俺の悪役令嬢が世界征服するらしい
第30話 お嬢様と執事とキスと――
「執事さん、ここから先は貴方一人の方がいいでしょう」
「そんな!? 俺を一生守ってくれるって前世で約束したじゃないですか!」
「何を訳の分からない事言ってるんですか……」
地面に置かれた生首、もといフレデリカさん(頭部)は呆れたような表情を浮かべる。
おかしいな、俺としてはこの短い間で友情的な何かが芽生えたと思っていたのだが。
「今から魔物よりも恐ろしい奴に会わないといけないっていうのにどうしてそんな酷い事言うんですか?」
「待ち焦がれている想い人が幼女の生首を抱えてやってきたら一体どう思うでしょうねー」
「一人で行ってきまーす!!」
ジト目のフレデリカさんに対して俺は光の如き速さで即答する。
「でも他の魔物達に襲われたりしませんか?」
「問題ありません、どうせこの身体は人形。例え完全に破壊されたとしても他のボディに魂が移るだけですので」
なんとも便利な事だ。この調子だと世界が滅んでもこの人だけ生き残りそうだな。
道理で最初速攻で帰ろうとした訳だ。
「そうですか、ここまでありがとうございました。今度お礼しにお店にいきますね」
「お気遣いなく、これも仕事の延長ですから」
その後フレデリカさんは「……ご武運を」と呟き、茨のドームの中へと入っていく俺を見送ってくれた。
いよいよ最終決戦だ。
◇
茨で形成されたドームは俺が触れようとするとまるで招き入れるかのように開いていった。
元よりそういう仕掛けなのか、それともエリザベートの深層心理がなせる業なのか……
俺は意を決してドームの中へと足を踏み入れる。
薄暗い中を少し進むと出口と思しき光が見えてきた。
ドームを出た俺が最初に見たのもの、それは大木に寄りかかって体育座りをしたまま頭を伏せているエリザベートだった。
なんか人生に絶望したサラリーマンみたいな哀愁が漂っている。
それにこの場所――確か俺がこっちの世界に来た時に倒れていた場所だっけ。
これはなんともお誂え向きの場所だな。
俺はゆっくりとエリザベートに歩み寄り、無言で隣に腰を下ろす。
ふう、身体強化の筋肉痛のせいで体がバキバキだ。
しかし以前ほどではない、どうやら俺の身体も日々鍛えられているようだな。
「何しに来た?」
エリザベートは顔を伏せたまま茨のように棘のある台詞を口にする。
やっぱりまだ怒ってるようだ。
「屋敷、滅茶苦茶ですよ。まるで魔物の動物園です」
「知らん」
「お悩み相談はどうするんですか? 折角始めたのに」
「知らん」
「それに世界征服はどうするんですか? 全然進んでないじゃないですか」
「……もうよい。全部、どうでもよい」
「お嬢様、俺実は好きな子がいるんですよ」
「はぁ!? 今の話の流れでどうしてそんな話になるのじゃ!?」
意表を突かれたエリザベートは伏せていた顔を上げて俺の方を見る。
目の端が少し赤いな、どうも泣いていたらしい。
「でもその女の子っていうのが我儘で、傍若無人で、他人を見下してて、しかも極度の目立ちたがり屋。もう本当にどうしようもないような子なんですよ」
「……」
「それにその子は凄く身分の高い子で俺なんかとは比べ物にならないくらい才能に満ち溢れていて、きっと俺なんかよりもっと相応しい相手がいくらでもいる子なんです」
そんな俺の悩みをエリザベートは「下らん悩みじゃな」と一蹴する。
俺は「そうですね、俺もそう思います」と返した。
エリザベートは再び顔を伏せる。そして、
「実はな、妾にも。その……好きな奴がおる……」
「へぇ、それは驚きですね」
「其奴は別に目立った才能のある奴ではない。というかむしろ地味、後一々口うるさいし過保護じゃ」
「へ、へぇ……」
「じゃがな、妾にとっては其奴以外考えられんのじゃ。其奴の為なら全てを捨ててもよい、そしてどこか遠くの土地で静かに暮らしてもよい。そう思った事すらある」
それは初耳だ。
なるほど駆け落ちエンドね、アリっちゃアリだけど。でも……
「じゃがそれではきっと其奴は納得せんのじゃ」
「……どうしてですか?」
「妾が全てを捨てれば其奴はきっと自らを責め続けるからじゃ。顔に似合わず頑固な奴じゃからな」
お見通しか、サクラさんみたいに他人の心が読める訳でもないだろうに見事としか言う他ない。
「妾が妾のまま何も捨てず、其奴も納得できる形で、尚且つ互いが幸せになれる方法。それを考えた時、やはり世界の方を変えるしかないと思い至った」
それこそが世界征服――俺達が幸せになれる唯一の方法。
「ミコト」
「?」
「すまなかった」
「!!?」
今、何て言った? まさかとは思うが「すまなかった」って言ったか?
あの他人より先に謝るくらいなら相手を八つ裂きにするエリザベートが…… ああヤバイ、主に涙腺が。
「お前が妾と出会った日を覚えていない事は分かっておった、それでも腹が立ってしまったのじゃ。すまん、謝る」
おいおい、これが世界終焉の前触れって奴なのか?
今すぐにでもこいつにキスして口を塞いだ方がいいのだろうか……
いや、まずは俺の空いた口を誰かキスして塞いでくれ。
「許してくれるか?」
「……ずるいですよ。死ぬ思いしてここまで来たのに先に謝るだなんて」
謝って、キスして、大団円。という俺の脳内プランが台無しだ。
「妾も驚いておる、もう何もかも消えてしまえばいいと思っておったのにな。じゃがお前の声を聞いて、お前の顔を見て、お前と話したらどうでもよくなってしまった。妾も大概現金な奴じゃ」
お前といるだけで満たされてしまった。とエリザベートは立ち上がり、俺に背中を向ける。
「ミコト、妾はずっとお前の事が――」
「愛しています」
「ッ!?」
今度は先手を打ってやった。ざまあみろだ。
俺は重い腰をあげ、振り返ったエリザベートと目を合わせる。
「お嬢様、愛しています」
「……ッ」
両手を口に当て、目に涙を浮かべるエリザベート。
彼女の表情はこの十年で全部見てきたと思っていたけどこんな顔は初めてみる。
「俺と世界征服して下さい」
「―――――――――はい」
付き合うという段階をすっ飛ばし、婚約指輪すらないままのプロポーズ。
字面だけみれば男としてあまり褒められた物ではないのかもしれない、しかしエリザベートはそれを笑顔で了承してくれた。
そして俺達はサクラさんに言われた通りしっかりと五秒以上のキスを交わす。
もしかしなくてもキスをする必要は無かったかもしれない。
なにせエリザベートは自分で勝手にご機嫌をなおしてしまったからな、まったくどこまでも他人の都合を気にしない奴だ。
でもまあ、俺達がこうなるまでに十年かかった。五秒くらいは勘弁してもらおう。
「約束は果たせそうもないな」
「約束って?」
「世界を征服したらお前の物になるというアレじゃ」
「ああ…… なんか順序が逆になってしまいましたね」
「いや、そういう意味ではない」
「え?」
「妾は最初からお前の物じゃった、既にあげていた物はあげられん」
「……じゃあ新しいお願いをしてもいいですか?」
「特別に許可してやろう」
「えっとですね、俺の望みは――」
こうして俺達の長い長いプロローグは終わりを告げ、エリザベートと俺の世界征服が始まった。
「そんな!? 俺を一生守ってくれるって前世で約束したじゃないですか!」
「何を訳の分からない事言ってるんですか……」
地面に置かれた生首、もといフレデリカさん(頭部)は呆れたような表情を浮かべる。
おかしいな、俺としてはこの短い間で友情的な何かが芽生えたと思っていたのだが。
「今から魔物よりも恐ろしい奴に会わないといけないっていうのにどうしてそんな酷い事言うんですか?」
「待ち焦がれている想い人が幼女の生首を抱えてやってきたら一体どう思うでしょうねー」
「一人で行ってきまーす!!」
ジト目のフレデリカさんに対して俺は光の如き速さで即答する。
「でも他の魔物達に襲われたりしませんか?」
「問題ありません、どうせこの身体は人形。例え完全に破壊されたとしても他のボディに魂が移るだけですので」
なんとも便利な事だ。この調子だと世界が滅んでもこの人だけ生き残りそうだな。
道理で最初速攻で帰ろうとした訳だ。
「そうですか、ここまでありがとうございました。今度お礼しにお店にいきますね」
「お気遣いなく、これも仕事の延長ですから」
その後フレデリカさんは「……ご武運を」と呟き、茨のドームの中へと入っていく俺を見送ってくれた。
いよいよ最終決戦だ。
◇
茨で形成されたドームは俺が触れようとするとまるで招き入れるかのように開いていった。
元よりそういう仕掛けなのか、それともエリザベートの深層心理がなせる業なのか……
俺は意を決してドームの中へと足を踏み入れる。
薄暗い中を少し進むと出口と思しき光が見えてきた。
ドームを出た俺が最初に見たのもの、それは大木に寄りかかって体育座りをしたまま頭を伏せているエリザベートだった。
なんか人生に絶望したサラリーマンみたいな哀愁が漂っている。
それにこの場所――確か俺がこっちの世界に来た時に倒れていた場所だっけ。
これはなんともお誂え向きの場所だな。
俺はゆっくりとエリザベートに歩み寄り、無言で隣に腰を下ろす。
ふう、身体強化の筋肉痛のせいで体がバキバキだ。
しかし以前ほどではない、どうやら俺の身体も日々鍛えられているようだな。
「何しに来た?」
エリザベートは顔を伏せたまま茨のように棘のある台詞を口にする。
やっぱりまだ怒ってるようだ。
「屋敷、滅茶苦茶ですよ。まるで魔物の動物園です」
「知らん」
「お悩み相談はどうするんですか? 折角始めたのに」
「知らん」
「それに世界征服はどうするんですか? 全然進んでないじゃないですか」
「……もうよい。全部、どうでもよい」
「お嬢様、俺実は好きな子がいるんですよ」
「はぁ!? 今の話の流れでどうしてそんな話になるのじゃ!?」
意表を突かれたエリザベートは伏せていた顔を上げて俺の方を見る。
目の端が少し赤いな、どうも泣いていたらしい。
「でもその女の子っていうのが我儘で、傍若無人で、他人を見下してて、しかも極度の目立ちたがり屋。もう本当にどうしようもないような子なんですよ」
「……」
「それにその子は凄く身分の高い子で俺なんかとは比べ物にならないくらい才能に満ち溢れていて、きっと俺なんかよりもっと相応しい相手がいくらでもいる子なんです」
そんな俺の悩みをエリザベートは「下らん悩みじゃな」と一蹴する。
俺は「そうですね、俺もそう思います」と返した。
エリザベートは再び顔を伏せる。そして、
「実はな、妾にも。その……好きな奴がおる……」
「へぇ、それは驚きですね」
「其奴は別に目立った才能のある奴ではない。というかむしろ地味、後一々口うるさいし過保護じゃ」
「へ、へぇ……」
「じゃがな、妾にとっては其奴以外考えられんのじゃ。其奴の為なら全てを捨ててもよい、そしてどこか遠くの土地で静かに暮らしてもよい。そう思った事すらある」
それは初耳だ。
なるほど駆け落ちエンドね、アリっちゃアリだけど。でも……
「じゃがそれではきっと其奴は納得せんのじゃ」
「……どうしてですか?」
「妾が全てを捨てれば其奴はきっと自らを責め続けるからじゃ。顔に似合わず頑固な奴じゃからな」
お見通しか、サクラさんみたいに他人の心が読める訳でもないだろうに見事としか言う他ない。
「妾が妾のまま何も捨てず、其奴も納得できる形で、尚且つ互いが幸せになれる方法。それを考えた時、やはり世界の方を変えるしかないと思い至った」
それこそが世界征服――俺達が幸せになれる唯一の方法。
「ミコト」
「?」
「すまなかった」
「!!?」
今、何て言った? まさかとは思うが「すまなかった」って言ったか?
あの他人より先に謝るくらいなら相手を八つ裂きにするエリザベートが…… ああヤバイ、主に涙腺が。
「お前が妾と出会った日を覚えていない事は分かっておった、それでも腹が立ってしまったのじゃ。すまん、謝る」
おいおい、これが世界終焉の前触れって奴なのか?
今すぐにでもこいつにキスして口を塞いだ方がいいのだろうか……
いや、まずは俺の空いた口を誰かキスして塞いでくれ。
「許してくれるか?」
「……ずるいですよ。死ぬ思いしてここまで来たのに先に謝るだなんて」
謝って、キスして、大団円。という俺の脳内プランが台無しだ。
「妾も驚いておる、もう何もかも消えてしまえばいいと思っておったのにな。じゃがお前の声を聞いて、お前の顔を見て、お前と話したらどうでもよくなってしまった。妾も大概現金な奴じゃ」
お前といるだけで満たされてしまった。とエリザベートは立ち上がり、俺に背中を向ける。
「ミコト、妾はずっとお前の事が――」
「愛しています」
「ッ!?」
今度は先手を打ってやった。ざまあみろだ。
俺は重い腰をあげ、振り返ったエリザベートと目を合わせる。
「お嬢様、愛しています」
「……ッ」
両手を口に当て、目に涙を浮かべるエリザベート。
彼女の表情はこの十年で全部見てきたと思っていたけどこんな顔は初めてみる。
「俺と世界征服して下さい」
「―――――――――はい」
付き合うという段階をすっ飛ばし、婚約指輪すらないままのプロポーズ。
字面だけみれば男としてあまり褒められた物ではないのかもしれない、しかしエリザベートはそれを笑顔で了承してくれた。
そして俺達はサクラさんに言われた通りしっかりと五秒以上のキスを交わす。
もしかしなくてもキスをする必要は無かったかもしれない。
なにせエリザベートは自分で勝手にご機嫌をなおしてしまったからな、まったくどこまでも他人の都合を気にしない奴だ。
でもまあ、俺達がこうなるまでに十年かかった。五秒くらいは勘弁してもらおう。
「約束は果たせそうもないな」
「約束って?」
「世界を征服したらお前の物になるというアレじゃ」
「ああ…… なんか順序が逆になってしまいましたね」
「いや、そういう意味ではない」
「え?」
「妾は最初からお前の物じゃった、既にあげていた物はあげられん」
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