異世界に行ったら国が衰退していたので、不動産屋をしていた経歴を生かしてエルフの王女と国を立て直す。

とっぱな

第193話お母さん! 303号室

県道沿いを歩いて数十分経つが車はおろか、人の気配すらない。
文字通りのゴーストタウン。
夜になると路地裏から腐乱死体がゾロゾロと出てくるのでは?
そんな事を連想させるにはもってこいのシュチュエーション。
これが生まれ育った我が町であると認めるべきなのだが、直視出来ない自分がいた。


「ユスフィアでオッサンから地球に新種のウィルスがどうだとか聞かされたが、人間は死んじまったのか?」


俺よりも身長が高いマグナガルの事を少し見上げながら話しかける。


「いいえ。死んでないわ」


「じゃあ、どこに? さっきから動物すらいないぞ」


ゴーストタウンには生暖かな風が吹くのみで人間はおろか、猫や犬などの動物の鳴き声すらなく気味が悪い。


「説明するよりもここに入った方が早いわね」


「ここ?」


マグナガルは病院の前で足を止め、俺の手を引き、中は強引に連れ込んだ。



______病院内______



病院の中には電気が通り、エアコンも効いている。
先程から県道沿いを歩いてきたが電気が点いている建物は初めてだ。
明るい建物を見たことで頬が緩んだのか、自然と笑みが零れる。
だが、受付に普段は立っているはずのナースやロビーに多くいるはずの患者の姿はなく、結局、ここも同じかと変わらぬ状況に肩を落とした。


「こっちよ」


人のいない場所に長居せず、マグナガルはロビー奥にある階段を上って行き、俺もその後を続いた。



□ □ □



「ここよ」


階段を上がり、3階にある病室の前でマグナガルは止まる。
扉を開けてくれればいいのに、マグナガルは俺に「開けろ」と言わんばかりにアイコンタクトを送ってくる。
ここで揉めてもしょうがいない。
俺は銀色に輝く、取っ手に手を掛け、病室の扉を開けた。


扉を開けると15帖ほどの真四角の部屋にベッドが4つ並べられている。
この規模の部屋であれば6つ程のベッドがある病室が多いが、プライベートを意識してか、ベッドとベッドの間には適度な空間があった。
ベッドは4つ中3つが空きになり、窓際の1つには白いカーテンで覆われている。
入院患者がいるのだろうか?
俺は確かめようとカーテンに手を掛け、中を覗いた。


「あ......」


カーテンを開けると、ベッドの脇に腰掛ける老婆が一人。
俺に気付いていないのか、こちらを見る事なく、ボーっと窓の外を覗いている。


「こんにちは」


「......」


耳が聞こえないのか、興味がないのか、老婆は問いかけに対しても無反応。


「おい。どうしてここに案内して______」


後ろにいるはずのマグナガルにこの病室に連れて来た理由を尋ねようと後ろを振り返ったがマグナガルの姿がない。
病室の外に出たのか?
そう思い、一度、廊下に出て辺りを見渡すがマグナガルの姿も、誰かが歩くような足音も聞こえなかった。


「婆さん。他に誰もいないのか?」


「......」


病室に戻り、老婆に話しかけるが反応はない。
老婆一人だけの病室に取り残されるなんてホラーの極み。
もっと恐怖感を抱いても良いはずなのだが、何故か俺の心に動揺はない。
それが魂だけの状態から来るものなのか、異世界に行った事で大抵の物は受け入れられるようになっていたのかは定かではない。


「ん?」


老婆のベッドの脇に見慣れたメモ帳があり、目に留まった。


「婆さん。これ、ウチの配ったメモ帳なんだ。ウチに来たことあるのか?」


「......」


青色で牛革製の装丁が施された胸ポケットに収まる大きさのメモ帳。
俺が販促品のカタログから選び、表面には俺の勤める会社名が金色で印字されている。
会社が創立50年目に作った記念品で、協力業者やお得意様にしか配らなかったものだ。
これを持っているという事はこの老婆の事は俺も知っているような人物か或いはそれを誰かから貰った他人か。
マグナガルがこの場所で忽然と姿を消したという事も考えると、この老婆が何かキーパーソンである気がしてきた。


「婆さん! 何か反応してくれよ!」


「......」


ダメだ。
こりゃ、地蔵だ。
喜怒哀楽が欠如している人間から情報を引き出すには根気と時間が必要。
俺はそんな気が長いタイプではない。
婆さんから許可は取らずに、サイドテーブルの扉を開け、何か手掛かりになるものがない探してみたり、ベッドの下、婆さんの身体検査などくまなく調べた。
残るはメモ帳の中身。
この流れで行くとメモ帳の中は白紙だろう。
俺は期待することなく、メモ帳を開いた。

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