異世界に行ったら国が衰退していたので、不動産屋をしていた経歴を生かしてエルフの王女と国を立て直す。

とっぱな

第61話お母さん! 魔法少女達の過去②

◆ ◆ ◆



目を開けると目の前にあるのは小さな家。
先程は家の中だったが、今回は昼だというのに薄暗い森の中に来てしまった。
それにしても、この古ぼけた今にも崩れそうな家... ...。
どこかで見た気が... ...。


その家を見ながら、色々と考えていると背後の林から二人の少女の笑い声と駆けてくる音がし、二人は当然のように俺の中を通り抜けていく。
一度目、二度目は通り抜けられる事に違和感と不快感があったが、今はもう、さほど気にならない。
慣れって感覚は良いって時もあるが、悪い時もある。
まあ、この慣れは前者で良いだろう。


お転婆の双子少女は自分たちの身の丈よりも大きな古びた扉の前で仲良く横一列になって止まり、声を合わせようとした訳ではないが「リズ!!! こんにちは!!! そして、さようなら!」
と自然にハモル。

さようなら?
まあ、所詮、お子ちゃまの戯言。
あんまり、気にしないでおこう。


しばらくしてゆっくりと扉が空き、中から黒いマントを羽織った老婆が中から出てきて。


「おいおい。あんたら、帰るんかえ? 随分と気が早いもんだよ。帰る前にお茶でも飲んでけ」


「うん! そうする!」
「そうさせてやろう!」


二人と老婆は親密な関係性のようだ。
仲の良さそうなやり取りをしてから、三人とも室内に入って行く。

こんな所に居てもしょうがない。
俺も室内に入ろうとしようとした所、急に老婆に扉を閉められてしまい、扉にぶつかりそうになった。


「___うおっ!!! あぶっね!」


気の抜けた声を出すが、扉はぶつかる事なく通り抜けた。
うん。この場合、扉が俺を通り抜けたというよりも俺が扉を通り抜けたと表現した方が適切かもしれない。


部屋の中は窓が少なく、外よりも薄暗い。
蝋燭の火のおかげでやっと周囲の状況を確認する事が出来ている。
テーブルの上には瓶に入った紫色の怪しい液体が置いてあり、部屋の隅にはコウモリや蛇が皮を剥がされた状態で吊るされていて、何とも不気味な空間。

俺が物怖じしているにも関わらず、ミーレは豚の皮を剥いでマスクのようになっているものを被り。


「レミー! 見て! これが、本当の豚面だ!」


「あっははは! 被る前とあんまり変わってないよ!」


「何!? じゃあ、レミーも同じ顔なんだから豚面って事じゃない!」


「あっははは! そうだった! 悪口になってなかった!」


二人は笑いながら、豚のマスクをおもちゃのように扱っている。
二人の強心臓にはつくづく驚かされる。
それは、今も昔も... ...。
先程の空間では半信半疑であったが、改めて、俺は確信した。


どうやら、ここはミーレとレミーの記憶の中。
何かのキッカケで二人の記憶が流れ込んで来たのか??
そもそも、流れ込むって何だ?


もしかしたら、無意識のうちに俺が二人の記憶を勝手に想像して脳内で作り上げてしまっているのかも... ...。
27年連れ添った己の脳に疑心暗鬼にすらなる。


確か俺はミーレとレミーに殺されるところだった。


そこからの記憶がない。
記憶がないというか、火の玉が目の前に現れて恐怖で目を閉じ、開いた時にはもうこの状況。


ミーレとレミーの幼かった頃の姿が断片的な映像として飛び込んでくる。
これを見続けてどうしろと?
どうせ、俺は殺されるんだぞ?
もう、出来る事はなにもないんだぞ。


無邪気に笑う二人の姿を見ながら、自分の無力さに唇を噛みしめた時___。


『まあ、そう自分を責めるな青年。あんたに出来る事はあるさ』


胸の奥で女の子の声がする。
年齢は分からないが老人独特な声色ではない。
急に声がしたにも関わらず、不思議と驚く事もなく、不快でもない。
俺は自然とその声に対して返答した。


「俺に出来る事?」


『ああ。そうさ。どうか、あの二人を元の優しい二人に戻してやってくれ』


「戻してやりたいのは山々だけど、どうしろと... ...」


『うーん。分からん』


「分からんって... ...。そもそも、あんたは誰なんだよ」


『目の前におるだろうが』


「ん? 目の前?」


俺の目の前には豚の面で遊んでいるミーレとレミー、何やら家の奥に行ってしまったリズと言われる婆さん。
この女の子の声に該当するような人物は見当たらない。


「二人の幼女と婆さんしかいないぞ」


『誰が婆さんだい!』


そう言うと、目の前に突如、金髪で肌の白い美しい大人な女性が黒いマントを羽織り現れた。
反射的に防御姿勢を取り、顔を守るように両手を前に突きだすと両手に何やら柔らかな感触。
この夢の世界に来てから初めて物に触れた気がする。


「あれ? 何だこれ? やわらけえ... ...」


柔らかな物体に視線を向けると、黒いマントを羽織った女性の大きな胸があり、俺はその胸を鷲掴みしていた。
胸ばかりに意識が行っていたのだが、視線を更に上に向けるとそこには先程の端正な顔付はどこに行ったのやら般若のような恐ろしい表情をした女性。


胸を揉める=触る事が出来る=殴られる


という考えが俺の脳に早々に浮かぶがどうせ死ぬ事は確定した事だから死ぬ前に胸を沢山揉んでやるか。


「おい。お前、いつまで人の胸を揉むつもりだ」


「... ...新たなる次元の扉が見えるまで」


胸を揉む事によって修行中の僧侶のような穏やかな気持ちになった俺は覚悟を決めていた。
死ぬ時は大きな胸の中で... ...。
次の瞬間、黒いマントを羽織った女性の左フックが俺のコメカミを砕く音が脳内に響き渡った。

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