魔眼少女の異世界探索(ワールドサーチ)

HDK

ーキャラクターメイキングー

気がつくと、目の前に見慣れない光景が広がっていた。

大理石のようなもので出来た円形の床、
その床の円周上に等間隔に置かれている柱、
天井を覆う中世のタッチで描かれた絵、それらが織り成すコントラストは、ここがギリシャかローマ辺りの遺跡の中なのではないのかと錯覚させる。

しかし、柱と柱の間に見える宇宙空間のような風景と、どこからともなく聞こえてきた声は、ここは私の知っている「世界」ではないということを証明するのに、十分すぎる証拠だった。

「ようこそ神殿へ、藤宮飛鳥さん。」
男性とも女性ともとれる中性的な声が、この不思議空間内に響く。
「神殿?」
「そう、神殿です。藤宮飛鳥さん、あなたは不幸なことに、建設途中のビルから突然落ちてきた鉄骨の下敷きになり・・・亡くなりました。」
薄々気づいていたことが現実だとわかり、私は床に目を落とした。
「・・・ですが!!あなたにはまだチャンスがあります!」
「チャンス?」
自分が死んでしまったという現実から目を逸らすように、私は謎の声に先を促す。
「ええ。神々による選定の結果、『藤宮飛鳥は異世界に転生可能』という判断が下されました!」
謎の声がそう言った途端、どこからともなく拍手や歓声が聞こえた。
異世界転生。アニメや漫画の世界だけだと思っていたが、まさか本当にあるとは・・・。ならーーー
「あのぉ」
恐る恐る手を挙げる。
「はい?」
「こういうのって、チート能力で俺Tueeeとか、美少女に転生してモテモテとか・・・そういうのって可能ですか?」
私はこの手の小説は何度も読んだことがあり、投稿だってしている。評価は低いけど。
「できないことはないと思いますけど・・・。」
「なら!私をチート能力持ちの高ステータスショタに転生させて下さい!!!」
私の要求に、謎の声がちょっとだけ引いた(ように思えた)。
「あのー、藤宮さん。じtーー」
「お願いします!この通り!」
この要求だけは曲げる訳にはいかない。
私はプライドをかなぐり捨て、全力の土下座を披露した。
「いや、あのですね藤宮さん。ご要望のものなんですけど、まず、所謂チート能力には在庫がありまして、現在、品薄状態となっています。」
えっ?在庫?品薄?そういうもんなのチート能力って?
「次にステータスについてなんですけど、これについては任意に変えることは出来ません。完全ランダムです。」
「えっ?」
私の中のほのぼの異世界ライフが音をたてて崩壊していく。
「最後に容姿についてなんですけど、これも同じように、任意で変えることは出来ません。前の世界と同じ容姿のままです。」
「・・・そうですか。」
今まで抱いてきた理想が打ち砕かれ、私はもうノックアウト寸前だった。
「それで、転生先ってどんな感じですか?」
「えーと、モンスターはいるけど、魔王の脅威とかそういったものはない、のどかで平和な中世風の世界です。」
「そう・・・ですか・・・」
ないのか・・・魔王の脅威。
「でも、日本語の通じる異世界にしておきましたし、チート能力もないということはないですしーーー」
うちひしがれた私を、謎の声が慰めようとして・・・ん?
「今、チート能力がどうのこうのって・・・」
「はい。チート能力は品薄状態ですので、一つもないという状態ではありません。ですが、それがちょっと訳ありで・・・」
「訳ありでも種なしでも何でもいいですよ!!とにかく、本当にありがとうございます!!」
食いぎみの私に、謎の声はさらに引いた(ような気がした)。

「それでは、藤宮飛鳥さん。あなたを異世界に転生させます。」
あの後、謎の声から「訳ありチート能力」についての説明や、どのように転生するか、転生先の世界の仕組みなど、色々な説明を受けた。
「はい」
不安と期待半々の声で答えると、足元に魔方陣が浮かび、体が光に包まれた。
「藤宮飛鳥さん。あなたの異世界生活が素晴らしいものになることを、神々一同心より願っております。よい旅を!」
旅行会社のような台詞が聞こえた後、私の意識はまばゆい光の中に消えていった。





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