異世界に行ったら国が衰退していたので、不動産屋をしていた経歴を生かしてエルフの王女と国を立て直す。

とっぱな

第152話お母さん! 瞳の中へ

______マンティコアの瞳内部______


「だって、飽きちゃったんだもん~」


「それにしても、たたみ方雑過ぎだろ! 何やかんやって!」


「おっきぃ声出さないでよ!!!」


「... ...ゴメン」


何故か、幼女に平謝りする俺氏。


「許します!!!」


幼女は切り替えが早かった。
すぐに笑顔になり、赤い瞳を輝かせる。
茶褐色の健康的な肌、艶のある黒髪の幼い少女。
足がなく、幽霊のように宙を自由に飛び回っている。
異世界に来てから色んな人や人外に会って来たが今までにないタイプの外見。
そして、胸にはクック同様にマンティコアの瞳が埋め込まれている。


「なんか、楽しいね! ね! お兄ちゃんもそう思うよね!? ね!」


「いたたたた!!! 骨折れるって! シルヴィア! やめて!」


「あはは! お兄ちゃん面白い!」


__シルヴィア。


そう、彼女はクックの孫娘であり、ゴーレム幼女の一部的存在。
... ...らしい。


クックにマンティコアの瞳を見せられた際、俺の意識だけが瞳の中に吸い寄せられた。
ここに来る前、昔の映画のようにコマ送りされた映像が頭の中に飛び込んできた。
その中でゴーレム幼女は最悪の魔女と呼ばれ、クックと出会い、ミーレやレミーの本体であるブラックによって殺されていた。
俺は悪い夢を見ていたかのように大汗をかいて目覚め、ゴーレム幼女の深層のあるじであるシルヴィアに出会い、現在に至る。


「で、その後、ゴーレム幼女はどうしたのよ? 冒険者に発掘されたのが三百年前だろ? 三百年間何してたの?」


ゴーレム幼女が殺され、クックによって洞窟に封印されたのはフラッシュバックによって垣間見えた。
冒険者に助けられた後の話は目の前の島国の娘みたいなやつに聞かにゃ、分からん。


「それよりも、髪の毛を何処かに隠すから見つける遊びしようよー」


「遊び方独特過ぎるわ! 俺はそんなのやらんぞ!」


「えっ... ...」


この世の終焉を見てきたかのような表情を浮かべるシルヴィア。
長年、一人でこの真っ白い空間にいたので寂しかったのだろう。
ちょっと、大人気なかったかな?


「分かった。その遊びやるか」


シルヴィアは遊んでもらえると分かったや否や、にぱーっと歯を出し、無邪気に笑った。
あっ、この表情、ゴーレム幼女と何か似てるな。
確か、イタズラする時はこんな表情みせてた______。


「じゃあ、始めるよー」


______ぶちっ!


「いってえええ!!!」


シルヴィアは髪の毛を隠すと言っていたので俺はてっきり、シルヴィアの髪の毛を一本取り、それを隠すのだと勝手に想像していた。
しかし、目の前の幼子は庭に生えた雑草をむしり取るように俺の髪の毛を乱雑に抜いて行った。


「あ、何か飽きたからこの遊びやーめよ」


「... ...そう」


もう、何も言えなかった。
自分でも驚くほどに感情ない言葉を吐き、俺は足元に散らばった毛髪を黙々と拾った。



■ ■ ■



______ヴァ二アル国______


「______イキャアア!!!」


息を吹き返すように雄叫びを上げるゴーレム幼女。
目は赤黒く血走り、足や手は血が滲み、美しかった金色の髪には土と血が入り交じり、鬼のような禍々しい様相を呈している。


「jyii rosso!」


土煙に覆われた空から直径1mほどの氷塊がゴーレム幼女に向けて、無数に降り注ぐ。
野性的な勘で異変を察知したゴーレム幼女は四つん這いになり、跳ねるようにしてひらりひらりと氷塊を避ける。


「ruihrk!」


ゴーレム幼女が地に足を着く前を狙っていたかのように、落ちた氷塊は融解し、獣を捕える網のようにゴーレム幼女を飲み込み、空中を浮遊する。


「倒したの?」


琥珀色の透き通った翅を器用に上下左右に動かしながら、蜂鳥のような飛び方をするヴァ二アル・パスは同じく隣で浮遊するレミーに言葉を投げかける。


「いいえ。まだよ」


レミーは一つの塊となった水泡を辛辣な表情で見やる。


「イキャアア!!!」


浮かんでいた液体はゴーレム幼女の叫び声と共に弾けて飛んだ。
レミーとパスの身体や顔に泥交じりの水の粒がかかる。


「うわっ!」


「とんだ曲者ね。意識がないっていうのに水に包まれる直前に泥で自分を覆うなんてね。それに、詠唱も全くしないし」


レミーは腕を組み、深く溜息を吐いた。


「イキャアア!!!」


空中を浮かぶ事が出来ないゴーレム幼女は空を見上げ、レミーやパスに牙を向ける。
獣のように四つん這いで辺りをグルグルと回る姿は縄張り争いをしている獅子に見えなくもなく、悪魔のような風体にも関わらず、その姿には種の頂点に君臨するような威厳さえもあった。


レミーの真下でゴーレム幼女はピタリと止まる。


「パス。少し離れてなさい」


「えっ?」


次の瞬間、砂の大地が叫びを上げながら大きく裂け、大地の裂け目に岩石で出来た大きな腕が手に掛かる。


「なに、あれ... ...。城よりも大きい」


「... ...」


大地の裂け目から這い出て来たのは岩石で出来た巨人。
国の中央にあった城よりも大きく、立ち上がり、手を伸ばせば空に浮かぶレミーやヴァニアルに届きそうだった。


「イキャアアア!!!」


ゴーレム幼女の鳴き声が聞こえると、岩石の巨人は鞭を振るように勢い良く腕をレミーに向けて伸ばした。


          

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