悪役令嬢は婚約破棄されて覚醒する

ブラックベリィ

049★パーティー会場にて・レギオンの回想1 [シルビアーナの父親レギオン・カイドール視点]


 パーティー会場で、シルビアーナが婚約破棄と共に、断罪を宣言されるほんの少し前から物語りは始まる。

 パーティー会場へと到着した私レギオン・カイドールは、娘であるシルビアーナの姿を探していた。
 皇太子の婚約者に選ばれ、皇太子妃教育をするという名目で、私達夫婦の手元から連れ攫われるようにして、ブランデル陛下の監視下で生活する愛しい娘。

 あの日、あの時、貴族社会の義務でもある祝賀会に、シルビアーナを連れて来ていなければ、ブランデル陛下に目を付けられることも無かっただろうに………。

 あれ以来、私は自分の娘だというのに、年に数回しか会えない状態が続いている。

 妻のディアーナは………。

 『私が、あの時

  ブランデル様の
  求婚を蹴り
  貴方を愛した為に………

  愛しいシルビアーナは
  我が手から奪われ
  呪われてしまったわ

  だから、私は息子の
  レオンハルトを
  守る為にも

  この領地より出ないわ
  家族以外の人前にも
  出ないわ』

 そう言って、新しく与えられた領地(それも強引なやりかたで勝手に決められた)で、引きこもりになってしまった。

 ソレント王国の至高の薔薇姫、金の月の女神ディアーナの化身、女神の愛し子と呼ばれ、その美貌と魔力を謳われた、私のディアが………。

 あの日を境に、儚い月の精霊ルナリアのように、朧月おぼろづきのように、その輪郭をぼんやりとさせて、魔力も気配も美貌も、輝くように明るい性格も失った、私のディア。

 私は、あのブランデルに、最愛の妻と最愛の娘の性格と存在の大半を奪われてしまった。

 この国の侯爵家の嫡子に生まれ、いずれは近衛将軍となるはずだった私は、先代皇帝陛下・アレクサンデル様の平和を望む願いを拒否できなかった。

 貴族として、皇族の血を引く母(アレクサンデル陛下の同母妹の為)立場もあり、泣く泣くシルビアーナの婚約を了承するしかなかった。

 だか、その母も父も今は亡い。

 また、先代皇帝陛下・アレクサンデル様も、既に逝った。

 先代陛下・アレクサンデル様は、私とブランデル皇太子である現在の陛下が、ディアーナを争った時、彼女の意志を尊重するようにと言ってくれた。

 結婚式の時には、姿替えの魔法を自らにかけて、参列してくれた。

 私とディアーナの婚姻を本当に皇帝陛下・アレクサンデル様が、認めていると貴族達に自らの姿で示してくれた。

 そのアレクサンデル陛下の願いにより私は、シルビアーナとあの馬鹿の婚約を了承した。
 私は、あの時のアレクサンデル陛下を思い出す。

 『レギオン

  お前とディアーナの娘と
  我が息子ブランデルの子が
  婚姻することによって

  あのわだかまりが
  消えることを
  私は願っている

  だから、この婚約を
  了承して欲しい

  レギオンよ、我が甥よ

  私の願いを
  叶えてくれないか』

 あんな風に言われては、拒否することなど出来はしない。

 だから、私は、内心でムッとしていたが、伯父であるアレクサンデル陛下の望む答えを返したのだった。

 だが、まさか、その後、さほど経たずに、シルビアーナを攫われるとは思わなかった。







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