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俺の悪役令嬢が世界征服するらしい

ヤマト00

第28話 お嬢様と鎧の騎士(前編)

 ここはいいから先に行け!! なんて漫画でしか見た事ないシチュエーションを身を持って披露してくれたアリシアさん、キャスカさん、ツバキさんのお陰で俺とフレデリカさんは魔物達から上手く逃げ切る事ができた。
 お願い! 死なないで皆!! このエピソードを乗り切ればきっとギャグ時空に戻れるんだから!!
 よし、このくらいふざけておけば空気的に皆は死なないだろう。


 幼女(といっても年齢不明)を脇に抱えて森を駆け抜けている、なんていうのは何とも犯罪的で自分でもかなり危うい絵面だと思う。
 もし騎士団とかに見られでもしたら明日の新聞の一面は間違いなく俺が主役だろう。
 それにしてもフレデリカさん軽いなぁ。触れているあばらの感触がなければ本当に抱えているのかさえ不安になる程だ、もっと食べてブクブク太ればいいのに。


「執事さん、止まって下さい」


 フレデリカさんの意向で俺は足を止める。


「どうかしたんですか?」
「魔力の反応が近いです。ここからは周囲の魔物を刺激しない様に静かに移動した方が得策かと」
「そうですか、俺にあばらを触られるのが嫌になったのかとヒヤヒヤしましたよ」
「それは別にいいですけど、貴方が触っていたのはあばらではなく胸だったという事は伝えておきます」
「なんと」


 まさかまさかの衝撃の事実、これは逮捕とか通り越して死刑になりかねないな。


「じゃあこれからはちゃんとあばらを触って抱えますね」
「いえ、下ろして貰っていいですか?」


 俺はフレデリカさんの希望通り彼女を下ろす。別に軽いから楽をしてもらうという意味で抱えたままでもよかったのだけど仕方ないか。決してあばらに触れたい訳じゃないぞ? 俺にそんな趣味は無い。
 そこから俺達は極力物音を立てずにフレデリカさんの言うエリザベートの居場所を目指していく。
 まあフレデリカさんは微妙に浮遊しているのでそもそも足音を立てる要素がない、故にもし魔物に気付かれれば俺の責任である。


「それにしても魔力が暴走しただけでこんな事態になるなんて、魔法使いっていうのも大変なんですね」
「いえ、通常の魔法使いならこんな事象はそもそもあり得ません」
「そうなんですか?」
「そも人間の脆弱な体では暴走する程の魔力を制御できませんから」
「え、でも現にエリザベートは暴走してるじゃないですか」
「彼女は例外中の例外です、恐らくエリザベート様の魔力は質、量ともに私の数千倍に匹敵するでしょう」
「数千倍!?」


 フレデリカさんが一体魔法使いとしてどれ程の実力者なのかは不明だが、それでも数千倍という数字は驚嘆に値すべき数字だろう。なにせ世界が滅ぶレベルなんだからな。


「今は無意識に理性が働いて結界を張ってはいますが、それも長くは持たないでしょう。日が沈み切るまでがタイムリミットでしょうね」
「なんかすみませんね。内のお嬢様のせいで何か巻き込んでしまって」
「いえ、私もあの人に魔導書を売ったのですから責任がない訳でもない事もないですし」
「それ結果的にないって言ってませんか?」


 いやまあ魔導書は半ば強引に売って貰ったしやっぱり俺とエリザベートが悪いからいいんだけど。


「アレの製造だって毎日大変だというのに、今度は荷物を届けろだなんて…… 本当に人使いの荒い事です」
「本当にすみません……」


 どうもエリザベートは魔法を覚えてからというもの深夜に転移魔法であっちへフラフラ、こっちへフラフラ出回る事が増えた。引き籠り脱却はいい事だけれどせめて行先くらい告げてから出かけて欲しい。
 思えばそれが原因で口喧嘩した事もあったっけ。
 本人曰くビックリさせたいからだとは言っていたけれど、何を企んでいる事やら……
 怪しい魔法実験、深夜徘徊、変態仮面としての悪人狩り、本当は分身でもしてるんじゃなかろうか。


「執事さん、見つけました」


 俺の前を歩いていたフレデリカさんが急に立ち止まる。
 そして彼女が指さした先――森の開けた場所には茨で形成されたドームのような物が存在していた。 
 それだけでも異様な光景だったが、俺はさらに異様な物に目を奪われていた。


「なんですかあの鎧騎士は?」


 まるで血のように赤い真紅のプレートアーマー。体格はかなり大きく二メートル強はあるだろうか。
 その騎士は、まるでドームを守護するかのように大剣を地面に突き立てた状態で仁王立ちしていた。
 どちら様だろうか?


「アレは召喚獣の一種ですね、さしずめ眠り姫を守るナイトと言った所でしょうか」


 随分とロマンティックな表現だったが、鎧騎士が放つ気配は素人である俺でさえ息苦しくなる程だった。
 ギガロマンティスが可愛く見えてくる。


「エリザベートはドームの中ですか?」
「ええ、中心から強い魔力を感じます」


 じゃあやっぱり、アレと戦うしかないという事か…… アリシアさん達が恋しいね。


「大丈夫です、きっとあの人達も天国で見守ってくれていますよ」
「いや、まだ皆死んでないからね?」


 何とも不謹慎な幼女だった。





 事あるごとに起こる戦闘イベントにおいてあまり活躍していない俺こと周防ミコトではあるが、それは周囲の人間があまりに人外紛いの戦闘能力を有しているからであって俺自身は決して貧弱という訳ではない。
 ブリュンスタッド家の執事になってからはエリザベートを警護する為に(警護する必要があるかはまた別の問題)戦闘訓練を受けさせられていた。
 基礎的な筋力トレーニングや体力作り、体術、剣や銃の扱いとそれ必要? というような技術までとにかく多くを叩き込まれた。
 俺個人としては争い事は好まないので喧嘩がいくら強くなった所であまり嬉しくはない。
 しかしどうも今回はそうも言っていられない状況のようだ。


「どうしますか、向こうはこっちに気付いていないみたいですけど」


 俺とフレデリカさんは木陰から茨のドームを守護する鎧騎士の様子を観察していた。


「ちょっと試してみますか」


 フレデリカさんはそう言うと足元に落ちていた石ころを拾って鎧騎士へと放り投げた。


『――――ッ』


 鎧騎士は石ころが大剣の間合いに入ると即座にそれ切り払った。


「やはり一定の範囲内のものを自動で迎撃するようになっているみたいですね」
「じゃあ遠距離攻撃でなんとかできないんですか?」
「……無駄だとは思いますがまあ試してみますか」


 と、フレデリカさんは杖を掲げる。


「■■■■■■■■■■■■■」


 やはり近くで聞いてもよく聞き取れない呪文の詠唱だった。
 そして杖の先っしょ辺りに小さな火球が出現する。


「《ファイアーボール》」


 見たまんまの名前で分かりやすい火球魔法は鎧騎士に向かって一直線に杖から発射される。
 直撃――大きさの割に結構な爆発が発生する。
 爆煙が次第に晴れていき、そこからは無傷の鎧騎士が何事も無かったように立っていた。


「魔法耐性が高すぎますね、遠距離攻撃はほぼ無意味だと思った方がいいでしょう」
「じゃあ……」
「はぁ…… あまり気は進みませんが近距離戦しかありませんね。ほんと今日は厄日ですよ」


 フレデリカさんは空間に魔法陣を出現させてそれに手を突っ込み、一本の直剣を取り出した。


「アリシア様の魔剣程ではありませんが私の魔力で強化してある剣です、無いよりはマシでしょう」


 そう言うとフレデリカさんはその剣を俺に渡してくれた。


「じゃあ行きましょうか、正念場ですよ執事さん」

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