってくれ」
「いいのかっ!」
「ああ」

 俺が頷くよりわずかに早く俺の弁当に諒が箸を伸ばし、早々に弁当を片付けて放課後。
 場所は移って、ハンバーガー屋。
 当初予定していた計画とは違う下校時間に調子が狂った様子の諒は、ポテトのSサイズとコーラのSサイズを頼んだ。
 どうも諒の予想だと五時間目を終えたところでの下校と踏んでいたらしい。

「もう少し早く言ってくれれば弁当完食しなかったんだけどな」
「とか言いつつ、食ってんじゃないか」
「う~ん、別腹?」
「言い訳女子かよっ。つか、それデザートに反応するんじゃなかったっけ?」
「知らん」

 ですよね。
 諒が分かるわけないわ。
 訊いた俺がバカだった。

「隣いい?」

 ん? 何か聞き覚えのある声だな。
 え、円芭!?
 振り向くと、サイドテールがキュートな円芭がいた。

「お、円芭。いいぞ」

 珍しい。
 こいつが自分から近寄ってくるなんて……。
 あと、ハンバーガー屋にいるなんて。
 というのも、円芭はここのような店に入らない。

「はる――イッタ!」

 ふぅ、危ない危ない。
 折角自分から近寄って来てくれたのだから、諒の無神経な発言で機嫌をそこねられては困る。
 円芭から見えない位置で諒のすねを蹴ってやった。
 円芭から諒が痛がっているが何かあったのかと聞かれたけど、テーブルの脚に爪先かどこかぶつけたのではないかと嘘をついておく。

「に、にしても、あの校長今までの中でずば抜けて頭がヤバい系の人だよな」
「ヤバいってもんじゃないだろ」

 どうして俺がすねを蹴ったか理解をしたのか、諒が別の話題を持ち出し、再び機嫌を損ねるというリスクを軽減。
 ひとまず安心してポテトを食べられる。 
 この塩味がたまらないねっ。

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