異世界に行ったら国が衰退していたので、不動産屋をしていた経歴を生かしてエルフの王女と国を立て直す。

とっぱな

第97話お母さん! ヴァ二アルが忍者に捕まりました!

微弱な魔力を搾取した住民達は超人的な力を発揮し、4トン車並みの活躍。


そして、元々、ダンプカー並みの働きをしていたホワイトは魔力を搾取したことによって力とスピードがパワーアップしているのは勿論、何故か一回りほど身体が大きくなっていた。


「花島! 凄い力がみなぎってくるよ!」


「お... ...。おう」


いつもは少しだけ見上げれば会話が出来ていたのに、今は背中を反らさないと会話が出来ない事に窮屈さを感じながら、心なしか声も野太く聞こえるホワイトが化物にしか見えなかった。


「それにしても、魔力ってやつはスゲェな! 界王拳みてぇ!」


「界王拳? 僕の体液を与えるってのは抵抗あるんだけどね。まぁ、みんなの力に少しでもなるなら... ...」


「これなら一年も経たないで復興出来そうだ! ありがとうヴァニアル!」


真正面からお礼を言われた経験があまりないのか、ヴァニアルは顔を真っ赤にし、ふてくされた猫のようにプィッと横を向いてしまう。


「あ、あぁあのおお... ...」


「え? 何どうした!?」


ヴァニアルは壊れた目覚まし時計のような声を出して小刻みに震えている。
こいつ、恥ずかしがり方独特... ...。


「と、トイレ行って来るぅ!」


「え? あ、はいはい。王宮の中に______!?」


ヴァニアルはダバーっと慌てた様子で王宮とは反対方向に走っていく。
そっちの方向にはゴーレムの森があり、森には危険な生物がウヨウヨしている。


軟弱なヴァニアルでは捕食される恐れもある。
俺はヴァニアルの後を追う事にした。


◇ ◇ ◇


______ゴーレムの森_______


「おい! ヴァニアル! そっちは危険だ早く戻れ!」


何だかんだでゴーレムの森まで来てしまった。
それにしてもあいつ体力あるな。
もう、俺は限界だぞ。
ともうすぐアラサーを迎える成人男性の身体と膝は悲鳴を上げているっていうのにさ。


「うわあ!」


目の前を走っていたヴァ二アルが茂みの中に入ったかと思うと、声と共に姿が見えなくなった。
まさか、本当に獣に襲われたんじゃ... ...。

予想が現実のものになっていたら茂みの向こう側では悲惨な光景が広がっているはず。
そう思うと足がすくみ、前に進めなくなった。


「た・助けて!!!」


「ヴァ二アル!?」


どうやら、ヴァ二アルは生きている。
俺はハンヌとの闘いに勝利したじゃないか!
やれる!
俺はやれる!
と自身の頬を数回平手打ちをし、凍り付いた足に心血を注いだ。


「ヴァ二アル!!! って、お前ら誰!?」


茂みを超えると緑色の服で全身をコーディネートした三人の人間にヴァ二アルは捕らえられていた。
俺が声をかけているにも関わらず、彼等から応答がない。


「お前らヴァ二アルに一体なにをした!?」


「... ...」
「... ...」
「... ...」


忍者のような格好をした三人衆は俺の言葉を聞くと三人でアイコンタクトを取り始め、代表で一人だけがボソボソと低い声でこちらに話しかけてきた。


「気絶しているだけだ。それより、お主、この女を”ヴァ二アル”と呼ばなかったか?」


俺が動揺しているにもかかわらず、忍者は落ち着いたトーンで話してくる。
数で勝っている事に数的優位性を感じていたのか、それとも、こういったシーンに慣れているかのどちらかだろう。
何にしてもピンチなのは変わりない。


「ああ。そうだ。俺たちの仲間だ」


「俺たち? ほう。仲間がいるのか」


______しまった。
迂闊に口を滑らせてしまった。
目の前には三人の忍者しかいないが、他にも仲間がいる恐れもある。
これは、ゴーレム幼女に知らせた方が良さそうだ。


「実は私達は人を探している。そして、偶然にもこの女と同じ名前なのだ。何か心当たりはあるか?」


忍者の言葉には無駄がない。
一度、一度のやり取りで情報を引き抜こうとしてくる。
これは不味い... ...。
恐らく、こいつらが探している人というのはヴァ二アルで間違いない。
しかし、性別が変わった事で混乱していると見受けられる。
ヴァ二アルが目を覚ませば性別が変わったという事がバレるかもしれん。


『おい! ゴーレム幼女! たいへ______』


ゴーレム幼女にテレパシーを送ろうとした瞬間、忍者の1人がこちら側に一気に間合いを詰め、脇に差した小刀を振りかざし、俺の目の前でそれは空を切った。
あまりの速さ故に動作よりも音が微かに遅れて耳に届く。


「な・なにを!?」


「才蔵。こやつ、何か良からぬ事をしようとしました」


女の声?
まさか、こいつもテレパシーを使える能力者!?

「うむ。恐らく、こちらを倒すための術式か何かだろう。こやつ、あまり見ない風体をしておる。もしや、魔女かもしれん」


「魔女!?」


いや、驚かして申し訳ないんだけど、魔女ではなく、普通の人間なのよね。
周りには魔女は沢山いるんだけどさ。
まあ、なんにせよ。
テレパシーを使える訳ではないようだ。
能力探知のような力?
こちらを切りつけてくるという事は彼らもやる時はやる連中なのだろう。
1対3では分が悪いし、長期戦には持ち込めまい。


「はん。どうやら、お前ら魔術師に相当ビビッてるじゃないか。何だ? 小学生の時にイジメられたのか?」


「この世界に住むものであれば魔術師や魔女を恐れない者はいまい。あの戦火を知っている世代であれば尚更よ」


「戦火? 何か大きな争いでもあったのか?」


俺がそう単純な疑問を投げかけると食い気味に三人の中の一人が割って入る。


「争い!? あれが争いだと言うのか!? 争いというにはあまりにも惨く、そして、一方的だ!」


感情的になげだされた言葉に俺は威圧され、無意識に半歩後ろに下がってしまった。
他の忍者も予期せぬ事だったのか、大声を上げた一人の男の肩に手を当てなだめている。


「スマンな。この国は長いこと外界と接触を拒んで来て、周辺諸国の事は何も分からないんだ」


俺がそう言うと忍者は納得したのかどうか定かではないが「そうか」と一言。
そして、逸れた話を元に戻し。


「お前は私達が知りたいことをどうやら、知っているようだな。全てを話すならこの女の命は保証してやる」


再び、高圧的姿勢。
ヴァ二アルの命は助かっても、目的対象だと知ったらどうなるかは定かではない。
それに、俺の命の保証はサラリとスルーされたし... ...。


「な・なんだ!?」

初めて地震を体感した外国人のように揺れる大地に慄く忍者たち。
俺は足元から脳天にズシリと響くような地鳴りを感じて心の中で「ははは。勝ったな」と勝利を確信した。


「才蔵!!! ば・バケモノ______ぐへっ!」


「誰がバケモノだって!?」


見上げるほどに大きくなったホワイトは茂みの奥に隠れていたもう一人の忍者を踏み付け、木々の合間からひょっこりと顔を覗かせる。
いや、冷静にこんなデカイ人が走ってきたらバケモノだと思うわ。


「な・なんだこのデカイ人間は!?」


先程の出来る男風とは打って変わって、ホワイトに恐怖する忍者たち。
どうやら、見るからに形勢逆転のようだ。


「おーい。花島! 助けに来てやったみそー」


ホワイトの肩を見るとそこにチョコンとゴーレム幼女が座っている。
どうやら、先程、途中で途切れたテレパシーを不自然だと捉え、こちらに向かってくれたようだ。
それにしても、どうやってこの場所を突き止めたのだ??


「天音! こいつを倒せるか!?」


「くっ! 分かりません! あやつが幻想であれば切れるとは思いますが... ...」


「と・とりあえず切ってみて!」


「とりあえず!? 切れなかったらどうするのですか!?」


「そうだけど! でも、切っても切れなくてもマズイ状況は変わらないから!」


「え... ...。あ、まあ... ...。マジか... ...。切れそうにないんだけどなぁ... ...」


「いいから! いいから!」


どうやらこいつら本格的に慌て出したぞ。
見ているこっちが何かいたたまれない気持ちになってくる。


「才蔵も天音も見損なった! それでも武士か!?」


「忍者じゃないの!?」


三人衆の一人に俺はナチュラルにツッコミを入れてしまった。
いや、まあ、勝手に忍者だと思っていた俺がいけないんだけどね... ...。


「うおおおおおおお!!!!」


「あ! ちょっ! トム!」
「トミー!」


二人の制止を振り切り、トムはホワイトに立ち向かうが______。


「じゃま」


「ぐっはっ!」


と片手で弾かれ、リアルに50mくらい吹き飛んでしまった。

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