悪役令嬢は婚約破棄されて覚醒する

ブラックベリィ

032★石壁には魔晶石が埋め込まれていました



 私の驚きの言葉に、コウちゃんが説明してくれる。

 『あっ…それねぇ~…

  ますたぁーがぁ…
  既に反対側の回廊の

  左の腕輪を手に入れて
  攻略してあるからだよぉ~……

  勿論、経由地点の
  お水の両方も
  飲んでるしねぇ~………

  良かったねぇ~…
  左側を先に攻略して
  お水を飲んでおいて………』

 コウちゃん、ソレ重要な情報だから………。
 普通なら……こう……わっと蔓の触手?
 見たいなモノで襲われるが定番よねぇ………。

 思わず、私はそう内心で突っ込んでから、植物壁の後ろに出現した石壁を撫でてみる。

 うん、きちんと石壁の感触がするわね。
 とりあえず、私の認識が狂わされているということは無さそうだし………。
 ………にしても、今更の疑問だけど、こんなところでも植物って育つものなのかしら?

 このダンジョンの中は、濃度の濃い魔素と真素があるから大丈夫とか?
 光合成に必要な日光は、植物達に必要ないのかしら?
 いや、それより、光合成ってするの?
 
 ちょっと植物に拒否られて、無意識に落ち込んだ私は、ついついそんなコトを考えてしまう。

 『ますたぁー…大丈夫ぅ~………』

 心配そうなコウちゃんの声でハッとした私は、逃げた蔓や咲いた花に、蕾みなどがどの程度動いたかを確認する。

 うぅ~ん…花の位置も蕾みも移動しているわね。
 そのまま、その場に居る訳じゃないのね。
 となると、こうして私が手を出して動かないモノの中に在るって考えれ良いのかしら?

 マジマジと見て、後ろの石壁を撫でながら思案する。

 それとも、植物壁の後ろの石壁に、隠し扉みたいなモノが存在して、その中に在るのかしら?
 まぁ…どう考えても、天井も含めて調べなければならないのは確かね。

 そう思った私は、最初に手を付けた壁から探索を始めることにした。

 丁寧に手のひらを石壁を満遍なく撫でるように動かす。
 と、大半の蔓やその他は移動するのに、ごく稀に動かない蔓があった。
 それは石壁に描かれた蔓や蕾みだったり、本物と硬さを持つ蔓だった。

 何の進展もないまま、ひたすら黙々と石壁に手のひらを滑らせる私を、コウちゃんは黙って見守っていた。

 たぶん、このイベントは自分の知恵だけで、自力で攻略しなければいけないモノなのだろう。
 実際、攻略本を見ながらやると、その楽しさが半減するのは確かだしね。
 簡単便利かも知れないけれど、その分の感動が薄いのも事実だ。

 私は幾つ目になるかわからない、石壁に描かれた花の華芯を撫でた。

 うん? うぅん? 今、何か微かな違和感を感じたわ。

 その部分を調べる為に、私はゆっくりと右手の人差し指と中指の指の腹に神経を集中させて、違和感を感じた部分を再度確認するように撫でた。
 そして、撫でて気付いたのは、その華芯が魔晶石で出来ているということだった。
 そう、石壁には、魔晶石が嵌め込まれていたのだ。

 「えっとぉ~………
  コレって魔晶石よねぇ………」

 呟く私の肩で、コウちゃんが身を乗り出し、滑り落ちそうになって、その魔晶石に触れてしまう。
 その次の瞬間、コウちゃんは悲痛に鳴く。

 『きゃうぅぅ~……』

 私は肩から落ちかけたコウちゃんを抱き締め、その魔晶石から慌てて引き離す。

 「きゃぁぁ~……
  コウちゃん、大丈夫?

  私が触っても
  平気だったから
  油断しちゃったわ」

 まだ痺れているらしいコウちゃんを癒そうと、腕の中に魔力を集めるイメージを思い浮かべながら、癒しの繭を作り上げる。
 キラキラと光る魔力の塊で作り上げた繭の中で、コウちゃんがくったりしながらぼやく。

 『…きぅぅ~……まさか……
  オレの……魔力……
  喰われる…なんて………

  油断したぁ……
  せっかく、ますたぁーに
  魔力その他をもらって
  回復して来ていたのにぃ~………』

 愛らしくブツブツと呟くコウちゃんの、思わず無意識のままくすっと笑ってしまう。

 本当に、コウちゃんて可愛らしいわぁ~………。
 じゃなくて、私は大丈夫なのに、コウちゃんは魔力を盗られちゃったの?
 そうなると、かなり気をつけないと、コウちゃんが食べられて弱ってしまうわね。

 まぁ今のところ、私自身を狙って来ることはなさそうだけど………。
 とにかく、この部屋にあるという腕輪を見付け出さないと、このイベントは終わらないね。

 でも、魔晶石があった位置は覚えておきましょう。
 1つ目があったってことは、石壁に対して似たような位置か、三角形か立体の菱形かの位置にあるとふんで良いわね。






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