055★皇太后セレナーデ・ハイオシスからの手紙　２通目

 　『カイドール侯爵　レギオン殿へ

　　これは、私からの最後の手紙となるでしょう。

　　シルビアーナの膨大な魔力を、呪具を通して
　　貧弱な魔力しかない皇太子に与えるなどという

　　強力な呪具をどうやってブランデルが手に入れたのか？
　　が、私には謎で気になっていました。

　　私なりに調べていても、その入手経路はわかりませんでした。
　　が、病を得て、余命いくばくも無い状態となり

　　私の私物を形見分けしたり、宝物庫に収めたり
　　処分する為に、色々と作業していました。

　　その時に、夫たる皇帝陛下・アレクサンデル様より
　　美しい宝石箱に入った

　　サークレットとチョーカーとブレスレットを
　　いただいたことを思い出しました。

　　そこで、宝石箱の中身を取り出して、
　　改めてその作りを確認してみました。

　　かの人の瞳の色である、サファイアを嵌めたデザインに
　　シルビアーナの身に着けているモノとの共通性を
　　深く感じました。

　　そして、宝石箱も違和感を感じました。
　　確かめてみると、二重底になっていたのです。
　　その中には、夫からの手紙が入っていました。

　『愛しい妻セレナーデへ

　　この贈り物は、呪具としての能力を破棄しているから
　　安心して身に着けて欲しい。

　　が、このデザインに似ているモノを身に着けている者は
　　警戒して見て欲しい。

　　コレには、身に着けた者の魔力を取り出し
　　対となる宝石を着けたブレスレットを
　　身に着けた者に魔力を与えるモノなのだ。

　　本来は、他国より嫁いできた油断ならない妃の魔力を
　　封じるために使うモノだ。

　　ついでに、夫である皇帝の魔力を増やし
　　妃の実家からの暗殺者などを倒す為に使う目的のモノだ。

　　この装飾品の存在は皇太子となり
　　皇太子妃を娶った者のみに伝えられる。

　　この呪具である装飾品を作ったのは
　　初代皇帝陛下だった。

　　皇太子妃を娶った初代の皇太子は
　　多情で側室や愛妾を次々に娶り

　　皇太子妃を怒らせて暗殺されそうになったり
　　寵を争い、側室や愛妾が殺し合いをしたり
　　己が皇子を、次の皇太子にと争いあったのが原因だった。

　　その醜い争いを起こさない、起こさせない為に
　　感情制御と魔力変換と魔力譲渡をエンチャントした
　　装飾品を大量に作ったのだ。

　（※魔力変換＝魔力を他者に与える為に、受け取る側の
　　人間になじむように、魔力を変化させる必要がある為
　　受け取り側の力に順応するように作られたモノ。
　　例としては、スマホに充電する為の
　　アダプターのようなモノです。by.作者）

　　息子と孫達を守る為に………。
　　この装飾品を外すのも、エンチャントされた内容を
　　破棄するのも、対の装飾品を付けている相手なら簡単だ。

　　が、魔術師にはずさせるには
　　きちんとした手順を踏み解除するしかない。

　　また、その解除役の魔術師は
　　魔術師長以上でなければならないんだ。

　　でも、私は、対の装飾品を身に着けていたから………。
　　簡単に解除することが出来たんだ。

　　もしかしたら、恋に破れたブランデルが
　　これを使って、悪さをするかもしれないから
　　その時は、君がなんとかしてくれ。

　　その時には、もう私はたぶんいない可能性があるから………。
　　そんな気がしたから、これを君に送る。
　　私の唯一の子を産んでくれた最愛の君へ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　君を愛する夫より』

　　これを見つけた時、私は、ブランデル以外の子供を
　　生んで上げられなかったコトを後悔したわ。
　　この情報を知ってどうするかは、貴方の勝手よ。

　　シルビアーナを、守ると約束したのに………。
　　結婚するか、婚約破棄するかを見届けたかったわ。

　　そこで、従者と侍女に、宝物庫に有った魔石を使って
　　操りの呪術を掛けて、シルビアーナを守らせるわ。

　　エメラルドのピアスを着けている者は
　　シルビアーナを敬愛しているし
　　命を賭してシルビアーナを守るわ。
　　ただし、効力は１年よ。

　　その間に、シルビアーナを助けてね。
　　可愛い孫なのよ。
　　お願いね、レギオン。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　セレナーデ・ハイオシス』