天才が異世界で困ってます

夏季

9話 特別研究者

神器を手に入れてからケンタ達は外で魔物退治や、訓練をすることが多くなった。一方俺はこの城から1歩もでてない。この前、あのゴーレムに殺されかけてからもう戦うのは辞めようと心に決めたのだ。

だが、そんな俺も何もしないのは少し申し訳ないので今は毎日研究に励んでいる。この神器で覚えたレシピは必ずしも全てが書いてあるわけではない。いくつかは自分で研究しないといけないのだ。だが、この神器のおかげですでに成果が出てるものもある。

例えば高級ポーションだ。今までは回復力の少ないミニポーションや、中級ポーションしかこの世界にはなかったらしいが、俺が覚えたてのレシピで作った高級ポーションをこの国の博士に見せると、気絶する程に驚いていた。ずっと昔から研究されていたものらしく、生産量はまだ少ないがこれは大発見だと言っていた。
他にも消費した魔力を回復するマジックポーションや、魔法を軽減する布などを見せたところ、これも大発明だったらしい。たちまち俺の噂はこの町に広がった。

そんな中、俺の研究に顔を出すようになったのが王の妻であるローシャだ。ローシャは元々魔法使いであり、研究者でもあったらしい。だから、俺の研究に興味を持ったのか最近はずっと一緒に研究をしている。彼女は中々優秀であり、彼女のおかげで成功した実験がいくつもあるのだが、

「ちゃんと言われたものもってきましたわよ」

一番いい所は、王の妻という権力で欲しいものがすぐに入るところだ。言ったら悪いが要するに便利という事だ。

「いつもありがとな。たすかるよ」

俺はいつもの様に礼を言い作業に戻ろうとするとローシャはニヤリと笑った。そして、まるで俺の心を読んでるかのように言った。

「ふふ、どういたしまして。ガク様に便利な女と思われて光栄ですわ」

「なっ……そ、そんなこと思ってない!ローシャは優秀だから!毎回毎回来てくれてありがたいと思ってる!べ、便利なんて思ってるわけないだろ!」

やばい、取り乱しすぎた……!
ローシャは面白いものを見ているかのようにクスクスと笑っている。

「あら、そうですか。ふふ、それはうれしいですわ」

完全にからかわれているな。ローシャは人の心の中を読むのが上手い。俺だけでなくリキ達もこの前心の中を読まれおちょくられてた気がする。

この人には敵わないな……

そう思っていた時だった。いきなり研究室の扉が開いた。

「ガク君、帰ってきたよー」

「また凄いの発明したか?」

マナミとケンタだ。いつも訓練が終わると俺の研究室に来る。

「2人とも、毎日来なくてもいいのに。研究はボチボチだよ」

こんなこと言っているが、正直毎日来てくれるのは嬉しい。俺の心を読んだローシャはさっきからニヤニヤしているが無視だ。
そしてしばらくマナミ達といつも通り話をした。話を聞いてる限りだが、最近のリキ達はめちゃくちゃ強いらしい。レベルもどんどん上がっていき、ここら辺の魔物はもう余裕で倒せると胸を張っていた。

ちなみに俺はレベルは1個も上がってない。
何かを発明したりしたらレベルがアップするんじゃないかと思っていたが、やっぱり魔物を倒さないといけないらしい。

だが、少し萎えている俺の元に2人からいきなり聞いたことのない話がとんできた。

「そういえばガク、なんか選ばれたんだって?さすがお前だな」

「あ、そうそう!今日はそのお祝いに来たの!」

選ばれた?そんなの俺は知らないぞ。

俺は、何の事か確かめるようにローシャを見る。何かを思い出したみたいな顔だ。

「そ、そうだわ。言い忘れてたわ。ガク様、あなた特別研究者に選ばれましたわ!」

特別研究者……?

「そ、それって?」

「特別研究者は本当にすごい研究者に与えられる称号みたいなものですわ。ガク様は国の偉い人達から認められたのですわ」

すごい研究者か……。
この世界じゃ何の役にもたたないと思ってた俺が、まさか選ばれるなんて……。
正直嬉しくて涙が出そうだ。
初めてここにいる意味ができた気がする。

「オイオイ、ガク嬉し泣きか?」

「うるさいな。でも、ほんとに嬉しいよ」

「ガク君が素直に喜ぶなんて珍しいね!」

俺をなんだと思ってるんだ。
だが、確かに前の世界じゃ俺は本当になんでも出来たからな。何かできても当然ぐらいにしか思ってなかった気がする。

「それにしてもこの称号を得れたのはローシャのおかげでもあるよ。ありがとう」

俺はずっと研究に付き合ってくれていたローシャに感謝の言葉を言う。いつもの様に少し俺をいじる言葉が返ってくると思ったが、それは違った。

「私がいなくてもガク様は研究に成功していましたよ。それより、少し皆様に注意していただきたいことがあります」

あのローシャがすごく真面目な顔をしているのだ。

「なんだ?」

俺は少し戸惑いながらも真面目に聞く態度を示した。返ってきた言葉は少し驚くようなことだった。

「王、アルバートに注意してください。最近になってから様子がおかしいのです。」

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