賢者への軌跡~ゼロの騎士とはもう呼ばせない~(旧題:追放された重装騎士、実は魔力量ゼロの賢者だった~そのゼロは無限大~)

ぶらっくまる。

第083話 腹の見せ合い


 コウヘイがスキルの説明をしたことで、どうしていつもエルサが付き添うかのようにコウヘイにべったりなのか、その理由をエヴァがようやく理解した。

 先程のイルマの喘ぎ声のような絶叫に引き気味であったエヴァは、

「どんだけいいのかしら」

 と、幸せそうなイルマの表情を見て、興味を抱き始めた――――

「ね、ねえ……」
「おっ、今度は何が知りたい?」

 エヴァが質問してくれそうな雰囲気だったため、そう促したけど、違った。

「あ、あたしにもちょっと試してみてよ」
「え!」
「何でそんな嫌そうなのよ!」

 そんなつもりはなかったけど、表情に出ていたのかもしれない。
 てか、エヴァは魔力量が少ないため、そんなことできる訳がなかった。

「嫌じゃないけど、エヴァは魔力量が少ないしさ。それに急にどうしたのさ」
「いや、どんな感じか……興味あるっていうか……」

 理由を聞いたら急にモジモジし始めた。
 しかも、唾を呑み込むような音が聞こえ、エヴァの瞳がランランとしているようにも見えた。

「あー、じゃあ、帰ってからね。今はダンジョンの中だし……」
「そ、そうよね。わかったわ」

 尤もらしい理由を述べると、それに納得したのか引き下がってくれたけど、あからさまに肩を落として残念そうにしていた。

 僕は、どう対応していいかわからなくなり、取り合えず他に聞きたいことが無いか尋ねた。

「他に聞きたいこと?」
「うん」
「それじゃあ、そうね……あれかしら。さっきのエンチャント魔法は何? 聞いたことないんだけど」

 戦闘時のことでも思い出しているのか、少しが間があった。

「ああ、あれか……実は適当なんだよね」

 本当のことなので、僕はそうとしか言えなかった。
 決して誤魔化すつもりはないけど、笑ってしまう。

「高電圧大電流は、僕が居た元の世界の言葉で、電撃魔法系統なんだよ」
「へえー、勇者様の世界の魔法なんだ。通りで凄い威力だったのね」
「まあね……」

 今度は、笑って誤魔化した。

 だって、地球に魔法はないし、科学と言ってものこのファンタズムに科学が無いから説明のしようがない。

 一応、魔道具といわれる家電製品みたいなもはあるけど、燃料は魔力や魔石であり、それは魔導学といわれている分野だ。
 根本が違いすぎて比較できるものではない。

 説明しきれなかった僕は、誤魔化す意味で無詠唱に言及することにした。

 あれほどイルマやミラから慎重にと言われていたのに、気が緩んでいたというよりも、エヴァになら話してもいいかなと思った。
 それでも、それが安易な発想だった。

「あとは、あれかな?」
「まだあるの!」
「何? もうお腹いっぱい?」

 驚いた表情をしたエヴァに僕は、そう茶化してみる。

「そんなことは無いけど、本当に元々話すつもりだったの? コウヘイのスキルだけでも秘匿性が高いのに……てか、よく勇者パーティーを抜けられたわね?」

 エヴァの表情は、呆れているというよりも、何かを期待するように右の口角が上がっていた。

「まあ、それには色々あるんだよ。それは、大した問題じゃないからまた今度ね」
「残念。それなら仕方がないわね。話す気になったら教えてちょうだい」

 残念と言いつつもエヴァの表情は全くそうには見えず、あっさりと引いてくれた。
 てっきり、もっと突っ込まれるんじゃないかと冷や冷やしたけど、追放された話をしたくない僕にとってそれは助かった。

 これ幸いにと僕は、そのまま話を続けることにした。

「まだあると言っても、これが最後なんだけど、これはエヴァにも関係する話になるかな」

 僕は含みを持たせて、一度間を置く。
 エヴァは、待ちきれない様子で、「それでそれで」と、僕を催促してくる。

「それは、魔法の三大原則は嘘で、魔法はイメージ次第で何でも発動するし、無詠唱魔法だって可能だよ」

 どうだ、驚いたか! という風に僕は満面の笑みで言い切った。

 しかし、エヴァの表情からは一切の感情も読み取れなかった。
 そう、真顔であった。

「はっ、何を言い出すかと思えば何を言っているのかしら。そんなはずはないじゃない。コウヘイは神を冒涜する気なの!」
「え?」

 怒ったようにいつもより低い声で、ギロッと僕を睨んだ。

「いいこと! 魔法の三大原則は、創造神デミウルゴス様の教えなのよ! それを否定するなんて、コウヘイは何様のつもりかしら!」
「あ、いや、そんなつもりは毛頭ございません、はい……」

 エヴァの激昂ぶりに、つい僕は気圧されてしまった。

 正直、内心パニック状態である。

 確かに無詠唱のことをエルサに説明したとき、当初は信じてもらえなかったけど、エヴァみたいに神様の名前を出してまで怒るようなことはなかった。

 イルマ然り、ラルフさんやアリエッタさんは、全く怒ることはなかった。

 もしかして、敬虔なデミウルゴス神教徒なのだろうか。

 などと、僕が思考の渦に苛まれているとエヴァが、

「それにね。あたしは、こう見えてもバステウス連邦魔法学院の生徒だったのよ」

 と、何の繋がりがあるのかわからない説明を続けた。

 ただ、エヴァが魔法を学んでいたのは驚いた。

 エヴァ曰く、魔力が非常に少ないため身体強化魔法でもギリギリだと。
 でも、さっき魔法らしきものでオーガの背後を取っていたから、魔法を学んでいたことは本当なのだろう。

 それなら、その認識を改めさせないといけない、と僕は思った。

 これは口で言うより、実践した方が早いだろう。
 デミウルゴス神教徒であるならば、猶更だった。

「まあ、ふつうは信じられないよね。じゃあ、エヴァ見ててね」

 僕はそう言って右手を壁の松明の方へかざした。

「風よ!」

 その瞬間、僕の右手からウィンドが放たれ、空気の塊が松明の炎を消し飛ばした。

「ほらね」
「はは……嘘でしょ! 何よそれ、本当に……」

 エヴァは信じられないという表情をしながらも、目の前の現象を目の当たりにしたら信じざるを得ないだろう。

「じゃ、じゃあさっきミラちゃんがファイアボルトを連射していたのもそうなの? 高位の魔法士は速詠唱ができるからその類かと思っていたのだけれど……」
「そうだね。速詠唱が何か知らないけど、ミラも無詠唱ができるよ」
「嘘でしょ!」

 これでもかというほど目を見開いたエヴァは、未だエルサの膝の上に頭を預けているミラに視線を向けていた。
 ミラは、穴が開くほど見つめられ気恥ずかしそうに頬を染めて微笑んでいる。

「そもそも、ミラは見習い魔法士なんだから、高位の魔法士な訳ないしさ」
「あ、確かに……そ、そうよね……」

 苦笑しながらエヴァが言った矛盾点を指摘すると、頭が追い付かない様子ながらも納得していた。

 僕からしたら、見習い魔法士なのに無詠唱で魔法を行使できることの方が矛盾しているけど、この際はどうでもいい。
 見習い魔法士というのも、あくまでも僕たちがエヴァに対して説明するために考えた設定なのだから。

「それならわたしだって無詠唱できるよ」
「え?」

 今度は、僕が驚く番だった。

 今まで一切話に入ってこなかったエルサが口を挟んできた。
 しかも、詠唱の簡略化には成功していたけど、これまで無詠唱を使えた試しが無かったはずなのだ。

「へへーん、コウヘイ、驚いたでしょ?」
「うん、凄いよ! でもそれは何の魔法? さっき使ってた?」

 アースバンドリング然り、ファイアボルトのときは、確かに呪文を詠唱しているのが聞こえてきた。

「実はね。オーガにサンダーアローを三連撃したの。だから貫通できたんだと思うんだよね」

 エルサはドヤ顔で、「ねー凄いでしょ」と、ニシシと笑って笑顔を向けてきた。

「はあー、参ったわこれは」

 エヴァは、唐突に笑い出した。

「うん、コウヘイ、参ったわ」

 再びそう言って、ひとしきり頷いたりしている。

「何に参ったのさ?」
「いやー、あたし決めたよ」
「だから何を!」

 僕が聞き返してもエヴァは、壊れたおもちゃのようにひとしきり頷くだけで、僕には訳がわからなかった。

 もしかして信じてくれたのだろうか?

 論より証拠ということわざがあるように、いくら何でもそれを否定できないと理解してくれたのだろう。

 口調は軽いけど、案外聡明な女性だったりする。

 信じてもらえた様子に僕がホッと胸を撫でおろしたのも束の間、今度は僕たちが面を食らう番だった。

 ――――エヴァが打ち明けた衝撃の事実に、コウヘイたちは驚愕した。
 ただ、エヴァのソプラノの高音のような透き通った声と満足そうに顔をほころばせたのが印象的だった。

「あたしの秘密、教えてあげるわ……いいえ、わたくしは、エヴァ・フォン・サルターニ。バステウス連邦王国元サルターニ辺境伯の長女ですの。コウヘイさま、これからもどうぞよろしくお願いいたしますわ」

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