俺の悪役令嬢が世界征服するらしい
第26話 お嬢様、さらに引き篭もる。
「さあ、ひれ伏しなさい! そして崇めなさい!!  ミスリム帝国のNо.1アイドルにして最強の女騎士。アリシア・フローレンス・スタンフィールドここに見参よ!!」
突如空中より飛来し、ブリュンスタッド家の屋敷に展開された結界を一撃で破壊したアリシアさんはまるでスポットライトでも当たっているかの如く口上を述べる。
「アリシアさん、どうしてここに?」
確か俺が屋敷を訪れた際にはかなりのハードスケジュールだと聞いていたが。
それに今のアリシアさんの格好――いつもの水色のドレスには胸部と左右の手足に軽装防具が装着されている。明らかに戦装束だ。
通りがかり、という訳ではないよな。
「それは私からご説明致しましょう」
「キャスカさん、息をするように俺の背後をとるの止めてもらっていいですか」
俺は背後に暗殺者の如く現れたキャスカさんに文句を言う。
皆俺を驚かせないと登場すらできないのか?
「あれ、キャスカさんは普通の格好なんですね」
「何を仰います、私達にとってはこのメイド服こそが戦闘服です」
「無駄に格好いい…」
使用人の鑑のような人だ――アリシア大好きマジキチメイドでさえなければ。
そんなキャスカさんは「コホンッ」と咳ばらいをしてから事のあらましを説明してくれた。
「実はつい数刻前にサクラ様からお電話がありまして、『エリザベート様とミコトさんが大変なの!! アーちゃんの力が絶対必要!! 皆アーちゃんのオンステージを待ち望んでいるよ!!』との言伝を預かりました。それを聞いたアリシア様は「しょ~ がないわね~!!」と言って本日の予定を全てドタキャン。武器一式を持って文字通りこちらにジャンプで飛んできたという訳です」
まさかの跳躍のみでここまで来たのか…… 知ってはいたが恐ろしい身体能力だな。
しかし俺を拉致するのと同時にサクラさんが手を回していたとは、中々にくい演出をしてくれる。
「ちょっと!! それじゃあまるで私がコイツ等が心配で来たみたいじゃない!?」
アリシアさんはキャスカさんの説明に対して魔剣デュランダルXを振り回しながら地団駄を踏む。
あの様子じゃ図星なんだろうな、絵に描いたようなツンデレっぷり恐れ入るぜ。
「執事さん執事さん。お取込み中申し訳ないのですが、結界が再生していってますよ?」
「え!?」
フレデリカさんの言う通り、屋敷の結界は破片が一人でに集まり修復が始まっていた。
このままではまた閉じてしまう。
「皆! 早く中へ!!」
「「「「え~ あの中に入るの~」」」」
「何しに来たんだよお前達は!?」
そして俺達は纏まりがあるんだがないんだか分からないまま、密林と化したブリュンスタッド邸へと足を踏み入れていった。まるでやらせ満載のUMA探検隊にでもなった気分だぜ。
まあUMAなんかより何百倍も危険な生物であるエリザベートに接触しないといけないので間違いではないか。
とりあえず途中で売れないバンドのように空中分解しない事を祈るばかりである。
◇
なんで自分の家に帰るのにパーティーを組まねばならないのか。なんて文句はさておくとして、こんだけキャラが集合するとまるで漫画の最終回前みたいだ。
もしかして俺の人生の終わりが近かったりはしないですよね?
頼むぜ神様、『俺達の世界征服はこれからだ!!』的なエンドでいいからハッピーエンドにしてくれよな。
さてさて、密林と化したブリュンスタッド家の庭園を歩く俺達は俺以外の人達と初対面であるフレデリカさんの紹介もそこそこに先を進んでいた。
目的地は当然エリザベート、魔力が探知できるフレデリカさんのナビゲーションのお陰で何とか迷わずに進めている状態だ。
「それにしてもあのエリザベートがねぇ~ まさかここまで平民を気に入っていただなんて…… まあ薄々そうなんじゃないかとは思っていたけれど、ねえキャスカ?」
「そうですね。ミコトさんも隅に置けません」
「せやろ、ほんま幸せもんやで。超絶逆玉やもんな~」
「お二方共お若い事ですね、ちょっと羨ましいです」
「……」
話題が辛い!! というより恥ずかしい……
こういうのはどうもなれない、まるで晒し者だ。
俺は小学生の時に隣の席の女子の消しゴムを拾っただけで噂された事を思い出しながら、どうにか話題を変えようと考えていた。
そして俺はとある話題を見つける。
「そういえばアリシアさんのその剣って本当に魔剣だったんですね。いやあ~ 格好いいな~ 少し持たせてもらってもいいですか?」
「別にいいけど重いわよ?」
アリシアさんは腰に差してある剣を俺に差し出す。
華美な装飾こそないものの柄の部分には宝玉のような物が埋め込まれた片手直剣。
見た感じではそこまで重くはなさそうだが……
「――ッ!!?」
剣はアリシアさんの手から俺の手へと渡った瞬間に俺の腕ごと地面へとめり込んだ。
「あああああああ!! アリシアさん早く助けて!!」
いやもうこれ重いとか軽いとか以前になんかこう概念的に持ち上げられないような感じだぞ!?
アリシアさんは「だから言ったじゃない」と剣を片手でヒョイと持ち上げて腰に差す。
「この魔剣デュランダルオーバーロードは選ばれし者しか持つことができないのよ」
「あれ、魔剣デュランダルXじゃありませんでしたっけ?」
「……この魔剣デュランダルXは選ばれし者しか持つことができないのよ」
「言い直した……」
なんて雑な人なんだ、これだと本当にXなのかどうかすら怪しいぞ。
「キャスカさん、あれって本当に魔剣デュランダルXって言うんですか?」
俺は事の真相を確かめるべくキャスカさんに耳打ちで訪ねる。
「え? あれは通販カタログで見つけた特売品の模擬刀ですよ?」
「玩具かーい!?」
もはや武器ですら無かった。
購入した玩具に名前を付けるとは、どうも精神年齢が小学二年生くらいで止まってるらしい。
「因みにお値段は一シルバーです」
「安ぅ!?」
「しかも付属品としてバンダナがついてきました」
「うわ、いらねッ!!」
せめて予備の剣をサービスしておけよ。
「あれ? でもそうなるとアリシアさんが結界を破壊できた事への説明がつかないのでは?」
なんか重箱の隅を突いているような気がしたがとりあえず聞いてみた。
「恐らく《無剣の加護》のせいでしょうね」
しかし答えたのは俺のすぐ横を浮遊しながら進んでいるフレデリカさんだった。
《無剣の加護》って確かアリシアさんが持ってる御三家能力の一つだっけ。
「《無剣の加護》は如何なる聖剣や魔剣も使いこなせる能力とされていますが、その実態は『その者が手にした物は全て本人専用の聖剣や魔剣に変化する』という物なのです」
「そんな裏設定が……」
しかしそれで合点が言った。要するにアリシアさんは玩具の剣を能力で魔剣に変化させていたのだ。
聞けば手にする物は何でもいいらしく、木の枝や鉛筆、フォークなんかでも武器に変化させられるらしい。
それがアリシアさんのもう一つの加護、《剛腕の加護》と相まって絶大な威力を発揮しているらしい。
明らかに生まれてくる世界を間違えているな、もっとバトルよりな世界に転生すればいいのに。
「止まって」
先行していたアリシアさんが突然声をあげて、俺達の動きを制する。
「近くに何かいるわ」
「何かってなんですか?」
俺は剣に手を掛けているアリシアさんに聞き返す。
屋敷には俺とエリザベートしか住んでいない筈なのだが、まさか早くもエリザベートと遭遇か?
「ん?」
しかし俺が目撃したのはエリザベートではなかった。
その巨大な何かはゆっくりと茂みの中から姿を現す。
赤く光る二つの複眼、緑色の体表、そして発達した鋭利な鎌状の前足。
なんの事はない、ただのおっきなカマキリさんだ。
「アリシアさん、あれって……」
「私が来ててよかったわね、アレはギガロ・マンティス。特Aランク相当の魔物よ」
巨大なカマキリ系の魔物を前に俺は二つ重大な事実を見落とていた事に気付いた。
一つは屋敷内に住んでいたのは俺とエリザベートだけではなかったという事。屋敷、正確には庭園に生息する他の野生生物達の存在、それを見落としていた。
そして二つ目は、エリザベートの魔力流出により異常成長したのは植物だけでは無かったという事だ。
どうも、そう簡単には引き篭もりお嬢様の元にいかせてくれないらしい。
突如空中より飛来し、ブリュンスタッド家の屋敷に展開された結界を一撃で破壊したアリシアさんはまるでスポットライトでも当たっているかの如く口上を述べる。
「アリシアさん、どうしてここに?」
確か俺が屋敷を訪れた際にはかなりのハードスケジュールだと聞いていたが。
それに今のアリシアさんの格好――いつもの水色のドレスには胸部と左右の手足に軽装防具が装着されている。明らかに戦装束だ。
通りがかり、という訳ではないよな。
「それは私からご説明致しましょう」
「キャスカさん、息をするように俺の背後をとるの止めてもらっていいですか」
俺は背後に暗殺者の如く現れたキャスカさんに文句を言う。
皆俺を驚かせないと登場すらできないのか?
「あれ、キャスカさんは普通の格好なんですね」
「何を仰います、私達にとってはこのメイド服こそが戦闘服です」
「無駄に格好いい…」
使用人の鑑のような人だ――アリシア大好きマジキチメイドでさえなければ。
そんなキャスカさんは「コホンッ」と咳ばらいをしてから事のあらましを説明してくれた。
「実はつい数刻前にサクラ様からお電話がありまして、『エリザベート様とミコトさんが大変なの!! アーちゃんの力が絶対必要!! 皆アーちゃんのオンステージを待ち望んでいるよ!!』との言伝を預かりました。それを聞いたアリシア様は「しょ~ がないわね~!!」と言って本日の予定を全てドタキャン。武器一式を持って文字通りこちらにジャンプで飛んできたという訳です」
まさかの跳躍のみでここまで来たのか…… 知ってはいたが恐ろしい身体能力だな。
しかし俺を拉致するのと同時にサクラさんが手を回していたとは、中々にくい演出をしてくれる。
「ちょっと!! それじゃあまるで私がコイツ等が心配で来たみたいじゃない!?」
アリシアさんはキャスカさんの説明に対して魔剣デュランダルXを振り回しながら地団駄を踏む。
あの様子じゃ図星なんだろうな、絵に描いたようなツンデレっぷり恐れ入るぜ。
「執事さん執事さん。お取込み中申し訳ないのですが、結界が再生していってますよ?」
「え!?」
フレデリカさんの言う通り、屋敷の結界は破片が一人でに集まり修復が始まっていた。
このままではまた閉じてしまう。
「皆! 早く中へ!!」
「「「「え~ あの中に入るの~」」」」
「何しに来たんだよお前達は!?」
そして俺達は纏まりがあるんだがないんだか分からないまま、密林と化したブリュンスタッド邸へと足を踏み入れていった。まるでやらせ満載のUMA探検隊にでもなった気分だぜ。
まあUMAなんかより何百倍も危険な生物であるエリザベートに接触しないといけないので間違いではないか。
とりあえず途中で売れないバンドのように空中分解しない事を祈るばかりである。
◇
なんで自分の家に帰るのにパーティーを組まねばならないのか。なんて文句はさておくとして、こんだけキャラが集合するとまるで漫画の最終回前みたいだ。
もしかして俺の人生の終わりが近かったりはしないですよね?
頼むぜ神様、『俺達の世界征服はこれからだ!!』的なエンドでいいからハッピーエンドにしてくれよな。
さてさて、密林と化したブリュンスタッド家の庭園を歩く俺達は俺以外の人達と初対面であるフレデリカさんの紹介もそこそこに先を進んでいた。
目的地は当然エリザベート、魔力が探知できるフレデリカさんのナビゲーションのお陰で何とか迷わずに進めている状態だ。
「それにしてもあのエリザベートがねぇ~ まさかここまで平民を気に入っていただなんて…… まあ薄々そうなんじゃないかとは思っていたけれど、ねえキャスカ?」
「そうですね。ミコトさんも隅に置けません」
「せやろ、ほんま幸せもんやで。超絶逆玉やもんな~」
「お二方共お若い事ですね、ちょっと羨ましいです」
「……」
話題が辛い!! というより恥ずかしい……
こういうのはどうもなれない、まるで晒し者だ。
俺は小学生の時に隣の席の女子の消しゴムを拾っただけで噂された事を思い出しながら、どうにか話題を変えようと考えていた。
そして俺はとある話題を見つける。
「そういえばアリシアさんのその剣って本当に魔剣だったんですね。いやあ~ 格好いいな~ 少し持たせてもらってもいいですか?」
「別にいいけど重いわよ?」
アリシアさんは腰に差してある剣を俺に差し出す。
華美な装飾こそないものの柄の部分には宝玉のような物が埋め込まれた片手直剣。
見た感じではそこまで重くはなさそうだが……
「――ッ!!?」
剣はアリシアさんの手から俺の手へと渡った瞬間に俺の腕ごと地面へとめり込んだ。
「あああああああ!! アリシアさん早く助けて!!」
いやもうこれ重いとか軽いとか以前になんかこう概念的に持ち上げられないような感じだぞ!?
アリシアさんは「だから言ったじゃない」と剣を片手でヒョイと持ち上げて腰に差す。
「この魔剣デュランダルオーバーロードは選ばれし者しか持つことができないのよ」
「あれ、魔剣デュランダルXじゃありませんでしたっけ?」
「……この魔剣デュランダルXは選ばれし者しか持つことができないのよ」
「言い直した……」
なんて雑な人なんだ、これだと本当にXなのかどうかすら怪しいぞ。
「キャスカさん、あれって本当に魔剣デュランダルXって言うんですか?」
俺は事の真相を確かめるべくキャスカさんに耳打ちで訪ねる。
「え? あれは通販カタログで見つけた特売品の模擬刀ですよ?」
「玩具かーい!?」
もはや武器ですら無かった。
購入した玩具に名前を付けるとは、どうも精神年齢が小学二年生くらいで止まってるらしい。
「因みにお値段は一シルバーです」
「安ぅ!?」
「しかも付属品としてバンダナがついてきました」
「うわ、いらねッ!!」
せめて予備の剣をサービスしておけよ。
「あれ? でもそうなるとアリシアさんが結界を破壊できた事への説明がつかないのでは?」
なんか重箱の隅を突いているような気がしたがとりあえず聞いてみた。
「恐らく《無剣の加護》のせいでしょうね」
しかし答えたのは俺のすぐ横を浮遊しながら進んでいるフレデリカさんだった。
《無剣の加護》って確かアリシアさんが持ってる御三家能力の一つだっけ。
「《無剣の加護》は如何なる聖剣や魔剣も使いこなせる能力とされていますが、その実態は『その者が手にした物は全て本人専用の聖剣や魔剣に変化する』という物なのです」
「そんな裏設定が……」
しかしそれで合点が言った。要するにアリシアさんは玩具の剣を能力で魔剣に変化させていたのだ。
聞けば手にする物は何でもいいらしく、木の枝や鉛筆、フォークなんかでも武器に変化させられるらしい。
それがアリシアさんのもう一つの加護、《剛腕の加護》と相まって絶大な威力を発揮しているらしい。
明らかに生まれてくる世界を間違えているな、もっとバトルよりな世界に転生すればいいのに。
「止まって」
先行していたアリシアさんが突然声をあげて、俺達の動きを制する。
「近くに何かいるわ」
「何かってなんですか?」
俺は剣に手を掛けているアリシアさんに聞き返す。
屋敷には俺とエリザベートしか住んでいない筈なのだが、まさか早くもエリザベートと遭遇か?
「ん?」
しかし俺が目撃したのはエリザベートではなかった。
その巨大な何かはゆっくりと茂みの中から姿を現す。
赤く光る二つの複眼、緑色の体表、そして発達した鋭利な鎌状の前足。
なんの事はない、ただのおっきなカマキリさんだ。
「アリシアさん、あれって……」
「私が来ててよかったわね、アレはギガロ・マンティス。特Aランク相当の魔物よ」
巨大なカマキリ系の魔物を前に俺は二つ重大な事実を見落とていた事に気付いた。
一つは屋敷内に住んでいたのは俺とエリザベートだけではなかったという事。屋敷、正確には庭園に生息する他の野生生物達の存在、それを見落としていた。
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