異世界に行ったら国が衰退していたので、不動産屋をしていた経歴を生かしてエルフの王女と国を立て直す。

とっぱな

第157話お母さん! ミーレとパス

「消える?」


シルヴィアの言っている事は分かる。
だが、その言葉を受け入れたくなくて聞き返してしまった。


「私はどうやら病気になってしまったの。お爺様から聞いたでしょ?」


シルヴィアが病気と指しているのは恐らく、ハンヌを指している。
クックはハンヌを病気或いは様々な人の精神が集まった精神思念体だと言った。
ミーレ、レミー、セバス、そして、ゴーレム幼女を変えた存在。
三人はハンヌによって自我が失われ、ゴーレム幼女はまるで獣のように破壊を繰り返している。
だが、シルヴィアは?
目の前の褐色の子はひょうひょうとしており、今までの感染者とは様相が明らかに異なっている。。


「どうやら、この子達は何百年______数千年もの間止まり木を探して時空を彷徨っていたみたい。そして、この世界、この時代でレインや私に出会った。みんなの声が聞こえるの『一緒になろう』って」


シルヴィアは胸に埋め込められたマンティコアの瞳に手を置く。
精神思念体であるハンヌは実体がない。
魂だけの存在が肉体を得たいと思うのは何となくだが分かる。
だが、何故、ゴーレム幼女やシルヴィアなんだ?


「マンティコアの瞳か......」


クックはマンティコアの瞳を使ってゴーレム幼女を蘇らせた。
つまり、クックが作った魔具は死者を蘇らせるもの。
魂だけの存在であるハンヌは蘇る事を願い、ゴーレム幼女に行き着いた。
しかし、この理論は完全ではない。
ゴーレム幼女に感染する理由は分かったのだが、なぜ、このタイミングで感染したのだ?
ゴーレム幼女にマンティコアの瞳が埋め込まれて500年は経過している。
他の時代でゴーレム幼女を見付けても良かったはず......。
少ない脳みそで思考していると、シルヴィアが俺の額に指を立てた。


「300年前。レインは一人の冒険者によって救われた。空っぽだったレインに彼は心を与えてくれたの。今度は私達が彼等を救う番」


「シルヴィア......」


「花島には感謝しているわ。冒険者と別れてからレインは一人で寂しかったから」


シルヴィアはニコリとした。
それが彼女の決めた道なら何も言うことはない。
だが______。


「シルヴィア? その考えにゴーレム幼女は本当に納得しているのか?」


腕を掴み、シルヴィアを睨む。
シルヴィアは俺の問いに対し、平然とした様子で「ええ。もちろん」と答えた。



___「ヴァ二アル国 丘」___


◇ ◇ ◇
■ ■ ■


「おい! あれ! 何か来るぞ!」


丘の上に避難をしていた住人の一人が戦地の上空からやってくるパスを指差す。
近づくごとにパスの姿が見え、住民達は異形な姿のパスに怯えた。
翅を器用に動かし、パスは丘に降り立つ。


「ミーレ!!! どこにいるの!?」


ローブの合間から見える琥珀色の翅。
後ろから生える長い尻尾。
異形の姿に住民達は後退りする。


「そ、そいつが諸悪の根源だ! あいつが最悪の魔女だぞ!」


民衆の中から一人、大声を上げてパスを非難する者がいた。
パスは声がした方向を見て、声の主を特定。


「半袖丸... ...。君ってやつは... ...」


声を上げたのはハンヌ護衛団の中で唯一丘に残った半袖丸。
大汗を掻き、半狂乱した様子でパスを非難する声に同調する住民達もいた。
だが、多くの住民は賛同の声を上げなかった。


「どうした!? お前達! こいつは悪魔だ! 我らの国に災いを運んだ張本人なんだぞ!」


半袖丸は自身の声に丘に居る住民達の全員が同調すると思っていた。
しかし、彼らは互いに顔を見合わせ、困り顔を浮かべた。


「お前らどうして!?」


「ほ、本当に魔女は悪い生き物なのか?」


住人の一人が半袖丸が質問を投げかける。


「ああ! そうだ! あいつらは災いをもたらす! 現にみろ! あいつらの仲間のせいで国はめちゃくちゃ! これが災いでなければ何なんだ!」


「... ...しかし」


住民達は再び黙り込む。
確かに魔女であるゴーレム幼女によって国は壊滅状態。
大けがをして苦しんでいる仲間や家族もいる。
だが、魔女であるというだけでパスを非難することは憚られた。


「エルフのお姉ちゃんはパパやみんなを助けてくれたよ!」


民衆の中から少女の声が上がる。
半袖丸は少女の元まで詰め寄った。


「それがどうした! そもそも、あのエルフの王が来てからおかしくなったんだぞ!」


半袖丸は自分の腰の高さほどの身長の少女を見下げて威圧する。


「でも... ...。でも... ...」


少女は涙目で服の袖をギュッと掴む。


「その子の言う通りだ! 俺もあのエルフに助けられた! 彼女は魔法を使って必死に俺たちに治療を施し、仲間を救う為に戦地に戻った!」


一人が声を上げると虫の鳴く音のようにまた一つ、また一つと声が上がる。


「お、お前ら正気か!?」


住民達は懸命に治療をするシルフの姿を見ていた。
自国の住民でもない奴を助けた。
魔女という存在は破壊や災いをもたらすものとされ、現に半袖丸が言ったようにゴーレム幼女によって国は半壊してしまっている。
しかし、シルフのように魔法を使い、人を助ける事も出来る。
人間にも悪い奴もいれば、良い奴もいる。
魔女だってそれは同じ事なのではないか?
助けられた住民達にはそんな考えが芽生えつつあった。


「ふざけるな! 魔女は全て悪い奴なんだ! この世界に居てはいけない存在! 恨まなくてはいけないそんざ______いっ!?」


住民達の意見に反論していると、横から何者かに突き飛ばされたように半袖丸は宙に舞って森の中まで飛んで行った。


「う~るさいな~! 気持ちよく眠ってたのにさ!」


ミーレはぼさぼさになった赤毛をワシワシと掻き、眠気眼を擦りながらむくりと上体を起こす。


「あ! ミーレ!」


パスはミーレを発見し、駆け寄る。


「ん? 誰?」


ミーレは目を細めてパスを見やる。
どこかで見た顔なのだが、後ろの翅と見慣れない尻尾があるせいでどうやら人物を特定出来ていないようだった。


「お姉ちゃん! パス様だよ!」


少女もミーレに駆け寄り、目の前の人物が誰なのかを伝える。


「パス、パス、パス... ...。あ~! 花島のところの子! お、ほお~! 何か雰囲気変わったね~」


ミーレはやっと目の前の人物がパスである事を思い出したようで、容姿が変わったパスに感嘆の声を上げた。


「ミーレ。雑談したいところだけど時間がないんだ。その杖を僕に貸してくれないか?」


「ほえ? 杖? なんで?」


「レミーの杖が壊れちゃって... ...。それで、レミーがゴーレムちゃんを時空の外に飛ばすとか何とかで、でも、今、レミーはレミーじゃなくて」


「まぁまぁ、とりあえず、落ち着きなさい」


ミーレに促され、パスは深く深呼吸をした。


「レミーがこれを持ってくるように言ったんだね?」


ミーレはパスに質問し、パスは大きく頷く。


「あいつ~! 怪我人なのに殺す気か!」


ミーレが立ち上ろうとすると、パスは止めに入る。


「いいよ! 僕が持っていくから」


ミーレはゴーレム幼女との戦闘によって重症を負った。
普通の人間であれば即死レベルの怪我だ。
魔女であるミーレは一命を取り止めはしたが、立つのもやっとのこと。
パスがミーレにそのような言葉をかけるのは当然に見えた。
しかし、ミーレはパスの気遣いを退ける言葉を発する。


「君には無理だよ。新米魔女ちゃん」


「無理?」


「こいつはこう見えても伝説級の魔具。大昔に実在した八本首の龍の一部が使われているんだよ。ある程度、魔力を持つ者じゃないと触れただけで精神を乗っ取られちゃうよ」


「これが... ..。精神を乗っ取る?」


パスは改めて、便所の棒を見やる。
パスは元々サキュバスという種族であり、魔力吸引という能力も併せ持つ生物。
相手の魔力量などを測るのは得意中の得意であった。


「びっくりしないでね」


ミーレはそう言うと便所の棒に魔力を供給。
すると、便所の棒は龍の首のようなものに姿を変えた。


「これがさっきの棒... ...。ダメだ... ...。魔力を吸われそうになる」


岩礁のようにゴツゴツとした黒い皮膚、持ち手の部分には布が巻かれており、布にはびっしりと緑色の血のようなものが染み込んでいる。
オオカミのように尖った口には魔術式が書かれた鎖が巻かれ、眼には赤い文字でバツ印が書かれていた。
そして、驚く事に龍の首元は微かに動いており、首だけになったとしても生命活動を続けていたのだ。


「全く、レミーってやつは魔女扱いが雑過ぎるよ。可愛い妹が死んじゃったらどうすんのさ」


ミーレは文句を言いながらもむくりと立ち上がり、戦場まで歩き出した。
足取りは重く、完全復活とは言い難い。


「ミーレ! 肩貸すよ!」


「おー! かたじけないよ!」


「それとその棒元に戻らないかな?」


「あ、ごめんごめん! ほい!」


「______うわあ!」


「あっははは! 元気になっちゃった!」


「怖い! 怖い! 早く止めて!」


肩を組み、二人の魔女は丘を下る。

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