俺がこの世に生まれた意味

高木礼六

道作り

「はぁぁぁぁぁ!」


それぞれの力は体全体ではなく、それぞれの武器にのみ宿っている。
それにより、振るう威力を格段に上昇させ、敵をことごとく霧散させていくが、それには代償も伴う。

ゴブリンの爪が、一角ウルフの角が、スライムの消化液が、ガンビートルの銃撃が、三人の体を切り、掠り、溶かしていく。
傷がみるみるうちに増えていき、血が流れ出す。

それでも三人は剣を振るうことをやめない、この抜けられない悪魔の楽園を抜けるため、渾身の力を絞り出す。その結果、赤髪の少女の捨て身の回転斬りによって、広いスペースが作り上げられた。


「でかしたぞララ!」


回転斬りを放ったララは苦悶の表情を色濃く出している。恐らく彼女はこれ以上は十分に戦えない。表情と尋常ではない呼吸の乱れ、身体中の傷がそれを証明しており、息が乱れているのは魔力切れの副作用による体力減少なのだろう。

そんな衰弱しきった少女のもとに残りの二人は瞬時に駆けつけた。もちろん彼女を心配してと言うことはある、が、残酷だが本当の理由はそれではない、これまではアースカティアの策の過程、これからやることに繋げるための段階だ。

ララは自分が背負っているバックパックから素早く回復薬を取りだし、走れるだけの体力を取り戻した。


「ディグル!今!」

「ああ、わかってる!」


アースカティアはララの容態の回復を確認すると、剣の柄を握りしめ、内なる力を剣へと集束させた。


「光よ、輝き煌めけ!」


光はアースカティアの声に呼応し、煌めきを放った。それは少年を中心として魔力がどんどん膨れ上がり、周囲の敵を、味方を、自然を、全てを覆い尽くす。

これによりもたらされる効果は妨害。

攻撃でもなく、防御でもなく、多量の光を浴びせることで、相手の目を潰す、つまり、目眩ましだ。

三人は事前の会話によりあらかじめ目をつぶっていたので対処できたが、当然それを知らない悪魔たちは、許容量を超えた光に視覚を奪われ、瞳を焼かれるような痛みに悶絶している。

敵の濁流のような侵攻に大きな隙が生まれ、一時的に猶予を作ることができた。


「いくぞ、レレ!」

「いくよ、ディグル!」


今ある時間を詠唱と魔力集中に最大限活用し、ギリギリのラインで魔力が枯渇しない程度に力を振り絞る。

二人の魔力が迸り、光が具現化し、雷水が荒れ狂う。二人の魔法が一点に集中し、前方、三人の真正面、悪魔の出現がもっとも頻繁だった場所を見据えた。


「光よ、俺を照らせ、ラクス!」

「水の精霊よ、雷の精霊よ、この身に激流と一閃を交え、轟く大渦となれ!ラギアクルス!」


それぞれの魔法を詠唱し、今できる全力でこの状況を打破して見せる。

詠唱が完了し、魔法が完成すると、更にレレの権能により魔方陣が生まれ、二人とも元来の魔法よりも遥かに強力なものとなった。

極光と雷水龍が、今か今かと破壊を待ち望む。

だが、威力と引き換えに、思った以上に魔法の消耗が激しい、この一発ですべてを決める。失敗は、死を意味する。



「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」



これだけの数の悪魔は背水の陣の覚悟で挑んでも、殲滅は不可能、ならば一本の道を作り出す必要がある。

この状況を抜け出すための道を、ただ、これは退路ではない、逃げ道でもない、先へ進むための活路だ。

二人の声が重なり、それは咆哮になり、やがて勝鬨へと変わった。

生み出された魔法は己が使命を全うすべく、更なる破壊を求めて融合した。雷水龍を光が包み込み、魔力も更に増加する。

発動した魔法は激しい地面の咀嚼音を鳴らしながら前進し、破壊の権化となって、軌道上のものを何の例外もなく蹂躙していく。

膨大な音量と破壊力により、悪魔は断末魔すら上げさせてもらえず、大地は抉り取られ、静寂が訪れた頃には見事な一本道が出来上がっていた。


「いくぞ、走れ、走れ!」


アースカティアは魔法の使用によりどっと押し寄せてくる疲労感を圧し殺し、足場の悪い新道を全速力で駆け抜けた。

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