魔眼少女の異世界探索(ワールドサーチ)

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第1章 魔眼少女の異世界探索(ワールドサーチ)1

扉を開けてまず目に飛び込んできたのは、絵に描いたように綺麗な朝焼けだった。足元に広がる草原も、そよ風に揺られ気持ちよさそうだ。私は一度、息を大きく吸い、ゆっくりと吐いた。都会ではまず味わえない澄んだ空気が、全身を突き抜ける。

転生してもう10年、今ではすっかり見慣れてしまった景色とも今日でお別れとなると、少し寂しい。

「おやおや、懐かしいねぇ、その深呼吸。」
そんな私の感慨をよそに、私の大恩人の一人であるおばさんが呑気に話しかけてくる。
ちなみにこの深呼吸は、私がこの人に拾われてから数年間、毎日欠かさずやっていた恒例行事だ。
「でもまさか、初めて会った時まだこんなんだったあんたが、今では立派な冒険者候補生ときた!おばさん、うれしいよ。愛娘同然のあんたが、こんなに立派に育ってくれて。」
「うん」
おばさんに返事をしつつ、私の脳内は回想タイムに突入する。


10年前、事前に受けた説明通り5歳くらいの姿で転生した私は、この草原のど真ん中でポツンと立っていたところを、おばさんともう一人の大恩人であるおじさん夫婦に拾われたのだった。
おじさんおばさん夫婦は、二人で牧場を経営していて、私はというと、野山を駆け回ったり、牛さんヤギさんと遊んだりと、アルプスの少女のような10年間を過ごしてきたのである。

「でも、やっぱりその眼のおかげなんでしょ?候補生になれたのって。」
「うん。あと、まだ私候補生にすらなってないよ。」
その眼というのは、転生の際に貰った「訳あり」チート能力である。どうやら“魔眼”と呼ばれる代物らしく、世界でも数個しか確認されていないそうだ。私の冒険者としての適性はどっこいどっこいなのだが、この眼のおかげで見事、冒険者研修施設への入学を許可されたのである。

「もうすぐなるでしょ!ほら、持っていきな!」
そう言っておばさんから手渡されたのは、エメラルド色に輝いた石だった。雫のような形のソレは、おばさんがいつも大事に持っていたものだとすぐわかった。
「えっ、これって」
「私の家に代々伝わるお守り。効き目はバツグンよ。あたしなんかこれに、何度便秘危機を救われたことか・・・」
「おばさん……。」
本当にこの二人には、感謝してもしきれない。一人はこの場にいないワケだが。
「今まで本当にありがとう。私、立派な冒険者になって、二人に恩返しするよ!」
「おっ、孝行娘め~おばさんうれしいぞ」
私の頭を撫でながら、おばさんが答える。
「じゃあ、そろそろ行くね。」
「あっ、ちょっと待って。あんた、そんな身だしなみで大丈夫かい?」
そう言って渡された手鏡に、私の顔が写る。
肩にかかるか、かからないか位の長さでバッサリと切られた黒髪に、平凡を絵に描いたような顔立ち。少しだけはねていた髪と服を整えて、これでいい?とおばさんに聞いた。
「うん、バッチリ!」
おばさんは指で「ok」のサインを作った。
「ほら、アスカもう行っちまうよ!あんたも何か言いなさい!」
家の奥にいるおじさんにそう声をかけると、ガンバレー、と呑気な声が奥から聞こえてきた。マイペースなおじさんらしい。
「それじゃあアスカ、これだけは忘れないで。どんなことがあっても、あたし達はあんたの味方だから。辛くなったら、いつでも帰っておいで。」
「うん……」
その言葉を聞いて、ちょっとだけ泣きそうになる。10年間、色々なことがあった。ホームシックにだってなった。それでも前を進むことができたのは、他ならぬこの二人のおかげだ。
「じゃあ、行ってきます!!」
「「行ってらっしゃい」」
私は何度も二人に向かって手を振りながら、見渡す限りの草原の中を歩き始めた。

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