異世界に行ったら国が衰退していたので、不動産屋をしていた経歴を生かしてエルフの王女と国を立て直す。

とっぱな

第155話お母さん! 白銀と金色

______ヴァ二アル国______


■ ■ ■


ゴーレム幼女とレミーは攻防を続け、拮抗を続ける。
ゴーレム幼女が腕と足を交互に振り回し、レミーは魔法でそれを防御。
岩石の巨人は、レミーが上空に飛ばないように警戒していた。


『レミー。どうして転移魔法を使わないのー?』


レミーの心の中で、クスクスと笑いながら幼い子供の声が聞こえる。
それはまるで、いばらのように棘があり、優しく心臓を撫でられているようでレミーは額にべとっとした変な汗を掻いた。


『聞こえているんでしょー? 魔力が上がって、私を認識出来るようになったのよねー?』


心の声が気になったのか、レミーはゴーレム幼女と間合いを取り、応え。


「... ...ブラック」


『そうー。初めましてと言った方が良かったかしらー?』


「いや、いい。それよりも私の中から出て行ってくれないか?」


『私とあなたは一心同体よー。無理な事を言っているのはあなたも分かっているでしょう?』


「... ...」


ブラックの言葉があながち間違いではない事をレミーも認識していた。
心臓に纏わりつく鎖のように無理に解けば自身にも被害が及ぶ恐れもあり、レミーは口を噤む。


『流石! 私の分身ねー。聞きわけのよさは私譲りかしらー?』


「うるさい。黙れ」


『こわーい!』


心の中で嬉々とした声を上げるブラックにイライラしているのか、レミーは眉をしかめ、腕を組む。
傍から見ればレミーは独り言を戦闘中に言っている。
獣としての意識しかないゴーレム幼女はそんな魔女を警戒してか、間合いを一定に保っている。


「雑談をしに来たのか?」


嫌な客を追い出す店主のような口調でレミーはブラックに言う。


『いいえー。言ってるじゃない。転移魔法を使いなさいって』


先程は「転移魔法を使わないの?」と疑問形だったのに対し、今回はハッキリと命令口調のブラック。
物の言い方も高圧的で今にもレミーの身体を乗っ取り、詠唱を始める勢い。


「奴の中から花島の気配がするんだ」


『花島? あー。あの人間ねー』


拳と拳を交えた時、お互いの魔力が干渉したのか、レミーはゴーレム幼女の心の中______マンティコアの瞳内部に花島がいるんじゃないか?
と疑問を持つようになった。
丘の上に転移させた住民達の中に花島がいない事にも気付いており、ヴァ二アル国の中にも人の気配はない。
直感的ではあるが、ゴーレム幼女の心の中に花島が囚われている事をレミーは疑ってしまい、ゴーレム幼女を別の時空に飛ばす事に躊躇ためらいが生じた。


『あの怪物の中に人がいるっていうのー? 考え過ぎよー』


クスクスとレミーを小馬鹿にするようにブラックはせせら笑う。
レミーは、自分がどういう人間なのかよく知っている。
憶測や恐怖、疑問によって左右される事はない。
それが自分でいられるための一つの指標。
花島ではない人間であればレミーも躊躇する事もなく、転移魔法を早々に使っていただろう。
だが、レミーにはそれが出来なかった。


『良いこと教えてあげるわー。人間と魔女がつがいになる事はないのよー。助けたところで何もない』


「分かっているわ」


『そうね。あなたはよーく分かっているはず。300年前に十分に思い知った事でしょー?』


「その話をするのはやめて!」


思い出したくない過去を掘り返され、自分でも不思議なほどに大きな声を出してしまったのか、バツが悪そうな顔を見せるレミー。
ミーレやレミーの全てを知るブラックは感情を露わにする片割れを愛おしく感じ、少し意地悪をしたくなった。


『花島君どことなく似てるものねー。あのツリ目の男の子なんて言ったっけー? れい、れい......』


「やめなさい!!!」


『あー。思い出したわー。レイト。レイトって言ったわよねー?』


「やめて!!!」


銀色の髪を振り乱し、小さな耳に手を当て目を閉じるレミー。
ゴーレム幼女はその一瞬の隙を見逃さず、右足を蹴り、間合いを一気に詰める。


『ほらー。来たわよー』


「______!?」


レミーが気付いた瞬間、ゴーレム幼女は既に攻撃態勢を取り、間合いが詰まっていた。
詠唱を行なってからでは遅いと判断し、右手に持っていた便所の棒を簡易的な盾とし、一撃に耐える。


「イキャアアア!!!」


______バギィ!


ゴーレム幼女の手刀をモロに受け、便所の棒は宙を舞い、あろうことか、先端部分が瓦礫の山の向こうに飛んで行ってしまった。


「ちっ!」


飛んで行った先端部分を目で追い、一瞬だがゴーレム幼女からレミーは目を離す。
本能的に今が千載一遇のチャンスだと悟ったゴーレム幼女はレミーの視覚の外から足を回し、コメカミを捉え、脳を揺らす。


「______ッツ!」


視界がブレる。
二重三重にも重なる世界がレミーの思考を停止させた。


「イキャアアア!!!」


態勢が崩れた所に今度は左フック、右フックとお手玉のようにレミーの身体に連打を打つ。


左脇腹、スネ、顎、右脇腹、鼻、心臓... ...。


急所という急所を目にも留まらぬ速さで的確に殴打。
心臓を撃ち抜くと、再度、コメカミに回し蹴りを浴びせ、先程の一連の流れを繰り返す。


「レミー!!!」


空からレミーとゴーレム幼女の戦闘を見ていたヴァニアルは、レミーの危機を察知し、急降下。
しかし、岩石の巨人によって阻まれ、レミーを助けることが出来ず、自身の不甲斐なさに唇を強く噛んだ。


「やめて!!! レミーが死んじゃう!!!」


ぼろ雑巾のようになるレミーの姿を見て、ヴァニアルが叫ぶが暴走した魔女は止める事をしない。
むしろ、スピードを上げ、手数を増やしている。


ゴーレム幼女は焦っていた。
何度も何度も急所を突いているにも関わらず、手応えが無かったからだ。


レミーの意識はとっくに失われている。
本来であれば、心臓が鼓動を止めても良いはずなのだが、レミーの心臓は動いたまま。
しかも、何か恐ろしいものが這い出てくる。
そんな恐怖心が自我を失い、野生的な本能だけとなったゴーレム幼女を焦らせた。


「イキャアアア!!!」


心臓を打ち抜き、15回目の初手を打ち込もうとした時、レミーの左手がゴーレム幼女の右足を掴む。


「痛いじゃなーい。でも、お陰で外に出られたわー」


骨は砕け、吐血し、立っていられるのも不思議な状態にも関わらず、レミーは氷のように冷たい微笑を浮かべる。


右足を掴まれたゴーレム幼女の全身には悪寒が走り、体をくねらせて振り払おうと必死に抵抗。
ぴょんと垂直に飛び、残った左足をレミーの左頬に打ち込むとレミーはやっと掴んだ手を離した。


「ふうふう」


一定の距離を保ったゴーレム幼女は肩から息をしている。
無呼吸状態で連打を打ち込み、疲弊しているのだが、それ以上にただならぬ殺気に圧倒されたのだ。


「ちょっとー。久しぶりに会ったのにつれないわねー」


「イキャアア!!!」


「なにそれー。意味わからなーい」


レミーがピクリと動くとゴーレム幼女は大袈裟に距離を取った。
野性的勘が研ぎ澄まされた事により、”強者”というものを認識する事に長けたのだろう。
ゴーレム幼女には、レミーの背後に地獄の門にでも見えているのか、大量に汗を掻き、小刻みに手足を恐怖で震わす。


「お話が出来ないなら、拳で語ろうかー」


レミーは口元を緩ませ、ゴーレム幼女を見やる。
このままでは殺される______。
明確な死を悟ったゴーレム幼女が後退しようと右足を後ろに下げようとすると。


「______火焔烈風かえんれっぷう!」


と背後から波のような炎が浴びせられ、ゴーレム幼女は苦痛で顔を歪ませた。


「あらー。お仲間かしらー?」


瓦礫の上には八人の影。
太陽の光で目が眩んだゴーレム幼女は目を細めてその姿を見る。


「随分と派手にやってくれたわね。今度はこちらから行かせてもらうわ」


腕を組み、崖の上に立つエルフの王は金色の髪をなびかせながら獣となったゴーレム幼女を睨み付けた。

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