異世界に行ったら国が衰退していたので、不動産屋をしていた経歴を生かしてエルフの王女と国を立て直す。

とっぱな

第177話お母さん! 逃亡

「なっ!? レプティリアン!?」


ホワイトが身体に触れると目の前には鱗状の肌をした全身緑色のレプティリアンの女性が現れた。
咄嗟にレイスなのか?
と考えたが、レプティリアンの女性から発せられた言葉はレイスのものではなかった。


「くそ! 邪魔が入ったか!」


「邪魔?」


捨て台詞のような言葉を残した後、脇に設けられていた腰窓からレプティリアンの女性は飛び降り、薄暗い街中を駆けて行く。


「花島、大丈夫!?」


「あ、ああ。何とか。それよりもどうしてレプティリアンが俺を襲おうとしたんだ?」


「それは......」


ホワイトが渋い顔で何やら言いにくそうにしていると、騒ぎを聞きつけたレイスも俺の部屋までやって来て。


「やはり、評議会は強行手段の道を選んだのね......」


と現状を見て、一言。


「強行手段? 一体、何がどうなって......」


置かれた状況を理解出来ずに狼狽えていると、ホワイトは俺を抱き抱え何処かに連れて行こうとする。


「説明は後! 先ずはこの洞窟から脱出しないと!」


「脱出!? だから、状況を説明しろって!」


「もう! 外見て!」


「ん?」


外を見ると、松明の火が何本も掲げられ、数十名のレプティリアンがこちらを睨んでいる。
大きな黄色の眼が据わっており、恐ろしく、凄みを感じた。


「あれは一体......」


乱雑に扉が叩かれ、外から無理矢理中に入って来ようとしている。
それを聞いたレイスは「早くこっちに」と俺とホワイト、ホワイトの兄を地下に案内。


巨人族が通る事を想定していないのか、地下に掘られた通路を中腰で歩く巨人の兄妹。


「レイス! さっきのは一体何なんだ!? どうして、俺たちが襲われる!?」


レイスは足を進めながら俺の質問に答える。


「言ったでしょ。評議会が考えを変えたのよ。どうやら、あなた達が外に出たらマズイみたいね」


「考えを変える?」


「私達はロイス様が再臨される日を待ちわびる穏健派。しかし、ロイス教の信者の中にはロイス様を強制的にこの地に降ろそうとする奴等もいる。貴方達もここに来る前に会ったでしょ?」


「救世主の事か?」


「ええ。私達はロイス様を創造の神だと崇めるけど、あいつらはロイス様を破壊の神としている。私達はずっと彼等の考えは否定してきたけど、やっぱり、評議会の中に救世主の一味が混じっていたらしい」


「そもそも、救世主って一体何なんだ!? ロイスを降神こうしんさせてどうするつもりだ!?」


「分からない。ただ、あいつらがこんなにも力を付けて来たのは約10年ほど前からね。確か、あいつらのボスは人間だったはず」


「人間? どんな奴だ?」


「髭面で歳は40歳くらいかしら。そいつは人間のくせに魔法を使う事が出来る」


「......髭面で魔法______それって!?」


玄関扉が蹴破られ、数名のレプティリアンが侵入したのか、地下通路内に足音と声が響く。
レイスはそれを耳にし、足を早めた。


「レイス。あなたは大丈夫なの? 私達を逃がした事が分かればレイスも罰せられるんじゃ......」


ホワイトはレイスを気遣うように声を掛ける。


「私の姉______バラックの母の口癖は『誰かのために生きなさい』だった。私はそんな姉を今も尊敬している。だから、私はあなた達を助けるの。それに評議会が私達を襲って来たという事は評議会を説得しに行っていたバラックはもう______」


「レイス。その、バラックにも礼を言っておいてくれ。短い間だったが世話になったって」


「でも......。そ、そうね。バラックが戻って来たら伝えておくわ」


レイスは背中越しにでも分かるほどに肩を震わせていた。
失意のどん底の中でも本当は嫌いな人間を助けようと思う姿勢。
俺が同じような状況になった時に同じことが出来るだろうか?
今まで、レイスやバラックが何か企んでいるのではないかと疑っていた自分が一気に恥ずかしくなった。


「そ、そんな......」


レイスの足が急に止まり、レイスの背中に鼻をぶつけた。


「どうした!? 何か問題か?」


「道が......」


「道?」


レイスの目線の先に目を向けると、周囲の壁が崩落し、先に進む道を塞いでいた。


「どうする!? 他に道はないのか!?」


足音から追ってはどうやら、地下通路を下ってきている。
ここで立ち止まれば追いつかれるのは明白だった。


「ここは一本道なの......。戻るしかないわ」


「そんな......」


通路は狭く、ホワイト達が満足に力を発揮できない状況で戦闘をするのは得策ではない。
地下通路は大昔に作られたのか、亀裂があり、ホワイト達が暴れれば崩落する危険すらあり、どうしたものかと俺は頭を抱えた。


「こんな時、ゴーレム幼女がいれば......」


ないものねだりをするのは良くない。
分かっているが、この切迫した状況の中で脳裏に浮かんだのはゴーレム幼女の姿だった。


______ゴトン!


「やべえ! 崩れるぞ!」


通路を塞ぐ、岩石の山から米俵ほどの大きさの石が自然と落ち、一同、身を強張らせた。


ゴソゴソ......。


「あ? 動いた?」


落ちた岩石は触れてもいないのに、まるで卵から何かが孵るように左右に揺れる。
そして、岩石がパカンと割れると中から岩石の蛇が姿を現した。


「花島、これって......」


「ああ。ゴーレム幼女が能力で出していた蛇と似ている」


岩石の蛇はウネウネ動きながら、俺の足元まで近づき、身体を俺の足に絡ませる。
スキンシップを取った方が良いのだろうか?
恐る恐る、岩石の蛇の頭のような丸みを帯びた部分を撫でるとそのまま、腕に絡みついてきた。


「花島君。それは一体何なの?」


「うーん。えっと、何でしょうかね?」


ゴーレム幼女が暴走した時に俺の前に現れた岩石の蛇よりも明らかに体は小さい。
恐らく、同じ個体ではないだろう。
この岩石の蛇は表情はないが、どうやら、俺に懐いている様子。
俺は試しに「この岩石どかす事出来る?」と岩石の蛇に質問をしてみた。


「お、出来んの?」


俺の言葉を理解したのか、岩石の蛇は俺の腕から離れ、積み上げられた岩石の山に向かって地を這っていく。
そして、岩石の隙間に潜り込むと、積み上げられた岩石は一瞬で砂に変わった。


「おお! これは、ゴーレムマンションでゴーレム幼女が見せてくれた力だ!」
「す、すごい! 一瞬で!」


ゴーレム幼女の蛇が俺の前に姿を現したのかは不明だが最大のピンチは乗り越えられそうだ。


「さあ、ここを超えれば出口はすぐそこよ」


砂になった岩石を踏み、俺たちはレイスの言う出口まで向かった。

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