異世界に行ったら国が衰退していたので、不動産屋をしていた経歴を生かしてエルフの王女と国を立て直す。

とっぱな

第109話お母さん! 王位継承戦! 意外な奴らも参加するようです!

【ヴァニアル国・コロッセオ控室】


東京ドームくらいの大きさでマリンスタジアムくらいの開放感のある闘技場で王位継承戦が行われ、ヴァニアル側出場者である俺たちは闘技場内にある控え室で待たされている。


「ヴァニアルちゃん、あ、君。大丈夫かなぁ?」


ホワイトはコロコロ変わるヴァニアルの性別に対応しきれていないようだ。


「どうだろ? 50/50だな」


審査員たちがどういうジャッジを下すのか俺たちは分からなかった。
一応、女であることを悟られないように胸にきつくさらしを巻いて対策はしたがボディーチェックをすればすぐにバレる。
身体は女でオッパイもあるけど、男のシンボルも所有している究極の生命体は果たして男と見られるか? 女と見られるか?
それは神のみぞ知る。


「おいー! 出場出来るよな!? な!?」


半ば諦め気味の俺たちはもう、王位継承なんてどうでも良くなっていたのだが、絶対に王になりたくないハンヌは必死。
っうか、何でお前が対戦相手の控え室に紛れ込んでいるのだ。


「うるさいみそ! ... ...本当にうるさいみそ!」


ゴーレム幼女からも二度言われる始末。


「ハンヌ様、泣かないで下さい」


天音の姉である鈴音は泣きベソを掻きながら弱音を吐いているダメ人間を甘やかす発言をしている。
天音はダメ男に騙される性格らしいが、どうやら、姉も一緒のようだ。


「む... ...。花島! 何か言いましたか!?」


「いや、別に。お前ら姉妹って似てるなって思って」


「何か悪意を感じますね... ...」


全く、勘のいい女は嫌いだわ。


「で、もし、王位継承戦に参加出来ないとしたら私たちはどうするの? 手ぶらで帰る訳にもいかないし、戦争?」


サラリと侵略を匂わす発言をするシルフさん。
あまりに突飛過ぎて、ハンヌ側は発言を真に受けていないのが幸いだった。


「折角、ここまで来たんだし、何か国に持ち帰ろう。野菜の種とかどうだ? 俺たちの国は作物が少ないと思うんだよな」


ホワイトシーフ王国は寒冷地で土壌も悪く、作物が育たない。
なので、住民のほとんどは森で取れた木の実を食べたり、狩をして何とか自給自足をしている。
今はそれで問題ないが、いずれは食糧不足が起こるに違いない。


「それだったら、”コロ芋”を持って行くと良い。荒れた地でも育つし、水もそんなにいらないからな」


ほー。ジャガイモみたいなもんかな?


______コンコン!


木製のドアが二度叩かれ、審査員っぽい人が参加可能か否かを伝えにきた。


「あ、オーケーです」


「え? 何が?」


「何ってヴァニアル・パス王子の王位継承戦参加ですよ」


「え? マジ?」


サラリと王位継承戦参加が認められたので俺は慌てた。
何故なら、戦いの準備などこれっぽっちもしてなかったからだ。


「何? 結局、参加出来るの? もう、王位継承戦なんて面倒な事しないでサッサと侵略しちゃいましょうよ」


こちらの王様は相当腕っぷしに自信があるようだ。


「そんなに焦らないで... ...。ここは穏便に... ...。な?」


なんか、初めて国王補佐っぽい仕事をした気がする。
本当、セバスの大変さが身に染みてわかった。


「やった!! 王様にならずに済むぞ!!」


ヴァニアルの参加を一番喜んだのは対戦相手であるハンヌ。
猫じゃらしに夢中になる猫のようにビョンビョンとその場で跳ねている。


「いえ。ハンヌ様。あなたには王になっていただかなくては困るで候」


んん?
何処からか聞き覚えのない男の声が部屋の中に響き、辺りを見渡すが姿は見えない。


「ここで候」


声の主はニュルリと俺の影から出現。
時代錯誤のチョンマゲを結い、紺色の着物を身に纏って腰には長物を差して、如何にも武士という風体だ。
瞳には眼帯をし、頬にはナイフで切られたような傷がある。
年齢にして40代くらいだろうか。
風貌といい、言動といい、どうやらこいつは厨二病の完成形態だ。


「貴様____!?」


慌てる才蔵。
天音や伊達やエイデンも臨戦態勢を取る。


「久しいな。才蔵」


半袖丸はんそでまる... ...」


名前ダサっ... ...。
真打登場っぽい出現の仕方だったのにダサい名前を聞いて、緊張してたのがバカバカしく思った。


「貴様! 確か獄中で3年? 5年? いや、12年くらい投獄されているはずじゃあ... ...」


うん。
名前といい、ライバルっぽい才蔵にウル覚え止まりだということだとこいつは強者じゃないな。
と俺は結論付けた。


「そうだ候。確か刑期は7年? いや、10年くらい残っていたで候」


いや、お前もウル覚えなのかよ。


「投獄中は本当に辛かった... ...。無実の罪で投獄され、自慰行為をするのも周りに気を遣いながらしたで候。苦しく、屈辱的な時間の殆どを自慰行為とお前への恨みの時間に使ったで候」


惜しげも無く恥ずかしい事を平然と語る半袖丸。
天音やシルフは頬を赤らめ、目を背けた。
ってか、俺の影に入り込んで会話続けるの止めてください。


「そんな中、ハンヌ様が俺を救ってくれたで候。俺はハンヌ様を王にするのが恩返しだと思っているで候」


本人は王様になりたくないんだけどね。
有難迷惑ってこの事かな?
ハンヌは「だからなりたくないんだって!!!」と叫んでいるが半袖丸は聞いていない。


「ふん。残念だがハンヌは王にはなれん。王になるのはパス様だ」


「ククク。粋がるなで候。お前に俺を倒す事が出来るかで候」


「俺がやるのではない。この子がやってくれる」


「この子?」


才蔵が指差した先にはゴーレム幼女。
一斉に向けられた視線にゴーレム幼女は恥ずかしくて目を背けた。


「ククク。子供ではないかで候。血迷ったか」


「血迷ってはない。この方は何を隠そう、魔女である」


「... ...魔女」


半袖丸の表情が一気に険しいものとなり、鈴音もチラリとこちらを見やる。


「... ...では、実力は五分五分か? いや、それでもこちらに分がある」


魔女という存在をハッタリだと思っているのか想像したよりも驚かない敵陣営。
彼らの自信は何処から来るのか?
この世界では絶対的存在である魔女に対抗出来る存在... ...。


____まさか!?


「ねー! 試合まだー!?」
「ミーレ... ...。大きな声出すんじゃないよ」


廊下の奥から聞きなれた甲高い声と名前。
その声はだんだんとこちらに近付いてくる。


「お腹減ったよー! ん!? あれ?」
「おや? 花島。それにシルフ様やゴーレムさんまでどうしたのかえ?」


赤色と銀色の髪を生やしている双子の魔女は扉の付近で立ち止まり、俺たちがこの場にいるのを不思議がっている。
それはこちらも同じで二人の登場に驚きの声を上げた。


「お前ら家に引きこもってたんじゃないの!?」


魔法少女達は前の戦いでハンヌに操られ、俺たちに多大なる迷惑をかけた。
それを重く感じた二人は自宅に篭ってしまったのだが... ...。


「うん! 引きこもってたよ!」
「ええ。だけど、これじゃ、ダメだと思って傷心旅行に出て、この地に着きました。それで、こちらの王子にお世話になって... ...」


「... ...」


呆れて開いた口が塞がらなかった。
ハンヌという名前のやつに操られたにも関わらず、再び、ハンヌと同じ名前の奴の世話になるなんて... ...。


「知り合いで候?」


半袖丸は恐縮気味に二人に話しかける。


「うん! 知り合い!」
「ええ。ここに来る前にちょっと... ...」


「へー。これはこれで面白くなってきたわね」


シルフは不敵に笑う。
恐らく、この状況を楽しんでいるのは彼女だけだ。


「花島... ...。彼女たちはもしかして... ...」


ヴァ二アルはサキュバスだ。
本能的に目の前の赤髪と銀髪の双子の魔力が相当高いものだと感じ取っているのだろう。


「ああ。あいつらも魔女だ」


「____!?」


俺の発言で魔法少女達を知らない連中は驚く。
ただでさえ希少な存在でかつ、この世界の勢力図でピラミッドの頂点に立つような存在がこの狭い空間に三人もいるのだから無理もない。


「お前ら、一応、確認しておくが今回も敵でいいんだな?」


俺のくだらない質問に二人は笑い。


「そういう事になっちゃったね!」
「今回は正式に戦う事になりそうだわね」


楽に勝てるかと思われていた王位継承戦だったが思わぬ伏兵の登場によって戦力図が大きく変わってしまった。
俺達の勝てる確率は80%? 50%?
もしかしたら、50%を切ってしまうかもしれない。


「もういいですか? それじゃあ、一回戦を始めるので参加者の皆さんは闘技場に来てくださーい」


「あ、はい」


審判っぽい奴は気の抜けた声で開戦の火蓋を切った。
後から聞いた話だとこの審判っぽい人、バイトだって。


          

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