異世界人の主人公巡り ~そんなに世界は素晴らしいかい?~

このさく@山賊なろう作家

十のユメが救えない物

私の世界は究極エネルギーに滅ぼされた。
私は幻想領域の影響を受けない。


究極エネルギーは幻想領域でしか生成できない。


だから私は、私だけは無事だった。


全てが消えた闇の中で一人だけ無事だった。


それをあの人達に救われてハザマにやってきた。




あの人達は、奈々木和真と神成戦士たちはヒーローだった。


別の世界で究極エネルギーから逃げるために亜光速で星から脱出したガランもヒーロー達に救われた人間だ。


ヒーロー達はハザマに礼拝堂を建てた。礼拝堂はさまざまな世界の祈りを集めてヒーローに伝えた。


ヒーローは祈りのあるところへ向かい人を理不尽から助けた。


私やガランも少しだけ手伝った。


その手伝いの過程で私は呪いのこもった物を収集するようになった。呪いとは強い願いが形になって無念を晴らそうとする物だ。大抵はろくでもない歪んだ願いだが、それでも願いは願いだ。


究極エネルギーの共鳴現象を利用すると世界を望みの世界に作り替えることができる。


ある日、奈々木和真と神成戦士達が私を礼拝堂に呼んだ。
彼らは密かに究極エネルギーの共鳴現象で私が住んでいた世界やガランが住んでいた世界などを蘇らせようとしていたのだ。そのための拠点が礼拝堂の隠し階段の下だった。


それは私やガランの世界のために他の世界を犠牲にするということだ。


そんな罪を背負った彼らは自分の命で償おうとした。


私は蚊帳の外だった。


彼らがいなくなってから私は究極エネルギーが発生しそうな世界を救うことに躍起になった。


伝え曲げ誕生の阻止は三回チャレンジした。
一人でやろうとした最初の一回は失敗した。だがガラン、ニジ、スケの助けを借りた二回目とガランと二人でやった三回目は世界を救えた。




でも今回は予想外のアクシデントが多すぎる。
マガリが真弓を連れてやってきたというトラブルやハザマに襲撃があったのはまだ些細な問題だ。最大の問題はカコという新しい神成戦士が現れて真弓が世界を救う鍵になると予言したことだ。
また世界の危機に蚊帳の外は嫌だ。


まずはガランの神衞戦士としての力を借りよう。
「じゃあガラン。暇?」


「ああ、準備は済んだのか。待てよ、カコ様がいれば俺がいなくてもいいんじゃないか?」


確かにそう言われてみればそうだな。


「ガラン。言い忘れていたが敬称略でいいのだ。ワガハイは真弓に憑くからガランは勇芽に着くのだ」


やっぱり神成戦士は私たちの言うことなんか素直に聞くわけないか。


「神様に敬称略ってのもな。信心深いので」


ガランにそう言われると途端にカコと呼び捨てにしている私が恥ずかしくなってきた。


「まあ、好きに呼べばいいのだ」


「分かったカコ様」


「じゃあ、行くわ」
二人の会話を聞いていると胸がざわつくので会話を切り上げる。


「ああ、勇芽。元気でね」


「ミーヨンもね」
そう言い残して旧礼拝堂に向かった。


さっきの界穴を再び開いた。


界穴の先はさっきの刑務所だ。


私たち二人がいないことを認識できなくなる結界を張っていたおかげで大きな変化はない。


「さてと、私とガランが世界を救いに行ってくる。ヘスティアに中継させるからここで見ていろ」


私の言葉にカコは微笑んだ。神成戦士は相変わらず目も口もないのに、いやだからこそ表情豊かだ。


「待って、勇芽ちゃん」


「真弓?どうしたの」
眉が少し動いた。


「いっそ究極エネルギーを全部集めて願いを叶えちゃうとか駄目なんですか?」


「不確定要素が多すぎる」
ああ、なんて説明すればいいんだ?このコンチクショウ。
そういえばケモノに生きると書いて畜生って兎の神成戦士がよく言ってたな。


「究極エネルギーの制御はとても危険で取り返しが付かないから駄目なんだ」
ガランよ。どうしてそこまで簡潔に角が立たないように伝えられるんだ?これが説明力という私が持ってない力か……ガランよ、私にほんの少しで良いから分けてくれ。


私は呪い道具である白い左手袋の親指の付け根から肘まで伸びるチャックに手をかけた。私以外が使うと手が異空間から抜けなくなるという問題はあるが、このチャックの先は幻想領域で構築された異空間に通じていてどんな物も出し入れ自在で便利だ。
この手袋は物欲にまみれた少女が無数の物を近くに置いておきたいという願いから生まれた。


私は異空間からステッキとある物を取り出した。


このステッキの先端には呪いの石が付けられている。


この石はなんかよく分からないものすごい呪いが込められていて世界を歪ませる力を持っているとても危険な物だ。


まずはチャックを閉じる。そして壁にステッキの先端を上下に擦り付ける。するとステッキの先端の石の効果で天井は歪み人一人ほどが通れるサイズの穴がいびつに出来上がった。


ある物をさりげなく部屋の角に投げた。


その穴の向こうは外に通じている。
私は穴の向こうに一歩踏み出した。すると私は重力に従い落ちた。
ゴーグルに内蔵されているヘスティアにさせた分析によると今は三十mほどの高さにいるらしい。


私は下駄から浮煙ウキケムリを噴出した。
この下駄はハザマで普通に売っているもので浮煙ウキケムリを一番効率よく使える。
浮煙ウキケムリは持ち主の意志に反応して重力を低減する能力がある。


端的に言えば飛べるのだ。


浮煙ウキケムリで宙を駆け上がる私にガランが続く。
ガランは私の世界の蝙蝠こうもりへの信仰が具現化した精霊と契約した神衞戦士だ。


ガランは蝙蝠へと姿を変えて空を飛び私に着いてくる。


スカートで飛ぶのに抵抗がないのはこのスカートに下着を見せないようにする魔法がかかっているからだ。


私たちの目当てはこの建物『ベルク技術総合管理所』の百七十階にある『ベルク復活実験室』だ。


ベルクとはこの世界の主人公だった女だ。
異世界人が界穴を開けるために彼女に接触した。その時ハザマへのチケットを彼女は手にした。
彼女はハザマの図書館で様々な技術を学んだ。彼女が広めた技術で貧困や暴力、飢え、病などの問題が次々に解決した。彼女はしたたかに伝える技術を厳選して争いに利用できる技術はほぼ伝えなかった。


その意図的に伝えなかった技術の一つが死を生に変える技術だ。主人公だった人間を蘇らせれば世界が滅ぶので存在そのものを隠し通した。


彼女は世界の問題を粗方解決すると老衰で安らかに死んでいった。


彼女の死後。彼女ことベルクが神格化されるのは当然のことだった。ベルクが愛した花は丁重に扱われ、踏みつけでもしたらベルクが伝えた捕縛用ドローンに逮捕されたり、ベルクの生まれた地や育った地、死んだ地はそれぞれ聖地になったり、この世界の挨拶は全てベルクに感謝を捧げる物だったりとベルクへの信仰の現れは無数に生活に溶け込んでいる。


そんなベルクをベルクの伝えた技術を応用して生き返らせようとしている研究者がいる。


それをベルクが望まぬこととも知らずに。


ああ、相変わらず世界は皮肉に満ちている。救えない。


脱走者である私を認識して捕縛用ドローンが壁から出てきた。


私はヘスティアに指示を出して右手に印符を転送させた。
印符とは特殊な塗料で特殊な紙に印を付けたもので起動すると様々な効果を発生させる。
ちなみに私が使う印符は強い力をかけることで発動する。今回は武器の封印を解除して使いやすい位置に転送する効果がある印符だ。


転送したのはアレスのかぶとという名前のヘルメットだ。ゴーグルのヘスティアと完全に連動していて首から上を完全に護ってくれる。さらにヘルメットの側面にはアームで制御されている光子放射装置が付いている。


端的に言うとビームが撃てるSFヘルメットだ。


ヘスティアが周辺のドローンを全て認識して印を付けた。
ビーム発射、全段命中してドローン蒸発。楽なものだ。ハザマの技術を使っているといっても所詮はこの程度だ。


そして手袋からステッキを再度取り出した。


ヘスティアが目標の高度に達したと教えてくれたのでステッキを壁に擦り付けていびつな穴を開けて侵入成功。


暗い道なのでヘスティアが暗視補正をかけてくれた。


目的地までこのまま突っ切りたいところだが警備システムの虫型機兵に発見された。


全長1mほどのメタリックな光沢ある銀のボディー。六本の足と二本の角。その姿はまるで銀の巨大クワガタムシな虫型機兵。幅5mの直線の道にそんな虫型機兵が三機。


ヘスティアの分析では虫形機兵に光子放射は効き目が薄いらしい。


印符を右手に転送。効果は幻想具現化具の封印解除と転送。


深層意識で思い描く強さの象徴に肉体を変化させる幻想具現化具。


カタリーナさんは特別で幻想具現化具無しで使えるが私はそうはいかない。


幻想具現化具が完全に転送されるまでの0.2秒間が妙に長く感じた。


幻想領域への影響を受けない私には幻想具現化具は本来使えない。だけど今は使える。力を貸しなさい。


転送された瞬間、私は怪物に成った。


私の強さのイメージ。それは醜くても逞しく適応し変化し進化する怪物。


柔い皮膚が必要ならば皮膚を柔く、堅い表皮が欲しければ鱗を生やす。飛びたければ翼を生やす。腕の数も足の数も状況に合わせて変化させる。


今欲しい力は突破力。まずは安定して走るため腕と足を中心に全身の筋肉を増やす。てのひらと足の指を蹄に変える。防御のために長い毛を全身から生やす。角を二本頭から生やす。
そうイメージした。


今、私は牛の化け物に成った。


虫形機兵はこちらを油断なく分析している。


私は全身全霊を込めて走った。
両足だか後ろ足だかで思いっきり床を蹴る。
両腕だか前足だかで思いっきり踏み込む。


虫型機兵は巨体を当てて純粋に質量で蹴散らす。


全機撃破するとガランが蝙蝠こうもりの姿で私の前に出て誘導してくれた。


ガランは蝙蝠こうもりの能力で超音波ソナーのようなことができる。罠なども看破する力は頼もしいの一言につきる。


そして目的のベルク復活実験室まで壁一つ隔てるだけなので、壁を突進で壊す。


そしてもう用済みなので幻想具現化を解除して刀に手を添える。


下駄から浮煙ウキケムリを出して滑るように移動する。


居合いの姿勢を崩さずに移動できる浮煙ウキケムリは本当に便利だ。


ベルクの眠る棺桶が見えた。同時に研究員が数人見えた。研究員達は私を見てこんな言葉を放った。
「バカな。虫型機兵を相手にこんなに早く!!!」


「一体、なにが目的なんだ!!?」


目的は世界を救うこと。でも、こいつらの思いは救えない。こいつらはベルクを蘇らせるためにの研究を全身全霊をかけて続けていた。


その熱量は私の手で全て無に帰す。ああ、この救いようがないコンチクショウドモめ。


そんなことを考えていたら自然と眉間みけんしわが寄った。


そこまで浮煙ウキケムリの最高速度で突っきった。


刀を腰から抜いて棺桶にそのまま突き刺した。


この刀は兎の神成戦士からもらった人を出来うる限りきり殺したいという呪いが込められている妖刀だ。


握った者を殺戮に駆り立て、切りつけた相手を蒼い妖しき火で燃やす能力がある。


この刀から出る蒼い妖しき火でベルクの魂を燃やしたのだ。


「俺は必要なかったな」
ガランがそう言った。


周りを見れば研究員達がひざを着いていたり、こちらを怯えた目で見ていたりする。


私は世界を、こいつらの命を救った。
でも、このコンチクショウドモの研究を踏みにじった。


なら言わなきゃならないことがある。


「私は冥界の管理人。死人しびとをみだりに蘇らせて現世うつしよが乱れ終末が訪れぬよう監視する者」


私はガランが私の背中に張り付いたのを確認してこう言い残すと白手袋からハサミを出して鳴らした。


このハサミも呪い道具で切った物をなんでも膿ませて中心に目玉を作る能力と柄の部分を強くぶつけて鳴らすことでブルフォという不気味な音を出して作った目玉の位置に瞬間移動する能力がある。


牢獄に入ったとき、究極エネルギーの説明をしようとして出したが自分が説明下手なのを思い出してこのハサミで切って瞬間移動のマーカーにしたさいころを外に出るときに真弓達のところへ置いてきたのでそこへ戻らせてもらう。


ブルフォと正常に鳴り、私とガランは無事世界を救った。


この後はこの世界の主人公にあって界穴を開いて次の世界へというところだろう。


牢獄は来たときと変わらず人一人が通れる横穴が開いていて真弓、カコ、マガリの三人がいた。


「修復」
ガランが私の後ろでそう言って人の姿に戻った。


ガランは神衛戦士と神成戦士が持つ修復能力を使ったのだ。これで私が壊した棺桶とか壁とか虫型機兵は直っただろう。


実際ステッキで穴を開けた壁は何事もなく塞がった。


「影の私よ。ご苦労だった」
私から私の光が出てきてそんなことを言った。このコンチクショウめ。私が気を抜いたらパッて出て来やがって。


「えっ、勇芽ちゃんが二人!?」


なんて真弓が驚いているが早くこの光をなんとかしないと。


「私は本当の池田勇芽。こっちの私は私の影」
光の私め。雑な説明をしやがって。


「ガラン。私の影がこんな茶番に付き合わせてゴメンね。今回のことは影の私に必ず埋め合わさせるから」


ああー、光の私。薄々思っていたことを全部言わないでよ。ガランはそういうの分かってるし、ガランにそう言うの恥ずかしいし。やめてよ。


そしてガラン、予想通り私の恥ずかしいに気が付いたうえでスルーしないでよ。


やっぱりスルーして触れられるのも恥ずかしいから。でも、結果的には礼儀として言えて良かったような。そんな光の私に対する擁護が私の頭の中で浮かぶのが嫌なの。


「次にカコ様。影の私は世界の危機にどれくらい関わっているか知りたがっているの。教えてくれるなら教えてください」


ああ、正直聞くのが恥ずかしくて流した質問とか、ちゃんとカコに敬語を使うとか私の出来ない事をまじまじと見せつけないで。




もう恥ずかしくて嫌だからゴーグルを外して光の私を戻した。
光の私は私の体から生まれた分身みたいなもので直接見ると私の体に戻ってくる。


「もっと素直になっていいんだよ、私」
私の体に取り込んで消える直前、光の私はそんなことを言った。




「一体なんだったの?」
真弓が私を見てそんなことを言った。


「コホン、勇芽は消えた世界でただ一人生き残った関係で元主人公なんだ」


ガランが少し間を空けたのでその間に私が入った。


「さっきカタリーナさんが言っていたように主人公や元主人公は幻想領域を独立させることがある。あれは私の想いが独立した物」
まあこんな説明が無難かな。


「自分の迷いや悩み本心を赤裸々に語られると恥ずかしいから勇芽は消したんだ。悪い奴じゃないから気にすんな」
ガランめ。そういう言葉も恥ずかしいんだ。


「Ms.勇芽は幻想領域をムリョクカするハズなのに幻想具現化がデキたのはナゼなんだ」
マガリがそんなことを私に聞いた。


「あいつが手伝ったから」
光の私は私にわりと協力的なので頼んだら手伝ってくれる。
そしてあいつが手伝っているときは一部の幻想領域の効果を受けるから幻想具現化も出来るのだ。


「統一感の無い装備だったのだ。あと勇芽とガランの未来は霞がかかっていてよく見えないのだ」
カコには私とガランのことが予知しづらいらしい。まあ、心当たりはある。つまり蚊帳の外だかどうかを決めるのは私たち自身って事かこのコンチクショウめ。


「まあ、いろんな世界を渡り歩いているから使う物の統一感なんて無いさ、カコ様。というわけで俺は帰るぞ。無事をハザマで祈ってるぞ」


そう言ってガランはハザマへの界穴を開いて帰った。


「じゃあ、主人公巡りとイこうか」
マガリがまとめたことが少し癪に障った。

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