多分最強の特殊部隊

パンチマン

曲者



ここにいる奴らは皆変な奴ばかりだ。

 そんな所に望んで入隊して来た俺もとんでもない変な奴だとつくづく感じている。
 今手元に隊員の履歴書があるが、ぱっと見どいつもこいつも出は良いように見えた。1人は優秀な元憲兵隊員。1人は元沿岸警備隊の特殊部隊隊長。1人は軍の元空挺部隊の総隊長。1人は元警察官で、月に5人もとっ捕まえたエース。そして最後の1人は元諜報機関の隊員でベテランスパイ。聞く分には凄まじく優秀な部隊に思えてならない。
 だが、今会えば、こいつらときたら酒と女の事しか脳にないゴミ野郎どもで、しかも運動もさほど得意じゃないいい年食ったオッサン連中じゃないか。残念だ。さっさと異動願いを提出しとく事にしよう。
 
 俺の名は、ベルリッツ・アンダーソン。前は海兵隊員として軍に勤務していた。ここの部隊の存在を知ったのは数年前の事で、沿岸警備隊員だった先輩から教えられたのが始まりだった。「凄腕がわんさかいる隊だぞ。お前も入れよ」こんな軽いノリでそそのかされたが、いざ実際入ってみるとひどく後悔したもんだ。
 胸の中でこう愚痴りながら、目の前が砂浜でオーシャンビューが望めるショボイ基地のゲートをくぐった。部隊の評判は糞なのに、基地の立地だけだは一丁前だった。まぁ仕方のない事か、なにせここは空輸する上での補給基地みたいな所で、曲者部隊には似合わない馬鹿広い滑走路に格納庫と、側から見れば立派な空軍基地みたいなもんだった。
 ゲートをくぐり指定された基地内の場所に向かう。が、その時前からフラフラと歩いてくるやつを発見した。嫌な気しかしない。森林迷彩のパンツを履きながらも、上半身は素っ裸で、片手に瓶を持って鼻歌歌ってやがった。最初は素通りしようかと思ったが、なにぶん場所を知らなかったから仕方なく聞くことに・・・

「すみません。この場所を教えて下さい」

俺は渡された地図の赤塗りされた所を指差して尋ねた。するとオッサンは急にムフフと笑いながら俺の顔を見て、そして肩を叩いた。

「この、新入りがぁ!今日はパーティだ!お前来い来い!」

オッサンは俺の腕をガッツリ掴み、引き連れて行った。俺は抵抗する間も無く、引き連れられるがままに、彼ら曲者部隊の待機室へと到着した。
 オッサンがドアを勢いよく開け、俺を連れ込んだ。一瞬タバコの煙たさで窒息しそうになった。こいつらと来たらタバコを吸いながらも窓を密閉してるのだ。未喫煙の俺からしてみれば未経験の領域。はやタバコの煙に殺されかけそうになった。
 咳き込みながら辺りを見回すと、中には4人座って俺とオッサンを見ていた。どれも机の上は散らかっていて、足を机の上に置いて背もたれにもたれかかっていた。
 するとオッサンがさっきよりも興奮した感じで皆に喋り始めた。

「お前ら!新入りや!可愛がってやれ!」

だが、正味このオッサンしかはしゃいで無かった。皆沈黙してるのにこのいい年したオッサンは時折跳ねながら1人はしゃいでやがる。なんだかこっちが恥ずかしくなって来たではないか。仮設事務所並みに狭い待機室を俺の咳き込みと、オッサンの声が支配した。割合的には圧倒的に後者が凄まじいと思う。いや絶対にだ。
 しかしいつまでもこの宴席の滑った一発ギャグをノリで誤魔化そうとする輩みたいな雰囲気に耐えられなくなったので、俺は席に着こうと、空気の読めないオッサンに尋ねた。

「あ、あの、僕の席はどこですかね?」

するとオッサンは満面の笑みで隅っこの席を指差した。幸いにも窓が近くだ。俺は安堵した。これで新鮮な空気を吸える。俺はすぐに席に向かった。クソ狭い通路に馬鹿みたいに書類を置いてあったが、するすると抜けて通り、席に着いた。
 
新鮮な空気。新鮮な空気。

餌に群がる鯉の気持ちが分かった気がした。俺は窓に垂れたブライドを勢いよくあげた。窓ガラスが露わになる。やっと空気!俺は窓の鍵を開けて、勢いよく開けようと窓枠を掴んで手をスライドさせた。

「おっとごめんよぉ〜」

すると俺の席の横の、これまたオッサンが彼のデスクの下に置いてあった銃床を取り出して、窓枠を固定したのだ。コイツ、俺に空気を吸わさせないつもりか?穏やかで微笑ましいやり取りだが、心の中は冷戦状態だった。それに窓を開けさせないだけじゃ飽き足らず、コイツはタバコをふかして、それを俺に吹きかけて来やがった。

あ、もうダメだ。

俺は不意に力が抜けて、デスクにダラリと頭を垂れた。

「おお、ごめんごめん。ほらよ」

開けてくれるのかと思いきや、「眩しいだろ」と意地悪そうに笑いながらブライドを下げやがった。違う、そうじゃない。もう、どうにでもなりやがれ。俺はそっぽ向いてひたすらにデスクに頭を垂れた。まぁ、根は優しいのだろう。その隣のオッサンは最後は窓を開けてくれた。

これが初めてのやり取りだった。

 
 

コメント

  • ノベルバユーザー601400

    続きを後で読みます。

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