悪役令嬢は婚約破棄されて覚醒する

ブラックベリィ

039★宝石獣(カーバンクル)を見付けました


 私は、扉の消えた右側の回廊の前後左右を確認しながら、ゆっくりと歩みを進めた。
 結果から言うと、新しい扉は次のイベントと進むモノでしかなかった。

 これだけ探して無いってことは、ここじゃ無い可能性があるわね。
 宝石獣カーバンクルは、特別な子だから、別の場所へと移動させられて、その能力を生かした方法で《封印》されている可能性があるわね。

 クスッ………新しい子宝石獣が来るのが嫌っていうわりに、心配するコウちゃんて可愛い。
 そう言えば、トラちゃんもそうだったわねぇ………。

 前世の私が新しい子を家に連れて来ると、拗ねる癖に、最終的には面倒みていたもんねぇ………ああ、懐かしいわ。

 「コウちゃん
  コレだけ探しても

  宝石獣カーバンクルが居そうな
  扉が出現しないんだから

  ここの回廊に
  居ない可能性もあるわね

  ここは、次のイベントを
  攻略しに行こうか?」

 私の言葉に、コウちゃんは未練タラタラで回廊を見回す。
 そんなコウちゃんに提案す。

 「とにかく
  先に進んでから

  もう1度ここに
  返って来るという
  手もあるわよ

  先のイベントを
  攻略しないと

  出現しないイベント
  っていうのも

  結構あるから………」

 コウちゃんは、私の説明に頷く。

 『うん……RPGで
  裏面とかあったもんね
  表の攻略をすませて

  1度エンディングに
  行ってからじゃないと

  開かない扉とか
  お宝とか………』

 おお、流石に前世の私の魂に付いて回っただけあって、ゲームにも詳しいわねぇ………。
 ただ、乙女ゲームの方が全然思い出せないのよねぇ………そう、タイトルが………。
 今のところ判っているのは、私、シルビアーナ・カイドールが、その乙女ゲームで悪役令嬢の役を担当していたってことだけ………。

 じゃなくて、今は先に進まないとね。
 この先にあるイベントで出現の可能性もあるしね………。


                 ***


 あの後、次のイベントに続く扉に入り、黙々と歩いていたら、はい、ありました。
 そう、宝石獣カーバンクルを封じた立方体の菱形の水晶が、堂々と奥へと進んだ回廊の行き止まりの壁に埋まっておりました。
 ようするに、その奥に続く道があるという証拠ですね。


 コウちゃんに言わせると、両方の腕輪を身に着けているから、騙されなかったと………。
 ようするに、宝石獣カーバンクルの能力を使って、大規模な認識阻害を発動させているらしい。

 そう、あの右側の回廊に存在しなかった宝石獣カーバンクルは、次へのステップを邪魔する為に、この場所に設置されたのではないかとは、コウちゃんの見解である。

 いや、私もそれが1番正しいのではないかと思い頷く。
 そして、魔力がだいぶ回復したのを感じた私は、宝石獣カーバンクルを《封印》から無理やり開放することにした。

 すなわち、水晶らしきモノで出来た、立方体の菱形に両手を着けて、ありったけの魔力を注ぎ込んだのだ。
 勿論、魔力枯渇を起こすほど、最後の最後までたたきつけるように、水晶に注ぎ込んだ。

 ぐっ…もう……ダメッ……クッ…壊せないか?
 まだ足りない? もっと…もっと…最後まで………。

 そう思った瞬間に、両手を当てていた水晶が、ピシッという音を立ててひび割れる。
 次の瞬間、蜘蛛の巣に白いひびが走り、涼やかな音と共に砕け散った。
 キラキラとした水晶の成れの果ての粉末が舞う中、私は宝石獣カーバンクルを抱きとめていた。

 うふふふ………最初にであったコウちゃんぐらいね。
 この子も3対の翼があるのね。
 定番の大きなお耳に、もっふもっふなタテガミ付き………。

 「コウちゃん
  これで全回収で
  良いのかな?」

 私の確認に、コウちゃんはやれやれという表情を浮かべながら頷く。

 『うん、これで……
  俺の………』

 そう小さく何かを呟いたコウちゃんは、私以外の何かに心が囚われていたように感じた。

 それは、コウちゃんの秘密に関係しているのかな?
 どんな秘密を持っているかはわからないけど………。

 まぁ、誰しも秘密の1つや2つはあるんだから気にしないことにしましょう。
 何時がコウちゃんが話してくれたら良いなぁ………。





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