異世界に行ったら国が衰退していたので、不動産屋をしていた経歴を生かしてエルフの王女と国を立て直す。

とっぱな

第165話お母さん! 後日譚~赤ん坊に名前を付ける~

______屋上______



「よーし! 君達! 準備は出来たかな??」


「おー!」


ヴァニアルは兄であるハンヌの言葉にノリノリで応える。
小刻みに揺れる豊満な胸を横目に俺はハンヌにご質問。


「......これは?」


「紙とペンさ」


「知っとる。わざわざ屋上まで来て習字でもやるのか?」


「まぁまぁ、焦らず焦らず」


ハンヌはニコニコと爽やかイケメンスマイルを俺に振り撒きながら腰を落として紙に何やら書き出した。


「あら、意外に達筆なのね」


「ハハハ。お稽古事を色々とやらされたからね」


会話をするシルフとハンヌは本当に絵になる。
金色と赤茶色の二つの髪が宝石のような輝きを放っていた。


「お似合いですよね。あの二人」


天音がポツリと呟くと鈴音は少し目線を下に向けた。


「ん? まぁ、そうだな。二人とも貴族だからな。そういや、ハンヌって結婚したりしないのか?あいつも結構歳いってるだろ」


ハンヌは口に髭を蓄え、三十代前後の年齢。
貴族なら若くして結婚しているイメージなのだが、ハンヌには妻はおろか、恋人の気配すらない。
ハンヌはイケメンだし、女には困らないはずだが......。


「ハンヌ様はヴァニアル国の党首ですので悪い虫が付かないようにするのが我が護衛の役目ですので」


鈴音が突然、機械的な口調で横槍を入れて来た。
ちょっと、瞬きくらいしてよ。
怖いんだけど。


「いやー、男ならちょっとくらい遊んでいた方が______」


不用意な発言をしてしまったのか、鈴音は蛇のような目で俺を睨む。


「おい。花島。ハンヌ様はお前のような変態ゴリラとは違うのだ。一緒にするな」


「えー。同じ男じゃん」


「ハンヌ様はお前のような汚い目であたしの胸を見て来ない」


「み、見てないよ」


やばっ。
胸元見てたのバレてたのかよ。
っうか、あれだな。
ハンヌが女っ気ない理由は恐らく鈴音が原因だろう。
こんな嫉妬心丸出しの護衛が横に居たらハンヌにアプローチしたくても出来ないって。


「ハンヌ様が覗くなら兎も角、貴様のような豚が見て良いものではない」


じゃあ、そんな胸元開いた服着んなよ!
そう言いたかったけど、怖くて言えませんでした。


「鈴音はハンヌの事が好きなの?」


脇で聞き耳を立てていたのか、ホワイトが鈴音に質問をした。


「なっ! あ、あたしのような庶民がそ、そ、そんな恐れ多いこと!」


顔を真っ赤にしながら鈴音が弁明するが嘘に嘘を重ねるように意味の無いことだった。


「ホワイト。それは聞いちゃいけないやつなんだよ」


「え? そうなの? 好きなら好きって言えばいいじゃない」


「まあ、天音も鈴音も姉妹揃って奥手だからさ」


鈴音がハンヌに恋心を抱いているのは明白だ。
しかし、ハンヌは王様で鈴音は従者。
身分の違いを気にするのも無理はない。
ハンヌの事だから想いを告げても、嫌な顔はされないと思うけど、鈴音は中々一歩踏み出せないんだと思う。


「よし! これで完成だ!」


ハンヌは出来上がった半紙を掲げ、こちらに見せてきた。
......読めん。
何やらこっちの言葉で書かれているらしい。
っうか、ずっと、疑問だったけどこいつらの言葉は理解出来るのに文字は理解出来ないってのはどうしてだ?


「シンシアって書いてあるわ」


俺が困っていると天音が教えてくれた。


「シンシア? 名前みてぇだな」


「みたいじゃなくて名前よ」


ほう。
あれほど、名前決めを静観していたくせにハンヌも実は参加したかったんだな。


「そして、これをこうして......」


ハンヌは身を屈め、綺麗な半紙を折りたたみ、何かを作ろうとしていた。


「あいつ、何やってんだ?」


「まあ、見ていれば分かるわ」


少しの間、待たされることが確定したので天音の豊満な胸元を無表情で見ていると鈴音に呆れたように見られたが俺は気にせずに天音の胸を見続けた。


「もう! 花島! 見るなら僕を見てよ!」


俺の視線が自身の胸ではなく、天音に向けられていた事に気付いたヴァ二アルが自身の胸を張り、見るように強調してきた。
確かに胸はヴァ二アルの方が大きく、みずみずしい。
だが、今は若い奴の胸よりも年齢を重ねた女性の色気のある胸元が見たかったので俺はヴァ二アルに対して「ああ、はいはい」と少し邪険な態度を取った。
それが癪に触ったのか、ヴァ二アルは自身の尻の間から生えている尻尾を器用に操り、俺の柔らかい太ももをバチンと叩き、痛がる俺を見ながら。


「花島がいけないんだからね!」


と腕を組みながら、ツンデレ少女のように言った。
怒った顔も可愛く、胸は女性陣の中で一番たわわに実っている。
しかし、こいつは元男だ。
一線は超えてはならない。
俺は再び自身の心を律した。


「出来た!」


丁寧に折られた半紙は上から見ると三角形となっており、ハンヌは持ち手の部分をつまんでいる。


「紙ヒコーキだ」


俺がポツリと呟くと、ハンヌは答え。


「紙ヒコーキ? これは伝説の龍をかたどっているんだ」


そうなの?
完全に紙ヒコーキにしか見えないけど。
まあ、飛行機という乗り物を見た事ないやつらに「それは紙ヒコーキです」と言っても堂々巡りを繰り返すだけだし、伝説の龍を受け入れよう。


「で、それをどうするの?」


シルフが尋ねるとハンヌはまた得意げに答え。


「これを遠くに飛ばすんだ。そして、最後まで飛んでいたものに書かれていた名前が赤ちゃんの名前になる」


「へえ。面白そうね」


最近、シルフはご機嫌だ。
普段なら人の提案に対して、必ずと言っていいほどに文句を添えてくるが最近はない。
セバスの死を乗り越えつつあるのか、それとも、別の何かがあるのか。
腕を組んで二人のやり取りを見ていると横にいたヴァ二アルから「不機嫌そうな顔しているよ」と言われた。


「不機嫌ではないさ」


「そう? シルフと話す兄さんに嫉妬しているのかと思った」


「嫉妬?」


「うん。花島、シルフの事好きだもんね」


「そう見える? まあ、嫌いではないが好きかと言われれば悩むな」


確かにシルフは可愛いし、スタイルも良い。
急に手を握られたり、顔を近付けて来られたりするとドキリとしてしまう。
だが、好きかと聞かれると返答に困ってしまう自分がいた。


「僕、負けないから」


真っ直ぐな瞳を向けてくるヴァ二アルの気持ちに答えてあげないのには申し訳なく思っている。
ヴァ二アルは元男で、背中から翅が生え、股と股の間に男のシンボルがぶら下がっているがそれを補う程に可愛らしい顔で女性的な身体をしている。
正直、元男という事を差し引いてもとても魅力的でアルコールが入っていたら勢いで抱けるレベル。
成行きではあるが、結婚もしたし、セックスをしても何ら問題ない。
だが、俺はこの世界の住人ではない。
いづれ、この世界を去る事になる。
中途半端な関係を持ち、ヴァ二アルの元から離れていくのはあまりにも不誠実である。


「はいはい」


俺はYESともNOとも言えない返答をし、会話を断った。


「じゃあ、みんなも思い思いの名前を半紙に書いてくれ!」


ハンヌの呼び声でメイドから紙とペンを手渡され、一斉に紙に名前を書いていった。

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