異世界に行ったら国が衰退していたので、不動産屋をしていた経歴を生かしてエルフの王女と国を立て直す。

とっぱな

209話お母さん! 母と魔女⑫

「曾爺さんを殺す? 今、そう言ったのか?」


「うん。そうだけど」


どうしてそんなに冷や汗を掻きながら、私を見るのか。
シルフは無垢な瞳で、自身が発した言葉の意味を理解していないような表情を俺に向けた。


「花島だって帰りたいんでしょ? だったら、殺そうよ」


と俺の袖をグイっと掴み、ダイニングを出て行こうとする。


「ちょっと待て! 展開が読めん! 何で曾爺さんを殺さなきゃいけないんだよ!」


「だから言ったでしょ。あのお爺さんがいるせいで花島は帰れないんだよ」


駄目だ。
同じ事を繰り返しだ。


「ふぅ......」


深い溜息をつくブラック。
全てを察したかのように重たい口を開いた。


「この世界の鍵となるのが”怜人”だったって事よね~?」


「いや、でも、お前、さっきは違うって」


「えぇ。怜人は能力者ではないわ~。恐らく、能力者の力によって生まれた存在。花島がこの世界の主人公なのだとしたら、怜人は管理者ってところじゃないかしら~?」


「管理者?」


「えぇ。能力者がこの世界にいないのだとすると誰かこの世界を管理する人が必要よ。それが怜人って事じゃないかしら~?」


ブラックの意見を肯定するように、シルフは首を大きく縦に振った。


「仮に曾爺さんが管理者だと仮定する。だが、曾爺さんからはそんな素振りは感じられなかったぞ」


曾爺さんと会った時に記憶の一部を見せられ、その際に曾爺さんの心とも繋がる事が出来た。
何かやましい事があればその時に感情が流れ込んできただろう。
しかし、曾爺さんからそういった後ろめたさを感じる事はなく、ブラックの発言はどこか腑に落ちなかった。


「自分自身がこの世界の管理者という立場だと認識していないじゃないかしら~? あなただって、主人公だとは知らなかったでしょ~?」


......確かに。
そうだとすると辻褄が合うか。
ただ、どうして、それをシルフが知っている?
俺やブラックが気付かなかった事を何故?


「さ、行きましょう」


「あ? 行くってどこに?」


「あなたのおじいさまの所に決まっているわ」


先程までの怯えていた少女の姿はそこにはなく、逞しい背中はどこかで見た覚えがあった。


「とりあえず、彼女の指示に従いましょ~。あの子はこの世界から脱出する為に必要なんだから~」


「ま、まあ......。ただ、手荒な真似はやめろよ。曾爺さんを殺して帰れる保証はないだからな!」


一抹の不安のようなものは残るが、ここはシルフの後について行った方が良いのだろう。
殺す・殺さないに関わらず、曾爺さんに質問することは出来る。
対話の中から解決の糸口を探せば良い。


自分にそう言い聞かせ、俺とブラックは小さな背中の後を付いて行った。

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