俺の悪役令嬢が世界征服するらしい
第21話 お嬢様、喧嘩する。
俺が異世界に飛ばされてからもう十年が経つ。
それはつまり俺がブリュンスタッド家に拾われてから十年という事であり――
そして俺がエリザベートの執事になってから十年という事になる。
十年、人生のおよそ半分をこっちで過ごした俺はもう逆に地球の記憶の方がおぼろげになりつつある。
覚えているのは当時やっていた漫画やアニメ、そして家族や数少なかった友人の事くらいだ。
たぶん地球では俺の葬式がさぞ盛大に行われた事だろう、ちょっと見てみたくもある。
それはさておき、十年も我が儘お嬢様の執事をやっている俺の精神力は最早聖人の域に達していなくも無いわけで、ある程度の事は許容できるスキルを獲得している。
無理難題を押し付けられようが、殴られようが蹴られようが踏みつけられようが、まあなんとか耐えられるのだ。
ストレス解消も使用人の仕事の内、ご主人様に常に快適に過ごして貰うのが執事としての務めである。
海よりも広い心、それこそがエリザベートと共に暮らしていく上で必要不可欠な物だ。
◇
「出ていけ」
エリザベートは憤怒の眼差しを俺に向ける。
そして俺も負けじと睨み返す。
「ええ、ええ! いいですとも。出て行ってあげますよなんたってご主人様のご命令ですからね!!」
「はッ! これで口煩いお前ともおさらば出来ると思うと清々するわい!!」
「ああそうですかそうですか。俺もやっと肩の荷が下りて助かりますよ!!」
俺とエリザベートの間に火花が散る。
そして始まるのは見るに耐えない罵りあいだ。
「アホ」
「我が儘女」
「根性なし」
「高慢ちき」
「童貞平民!!」
「処女貴族!!」
「「ぐぬぬぬぬぬ…… ふんッ!!」」
俺とエリザベートはどこぞの不良顔負けのメンチを切ると同時に反対方向を向いて互いに振り返らずに歩き出す。
広い心がとか大きな口を叩いた後で申し訳ない。
なんというか――エリザベートと喧嘩しましたとさ。
◇
「それで屋敷を飛び出して私の所に来たって訳?」
「ええ、まさかあそこまでアホ女だとは思ってましたけど思いませんでしたよ!!」
「どっちなのよ……」
俺は現在、スタンフィールド家の――つまりアリシア・フローレンス・スタンフィールド嬢の屋敷に来ていた。
ここは屋敷のその大広間。流石は御三家、ブリュンスタッド家に負けず劣らずの豪華さだ。
執事もメイドも美男美女揃い、茶菓子も美味いし。桃源郷かな?
「そう、もうアンタ達が大喧嘩する季節になったのね」
「人の喧嘩を季節の変わり目にしないで下さい」
「はぁ~……」
アリシアさんは大きな椅子に座って足を組み、銀髪をいじりながら溜息をつく。
「で、原因はなんなのよ?」
「?」
「だから喧嘩の原因よ、何をどうしたらそんなに話が拗れる訳?」
「……えっと、なんでしたっけ?」
「キャスカ、この愚物をさっさと屋敷から叩きだしなさい」
「畏まりましたアリシア様」
「待って待って待って! 今思い出しますから!!」
俺は突如天井から現れたキャスカさんを両手でセーブしながら喧嘩の原因を思い出す。
なにせ売り言葉に買い言葉で互いに火に油を注ぎあった末の喧嘩だったのでこれといった原因が曖昧だ。
あの言葉な気もするし、あの言葉という可能性も捨てきれない。
最早どっちが先に話を振ったのかさえよく覚えていない。
二時間、いや三時間は口論していたからな。
だが、一番最初の会話となると――
「えっと、確かお嬢様が『ところでミコトよ。今日はお前にとって記念すべき日じゃな』的な事を言って『なんでしたっけ?』みたいな返しをして~ え~っと……」
「ああ、それは怒るわね」
「ああ、それは怒りますね」
「え!?」
どうやら今の話で完全に俺が悪い事になってしまったようだった。
「あれ、今日ってなんか特別な日でしたっけ?」
因みに今日は六月六日である。
む~ 登場人物プロフィールには今日が誕生日の人間なぞいなかった筈…… 六月六日、悪魔降臨の儀式とかだろうか?
去年も別に何かあった訳じゃないし、その前もさらに前の年も何かあった訳ではない、と思う。
「ん~ 原因が分からないと謝りようがないな」
「あ、一応謝る気はあるのね」
「アハハハ、だってお嬢様が人より先に謝るなんて天地がひっくり返ってもありえないですからね」
「まあ確かにそうね……」
「しかし困りましたね。このままだと俺は一生アリシアさんに養って貰わないといけないですし」
「なんでよ!?」
「だってアリシアさんってそろそろ俺の事が異性として気になりかけてきてる頃でしょ?」
「いきなり恋愛ハーレム主人公気取るのやめて」
「おかしいですね…… ここでフラグがたってルートが分岐する筈だったのに。そして俺がそのフラグをへし折る予定だったのに」
「なんでへし折るのよ!?」
俺とアリシアさんが馬鹿な会話をしているとキャスカさんが時計を気にし始める。
「アリシア様、そろそろお時間です」
「あらもうそんな時間? じゃあ準備しないとね」
「? 何かご予定があるんですか?」
折角三人で楽しく遊ぼうと思ってUNOを持ってきたのに……
どうやらリバースの魔術師と呼ばれた俺の実力を披露する機会はないようだ。
「アリシア様はこれから外壁付近に現れた大型モンスター討伐の指揮をとらないといけないんです」
「へ~」
「その後は定期コンサートの打ち合わせとリハーサル、最後に出資者達との親睦会も控えています」
「へ~ へ~」
大忙しじゃないか、どこかの金髪蒼顔にも見習って欲しいね。
「という訳で平民。アンタもここから出て行きなさいな」
「え!?」
「当たり前でしょ、主がいなくなるんだから」
「じゃあせめて喧嘩の原因について教えて下さいよ」
「ん~ 別に私が言ってもいいんだろうけれど…… ん~ それってどうなのかしら。アンタが自分で思い出した方がいい気がするのよね~」
「そ、そんな~ ヒントだけでも!!」
「仕方ないわね、じゃあ一つだけ教えてあげるわ。これは貸しよ、いつか百倍にして返しなさい」
そう言ってアリシアさんは椅子から立ち上がると俺の耳元でこう呟いた。
「今日はアンタだけじゃなくてきっとエリザベートにとっても特別な日よ」
それはつまり俺がブリュンスタッド家に拾われてから十年という事であり――
そして俺がエリザベートの執事になってから十年という事になる。
十年、人生のおよそ半分をこっちで過ごした俺はもう逆に地球の記憶の方がおぼろげになりつつある。
覚えているのは当時やっていた漫画やアニメ、そして家族や数少なかった友人の事くらいだ。
たぶん地球では俺の葬式がさぞ盛大に行われた事だろう、ちょっと見てみたくもある。
それはさておき、十年も我が儘お嬢様の執事をやっている俺の精神力は最早聖人の域に達していなくも無いわけで、ある程度の事は許容できるスキルを獲得している。
無理難題を押し付けられようが、殴られようが蹴られようが踏みつけられようが、まあなんとか耐えられるのだ。
ストレス解消も使用人の仕事の内、ご主人様に常に快適に過ごして貰うのが執事としての務めである。
海よりも広い心、それこそがエリザベートと共に暮らしていく上で必要不可欠な物だ。
◇
「出ていけ」
エリザベートは憤怒の眼差しを俺に向ける。
そして俺も負けじと睨み返す。
「ええ、ええ! いいですとも。出て行ってあげますよなんたってご主人様のご命令ですからね!!」
「はッ! これで口煩いお前ともおさらば出来ると思うと清々するわい!!」
「ああそうですかそうですか。俺もやっと肩の荷が下りて助かりますよ!!」
俺とエリザベートの間に火花が散る。
そして始まるのは見るに耐えない罵りあいだ。
「アホ」
「我が儘女」
「根性なし」
「高慢ちき」
「童貞平民!!」
「処女貴族!!」
「「ぐぬぬぬぬぬ…… ふんッ!!」」
俺とエリザベートはどこぞの不良顔負けのメンチを切ると同時に反対方向を向いて互いに振り返らずに歩き出す。
広い心がとか大きな口を叩いた後で申し訳ない。
なんというか――エリザベートと喧嘩しましたとさ。
◇
「それで屋敷を飛び出して私の所に来たって訳?」
「ええ、まさかあそこまでアホ女だとは思ってましたけど思いませんでしたよ!!」
「どっちなのよ……」
俺は現在、スタンフィールド家の――つまりアリシア・フローレンス・スタンフィールド嬢の屋敷に来ていた。
ここは屋敷のその大広間。流石は御三家、ブリュンスタッド家に負けず劣らずの豪華さだ。
執事もメイドも美男美女揃い、茶菓子も美味いし。桃源郷かな?
「そう、もうアンタ達が大喧嘩する季節になったのね」
「人の喧嘩を季節の変わり目にしないで下さい」
「はぁ~……」
アリシアさんは大きな椅子に座って足を組み、銀髪をいじりながら溜息をつく。
「で、原因はなんなのよ?」
「?」
「だから喧嘩の原因よ、何をどうしたらそんなに話が拗れる訳?」
「……えっと、なんでしたっけ?」
「キャスカ、この愚物をさっさと屋敷から叩きだしなさい」
「畏まりましたアリシア様」
「待って待って待って! 今思い出しますから!!」
俺は突如天井から現れたキャスカさんを両手でセーブしながら喧嘩の原因を思い出す。
なにせ売り言葉に買い言葉で互いに火に油を注ぎあった末の喧嘩だったのでこれといった原因が曖昧だ。
あの言葉な気もするし、あの言葉という可能性も捨てきれない。
最早どっちが先に話を振ったのかさえよく覚えていない。
二時間、いや三時間は口論していたからな。
だが、一番最初の会話となると――
「えっと、確かお嬢様が『ところでミコトよ。今日はお前にとって記念すべき日じゃな』的な事を言って『なんでしたっけ?』みたいな返しをして~ え~っと……」
「ああ、それは怒るわね」
「ああ、それは怒りますね」
「え!?」
どうやら今の話で完全に俺が悪い事になってしまったようだった。
「あれ、今日ってなんか特別な日でしたっけ?」
因みに今日は六月六日である。
む~ 登場人物プロフィールには今日が誕生日の人間なぞいなかった筈…… 六月六日、悪魔降臨の儀式とかだろうか?
去年も別に何かあった訳じゃないし、その前もさらに前の年も何かあった訳ではない、と思う。
「ん~ 原因が分からないと謝りようがないな」
「あ、一応謝る気はあるのね」
「アハハハ、だってお嬢様が人より先に謝るなんて天地がひっくり返ってもありえないですからね」
「まあ確かにそうね……」
「しかし困りましたね。このままだと俺は一生アリシアさんに養って貰わないといけないですし」
「なんでよ!?」
「だってアリシアさんってそろそろ俺の事が異性として気になりかけてきてる頃でしょ?」
「いきなり恋愛ハーレム主人公気取るのやめて」
「おかしいですね…… ここでフラグがたってルートが分岐する筈だったのに。そして俺がそのフラグをへし折る予定だったのに」
「なんでへし折るのよ!?」
俺とアリシアさんが馬鹿な会話をしているとキャスカさんが時計を気にし始める。
「アリシア様、そろそろお時間です」
「あらもうそんな時間? じゃあ準備しないとね」
「? 何かご予定があるんですか?」
折角三人で楽しく遊ぼうと思ってUNOを持ってきたのに……
どうやらリバースの魔術師と呼ばれた俺の実力を披露する機会はないようだ。
「アリシア様はこれから外壁付近に現れた大型モンスター討伐の指揮をとらないといけないんです」
「へ~」
「その後は定期コンサートの打ち合わせとリハーサル、最後に出資者達との親睦会も控えています」
「へ~ へ~」
大忙しじゃないか、どこかの金髪蒼顔にも見習って欲しいね。
「という訳で平民。アンタもここから出て行きなさいな」
「え!?」
「当たり前でしょ、主がいなくなるんだから」
「じゃあせめて喧嘩の原因について教えて下さいよ」
「ん~ 別に私が言ってもいいんだろうけれど…… ん~ それってどうなのかしら。アンタが自分で思い出した方がいい気がするのよね~」
「そ、そんな~ ヒントだけでも!!」
「仕方ないわね、じゃあ一つだけ教えてあげるわ。これは貸しよ、いつか百倍にして返しなさい」
そう言ってアリシアさんは椅子から立ち上がると俺の耳元でこう呟いた。
「今日はアンタだけじゃなくてきっとエリザベートにとっても特別な日よ」
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