BEST・TRUMP

仮宮 カリヤ

不幸少年に幸福を 3









俺とあの青髪の男と分かれたその後、俺は屋敷内に侵入したが、落とし穴、雨のように降る槍、モンスターが突然投入されたりと、中々えげつない罠を掻い潜ること数時間、突然長い廊下が現れた。




だが、油断はいけない。
いつどこで、罠が隠されているかなど分かりはしないのだから。
俺は周りに視線を配りながら少しずつ進んでいった。




たく、なんで俺がこんな所に、たかが人のために命がけで来ているのか。
もうそんなことはどうでもいい。
次会ったら絶対殺す。マジな奴で。




そして少しずつ進んで行くと、隣に扉が見えた。
なんだ? この扉は。
俺はその扉を警戒心を持って調べた。
だが、なんという仕掛けもないただの扉のようだった。
ただし、触ってみて分かるが、この扉は分厚い鉄の壁で出来ているようだった。


「まさか・・・ここにいるのか?」


俺はまさかとは思ったが、一応のために中を見ていくことにした。
俺はビリーを扉に向けて撃ち込んだ。


ドンドンッ!!


辺りに銃声が響く。だが、扉には銃弾が撃ち込まれただけでびくともしなかった。
そして俺はビリーの中にある銃弾を確認した。
ビリーやガロンは、剣などの武器とは違って銃弾を消費する。
作ってもらう費用も、細かいから少し掛かってしまう。
今の持ち合わせは少なくともこのビリーに入っているのしか残っていない。
あと数発ほどしか残っていないビリーを覗き込み、
もうここにはいないと諦めることにした。






             ~~~~~~~~~~~~~






「・・・・さすがに・・・・ここだろ・・?」


廊下の一番奥の扉、そこには大層大きな扉があった。
しかも、誰かが入ったように扉が少し開いていた。
俺はその扉に近づき、警戒を一切解かずに中を覗き込んだ。
すると、中には街の張り紙でも見たクロファスがいた。
だが、そのクロファスは椅子に座って面白げに何かを見ていた。


一体、何をしてるんだ?


まぁいい。このまま撃ち殺すだけだ。
カルバークさんとの依頼とは少し変わってしまうが、どちらも殺してしまえば同じことだろう。
そして俺はビリーで標準をクロファスに合わせ、引き金を引いた。




・・・・と思ったが、俺の手は力も抜けていくほどの力で誰かの手にギチッと掴まれていた。
そして後ろを俺は振り返った。
後ろには・・・・。


「・・・・・・何をなさってるんですか?」


俺を殺すような眼つきで見ていたそれは、屋敷の外で出会った青髪の男だった。




俺は青髪の少年に向かって、隠し持っていた短剣を振り当てようとしたが、男は鎧を着てるとは思えないほどの脚力で遠くまで飛び上がった。


「いきなりひどい人だな、あんたは」


「そんな眼で見られてたら、こういう反応にもなるだろ」


一体なんだ? こいつは。
俺に疑心はないと思っていたが、こいつから溢れんばかりの殺気は、会ったときには無かったぞ?




青髪の少年は、壁に手を着くと、その壁が凹み、その前の壁が全て上に移動した。
そして中から現れたのは、この廊下を全て埋め尽くすほどの岩石だった。
その岩石は、ジリジリとスピードをつけながらゆっくりとこちらへと来ている。


「精々無駄に逃げやがれ!」


「は? お前、何やってんだよ!」


後ろにはお前の主人のクロファスがいるんだぞ?
岩は少しずつ俺に近づいていた。
くそ、逃げるしかないか。
だが、逃げ場はクロファスの部屋しかない。いや、きっとクロファスも逃げられるような策があるのだろう。
それに便乗して逃げ切ってやる。
俺が後ろを振り返ると、後ろはさっきまであった筈の大きな扉の姿はなく、代わりに広い廊下となっていた。


「・・・・は?」


そして青髪の男は、岩石を脚で蹴り押した。
それに勢いをつけて、とてつもないスピードで回りながら俺を轢き殺しに来ている。


やばいな、これは。・・・・・・・はぁ。
やっぱり、来てやるんじゃなかったな。
人を心配するなんて、俺らしくない。


その瞬間、俺の目の前ほどに岩石が近づいていた。








       ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~








岩石は、人間では追い付けないほどの速さで今も進んでおり、赤いものが所々に見える。
そして、少し手前のところでは赤い液体が石の地面に染み込みかけていた。
これは、間違いないよな。


「・・・・ははは・・・やった・・!」


それに気付くまで、青髪の男は歓喜の心に満ちていた。
だが、気付いてしまった。その赤い液体の近くの窓が割れてしまっていることに。


「・・・・まさか・・・・!」


あの速さだったんだ。逃げられるわけない。
それに、ここは五階だぞ? 飛び降りたりなんかしたら、死んでしまうに決まってる。
だが、何故だか不安になるな。
いや、考えていては捕り逃してしまう。
青髪の男は割れた窓の穴から躊躇もなくすぐに飛び降りた。
パチッ
その音と同時に青髪の男は片腕を挙げた状態で吊るされているようになった。
そして、その片腕を掴んでいるのは、


「・・・・何やってんだよ、あんた」


「・・な、何だと! お前、落ちたんじゃないのか?」


「え? ここ五階だろ? そんな馬鹿みたいなことしねぇよ」


色々な言葉が青髪の男に突き刺さっていく。
そう。トウヤは岩石より速く窓を割ったあと、飛び降りるのではなく、窓の横の小さな出っ張りに捕まっていた。




これはきっと、青髪の男が焦っていたからこそ出来た芸当。
奴が焦っていたからこそ、「飛び降りた」という考えしか思い浮かばなかったのだ。


「で、俺もこんなところじゃ踏ん張り効かないんだ、俺だって無駄に人殺しをしたい訳じゃない。だから、出来るだけ速く『答えるな』」


そう言うと、青髪の男は言ったこととは逆にすぐに答えを出した。


「そんなの、まっぴらごめんだね!」


その瞬間、俺の視界が一瞬で切り換わった。
上を見ると、青髪の男が壁の突起から俺を見下ろしていた。
そして下を見ると、俺は地面へ急落下していた。










            ~~~~~~~~~~~~~










青髪の男は城内の中から下を覗き込んだ。
そこには、やはりあの仮面を着けた黒髪の男が横たわっていた。


「はは。やっぱりあんたは大馬鹿だよ。自分が殺されようとしているのに助けようとするなんて」


本当に、馬鹿だったよ。あんたは。


俺はその場に力が抜けたかのように倒れ込んだ。
そして自然と涙が込み上げた。


やっとだ。やっと、仇を取れたんだ。


少しの間だけ、青髪の男はその場で自分の涙を拭っていた。






(数分前)


俺は地面への急落下中、持ち前の反射神経で、肩に掛けていたバッグの中からフック付きのワイヤーを取り出した。
そしてすかさずワイヤーを壁の突起につけて窓を割り、中に侵入することが出来た。


・・・・調子に乗りやがって。


俺は少し怒っていた。こっちは良心を持って接したのに、あいつ、殺そうとしやがって。


あいつ、ただじゃおかねぇ。


その為には、奴に隙を造って貰う。


俺のスキル、【JOKER】は、持ち主に不幸をもたらすだけではなく、仮面を思い通りに造れたり、その仮面を本体にして持ち主そっくりの人形も造れる。


ということで、俺は窓の外に人形を落とした。
これできっと、あいつも俺が死んだと思い込めるだろう。


「今度は、俺の番だ」










            ~~~~~~~~~~~~~~












青髪の男は、クロファスのもとへ侵入者の報告へ来ていた。
それに対してクロファスは何かに夢中かのようにじっと違う方向を見ていた。


「クロファスさん、侵入者の排除、遂行いたしました」


「む、そうか。何故こんな平凡な時期に侵入者が・・・・」


「何故今かは分かりませんが、奴は私の、仇でした」


クロファスの眼がやっと青髪の男の眼と合った。


「・・・・そうか。では、お前も漸くファストのもとへ帰れるのだな」


「ええ。今まで、ありがとうございました」


「いや、私は自分のするべきことをしたと思っている。また困ったことがあれば、また訪れるがいい」


「はい。では、荷物の整理をしてまいります」


そうして、青髪の男は一礼してその場を立ち去った。


「・・・・だが、この前設置した罠がここまで簡単に突破されるとは、罠が軽かったか? それとも・・・・」


その時、クロファスの首もとに冷たい物が当たり、その後に首から温かいものが流れ出した。


これはきっと・・・・ナイフ?


「動かない方がいい。自分の余命を短くするだけだ」


「・・・・誰だ? お前は・・・・?」


「・・流石に声だけでは分からないか?」


俺はクロファスの手を縄を縛り付け、座りつけさせるために蹴落とした。
そして、奴の眼に収まるように前に出て、仮面を外して見せた。


「! お前は・・・・!」


「思い出したか? 『クロ叔父ちゃん』」


「・・・・何しに来たんだ・・・・今更復讐か!?」


「あぁ。そうだ」


俺は即答して答えた。


「本来はあんたが王座に就くまで大人しくしておく筈だったが、こんな機会が訪れたんだ。逃すわけがないだろ?」


そして俺は、もうひとつ聞いておくことがあった。


「で、これはどういうことなんだ? クロファス」


俺は後ろを振り返り、その場を眼に焼き付けた。
それは、あの陽気活発だった筈のアイリスが、十字架の柱に縛られ、眼を隠されながら、一定的に機械から鉄砲が彼女に向けて撃ち込まれていた。
だが、それすらも彼女は鮮やかに躱しており、彼女の後ろの壁は銃弾の影響か、穴だらけだった。


「あんたは娘を大事にしていることで有名だった筈だが、あんたのしているこれはなんだ? 親とすら思えないぞ」


「・・・・その前に聞かせて貰う」


「? なんだ?」


「あの道は一本道だった筈なのに、何故フィスタと会わなかったんだ?」


フィスタ、とは誰か分からなかったが、あいつしかいないと理解した。


「ああ。あの青髪か? それなら殺したぞ?」

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