異世界に行ったら国が衰退していたので、不動産屋をしていた経歴を生かしてエルフの王女と国を立て直す。

とっぱな

第39話お母さん! 先ずは瓦礫を撤去です!

___ホワイトシーフ王国 城下町___


瓦礫越しに山から昇る朝日が見え、改めて町の惨状を目の当たりにした住人達は自分たちが置かれた状況を再び実感した様子で「俺達、そういえば、家も町も無くしたんだよな... ...」「パンとシチュー貰っただけじゃ割に合わないよ... ...」とポツポツと不満の声が雨粒のようにこぼれた。


シルフは再び、幼女の姿になり、ひらひらのピンクのドレスをなびかせ、広場の噴水の腰掛け場の上に立っている。
俺は「また、幼女に変身するの? もう、姿ばれてんじゃん... ...。完全に趣味だよね... ...」と、冷ややかな目線で見ていた事はコスプレ王女には内緒だ。


昨日ぶたれた右頬が赤みを帯びてヒリヒリする。
あの後、俺は部屋を追い出されて廊下で一夜を過ごした。
部屋に残ったゴーレム幼女とシルフは何を話したのか分からないがスッカリ意気投合したよう様子。
二人は今も噴水の周りでじゃれ合っている。


「前は『あなたなんか知らない』とか言って本当ごめんね! 思い出せなかったの!」


「もう~。シルフ様、気にしないでみそ! それよりもその服可愛いみそ!」


「本当!? 嬉しいありがとう! 昔からお気に入りなのよね! そこの童貞ゴリラは全然、褒めてくれないけど!」


シルフは腰に両手を当てて噴水の腰掛け場の上から俺を嫌味な顔で見下ろす。


「おいおい! だから、童貞じゃねえって! 男には風俗ってもんがあってだな______」


シルフは俺の発言を途中で遮るような意地悪なタイミングで、住人達に檄を飛ばす。


「さあ! あなた達! そんな辛気臭い顔はもう止めなさい! これから、あなた達が主導で町を作っていく記念すべき日なのだから!」


そんな聞いてもいない事を堂々と言われた住人達は明らかに動揺し、中には心臓発作で倒れる爺さんの姿もあった。


「あの... ...。記念すべき日なんですか?」


「そうよ! 今日がこの国の建国記念日になるわ!」


王女は重要な祝日をサラッと決めてしまった。
未だネズミの姿にされているセバスも、シルフの服の間からひょっこり顔を出し「え? そうなん?」という表情と首を横に傾げる可愛い仕草をする。


「で、結局、俺達は何をすればいいんだ? 王女様」


なんか初めて出てきた白いタンクトップを着た全身が黒いマッチョなタフガイが、場を仕切ろうとウズウズしていた。


「そうね。とりあえず、この瓦礫の山じゃどうしようもないから撤去することから始めましょうか」


「えー!!!」
「そんなの無理!!!」


住人達から不満の声がすかさず漏れた。
無理もない。
重機も何もない世界でこの瓦礫の山を残された100人足らずの住人達で一体どうしろというんだ。
住人達の中には老人や子供もいる。
どうにかしろと言われても軽く数年はかかる量だぞ... ...。


「おいおい! 王女様! この量をこの人数でやれってのか!? 100人全員が俺みたいなタフガイだったら数日で終わるかもしれないが、女・子供もいるようじゃ無理だぜ!?」


タフガイがやはり、自分の事をタフガイと思っていた事はどうでも良いが、確かにこの人数ではきつ過ぎる。


「あっそう。あなたみたいな人がいれば数日で終わるのね?」


シルフはあっけらかんと答え。


「えっ? あ・そうだけど... ...」


シルフの発言を聞き、呆然とした表情のタフガイを横目に、シルフは天高く右手を掲げ指ぱっちんをすると、住人達が光に包まれ、白いタンクトップを着たタフガイに変身した。
元のタフガイは何故か白いタンクトップがピンク色に変わっている。


「それなら、数日で終わるんでしょ?」


「え? え? うわ! ピンク!」


「終わらせなさい」


「... ...はい」


ピンク色のタンクトップを着たタフガイはしぶしぶ了承。
そして、白いタンクトップを着たタフガイを全員連れて瓦礫の撤去をし始めた。

タフガイ達が去った場所にポツンと巨人族のホワイトが取り残されていた。
ホワイトはタフガイに変身はされていなかったので、俺はホワイトに近づき話しかけた。


「ホワイトはタフガイに変身しないのか?」


「そ・それが、わ・私の能力なんだ」


「タフガイに変身しないって能力?」


「魔法を弾く能力だ!」


「なんだそれ!? 最強じゃないか! ポテンシャル高いな!」


「し・しかし、魔力が低い低級な魔法しか弾くことしか出来ないし、上級の魔法使いが出す魔法は普通にダメージを受けてしまう。シルフ様の変身魔法は弾く事が出来ただけだ」


なるほど、この世界の能力にも色々制限があるのだな。
俺が今まで触れた魔法の中で一番上級な魔法は魔法少女と婆が使ったワープ系の魔法かな?
弾く魔法があるという事は、やはり、それを打ち破る攻撃系の魔法も存在するのかな?
と考え、改めて『異世界に来たんだ... ...』と実感。


「お・お前、花島ってのはお前の名前か? それともその巨大な鼻の名前か?」


いきなり、失礼なことを言ってくるホワイト。


「おい! 俺の鼻がいくら巨大だからってこいつに名前が付いてる訳ないだろ!?」


「い・いや、モンスターで人の姿をしているが実は人間の体は擬態で本体は腰に差している剣ってやつもいるからつい... ...」


お前はつい人に牙を向けるのか!


「だからって俺の鼻をアイテムみたいな扱いするの止めてくれる!? 純正の鼻だからね!」


「そ・そうなのか... ...。ご・ごめん!」


ホワイトは終始おどおどした様子で会話し、頭を下げた。
下げた時にふわっと髪が揺れて良い香りがした。


「いや、まあ、俺も紛らわしい鼻してて悪かったよ」


紛らわしい鼻って何だ。
多分、人生の内でもう二度と使わない言葉である。


「そ・そうだな... ...」


何だこいつ。
冗談で言ったつもりなのに少しカチンときたぞ。


「というか、なんで今日はそんなによそよそしいんだ? なんか、女みたいで気持ち悪い」


「わ・私は女だ!!!」


ホワイトは俺を見ると右手を振り上げ、横の地面に叩きつけた。
レンガ敷きだった道が割れ、瓦礫の一部が俺の鼻に当たり、鼻血が出た。


「ご・ごめん! つい、カッとなって!」


「お前わざと鼻狙っただろ?」と言おうとしたが、ホワイトの表情を見て言うのを止めた。


「ぬ。まあ、いいよ」


「私ったら、花島にお礼を言おうと思っていたのに... ...。また、やっちゃった... ...」

見るからに落ち込んだ様子を見せるホワイト。


「お礼?」


鼻を押さえながら聞いた。


「あの... ...。わ・私が町の人たちに色々言われている時に花島、助けようとしてくれたでしょ? その... ...。お・お礼言ってなかったから... ...」


顔を赤らめ、声を震わせながら発したホワイトの言葉に「なんだ、こいついい奴そうだな」と感じ、自然と笑みがこぼれる。
俺はホワイトの膝に手を当て。


「それじゃあ、俺らも瓦礫の撤去作業でもやるとしようか!」


「う・うん!」


シルフは腕を組み、俺とホワイトの様子を何食わぬ顔で見ていた。

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