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俺の悪役令嬢が世界征服するらしい

ヤマト00

第25話 お嬢様、引き籠る。

 サクラさんによる世間話という名の圧迫面接を終えた俺はイザヨイ家の正面門の前へと来ていた。
 なんとも立派な木製の長屋門、扉にはイザヨイ家の家紋である黒い蝶が描かれている。
 日本に住んでいた俺でさえここまで立派な物は見たことがない。


「すまんなミコトはん、お嬢は未来視の影響で体力が限界に近いんよ。せやからここからは代わりにワイが同行させてもらいますわ」


 ツバキさんは日本刀を腰に差しながらそう言った。
 何故日本刀? 


「同行って、何か理由があるんですか?」
「何をいうてまんねん、たっぷりとこの目に焼き付けておかんとな。ミコトはんのファーストキッスを」
「ただの冷やかしじゃねえか!!」


 今すぐ屋敷に帰れ! 見世物じゃないんだよ!!


「冗談や、万が一の時に備えての護衛みたいなもんやから気にせんといて」
「それなら別にいいですけど……」


 狐面のせいで表情が読めない分冗談かどうか分かりずらいんだよなあこの人。
 まあその万が一の時が来ない事を祈ろう。
 俺はふと現在の時刻を確認する為に懐中時計を取り出す。


「凄い。あの《神室しんしつ》って本当に外と時間の流れが違うんですね」


 俺が気絶させられて目覚めてから少なくとも体感で一時間近くは経っていると思ったのだが、懐中時計の針は十分程度しか経っていなかった。


「あの部屋は元々お嬢が未来をより鮮明に見る為に作られた場所やからね、身内以外で入ったんわ何気にミコトはんが初めてちゃうかな」


 そうだったのか、俺はてっきりサクラさんが同人誌製作の時間短縮に使っているものとばかり思っていた。


「最も大体はお嬢が同人誌製作の時間を短縮する為に使ってるんやけど」
「ビンゴォ!!」


 期待を裏切らない人だな。
 もっと他に使い道があんだろ。


「あ、そうそう最後にお嬢から伝言があるんやった」
「伝言?」
「『この借りは人気投票の時に私の順位を上げる事で返してね!』やって」
「なんですか人気投票って……」


 誰が投票するんだよそんなの、大人数のアイドルグループじゃあるまいし。
 仮にあったとしてもどうせサクラさんって精々三位くらいだろう(超失礼)。


「そういえばサクラさんってこの後どうなるか未来が見えてるんですか?」


 予め未来が見えているのなら、この先の展開を聞いておきたいんだが。


「ん~ 難しいな。今回の場合はミコトはんに助言した事でまた数万パターンの未来が生まれとるらしいから。この世界が果たしてどのルートを辿るのかはワイら次第やね」
「なるほど」


 本来なら世界が滅ぶ可能性もあるこの状況を不安に思うのが普通なのかもしれない、だが俺の頬は自然に緩んでしまっていた。
 当然ツバキさんはそんな俺を見て「何で笑っとるん?」と首を傾げる。


「なんか嬉しくなったものでつい」
「?」
「必ずしも決まった未来が一つある訳じゃないんだな~って」


 変えられる、選択できるんだ、俺達は――未来を。
 俺は意を決して開けれた門の外へと足を踏み出す。


「じゃあ行きましょうか、さっさと路線をシリアスからギャグに戻さないと俺の身が持たないので」
「そっちなん?」





 イザヨイ家を後にした俺とツバキさんは急いでブリュンスタッド家の屋敷へと戻る事にした。
 この世界の人間が使える移動手段の中で最もポピュラーなのは馬車なのだが、なんと今回はツバキさんが俺をおんぶしてランするという奇怪な選択肢を取る事になった。
 理由は単純、ツバキさんの速力が馬を完全に凌駕していたのである。


「ああああああああああああああああああああ!! 速い速い速い速いィッ!!?」
「情けない声だしいな、男の子やろ」


 確かに我ながらかなり間抜けな叫び声をあげていると思うが、これは仕方ない。
 だって余りにも早すぎるんだもん、明らかに時速二〇〇kmくらい出てる。
 只者ではないと思っていたけれど、この人御三家令嬢達に負けず劣らずの人外っぷりだ。






 絶叫マシンと化したツバキさんに揺られること数十分、俺は体力の半分以上を削られた状態で屋敷まで戻ってきた。何とも代償がデカい移動アイテムだ。


「なんじゃこりゃ!?」


 しかし俺達を待ち受けていたのは変わり果てたブリュンスタッド邸の姿だった。
 屋敷の邸内には歪に捩じれた木々が屋敷中を取り囲むように生い茂っており、まるで巨大な森が突然屋敷に出現したような感じだ。


「恐らくエリザベートはんの魔力が周囲の植物を異常成長させたんやろうな」
「これって入っても大丈夫なんですか?」
「まあ入る分には問題ないと思うで、問題は入れるかどうかやけど」


 そう言うとツバキさんは正門の一部に触れようと右手を伸ばす、しかしその指先は薄い膜のような物に阻まれ門に触れる事ができなかった。


「やっぱ結界が張られとるね」
「それってエリザベートが?」
「たぶん無意識の内に魔力の流出を止めようとしてるんやと思うで、さもなきゃ今頃国中がジャングルやろな」


 だがそれが逆にエリザベートを屋敷の中へ引き籠らせる形になったという事のようだ。
 まったく、また一段とヒッキーレベルが上がったものだな。


「結界、敗れそうですか?」
「時間を掛ければ、でもそれだとタッチの差で間に合わん可能性もあるな~」
「そうですか……」
「これやとミコトはんがエリザベートはんのおっぱいにタッチできるかどうかも怪しいわ」
「誰がいつそんな事するって言いましたか?」


 しかしどうした物か。マジカルな知識は俺にはないし……
 かと言って時間がある訳でもない、ん~ お助けキャラが欲しいぜ。


「つんつん」
「?」


 考え込んでいると俺は腰の辺りを突く者の存在に気が付いた。
 振り返るとなんと意外、新キャラだ。
 紫を基調としたカラーリングのゴスロリ服に身を包んだ八歳くらいの幼女。
 色素の抜けた白髪、そして死人のように白い肌はどこなく幼女が普通の人間ではない事を現している気がした。
 右手には先端に宝石の付いた大きな杖を持っているし、如何にも魔法キャラっぽい。
 だが可哀想に、もう今から新キャラを掘り下げている尺はないぞ? もう少し早く出てきてもらわないとこっちにも段取りって物があるんだよな。


「えっと、お嬢ちゃんは?」


 俺は腰を落として幼女に話かける。
 幼女は「?」と首を傾げ、少し考えるような素振りを見せた後何か納得したような表情を浮かべる。
 そして咳払いの後に、こう言った。


「そうでした、執事さんにこの姿で会うのは初めてでした」
「?」
「お忘れですか? 魔道具屋のフレデリカでございます」
「はぁ!?」


 新キャラじゃない! 既存のキャラだ!!
 前にあった時は梅干しみたいな婆さんだったのに……
 ああ、でもエリザベートがあれは精巧に作られた人形って言ってたっけ。
 それにしても今回はまた随分と極端な姿だな。


「本日はエリザベート様に頼まれていた品をお届けにあがったのですが、何やら凄い事になっていますね」


 フレデリカさんは屋敷を見上げて何やら状況を粗方理解したようだった。
 流石は魔法に精通している魔道具屋の店主なだけはある。


「困りましたね、これでは荷物をお渡しできません」
「なんなら僕が受け取っておきましょうか?」
「あ、いえ。『絶対に執事には渡すな』とのご要望でしたので直接お渡しに参ったのです」
「そういう事なら無理にとは言いませんけど……」


 ネットショッピングでエロ本を買った中学生じゃあるまいし。
 一体何を頼んだんだ?
 というかこの人はこんな宅配サービスまで請け負っているのか?


「はぁ…… 三日前に突然やってきて無理難題な注文をしたかと思えば受け取り人不在。折角老体に鞭打ってきたというのに…… はぁ…… 関わるんじゃなかったです……」


 一回の会話文内で二回も溜息を付いたフレデリカさん。
 どうやら初めて出会った日からエリザベートに都合よくこき使われているらしい。


「フレデリカさん、この屋敷に貼ってある結界ってすぐに解除できたりしますか?」
「無理ですね」


 即答だった。


「見た所かなり強力な結界ですので、高出力の魔力攻撃か物理攻撃で無理やりこじ開けるしかありません。生憎私ではご期待にはそえないでしょう」
「そうですか……」


 そう都合よくは行かないか。
 仕方ない、別の方法を考えよう――と思っていたその時、


「まったく、本当に仕方ない奴らねアンタ達は――」


 聞き覚えのある高圧的な声、その後すぐに銀色の閃光が俺の頭上で結界に激突した。
 凄まじい衝撃波と爆音が広がり、俺は思わず身を屈める。
 そしてガラス細工のように砕けていく結界、銀色の閃光は人影へと姿を変え舞い落ちる破片と共に俺達の前へと降りたつ。


「感謝しなさい、平民。シークレットゲストとしてこの私が参加してあげるんだから」


 それは銀色の髪と瞳を持つ妖精のように可憐な一人の少女――アリシア・フローレンス・スタンフィールドだった。
 さっき着地する時にクマちゃんプリントパンツが見えたから間違いない。

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