異世界に行ったら国が衰退していたので、不動産屋をしていた経歴を生かしてエルフの王女と国を立て直す。

とっぱな

第178話お母さん! オッサンの能力 

______洞窟出口______


ヒカリゴケがびっしりと壁面を覆う地下通路を先に進むと、黒で覆った木々に月明かりが照らす薄暗い森へと出た。


「やっと、外に出れたね。追っ手の足音も聞こえない」
「はぁはぁ......。ひ、久しぶりに走ったからつ、辛い」


運動神経が良いホワイトは額に汗を滲ませるが余力を残している様子だったが、兄の方は肩から息をしていた。
森は広く、暗い。
地下から出る事に様々な制約があるというレプティリアン達がこの広大な森の中から俺たちを探すのは困難。
恐らく、俺たち三人は追っ手に捕まる事なく、ホワイトシーフ王国に戻れる。
先程のレイスの話の中の”救世主のリーダー”
あれは恐らく、シルフに纏わりつくオッサンを指しているに違いない。
だとすると、このタイミングでオッサンが現れたのは何か目的があってのはず。
シルフが狙われている。
最悪の事態を想像せざるを得なかった。


「花島! 早く行こう!」


「お、おう!」


ホワイトもレイスの話を聞き、直感的にシルフに危険が迫っている事を感じたのか、休む間もなく、森の奥に足を進めようとしている。
早く行きたいのは俺も一緒。
しかし、俺は後ろ髪を引かれるように踵を返す。


「レイス。一緒に行かないか?」


精神思念体のハンヌからは”悪意”や”恨み”といった感情をヒシヒシと感じたが、救世主連中からはそういった感情を感じなかった。
あるのは獲物を狩るハンターのような好奇心と高揚感のみ。
彼等は俺達と対峙した時、命の取り合いを楽しんでいた。
レイスは俺達を逃がす手助けをし、何かしらの罰を受ける事は明白だった。


「ありがとう。私には制約があるからここから先へは行けないわ。それにバラックが戻って来た時に誰もいないと寂しがる」


「......レイス」


レイスは俺の母親と同じ顔、同じ声で淡々と語る。
凛とした表情から覚悟を決めているのは読み取れた。


「花島! 早く!」


急かすホワイトを横目に俺はレイスの元まで駆け寄り、全力で抱きしめ。


「ありがとう。どうかご無事で.......」


「ええ。あなた達も。ロイス様のご加護があらんことを」


俺の腰に腕を回すレイスは”擬態”によって俺の母親の姿をしており、本当の母親と今生の別れをするようで心が痛んだ。


「さぁ。早くしないと追っ手が来る。早く行きなさい」


「あ、ああ。じゃあ」


レイスは離れるように促し、俺は森の方に足を向け、ホワイト達の後を追った。


「そ、そういえば、お前が調べたいって言っていた奴の事が少しわ、分かったぞ」


「何!? 本当か!?」


俺が追いつくとホワイトの兄貴は俺が知りたかったオッサンの情報について教えてくれた。


「た、確か、あの毛の持ち主は魔法や能力とは違う不思議な異能をつ、使ったと言っていたな?」


「ああ。それはホワイトも目の前で見た」


走りながら、ホワイトは頷く。


「ないんだ」


「あ? 何が?」


「そ、その、あの毛の持ち主にはま、魔力がない。ふ、不思議な力を使ったというこ、痕跡も」


「そんなはずあるかよ! 俺はあのオッサンが出した魔法のツルで羽交い締めにされたんだぞ! それに、あのオッサンは詠唱だって......」


「花島! どうしたの!? 早く、王国まで戻らないと!」


立ち止まる俺を見て、焦るように声を掛けるホワイト。


「ちょっと待て。どうして、あのオッサンは魔法が使えた?」


「え? そりゃ、魔女だからだよ」


この世界では魔法というものは先天的に得るものであり、後天的に体得することは出来ない。


シルフはオッサンが異世界から来たと言っていた。
元々、この世界の住人ではないオッサンはそもそも魔法を使えるはずはない。
ホワイトの兄貴がオッサンの成分を解析し、魔法を使う事が出来ないと聞くまで何故気付かなかった?


「ホワイトの兄よ。あの陰毛の持ち主はただの人間なのか?」


「あ、あぁ。普通の人間だ」


「普通の人間が魔法を使える可能性は?」


「か、限りなくゼロに近い。た、ただ、考えられる方法として一つだけある」


ホワイトの兄貴は一拍置き。


「ま、魔具だ。その力で魔法を使えたのかもしれない」


「魔法を使う事が出来る魔具? そんなものが実在するのか?」


「き、聞いた事はない。そもそも、魔具は貴重で俺も見た事もな、ないからな」


魔法を付与する魔具なんて本当にあるのか?
この世界では魔法を使える者は希少で、術者は社会的な地位も高い。
そんな魔法を自在に使える魔具があれば取り合いになっているのでは?
ホワイトの兄はオッサンが魔法を使えた理由を魔具の力と推測したが、何か腑に落ちないでいると、「それは違うんじゃない?」と先頭を走るホワイトが魔具説を否定。


「だよな。魔具が関係していれば、ヴァニアルが反応を示していたはずだ」


ヴァニアルは魔力を定期的に採取しなければならないサキュバスという種族であり、俺たちに会うまでは魔具から出る微弱な魔力を吸収していた。
オッサンが魔具を使い、魔法を発動させたならヴァニアルが何かしら気付いたはず。


「そうだね。だとすると、あの部屋に居た別の誰かが魔法を発動したとされ......」


ホワイトはハッとし、自身から突いて出た言葉を飲み込む。
そう。
あの部屋に居て、魔法が使える存在は限られている。
メイドや執事の中に救世主の誰かが救世主に成りすましている線も考えたが、それよりも、俺の脳裏には浮かびたくない顔が真っ先に浮かんだ。


「......色々と憶測してもしょうがない。本人に直接聞くのが一番手っ取り早い」


俺とホワイト、ホワイトの兄の三人は月明かりの照らす森を駆け、ホワイトシーフ王国まで急いだ。

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