奴隷市場

北きつね

第二章 第三話 合流


 全身コーディネートコースまで存在している。
 ケチってもしょうがないよな。

「下着や服を、夕花に選ばせる事はできるのか?」
「もちろんできます。ご予算をおうがいいたしますが、文月夕花様に予算内で選んでいただく事ができます」

 全身を一番高い物で固めてもそんなに高くは無いな。
 女性物の服は・・・あるにはあるが、あれを着せる事はできない。

「わかった。次の事を夕花に伝えてくれ、
・換えの下着と服。7日分を140万以上200万以下で揃えろ。
・靴は5足。カジュアルとフォーマルを一足ずつと街歩き用を一足と山歩き用を2足だ。5足の合計で50万以上。
・部屋着を7着と寝間着を7着。50万以上。
・フォーマルな服装をアクセサリー込みで300万を2種類。
全部合計で1200万以内。必ず全部を揃えるように伝えてくれ」

「かしこまりました」

 男性が復唱した。
 その後で、内容が表示されたのでサインした。

「あと、この全身コーディネートを頼む」
「文月夕花様に?」
「当然だろう?髪の毛と身体の汚れを落として・・・。あと、服もコーディネートするのだよな?」
「はい」

 怪訝なかおをされたが・・・。
 そういう事か?生体チップを埋め込んでいる最中に、ご主人様がコーディネートを受けるというのが一般的な流れなのだな。

 でも、僕を着飾るよりは、夕花を着飾って、奴隷には見えないようにしたほうがメリットが多い。

「フォーマルな場に出ても恥ずかしくない格好を一式揃えてくれ」

 値段は150万となっている。

「お時間がかなり必要になってしまいますが、よろしいですか?」
「問題ない。上のラウンジは使えるのだろう?」
「もちろんです」
「それなら問題ない。夕花を全身コーディネートしてくれ」
「かしこまりました」

 夕花の諸元表が送られてきた。
 生体データも合わせて送られてきた。

 夕花のステータスを見ると僕ほどではないが色々な免許を持っている。一般車両と中型まで運転できる。一般道路と高速道路の運転も許可されている。コミュニケータの操作資格もあるようだ。これはいい。別荘に行くのに、公共機関や自動システムを使わないで済みそうだ。

 渡されたカタログを見ていると、車まで扱っている。

「車はすぐに用意できるのか?」
「六条様がお乗りになって帰るのですか?」
「夕花に運転させるつもりだ」
「少々お待ちください」

 何やら端末を操作している。別の端末を渡される。

 何台かの車が表示されている。

「これは?」
「2時間以内に準備が可能な物です。新車はなく新古車か中古車です」

 誰かが注文したけど、買えなかったか、買わなかったのだろう。中古は中古なのだろう。
 ほぉ・・・。変わった車があるな。

「この車は?」
「中身は別物です」
「どういう事だ?」

 法律で決められている最低限の自動運転システムは備えているが、古い登録のまま継続しているので、現在の道路事情を考えるとかなり特殊な車になっているようだ。
 今では、使わなくなったナビシステムまで備えている。50年程度前までよく使われていたシステムを現在の物に置き換えているようだ。
 殆どすべてを操作する必要がある車だが、一般車両とコミュニケータの操作資格があれば運転はできるようだ。

 他にも、いろいろな改造が加えられている。
 かなり強気の値段になっている。僕が気になったのは、全ての通信を遮断する事ができる機能があるという事だ。

「遮断システムは違法ではないのか?」
「いえ、合法です。正確には、新しく作った車や、中古市場に流れ出た車では違法です」
「それではこれは違法ではないのか?」
「いえ、この車は中古車でオーナーから直接買われる形になり、中古市場に流れるわけではありません」
「オーナーから直接?」
「オーナーから直接買われるのですから、中古市場に出るわけではありません」

 車検の義務がなくなる前に登録された車なのか?
 特例処置を聞いた事がある。

 そうか、それらの事が含まれているから、この値段なのだな。
 でも、僕が使うにはちょうどいいのかも知れない。目立つ車だから、なにかあったときに、車が目印になって探してくれるかも知れない。

 3億8500万。買えない金額ではない。

「このクラシックミニを買おう」
「ありがとうございます。お支払いは」
「端末から行う。夕花の分も先に払っておく、残りは市場でおさめてくれ」
「ありがとうございます。全部で4億です」

 端末を確認するが、4億と表示されている。

「安くないか?車が3億8500万で、夕花の服が1200万、全身コーディネートが150万と手数料だろう?」
「いえ、手数料と税は含まれています」
「そうか、それならいい」

 端末にも、同じ様な説明が出ている。

「そうだ。ラウンジと多分今日の一泊と僕と夕花の食事代を計算してくれ」
「それは、すでに手数料で頂いております」
「そうなのか?」
「はい。それほど高級なホテルではありませんし、ラウンジも一般的な物です」
「そうか・・・」

 4億の決済を行う。
 問題なく処理が行われた事が確認された。

 車の保険や登録もすぐに行った。
 奴隷名義での登録ができるので、夕花名義にした。ナンバーは表記しない事にした。ネットワーク経由でのみ表記される様になる。
 すべての窓にデバイス機能が追加されている。中に入ってしまえば外から見る事は不可能だと言われている。

「ありがとうございます。着金を確認いたしました。他になにかありますか?」
「こちらが聞きたい。他の人たちは、他になにか買ったりするのか?」
「いえ、殆どの場合が、”そのまま”です」
「そうか・・・。行政手続きはどうなっている?」
「あとで、文月夕花様が、六条様の所にお持ちする手はずです」
「ここで受け付けてくれるのか?」
「はい。できます。ホテルのコンシェルジュにお渡しください」
「わかった。僕の行政手続きもできるのか?」
「はい。非合法な物以外でしたらお受けいたします」
「わかった」

 行政手続きが必要になる。必要な書類に関しては、全部揃えてくれいるようだ。
 これだけは、100年経とうが200年経とうが、多分紙の文化が残されていくのだろう。

 情報端末が発展して、税の申告やカルテに関しては完全に電子化されたのに、還付金の申告や婚姻に関わる手続き、住民登録などなど役所や国が手間だと感じる部分は紙での申請しか受け付けなくなっている。
 税金は、国がお金を取り上げる部分だから簡単になって、ミスが少なくなっている。
 還付金などの国が払う場合には、申告までに必要な書類が山のようにある。部署も違えば、電子化した物をプリントアウトしなければならない場合まである。面倒になって辞めてしまう人が多くなる。そして、処理するために人手が必要だと言って、公務員が増えていく。

 こんな事を平気で実行に移すような国は滅んでしまえと考えてしまう。

「六条様。ホテルにお部屋をお取りしますか?」
「頼む」

 ホテルの部屋は全部同じで、キングサイズのベッドがある主寝室とツインの部屋とシングルの部屋とリビングのようになっている部屋がついている。
 こんなに広い部屋は必要ないのだけど、全部同じだからしょうがない。
 空き部屋を予約する。僕の端末に部屋番号と解除コードが送信された。ドアに解除コードを流し込めばいいようだ。

 ラウンジはすでに空いているので、ラウンジで軽く食事をしながら待つ事にしよう。

 ラウンジには、僕の他には1人しか居ない。
 奴らの仲間かも知れないが、辺りを見回している雰囲気ではない。
 誰かを待ってるようだ。ホテルの部屋に繋がるエレベータを気にしている事から、宿泊者の誰かだろう。

 エレベータから1人の女性が降りてきて、先程から待っている女性と連れ立ってどこかに行くようだ。
 ラウンジには、僕の他にはウエイトレスが1人いるだけだ。

 ラウンジで待っている。2時間経過した。
 端末には、コーディネート中と表示されている。

 車はすでに届けられて、駐車場に移動されている。
 電子ロック用の解除コードも転送されてきた。

 ホテルのコンシェルジュに聞いたら、電子ロックで行われる端末解除から、生体解除に変更できるという事なので、頼んだ僕と送られてきた夕花の生体情報でしか、ロックが外れなくして、パワーユニットPUも始動しないようにした。
 他にも細かい改造をしてもらえるか聞いてもらった。
 全部可能で、前金で100万。総額250万で、10万程度のオーバーがあるかも知れないと言われた。300万を払った。足りないよりはいいだろうと思っている。前金なんて面倒な事はしないで、最初に全額払って、今日中の対処を頼んだ。

 3時間後に、長身で赤い髪の毛をした女性に連れられて、夕花がラウンジに現れた。

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