天空の妖界
四人組の一人は雪女
公共の交通手段として、電車は一番使い勝手が良いと電車に乗車する度に俺は思う。
道路の渋滞に巻き込まれれば遅くなるタクシーやバス、近い所へ行くと言う小回りの利かない飛行機に比べると、他県にも近場にも行ける電車はとても便利だ。遅延はするけどな……。
電車の中では知り合いと話すものを除いてすべての人間が自分の世界を形成している為、自分の世界へ踏み込まれる事が無い。俺みたいな他人とは少し違う世界で生きている存在にとってこれほど嬉しい事は無い。
自分の家から駅へと連行され、来ないでほしいという願い叶わず時間通りに到着した電車を見て、俺はそんな事を考えていた。
俺の家から学校への通学は公共の電車を使うのだが、一年三百六十五日この電車が満員になる事はない。今日もちらほら乗っている車両から少し移動し、誰も乗っていない車両を見つけて俺達四人は足を止める。
「あ、あの~……」
乗降者の気配が無い事を確認し、扉が閉まって電車が最寄り駅から遠ざかり始めた時、興味深そうにあたりを見ていた雪撫が恐る恐る手を挙げて口を開いた。
「み、皆さん陰陽師になる為に今の学校にいるんですよね? 敵である私になぜ優しくしてくれるんですか? いえ、私としては嬉しいんですが、皆さんが大変な事になるのでは?」
「む? あぁ、お主からしたら確かに奇妙に感じるかもしれんのぉ」
雪撫の疑問に対し、暇そうにしていた千宮司先輩がすぐに反応する。
「だがの、なにも陰陽師育成学校だからと言って陰陽師になるとは限らんぞ? 専門学生がその専門とは違う職業に就職するのと同じじゃ」
元々喋る事が大好きな先輩は、不思議そうな顔をする雪撫へと笑顔で話し続ける。ちなみに、俺と御社はそんな二人の会話を静かに聞いている。
「妾みたいに暇つぶしで入学しただけの生徒がいれば、御社の様に能力を買われて学校側から招待された者もおる」
「そ、そんなものなんですね……?」
「まぁの。それに、今のチームのリーダーはこのサボり癖を持っているこやつじゃ。こやつが決めた事には従う」
嫌な言い回しをして、俺の顎を持ち上げる様に指で押す千宮司先輩を流石に無視する事は出来ず、上を向いたまま口を開く。
「サボり癖も何も、学校は三日後からなんで、むしろ時間を守っている俺は偉いと言えるんじゃないですかね」
「ほぉ? ならば聞くが、お主はなぜ一週間も前から早登校可能と言われているのにも関わらず、家でずっと過ごしていたのじゃ? 正当な理由があるんじゃろうな? 先に言うが、体を休めるだとかいうのは無しじゃぞ? 休める必要が無いからのぉ」
「いや待ってくださいよ。無能と能力者の差って体育があるかないかだけじゃないですか! 座学で疲れたという言い訳もできるはずでしょう!?」
「真君、今自分から言い訳って言ったよ……」
雪撫が呆れ果て、ため息を吐きながら言うのを聞いて、千宮司先輩はようやく俺の顎から指を離した。
「まぁ、お主の言い分も分かる所ではあるが、先ほどの倩兮の話を信じるなら……お主も戦えるようになったんじゃろ?」
「え……あ、あぁ、まぁ雪撫が俺に憑りつくって形でなら戦えるけど」
「十分じゃろ? いつもと変わらんじゃろ? それとも自分で戦いたかったのか? 自分の能力も使えないお主が? 折角御社からもらった技も使えなかったお主がか?」
耳を塞ぎたくなる怒涛の質問に言葉を詰まらすしかなかったものの、すべて真実なので言い返す事も出来ない。
「急ぐな。出来てしまった能力は変える事なんて不可能じゃ。能力が二つ開花しただけでも良かったと思うんじゃな」
千宮司先輩が最後、俺の腹に軽く拳を当てて優しく言った。そう言われると何も言い返せないんだよなぁ。
学園長からもらう事の出来る、異能を開花させる力を持った種だが、入学してから手に入れる手段はない。最初に開花させた能力が最初で最後だ。そして、種を飲む事で開花する才能は二つの時がある。
で、めでたくもそれが俺に起きてくれたわけなんだが、知っての通り俺の開花した二つの才能って……
「"会話能力"と"変身能力"という戦えもしない二つなんですけど」
使えねぇ……。妖怪と仲良くなって一発芸に性転換とかそんなふざけた事にしか使えねぇよ……。
「うふふふ、真君。謙遜しすぎよ? 特にトランスの能力は戦えるじゃないの」
「自分で戦える能力がよかったわ……」
「どういう事?」
俺の能力事情を知らない雪撫はひたすら話についていこうとしていたが、とうとう首を捻って俺達の会話に口を挟んだ。
「あぁ、俺の能力トランスはある条件を満たすと戦えるようになる能力なんだ。まぁその条件ってのが頭と頭をぶつけるって事なんだけど、頭をぶつけた対象者は性別を合わせる事で俺の体に乗り移って戦える様になるんだ」
「……あ、だから私は女の真君に憑りつけたのか。なんでだろうなって思っていたんだよね。ケラさんは妖力が無いって言っていたけれど、微かに妖力が残っていたから」
「あ!? じゃあお前、妖力がある人間に対して迷わず乗り移ったのか? 壊れるかもしれないのに?」
「あぁ、あの時は怒ってて妖力を感じにくくなっていたから、私自身感じなかったの」
こいつあぶねぇ……。もし俺がトランス持ってなかったらお互い死んでいたって事じゃねぇか……。
「――ま」
二人の会話を面白そうに聞いていた千宮司先輩は、少し笑うと電車が表示している次の駅を指さした。
「話は後じゃ。我がリーダーが大好きな学校の最寄り駅に到着したぞ」
そんな言葉に目を輝かせる雪撫と、肩を落とす俺、そんな俺の腕を強引に引っ張る千宮司先輩に、三人の様子を後ろから見て不気味に笑っている御社という変わった四人組が駅のホームへと降りた。……今から帰れねぇかな……。
道路の渋滞に巻き込まれれば遅くなるタクシーやバス、近い所へ行くと言う小回りの利かない飛行機に比べると、他県にも近場にも行ける電車はとても便利だ。遅延はするけどな……。
電車の中では知り合いと話すものを除いてすべての人間が自分の世界を形成している為、自分の世界へ踏み込まれる事が無い。俺みたいな他人とは少し違う世界で生きている存在にとってこれほど嬉しい事は無い。
自分の家から駅へと連行され、来ないでほしいという願い叶わず時間通りに到着した電車を見て、俺はそんな事を考えていた。
俺の家から学校への通学は公共の電車を使うのだが、一年三百六十五日この電車が満員になる事はない。今日もちらほら乗っている車両から少し移動し、誰も乗っていない車両を見つけて俺達四人は足を止める。
「あ、あの~……」
乗降者の気配が無い事を確認し、扉が閉まって電車が最寄り駅から遠ざかり始めた時、興味深そうにあたりを見ていた雪撫が恐る恐る手を挙げて口を開いた。
「み、皆さん陰陽師になる為に今の学校にいるんですよね? 敵である私になぜ優しくしてくれるんですか? いえ、私としては嬉しいんですが、皆さんが大変な事になるのでは?」
「む? あぁ、お主からしたら確かに奇妙に感じるかもしれんのぉ」
雪撫の疑問に対し、暇そうにしていた千宮司先輩がすぐに反応する。
「だがの、なにも陰陽師育成学校だからと言って陰陽師になるとは限らんぞ? 専門学生がその専門とは違う職業に就職するのと同じじゃ」
元々喋る事が大好きな先輩は、不思議そうな顔をする雪撫へと笑顔で話し続ける。ちなみに、俺と御社はそんな二人の会話を静かに聞いている。
「妾みたいに暇つぶしで入学しただけの生徒がいれば、御社の様に能力を買われて学校側から招待された者もおる」
「そ、そんなものなんですね……?」
「まぁの。それに、今のチームのリーダーはこのサボり癖を持っているこやつじゃ。こやつが決めた事には従う」
嫌な言い回しをして、俺の顎を持ち上げる様に指で押す千宮司先輩を流石に無視する事は出来ず、上を向いたまま口を開く。
「サボり癖も何も、学校は三日後からなんで、むしろ時間を守っている俺は偉いと言えるんじゃないですかね」
「ほぉ? ならば聞くが、お主はなぜ一週間も前から早登校可能と言われているのにも関わらず、家でずっと過ごしていたのじゃ? 正当な理由があるんじゃろうな? 先に言うが、体を休めるだとかいうのは無しじゃぞ? 休める必要が無いからのぉ」
「いや待ってくださいよ。無能と能力者の差って体育があるかないかだけじゃないですか! 座学で疲れたという言い訳もできるはずでしょう!?」
「真君、今自分から言い訳って言ったよ……」
雪撫が呆れ果て、ため息を吐きながら言うのを聞いて、千宮司先輩はようやく俺の顎から指を離した。
「まぁ、お主の言い分も分かる所ではあるが、先ほどの倩兮の話を信じるなら……お主も戦えるようになったんじゃろ?」
「え……あ、あぁ、まぁ雪撫が俺に憑りつくって形でなら戦えるけど」
「十分じゃろ? いつもと変わらんじゃろ? それとも自分で戦いたかったのか? 自分の能力も使えないお主が? 折角御社からもらった技も使えなかったお主がか?」
耳を塞ぎたくなる怒涛の質問に言葉を詰まらすしかなかったものの、すべて真実なので言い返す事も出来ない。
「急ぐな。出来てしまった能力は変える事なんて不可能じゃ。能力が二つ開花しただけでも良かったと思うんじゃな」
千宮司先輩が最後、俺の腹に軽く拳を当てて優しく言った。そう言われると何も言い返せないんだよなぁ。
学園長からもらう事の出来る、異能を開花させる力を持った種だが、入学してから手に入れる手段はない。最初に開花させた能力が最初で最後だ。そして、種を飲む事で開花する才能は二つの時がある。
で、めでたくもそれが俺に起きてくれたわけなんだが、知っての通り俺の開花した二つの才能って……
「"会話能力"と"変身能力"という戦えもしない二つなんですけど」
使えねぇ……。妖怪と仲良くなって一発芸に性転換とかそんなふざけた事にしか使えねぇよ……。
「うふふふ、真君。謙遜しすぎよ? 特にトランスの能力は戦えるじゃないの」
「自分で戦える能力がよかったわ……」
「どういう事?」
俺の能力事情を知らない雪撫はひたすら話についていこうとしていたが、とうとう首を捻って俺達の会話に口を挟んだ。
「あぁ、俺の能力トランスはある条件を満たすと戦えるようになる能力なんだ。まぁその条件ってのが頭と頭をぶつけるって事なんだけど、頭をぶつけた対象者は性別を合わせる事で俺の体に乗り移って戦える様になるんだ」
「……あ、だから私は女の真君に憑りつけたのか。なんでだろうなって思っていたんだよね。ケラさんは妖力が無いって言っていたけれど、微かに妖力が残っていたから」
「あ!? じゃあお前、妖力がある人間に対して迷わず乗り移ったのか? 壊れるかもしれないのに?」
「あぁ、あの時は怒ってて妖力を感じにくくなっていたから、私自身感じなかったの」
こいつあぶねぇ……。もし俺がトランス持ってなかったらお互い死んでいたって事じゃねぇか……。
「――ま」
二人の会話を面白そうに聞いていた千宮司先輩は、少し笑うと電車が表示している次の駅を指さした。
「話は後じゃ。我がリーダーが大好きな学校の最寄り駅に到着したぞ」
そんな言葉に目を輝かせる雪撫と、肩を落とす俺、そんな俺の腕を強引に引っ張る千宮司先輩に、三人の様子を後ろから見て不気味に笑っている御社という変わった四人組が駅のホームへと降りた。……今から帰れねぇかな……。
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