俺の悪役令嬢が世界征服するらしい
第31話 そして世界は末永く――
二年後――とある会議室には錚々たるメンバーが集まっていた。
「皆の者、集まっておるな。ではこれより定例会議を開始する」
窓のない部屋、そこに置かれた大きな円形状のテーブル。
その一部に腰かけるエリザベートは足を組み、頬杖をついて会議の開始を宣言した。
「どうでもいいけど早くしてくれない? 私これから仕事が詰まってるのよね~」
最初に口を開いたのはアリシアさん。この人は二十歳になってもまるで変わらない、ていうか成長してない……
「確かにアリシア様はこの後定期ライブのリハーサル、CDの収録、騎士団の演習指揮と予定が立て込んでおります」
その隣には専属メイドのキャスカさん(年齢不明)もいる。この人は一体何歳なんだ?
アリシアさんと同じくらい見た目が変わっていないし。本当は吸血鬼とかなのかもしれない。
「はいは~い!! 私も新刊の仕上げが残ってるから超忙しいで~す!!」
続いて挙手をしながら多忙さをアピールしたのはサクラさん、この人はどことなく大人の女性に成長している。主に胸部辺りが……
「おやおや、ミコトはんがお嬢の胸をガン見している気配がしますなー」
サクラさんの隣で物騒な事を口走っているのは付き人のツバキさん。
この人も狐のお面のせいで元より年齢が不明なので身長以外は変っていない。
「えっと、毎回思うんだけど私ってこの会議に必要なんすかね…… あまり役には立てないと思うんだけど」
自信なさげな声をあげたのは元貧民街出身の元奴隷少女クリス。
現在十歳くらいだっけ、この子はこの子ですくすく育っていて微笑ましい。
きっと将来は美人になる事だろう。
「大丈夫だよクリス。君は民間代表なんだからもっと自信を持って」
「ん~ あんまり実感が湧かねえな。二年前まで貧民街でヒイコラ言っていったってのに」
年齢の割に重役任せられているクリスは未だに戸惑いが抜けていない様子だった。
まあそれをなんとかするのも今後の課題だな。
「私も色々調整があるのですぐにでも工房へ帰りたいのですけれど。あ、もしもし? 第三エリアの魔力炉心の修理は後日使い魔を派遣しますので、ええ、ええ、では料金に関しては後日相談という事で――」
いつもの無表情で大きな魔導書を読みながらどこかのセクションと会話するフレデリカさん。
恐らくここで一番働き者なのは彼女だろう。
因みに今の彼女のボディは俺とバトルイベントを駆け抜けた幼女タイプだ、どうも気に入っているらしい。
「くゥ~!! お前達はどうしていつもいつも纏まりがないのじゃ!! 集団としての自覚がないのか!?」
『ありませ~ん』と息ピッタリの皆。
そして「うがあああああああ!!」と憤慨するエリザベート。
まるでやる気のない有限中小企業のような光景だが、これはいつもの事なので問題ない。
「コホンッ。ではまず定期報告から始めよ、まずはアリシア陣営」
エリザベートは咳払いで空気を整えてからアリシアさんを名指しする。
「そうね~ コンサートホールをもっと大きくしてくれない? 後その隣には私のファン達が宿泊できるホテルも作って~ あ! 後アリシアランドっていう遊園地も考えたんだけど、それからそれから」
「ええい!! お前のは報告ではなーい!! その小さなペチャパイによくもまあそれだけ我欲を詰め込めた物じゃなあ!?」
「何よ、建造物のリクエストは自由に出していいって条件だったじゃない!!」
「お前のは度が過ぎると言っておるのじゃ! 週一ペースで訳の分からん建造物を立ておって、特にあの自己顕示欲丸出しの悪趣味な銀像は即刻取り壊しを命じたいくらいじゃ!!」
「なんでよ!? 超セクシーでエレガントじゃない!!」
「胸の大きさが十倍くらい違うではないか、住民から詐欺だとクレームが来ておるわ!!」
ああ言えばこう言う二人の言い合いも五分程度で終息を見せ、報告はサクラさん陣営へと移る。
「私的にはもっと本屋さんを増やして欲しいかな~ そんでもっとミコトノスケとエリザノエモンのカップリングを広めたい!!」
「サクラよお前の同人誌が財政の一旦を担っているのは重々承知しておるがの、如何せん登場人物のモデルに妾を使うのは勘弁してもらえんかの?」
「え~ いいじゃない。性別は男にしてあるんだし~」
「いやしかしな――」
「因みにエリザノエモンは攻めで~す」
「ならばよし」
「いやよくねえよ!?」
俺は二人の会話に割って入る。俺とエリザベートをモデルにしたBL同人誌が大ヒットしているという事実だけでも看過できないのに俺が総受けなんて絶対に許せん!!
「まあまあ細かい事は置いておいて、私からは以上かな~ じゃあ次はクリスちゃんの番という事で」
サクラさんは俺の文句を受け流すようにクリスの報告へと話題を移動させる。
「えっと住民達は概ね今の生活に満足してるっぽい、です。エリザベート様に着いてきてよかった~って言ってます」
「なーっはっはっは!! そうじゃろそうじゃろ。妾はオギャーと生まれた瞬間から全知全能じゃからな」
「でも税金が高いってちょいちょいクレームが――」
「よーし、この話は終わりじゃ。次いこ次!!」
例によって都合の悪い話をスルーするエリザベートだった。
大丈夫だクリス、税金の件は俺が後で手を打っておくから。
「じゃあ最後は私ですね。まずは私達が住んでいるこの超巨大魔導要塞 アヴァロニアについてなのですが、皆さんの扱いがぞんざい過ぎます。いいですか、この要塞は貴方達より数十倍デリケートに設計されている超精密魔導機械なんですよ? そもそもこれの本来の目的はですね、大いなる魔法探求であり延いてはペラペラペラ――」
そして始まるフレデリカさんのお小言タイム。この会議はいつも彼女のお説教紛いの演説で締めくくられるのが通例になっていた。
俺はフレデリカさんのよく分からないワードが飛び交う長話を聞きながら、これまでの二年間を振り返っていた。
そう、俺がエリザベートに告白してからこれまでの事を……
◇
御三家の令嬢が全員消えた――そんなニュースがミスリム帝国を駆け巡ったのはエリザベートの魔力暴走事件が終息してから二ヶ月ほど経った後の事だった。
帝国の中で最も権力のある貴族、その当主である三人が同時に行方不明になっただけでも大事件なのだがさらに不可解だったのは仕えていた使用人と屋敷、そして余っていた領地も同時に消えた事だろう。
そして三大貴族が消えて数日後、ミスリム帝国上空に突如として謎の巨大浮遊物体が出現した。
超巨大魔導要塞 アヴァロニア――それこそがエリザベートとフレデリカさんが密かに開発していた超弩級空中移動要塞の名前だ。
どうもエリザベートが夜な夜な屋敷を出て深夜徘徊していたのはコレの製造に携わっていたかららしい。
大きさ約一万km²。イメージとしては巨大な島国が雲の上に浮いているような感じだろうか。
動力はエリザベートが規格外の魔力を注ぎ込んだ魔力炉心四つ。
周囲は強力な特殊結界で覆われており、酸素濃度の調整は魔導AIであるスゴロクちゃんが管理している。
土地に関しては御三家の屋敷を拠点とし、余った領地を転移魔法で強引に引っこ抜いてそれぞれが街を作りあげた。
令嬢達がパズルピースをはめるが如く好き勝手にデザインしていったので趣味全開の街になったのは言うまでもない。
そしてエリザベートはこの途轍もなく巨大な移動要塞に帝国の民を移住させる事を計画していたのだ。
方法は簡単、まず帝国中の人間達へ念話の魔法(脳内に直接声を響かせる魔法)で呼びかけをする。
『聞くがいい、ミスリム帝国に住む全ての人間達よ。妾はエリザベート・エレオノール・ブリュンスタッド。世界を征服せし者である。これよりお前達には二つの選択肢が与えられる、心して聞け。一つはこの腐った帝国に残りの寿命が尽きるその時まで豚のように飼育される道。もう一つは妾と共に世界征服の旅路を共にする栄誉ある道じゃ、勿論生活の質は保証しよう。貧民じゃろうが平民じゃろうが貴族じゃろうが関係ない。能力を示せば相応の待遇を与えると約束する。っておいアリシア、まだ妾が話しておる途中ッ――』
『は~い!! 皆~!!  貴方のスーパーアイドルナイト。アリシアよー!! 移住してくれたら全員に私の直筆サイン入りCDをプレゼントしちゃいま~す!! それから定期コンサートも移住先で行うから私のファンなら当然移住するわよね、よね? しないとか言う不届き者は魔剣ダークネスカリバーの錆にしてや――ッ』
『どうも~ サクラノヒメでーす。今まで黙っていたんですけど実は王族って裏で悪い貴族と結託して人身売買で至福を肥やしている糞野郎の集まりで~す。未来が視える私の力も利用してました~。という訳で私は帝国を離れま~す。あ、近い将来三大貴族が消えた事で帝国は衰退の一途を辿りますので、皆さんも早く移住する事をお勧めしま~す。後私の新刊ももうそっちじゃ手に入らないからね~ フェスに来たい人達は早くおいでね~』
確か抜粋するとこんな感じだったか。
もしかしたら誰一人として賛同してくれないかもなんて内心不安だったけれど、中々どうして住民のほとんどが移動要塞への移住を受諾してくれた。
しかも結構皆乗り気。貧民街に至ってはクリスの根回しもあって大喜びだったらしい。
後は呼びかけに応じた人間を転移魔法で空中要塞に移動させて終了である。
そして完成したのは世界中の国や都市に現れては好き勝手に征服して人口と文化を吸収し拡大していくトンデモ国家。つまり御三家令嬢達を中心とした世界征服集団だった。
しかし虐殺等の行為は決して行わず、あくまで好条件での降伏勧告をする事がルールである。
まあ中にはそれでも武力をもって抵抗してくる国や種族もいたのだが、エリザベートとアリシアさんがそこら辺の山を魔法と魔剣で二、三個蒸発させたら大人しくなった。
知略に長けた国の謀略等はサクラさんの《神眼》による未来予知と読心術で封殺。
後は交渉が上手いサクラさんが降伏署名にサインさせるだけ。
こんな具合でアヴァロニアは少しずつではあるが着実に世界地図を一色に染めていった。
◇
「おーい、お前達~ 餌の時間じゃぞ~」
定例会議を終えた俺とエリザベートはブリュンスタッド家の屋敷へと戻り、庭園を訪れていた。
少しして、エリザベートの声を聞いた連中が姿を現しはじめる。
「よーしよしよし。お前達の大好物の魔石じゃぞ~ たーんと食すがよい」
エリザベートは集まってきた魔物達にバスケットに入った魔石を与える。
この庭園には現在ギガロ・マンティス等の大型モンスターをはじめ多種多様なモンスター達が生息しているのだ。
要するにエリザベートのペットである。
「主、それにミコト殿。いつもご苦労様であります」
「やあスカーレッド。留守番ご苦労様」
俺達の横に現れたのは真紅のフルプレートアーマーに身を包んだ鎧騎士、名をスカーレッドと言う。
その姿は以前俺とフレデリカさんが戦った鎧騎士と酷似しているが、エリザベートの忠実な使い魔として調整が施されている。
今では魔物達の管理と屋敷の留守を預かる警護担当だ。
「偶にはスカーレッドも休暇でもとって外出とかしたらいいのに」
いつも魔物達の世話ばかりでは息がつまるだろうと思い俺はスカーレッドに休息の提案をする。
「お心遣い感謝致します。しかし某にとっては主とミコト殿の命令に従う事こそが至上の喜びですので」
「殊勝だなぁ」
エリザベートからこんないい奴が出来上がるなんて、結構驚きだ。
「そうじゃスカーレッドよ、お前にもこれを渡しておかねばならんな」
エリザベートはスカーレッドに一枚の封筒を手渡す。
「主、これはなんでしょうか?」
「招待状じゃ。妾とミコトの結婚式のな!!」
「ほほう、それはそれは」
「……お嬢様、恥ずかしいのであんまり大声を出さないでもらえますか?」
「何を今更、既に要塞市民と征服した国々にも配っておるではないか」
「それはそうですけど……」
俺がエリザベートに結婚を申し込んでから二年。
実はまだ俺達は結婚していない。
いや、正確には婚約はしたのだが式をまだ挙げていないというのが正しいか。
「しかし主、この招待状には日付が書いていないようですが?」
「うむ、まだ世界征服は半ばじゃからな。式はこの星全てを征服し終わってからじゃ」
「なるほど」
二年前に俺がエリザベートに出した世界征服成功時の報酬、というか条件。
それは『この世界で一番目立つ結婚式を挙げる事』。
俺なりに目立ちたがり屋のエリザベートの事を最大限考慮した結果である。
言うなれば今のこの時期は結婚式までのちょっとしたモラトリアムみたいな物だ。
「ではスカーレッドよ。後の餌やりは任せた、妾とミコトはこれから行かねばならない所があるでな」
「畏まりました、どうぞごゆっくり……」
スカーレッドは俺達がこれから行く所が分かっているような口ぶりだった。
そして俺とエリザベートはそのまま手を繋いで互いが初めて出会ったあの場所へと向かう。
◇
大きな大木、その根元に腰を下ろして俺とエリザベートは肩を寄せ合う。
「結婚式、いつになりますかね?」
「さてな。世界は思った以上に広い、もしかしたら互いが老体になった後かもしれんな」
「俺はいいですよ、何年掛かっても――」
「――そうじゃな、妾もそう思う」
今俺達の左手、その薬指にはお揃いの指輪が輝きを放っている。
それは二年前のあの日、エリザベートが俺にプレゼントする為にフレデリカさんに用意させた物らしい。
道理で俺に中身を見られたくなかった訳だ。
「俺の世界じゃ指輪は男から渡す物なんですけどね」
「ほう、お前の故郷は変わっておるな」
どうもこっちの世界の常識では婚約の際は女性から男性に指輪を渡すらしい。
流石は異世界、俺の常識を打ち砕くような事ばかり起こる。
「お嬢様」
「戯け、二人の時は名前で呼べと言ったじゃろ」
そうでした。まあ今まで地の文で散々呼んできたので今更照れる事もないだろう。
「エリザベート、俺は――」
「ッ」
それなりにくさい台詞で物語を絞めようとしたらキスで黙らされた。最近エリザベートはこの手をよく使う。
「なにするんですか、折角落ちを付けようと思ったのに」
「フンッ 徹夜で考えたであろうその恥ずかしい台詞は結婚式までとっておくがいい。そう、世界が妾の手に落ちるその時までな」
そう言ってエリザベートは朗らかに、本当に朗らかに微笑んだ。
そういう事なら是非もない、彼女の笑顔に免じて落ちは世界に任せるとしよう。
そして願わくば、これから末永くエリザベートに征服される世界と人々に幸があらん事を――
「皆の者、集まっておるな。ではこれより定例会議を開始する」
窓のない部屋、そこに置かれた大きな円形状のテーブル。
その一部に腰かけるエリザベートは足を組み、頬杖をついて会議の開始を宣言した。
「どうでもいいけど早くしてくれない? 私これから仕事が詰まってるのよね~」
最初に口を開いたのはアリシアさん。この人は二十歳になってもまるで変わらない、ていうか成長してない……
「確かにアリシア様はこの後定期ライブのリハーサル、CDの収録、騎士団の演習指揮と予定が立て込んでおります」
その隣には専属メイドのキャスカさん(年齢不明)もいる。この人は一体何歳なんだ?
アリシアさんと同じくらい見た目が変わっていないし。本当は吸血鬼とかなのかもしれない。
「はいは~い!! 私も新刊の仕上げが残ってるから超忙しいで~す!!」
続いて挙手をしながら多忙さをアピールしたのはサクラさん、この人はどことなく大人の女性に成長している。主に胸部辺りが……
「おやおや、ミコトはんがお嬢の胸をガン見している気配がしますなー」
サクラさんの隣で物騒な事を口走っているのは付き人のツバキさん。
この人も狐のお面のせいで元より年齢が不明なので身長以外は変っていない。
「えっと、毎回思うんだけど私ってこの会議に必要なんすかね…… あまり役には立てないと思うんだけど」
自信なさげな声をあげたのは元貧民街出身の元奴隷少女クリス。
現在十歳くらいだっけ、この子はこの子ですくすく育っていて微笑ましい。
きっと将来は美人になる事だろう。
「大丈夫だよクリス。君は民間代表なんだからもっと自信を持って」
「ん~ あんまり実感が湧かねえな。二年前まで貧民街でヒイコラ言っていったってのに」
年齢の割に重役任せられているクリスは未だに戸惑いが抜けていない様子だった。
まあそれをなんとかするのも今後の課題だな。
「私も色々調整があるのですぐにでも工房へ帰りたいのですけれど。あ、もしもし? 第三エリアの魔力炉心の修理は後日使い魔を派遣しますので、ええ、ええ、では料金に関しては後日相談という事で――」
いつもの無表情で大きな魔導書を読みながらどこかのセクションと会話するフレデリカさん。
恐らくここで一番働き者なのは彼女だろう。
因みに今の彼女のボディは俺とバトルイベントを駆け抜けた幼女タイプだ、どうも気に入っているらしい。
「くゥ~!! お前達はどうしていつもいつも纏まりがないのじゃ!! 集団としての自覚がないのか!?」
『ありませ~ん』と息ピッタリの皆。
そして「うがあああああああ!!」と憤慨するエリザベート。
まるでやる気のない有限中小企業のような光景だが、これはいつもの事なので問題ない。
「コホンッ。ではまず定期報告から始めよ、まずはアリシア陣営」
エリザベートは咳払いで空気を整えてからアリシアさんを名指しする。
「そうね~ コンサートホールをもっと大きくしてくれない? 後その隣には私のファン達が宿泊できるホテルも作って~ あ! 後アリシアランドっていう遊園地も考えたんだけど、それからそれから」
「ええい!! お前のは報告ではなーい!! その小さなペチャパイによくもまあそれだけ我欲を詰め込めた物じゃなあ!?」
「何よ、建造物のリクエストは自由に出していいって条件だったじゃない!!」
「お前のは度が過ぎると言っておるのじゃ! 週一ペースで訳の分からん建造物を立ておって、特にあの自己顕示欲丸出しの悪趣味な銀像は即刻取り壊しを命じたいくらいじゃ!!」
「なんでよ!? 超セクシーでエレガントじゃない!!」
「胸の大きさが十倍くらい違うではないか、住民から詐欺だとクレームが来ておるわ!!」
ああ言えばこう言う二人の言い合いも五分程度で終息を見せ、報告はサクラさん陣営へと移る。
「私的にはもっと本屋さんを増やして欲しいかな~ そんでもっとミコトノスケとエリザノエモンのカップリングを広めたい!!」
「サクラよお前の同人誌が財政の一旦を担っているのは重々承知しておるがの、如何せん登場人物のモデルに妾を使うのは勘弁してもらえんかの?」
「え~ いいじゃない。性別は男にしてあるんだし~」
「いやしかしな――」
「因みにエリザノエモンは攻めで~す」
「ならばよし」
「いやよくねえよ!?」
俺は二人の会話に割って入る。俺とエリザベートをモデルにしたBL同人誌が大ヒットしているという事実だけでも看過できないのに俺が総受けなんて絶対に許せん!!
「まあまあ細かい事は置いておいて、私からは以上かな~ じゃあ次はクリスちゃんの番という事で」
サクラさんは俺の文句を受け流すようにクリスの報告へと話題を移動させる。
「えっと住民達は概ね今の生活に満足してるっぽい、です。エリザベート様に着いてきてよかった~って言ってます」
「なーっはっはっは!! そうじゃろそうじゃろ。妾はオギャーと生まれた瞬間から全知全能じゃからな」
「でも税金が高いってちょいちょいクレームが――」
「よーし、この話は終わりじゃ。次いこ次!!」
例によって都合の悪い話をスルーするエリザベートだった。
大丈夫だクリス、税金の件は俺が後で手を打っておくから。
「じゃあ最後は私ですね。まずは私達が住んでいるこの超巨大魔導要塞 アヴァロニアについてなのですが、皆さんの扱いがぞんざい過ぎます。いいですか、この要塞は貴方達より数十倍デリケートに設計されている超精密魔導機械なんですよ? そもそもこれの本来の目的はですね、大いなる魔法探求であり延いてはペラペラペラ――」
そして始まるフレデリカさんのお小言タイム。この会議はいつも彼女のお説教紛いの演説で締めくくられるのが通例になっていた。
俺はフレデリカさんのよく分からないワードが飛び交う長話を聞きながら、これまでの二年間を振り返っていた。
そう、俺がエリザベートに告白してからこれまでの事を……
◇
御三家の令嬢が全員消えた――そんなニュースがミスリム帝国を駆け巡ったのはエリザベートの魔力暴走事件が終息してから二ヶ月ほど経った後の事だった。
帝国の中で最も権力のある貴族、その当主である三人が同時に行方不明になっただけでも大事件なのだがさらに不可解だったのは仕えていた使用人と屋敷、そして余っていた領地も同時に消えた事だろう。
そして三大貴族が消えて数日後、ミスリム帝国上空に突如として謎の巨大浮遊物体が出現した。
超巨大魔導要塞 アヴァロニア――それこそがエリザベートとフレデリカさんが密かに開発していた超弩級空中移動要塞の名前だ。
どうもエリザベートが夜な夜な屋敷を出て深夜徘徊していたのはコレの製造に携わっていたかららしい。
大きさ約一万km²。イメージとしては巨大な島国が雲の上に浮いているような感じだろうか。
動力はエリザベートが規格外の魔力を注ぎ込んだ魔力炉心四つ。
周囲は強力な特殊結界で覆われており、酸素濃度の調整は魔導AIであるスゴロクちゃんが管理している。
土地に関しては御三家の屋敷を拠点とし、余った領地を転移魔法で強引に引っこ抜いてそれぞれが街を作りあげた。
令嬢達がパズルピースをはめるが如く好き勝手にデザインしていったので趣味全開の街になったのは言うまでもない。
そしてエリザベートはこの途轍もなく巨大な移動要塞に帝国の民を移住させる事を計画していたのだ。
方法は簡単、まず帝国中の人間達へ念話の魔法(脳内に直接声を響かせる魔法)で呼びかけをする。
『聞くがいい、ミスリム帝国に住む全ての人間達よ。妾はエリザベート・エレオノール・ブリュンスタッド。世界を征服せし者である。これよりお前達には二つの選択肢が与えられる、心して聞け。一つはこの腐った帝国に残りの寿命が尽きるその時まで豚のように飼育される道。もう一つは妾と共に世界征服の旅路を共にする栄誉ある道じゃ、勿論生活の質は保証しよう。貧民じゃろうが平民じゃろうが貴族じゃろうが関係ない。能力を示せば相応の待遇を与えると約束する。っておいアリシア、まだ妾が話しておる途中ッ――』
『は~い!! 皆~!!  貴方のスーパーアイドルナイト。アリシアよー!! 移住してくれたら全員に私の直筆サイン入りCDをプレゼントしちゃいま~す!! それから定期コンサートも移住先で行うから私のファンなら当然移住するわよね、よね? しないとか言う不届き者は魔剣ダークネスカリバーの錆にしてや――ッ』
『どうも~ サクラノヒメでーす。今まで黙っていたんですけど実は王族って裏で悪い貴族と結託して人身売買で至福を肥やしている糞野郎の集まりで~す。未来が視える私の力も利用してました~。という訳で私は帝国を離れま~す。あ、近い将来三大貴族が消えた事で帝国は衰退の一途を辿りますので、皆さんも早く移住する事をお勧めしま~す。後私の新刊ももうそっちじゃ手に入らないからね~ フェスに来たい人達は早くおいでね~』
確か抜粋するとこんな感じだったか。
もしかしたら誰一人として賛同してくれないかもなんて内心不安だったけれど、中々どうして住民のほとんどが移動要塞への移住を受諾してくれた。
しかも結構皆乗り気。貧民街に至ってはクリスの根回しもあって大喜びだったらしい。
後は呼びかけに応じた人間を転移魔法で空中要塞に移動させて終了である。
そして完成したのは世界中の国や都市に現れては好き勝手に征服して人口と文化を吸収し拡大していくトンデモ国家。つまり御三家令嬢達を中心とした世界征服集団だった。
しかし虐殺等の行為は決して行わず、あくまで好条件での降伏勧告をする事がルールである。
まあ中にはそれでも武力をもって抵抗してくる国や種族もいたのだが、エリザベートとアリシアさんがそこら辺の山を魔法と魔剣で二、三個蒸発させたら大人しくなった。
知略に長けた国の謀略等はサクラさんの《神眼》による未来予知と読心術で封殺。
後は交渉が上手いサクラさんが降伏署名にサインさせるだけ。
こんな具合でアヴァロニアは少しずつではあるが着実に世界地図を一色に染めていった。
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「おーい、お前達~ 餌の時間じゃぞ~」
定例会議を終えた俺とエリザベートはブリュンスタッド家の屋敷へと戻り、庭園を訪れていた。
少しして、エリザベートの声を聞いた連中が姿を現しはじめる。
「よーしよしよし。お前達の大好物の魔石じゃぞ~ たーんと食すがよい」
エリザベートは集まってきた魔物達にバスケットに入った魔石を与える。
この庭園には現在ギガロ・マンティス等の大型モンスターをはじめ多種多様なモンスター達が生息しているのだ。
要するにエリザベートのペットである。
「主、それにミコト殿。いつもご苦労様であります」
「やあスカーレッド。留守番ご苦労様」
俺達の横に現れたのは真紅のフルプレートアーマーに身を包んだ鎧騎士、名をスカーレッドと言う。
その姿は以前俺とフレデリカさんが戦った鎧騎士と酷似しているが、エリザベートの忠実な使い魔として調整が施されている。
今では魔物達の管理と屋敷の留守を預かる警護担当だ。
「偶にはスカーレッドも休暇でもとって外出とかしたらいいのに」
いつも魔物達の世話ばかりでは息がつまるだろうと思い俺はスカーレッドに休息の提案をする。
「お心遣い感謝致します。しかし某にとっては主とミコト殿の命令に従う事こそが至上の喜びですので」
「殊勝だなぁ」
エリザベートからこんないい奴が出来上がるなんて、結構驚きだ。
「そうじゃスカーレッドよ、お前にもこれを渡しておかねばならんな」
エリザベートはスカーレッドに一枚の封筒を手渡す。
「主、これはなんでしょうか?」
「招待状じゃ。妾とミコトの結婚式のな!!」
「ほほう、それはそれは」
「……お嬢様、恥ずかしいのであんまり大声を出さないでもらえますか?」
「何を今更、既に要塞市民と征服した国々にも配っておるではないか」
「それはそうですけど……」
俺がエリザベートに結婚を申し込んでから二年。
実はまだ俺達は結婚していない。
いや、正確には婚約はしたのだが式をまだ挙げていないというのが正しいか。
「しかし主、この招待状には日付が書いていないようですが?」
「うむ、まだ世界征服は半ばじゃからな。式はこの星全てを征服し終わってからじゃ」
「なるほど」
二年前に俺がエリザベートに出した世界征服成功時の報酬、というか条件。
それは『この世界で一番目立つ結婚式を挙げる事』。
俺なりに目立ちたがり屋のエリザベートの事を最大限考慮した結果である。
言うなれば今のこの時期は結婚式までのちょっとしたモラトリアムみたいな物だ。
「ではスカーレッドよ。後の餌やりは任せた、妾とミコトはこれから行かねばならない所があるでな」
「畏まりました、どうぞごゆっくり……」
スカーレッドは俺達がこれから行く所が分かっているような口ぶりだった。
そして俺とエリザベートはそのまま手を繋いで互いが初めて出会ったあの場所へと向かう。
◇
大きな大木、その根元に腰を下ろして俺とエリザベートは肩を寄せ合う。
「結婚式、いつになりますかね?」
「さてな。世界は思った以上に広い、もしかしたら互いが老体になった後かもしれんな」
「俺はいいですよ、何年掛かっても――」
「――そうじゃな、妾もそう思う」
今俺達の左手、その薬指にはお揃いの指輪が輝きを放っている。
それは二年前のあの日、エリザベートが俺にプレゼントする為にフレデリカさんに用意させた物らしい。
道理で俺に中身を見られたくなかった訳だ。
「俺の世界じゃ指輪は男から渡す物なんですけどね」
「ほう、お前の故郷は変わっておるな」
どうもこっちの世界の常識では婚約の際は女性から男性に指輪を渡すらしい。
流石は異世界、俺の常識を打ち砕くような事ばかり起こる。
「お嬢様」
「戯け、二人の時は名前で呼べと言ったじゃろ」
そうでした。まあ今まで地の文で散々呼んできたので今更照れる事もないだろう。
「エリザベート、俺は――」
「ッ」
それなりにくさい台詞で物語を絞めようとしたらキスで黙らされた。最近エリザベートはこの手をよく使う。
「なにするんですか、折角落ちを付けようと思ったのに」
「フンッ 徹夜で考えたであろうその恥ずかしい台詞は結婚式までとっておくがいい。そう、世界が妾の手に落ちるその時までな」
そう言ってエリザベートは朗らかに、本当に朗らかに微笑んだ。
そういう事なら是非もない、彼女の笑顔に免じて落ちは世界に任せるとしよう。
そして願わくば、これから末永くエリザベートに征服される世界と人々に幸があらん事を――
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