異世界に行ったら国が衰退していたので、不動産屋をしていた経歴を生かしてエルフの王女と国を立て直す。

とっぱな

第89話お母さん! 王様と異国の国の者

____「シルフの部屋」____


シルフの部屋に連れてこられた俺は何も言われなくても自然と床で正座しており、尻尾を握られたヴァ二アルは泣きべそを掻きながらシルフの胸で泣いていた。


シルフは生ゴミを見るかのような冷たい目線を何故か俺に向けている。
もしかして、シルフは俺がエッチな事をしていたと勘違いしているのではないか?


そうだとしたらそれは間違っている。
俺は単純に生命体として尻尾という異物に興味があっただけだ。
断じて下心などという感情は微塵も持ち合わせていない。


やれやれ。
俺という人間と半年くらい一緒にいるのにそんなことも分からないのか。
と世間知らずのお姫様に憂いた目線を送った。


「シルフさん。もしかして、勘違いってやつをしているんじゃないですか?」


「... ...」


「ほら、シルフさんも幼少の頃は目の前で動くものを衝動的に掴んだりしてしまっ_____!?」


_____パチン!


何故か右頬をシルフに叩かれた。
話の途中だというのに。


「目の前でゴキブリよりも下等な存在が饒舌に舌を回していたから叩いてしまったわ」


「... ...すいま」


______パチン!


次は左頬。
痛みは人を成長させるというから余計な御託を並べるのはやめて素直に謝ろうとしたにも関わらず、またしても叩かれた。
ここまで来るとシルフが人を殴る事に快感を覚えた快楽主義者かと思えて来る。


「お姉さん! もう、いいですから!」


二発目を受けた直後にヴァニアルから止めが入った。
止めてくれたのには感謝するが、性根が腐っている俺からしてみれば「もっと早く言えよ!」と初動の遅さに苛立ちを覚える。


「そう。あなたが言うならやめましょう。それよりも大丈夫? 魔族の尻尾を触るなんて最低最悪よね」


「だ・大丈夫ですけど... ...」


けど?
なんだ?
文句があるなら言えよ!
このショタ野郎が!
と言いたいがそれはグッと抑えて冷静に質問。


「不用意に尻尾に触れたのは謝るが、どうして尻尾に触れちゃいけないんだ? 触ったところ敏感な部位であるという事は分かったが」


俺の質問がいけなかったのかヴァ二アルは問いに対し、不可思議なものを見るかのようにして目線を送り、逆に疑問を投げかける。


「尻尾は悪魔の象徴ですから... ...。そんな事、常識ですよね? ここが辺境の地だとしてもそれくらい知っているはずじゃあ... ...」


なるほど。
猫の尻尾に触れたら引っかかれるくらいに人間なら誰でも知っている行為だったのか。
だが、俺はあいにくこの世界で生まれ育ったわけではない。
半年間滞在しているとしても知らない事の方が圧倒的に多いのだ。


「ああ。悪いな。実は俺は元々、この世界の住人じゃあ____」


嘘だと言われるかもしれないが正直に事情を説明しよう。
そう思って、事の成り行きを話そうとするとシルフが目で俺を威圧してきて出掛かった言葉を飲み込んだ。


「ヴァ二アル君? この汚い生物は一見、人間に見えるけど鼻の魔物なのよ。私達の村よりずっと辺境の地で生活していたから俗世には疎くてね。まともな言葉を話すようになったのもつい最近なのよ」


適当な言い訳を並べるのはいいが、もっと人権を配慮したものが良かった。
まさか、第一声から人間だという事実を否定されるとは思わなかった。
ただ、話があまりにも突飛過ぎて信じて貰えないのは当然の帰結である。


「あ・ああ~! なるほど! そういえば、辺境の地にはこんな魔物がいるって聞きました! 確かに先生が言っていた特徴を網羅してますね!」


網羅しているのか... ...。
それだったら、なんかもう諦めつくわ。
っていうか、俺に似た魔物の話がちょくちょく出てくるけどどれだけ似ているのか興味あるから会いたいわ。


ウソのような話を子供のように信じた自称、大人のヴァ二アルは「なるほど」と思わず、ポンと手を打った。


「そうなのよ。だから、あまり責めないであげてね」


「はい! お姉さん!」


こいつ... ...。
シルフの膝の上に乗って「お姉さん。お姉さん」って... ...。
さっきまで「大人。大人」言っていたプライドはどこに行きやがった。


俺が羨ましさと苛立ちを含んだ表情を浮かべているとヴァ二アルは「怖い! この魔物、僕を睨んでくる!」と言いながらシルフの胸に顔を埋め出した。


「おい! お前、いい加減にしろ! シルフはドSで乱暴だけど一応、この国の王様なんだぞ!」


俺が立ち上がると同時にシルフの睨みが炸裂し、俺は文字通り、蛇に睨まれた蛙のように固まる。


「ドS? 乱暴?」


「... ...いや、それは言葉のあやと言うか... ...。ハハハ」


乾いた笑い声の直後に乾いた破裂音が王宮内に響いたのは言うまでもない。


          

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