俺の悪役令嬢が世界征服するらしい

ヤマト00

第17話 お嬢様、お悩み相談を始める。

 早い物でエリザベートが世界征服宣言をしてから一ヶ月が過ぎようとしていた。
 いつも3日坊主のエリザベートがここまで1つの事に打ち込むのはかなり珍しく、かくいう俺もそれなりに驚いていた。
 魔法を極め、御三家令嬢達と同盟を結んだエリザベートが次にする事はなんなのか――
 考え出すと片頭痛に襲われてしまうので実はあまり考えないようにしている、俺に出来るのは流れに身を任せつつ、暴走列車のようなエリザベートの手綱を握る事くらいだ。
 平和が一番、何気ない日常こそ俺の求める物である。


 しかしそんな甘い夢を破壊するのがエリザベート・エレオノール・ブリュンスタッドであり、どうやら今回も何やらロクでもない事を思いついてしまったらしい。
 たぶんこの女の前世は回遊魚の類なのだろう、なにせ人生という名の大海を常に泳ぎ続けていなければ死んでしまうっぽいからな。





 暦は5月半ば――
 どうもこの異世界にも地球と同じように四季とか暦の概念が存在しているらしく、気が付けば12当分された1年の内3分の1が過ぎてしまっていた。
 しかしエリザベートは五月病にかかる素振りをまったく見せず、毎日怪しい魔法実験やら世界征服の計画書作成に明け暮れていた。
 不本意ながらもそんな日々にも少しづつ慣れてきた頃の朝、無駄にデカいキングサイズベットに寝転がっていたエリザベートはこんな事を言ってきた。


「お悩み相談所を作ろう」
「はい?」


 部屋の掃除の手を止めて俺はエリザベートの方を振り返る。
 赤いネグリジェに身を包み、何故か腕を組んで仁王立ちしている金髪令嬢は不敵に笑いながらこう続ける。


「アリシアはアイドル活動、サクラは同人活動をしておるじゃろ? そこで思いついたのじゃ妾も何かしらせねばならんとな!」
「世界征服はどうしたんですか?」
「戯け、これも布石の1つよ。愚かで矮小な民草の声を聞き、全能な妾がその願いを叶える。民衆は妾を今以上に称え、そして崇める事請け合いじゃ!!」
「はぁ」


 要約すると世界を征服する自分より他の令嬢達が目立っているのは我慢できないという事らしい。
 なんで同盟を結んだ相手に対して真っ先に対抗意識を燃やしてるんだコイツは…… 
 しかしながら今回の思い付きについては一考の余地がある。
 お悩み相談――いいじゃないか、見た目くらいしか褒める所がない我が主様のイメージアップにはもってこいだし、エリザベートのディスコミュニケーションぶりを改善するいい機会になるかもしれない。


「これで妾のイメージはドラゴンの天登り、どこぞの銀髪アイドルや乳デガメガネ娘なんぞに引けはとらん!!」


 まあ若干目的意識が不純な気もするが……


「そんな訳で広報用のポスターを作ったぞよ」
「仕事はや!?」


 どうやら俺の意見は端からどうでもよかったらしい。
 俺はエリザベートに手渡されたペラ紙に目を通す。


「こ、これは……」


【エリザベートちゃんのお悩み相談室!! 全知全能の化身、慈愛の女神も泣いて逃げ出すあのエリザベートちゃんが貴方の悩みをスピード解決するよ!! しかも相談料は無料!! さあ、今すぐブリュンスタッド家の屋敷に急げ!!】


 その派手な装飾が施された羊皮紙には得体の知れないどこかのキャラクターをパクったようなイラストが描かれており、胡散臭さと不気味さをヒュージョンさせたようなポスターだった。
 珍しく自ら雑用をこなしたのは褒めるべき点なのだろうがこのクオリティには苦言を呈しざるおえない。
 このポスターを見て悩みを相談しに来る奴がいるとするなら馬鹿か阿呆、もしくは馬鹿且つ阿呆だろう。


「お嬢様、これだと誰も来てくれないですよ」
「そんな事はない、現に外には行列ができておるぞ?」
「え!?」


 その言葉を聞いて俺はすぐに屋敷の正面入り口が見渡せる窓に駆け寄る。


「な、なんだありゃ……」


 ブリュンスタッド家の屋敷、その正面玄関にはいつの間にか多くの市民が長蛇の列を作っていた。
 おいおい、いつからこの国の民達は知能指数が猿以下になってしまったんだ?


「やはり民衆も妾を求めておるようじゃな、アーッハッハッハ!!」


 俺はもう一度胡散臭いポスターに視線を落とす。
 するとそこには看過できない一文が記載されたいた。


【面白い悩みを持参した者には金一封を贈呈する】


 これか……





「え~と、ではお入り下さい」


 俺はなんとか金に目が眩んだ市民達を先導し、適当に20人くらい餞別して屋敷の中へと案内した。
 そいで順番を決めて、1人ずつ面談をする。部屋は空いている書斎の1つを流用した。


「ふむ、では早速話を聞こうかの」


 記念すべき最初のお悩み相談者はミカさんという女性だった、年齢は20代前半といったところか。
 最初は少しモジモジしていた彼女だったが静かに深呼吸した後、意を決したようにこう言った。


「あ、あの。私実は今、その…… 好きな男性がいるんです!!」


 どうやら最初のお悩みは恋愛相談のようだ。
 まあ妥当といえば妥当だろう、これでエリザベートも少しは真面な少女らしい情緒って奴を学んで欲しいものだね。


「ほう。恋煩いとな…… よい、どんな恋だろうと妾が成就させてしんぜよう」


 自信あり気なエリザベート。一体どこからこの自身が湧いてくるのか是非とも教えて欲しい所だがひとまずは真面な助言ができるのかお手並み拝見といこう。


「でもその男性にはお付き合いしている女性がいるらしくて…… 私、どうしたらいいか分からないくて」


 おっと、どうやら一筋縄ではいかない案件らしい。


「そんな物簡単じゃ、ありとあらゆる手段をもって奪い取ればよかろう」
「ちょ、ちょっとお嬢様!?」


 この女は何を口走ってるんだ。


「よいか、己の願望と言う物は如何なる手段を用いても叶えなければならん。その男がお前にとって真に愛しい存在であるのなら尚更じゃ。相手の女を一族郎党亡き者にしてでも奪い取るがいい」
「そ、そういう物なのでしょうか……」
「うむ、もし妾が同じ立場ならば極大魔法を相手の女にかましているところよ」


 しかし――とエリザベートは言葉の最後に付け加え


「まずは気持ちを伝える所から始めよ、人間などいつ死ぬかも分からない脆弱な生物じゃからな。それにもし不本意な結果に終わったとしてもソナタはまだ若い、きっと後の糧になる事じゃろう」
「エリザベート様……」


 ミカさんが羨望の眼差しを向けていた。
 年下の人間にこうも容易く諭されてしまう彼女はきっと純粋で良い人なのだろう。
 まあ少しは気持ちも分かる、エリザベートの言葉にはどこか言い表しようのない重み的な物があるからだ。
 高貴な者のみが放つカリスマ性とでも言うのだろうか、そういう奴。


「あ、でもこじれても妾のせいではないからの。お前が勝手にやった事じゃから、そこら辺チクヨロ」
「……」


 台無しである。

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