異世界に行ったら国が衰退していたので、不動産屋をしていた経歴を生かしてエルフの王女と国を立て直す。

とっぱな

第195話お母さん! 日々坦々と

「はい。花島不動産ですが______」


俺の仕事は極めて単純だ。
アパートの管理と古家の管理、稀にいる移住者の対応などなど。


一応、肩書は営業兼取締役だが、現場作業員が足りなければ作業着を着て現場に出るし、アパートのドアの建付が悪くなったと言われれば自分で直すし、リフォームのプラン提案などのちょっとした図面は自分で引くし、何でも屋のような状態を大学を卒業してからかれこれ6年程続けている。


同級生や大学の友人に「二代目って良いね」「すごい! 社長じゃん!」などと言われるが彼等が俺の仕事風景を見ても同じ事が言えるかは定かではない。


仕事を始めた当初は給料も少なく、休みもなかったので嫌で嫌で仕方なかった仕事だが慣れれば苦でもなく、むしろ仕事の量や日程を調整を自分で出来るので「あ、明日休むか」と突発的にヤル気がなくなる俺にとっては自営業とは合っている職種だった。


「つとむ! あんた今日、予定入ってるの!?」


「藤村さんのところのアパートの外壁を業者連れて見に行くよ。藤村さんに顔出しも兼ねて」


「午前!? 午後!?」


「9:30に現地集合」


「午後は空いているんでしょ!? じゃあ、新規でお客さん来るらしいから対応しておいて! お母さん、吉村さん家の親戚が土地売りたいって言うから現地見てくるから!」


いや、空いているとは言ってない。


「ああ。いいよ。何て名前でどういう人?」


「忘れた! 携帯の番号控えてあるから自分で聞いて!」


「......いや、名前くらいメモれよ」


「じゃあ、もう行かなくちゃいけないから! 後は頼むよ!」


そうして、社長である母親は手提げカバンと沢山の資料を抱えて軽トラに乗り込み、脱兎のごとく走り去っていった。


「社長、元気ねぇ」


後ろから声を掛けて来たのはウチの会社で20年近く事務をしてくれている助川さん。
俺が物心ついた時から会社に居るので既に家族のような感覚だ。


「もう、8月で60歳になるのに.......。少しは落ち着いて欲しいんですけどね......」


俺はハハハと呆れるように笑う。


「元気が社長の取り柄だから」


「まあ、有り余る元気もどうかと思うんですけどね」


雲が空を流れるようにゆったりと時間が流れる。
予定されたような浮き沈みのない日常を幸せだと思う俺は革命家にはなれない。
この時間がいつまでも続けばいい。
そう願うのは決して悪い事ではない。


______ただ、何か大事な事を忘れている気がする、


心に張る薄い膜のような違和感をここ最近ずっと感じる。
それが何かは分からないが忘れてはいけないものだったはずだ。


「つとむ君。そろそろ、出ないとマズイんじゃない?」


時計を見ると、九時を回っていた。
約束の時間まで30分。
俺は慌てて会社を飛び出した。

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