異世界に行ったら国が衰退していたので、不動産屋をしていた経歴を生かしてエルフの王女と国を立て直す。

とっぱな

208話お母さん! 母と魔女⑪ 

廊下の先に着くと、金髪の少女が膝を抱えるようにして廊下にうずくまっていた。
廊下から差す月明かりに照らされた少女はこの世の者とは思えないような雰囲気を醸し出している。
ブラックは少女の元まで歩み寄り、腰を落とし、少女に話しかける。


「こんばんは~。どうして泣いているの~?」


「暗いの。寒いの......」


少女は手で顔を隠したまま、ブラックの質問に答える。
発せられる言葉は冷たく、不安に満ちていた。


「寒いんだったら、下に行くか? それなりにあったけぇぞ」


「本当?」


暖かいという言葉を耳にし、少女は青い透き通った瞳を輝かせる。
ここで話をするのは寒くて堪える。
とりあえず、温かいスープでも飲ませれば落ち着くだろ。


「ああ。無愛想な爺さんがいるけど悪い奴じゃない。慣れろ。一瞬でな」


「うん。分かった」


少女は初めて笑顔を見せる。
その笑顔はどこかぎこちなく、実際の年齢よりも少し大人びたような笑顔だった。



◇ ◇ ◇



______ダイニング______


「あったかい......」


ダイニングにある暖炉の前で美味しそうにスープを啜る少女。
この子が一体どこから来たのか?
何者なのか?
俺の頭の中では終始クエスチョンマークが浮かんでいた。


俺を横目に、ブラックが少女に近付き、少女の隣に座り、静かに話しかける。


「あなたのお名前は~?」


「......シルフ」


ん?
シルフ?
確か、ブラックの口からその名を聞いたような......。


「いい名前ね~。私はブラック~。あっちのが花島よ~」


「......」


「ん? 何?」


シルフは、俺の名を呼ぶと想いを寄せる人物を見るような輝いた瞳でこちらを見て来た。
おいおいマジか。
まさか、過去にも俺のファンがいるなんて思ってもみなかったぞ。


「......花島」


シルフはポツリと俺の名を呼んだ直後、大粒の涙を流す。


「え!? 何!? 急にどうした!?」


まるで感情が不意に溢れ出たかのように涙を流すシルフ。
声も荒げることなく一筋の涙を流す少女。
大の大人が慌てるには十分過ぎた。
赤ちゃんや三歳児くらいなら変顔をすれば泣き止むのだろうが、相手は10歳前後。
どうやったらご機嫌になるのか見当も付かない。
金で解決するのであれば3000円くらいなら握らせてやりたかった。


「帰ろう。帰ろう、花島」


「か、帰る? どこに?」


「帰ろうよ! 帰ろう!」


「だからどこに!?」


シルフはゾンビのように俺の足にすがりつき、「帰ろう。帰ろう」と言い続け、何だか怖い。
ブラックに助けを求め視線を送るが動く気配ナシ!
俺だって帰りたい気持ちはある。
だけど、帰る方法が分からないんじゃどうすることもできない。


「なんだ? 騒がしいじゃねぇか」


シルフが騒いだ事で曾爺さんが眠気眼を擦りながらダイニングに入ってくる。


「あ、曾爺さん。ごめん。この子が......」


「この子?」


シルフの姿を見た直後、曾爺さんは眉をしかめる。


「......さっき、俺が上で見たって話した子だよ」


「あ、あぁ。本当に居たのか。全く......。お前らといい、突然、現れやがっていい迷惑だよ」


「しょうがないだろ。俺達だって好きで来た訳じゃないんだ」


「......チッ」


曾爺さんは寝ていたところを起こされ機嫌が
悪かったのか、終始イライラした様子だった。
そんな頑固おやじのような爺さんに怯え、シルフは俺の背の後ろに隠れ、癇癪持ちの爺さんをジーっと見る。


「シルフ〜。この人はこの家の主人よ〜」


「......」


ブラックがその場を繋ごうとするが、警戒している猫のようにリアクションを見せないシルフ。
曾爺さんも子供が嫌いなのか、シルフに近付こうともしなかった。


「可愛くない子供だ」


毒を吐き、曾爺さんは踵を返し、ダイニングを出て行った。


「私、あの人嫌い......」


毒を吐かれた事でどうやらシルフはヘソを曲げてしまったらしい。
曾爺さんが居ない時で良かったと、俺は胸を撫で下ろした。


「ねぇ。花島。帰ろう。帰ろう」


またこれか。
袖をちょいちょいと引っ張り、上目遣いをしてきて、本当に可愛らしいのだがこうも無理な事を言われ続けると正直疲れる。


帰り方が分からない。
って伝えても理解してくれないみたいだし、どうしたものか。


「ごめんね〜。私達は今、大切な仕事を任せられていてすぐに帰れないのよ〜」


「大切な仕事って?」


「さっきのお爺さん居たでしょ〜?  あのお爺さんのお世話をしなきゃいけないの〜」


「お世話?  どうして花島がお世話しなくちゃいけないの?」


「それは、あのお爺さんが花島のお爺さんだからよ〜。あなたにもママやパパがいるでしょ? 今はママやパパにお世話してもらっているけど、あなたが大人になったら今度はあなたがママとパパのお世話にするのよ~」


そんな世知辛い話を子供にするな。
ご覧の通り、理解が出来ないシルフは頭を傾げた。


「よくわかんないよ。それよりも、早く帰ろう!」


「まあ、それはごもっともだ。だけど、俺も帰りたいんだけど帰り方が分からないんだよ」


ここは嘘をつかずに正直に話した方が良い。
そう判断した俺は、シルフに事情を説明した。


「私、知ってるよ。帰り方」


「え? 今、何て?」


「帰り方知ってるよ」


「......えーーーー!? マジで!?」


何たる僥倖。
ブラックが言った通り、シルフはここを出る為の鍵のようだ。
やった!
ついに帰れる!


「で、どうやったら帰れるんだ?」


早く聞きたい!
すぐにでも!
俺は女を知らない男子が初めて見る女体にがっつくようにシルフから脱出の方法を聞き出そうとした。


「あのお爺さんを殺せばいいんだよ」


「......はい? 何て?」


シルフの小さな可愛らしい口から飛び出た言葉。
俺はあまりにも突飛過ぎた発言に聞き返してしまった。

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