いつか夢見た夢の跡

佐々木篠

第18話 ENGAGED

「解せないな・・・何が目的だ?」
「簡単な事です。主命なのですよ」
「主命・・・?八幡さんか?」
「ご想像におまかせするのですよ。それにしても美味しそうな野菜ですね?何個か頂いても?」
「断るよ、ここの神社の巫女さんに届けるつもりだからね」
「あら?残念・・・ですけど意味ないのでは?」
「チィッ!」
 確かに皆正気を失ってバトルロワイヤルを始めて手を付けられない状況になってきたが・・・"特に問題ない"
『錺?いけるか?』
『上等!!』
 心の内に語りかける。錺が頼もしい声で呼応する。
「・・・何をなさるおつもりです?」
「なに、単なる得意技だ!」
「・・・その得意技、通じるのです?」
 嘆息するその裏でしかし静かに確かな狂気の笑みを浮かべるのが見えた。








「やってみなきゃ分からねぇだろ!錺!!」
『あぁ!!「第肆十伍章・参十参文:夢々成りて夢を語り、哭きに哭きし宴の輪、咲耶此花姫さくやこのはなひめは終ぞ輪廻し、回帰せよ、舞われ廻れやれ花咲や!!!」』
 いつかの時に発現した咲耶此花姫の術。あの時の続きの文を唱える。
 それに警戒した蘭さんは後ろに飛び距離を取る、がしかし
「悪手ご苦労!!」
 あぁ悪手だ。なんせこの術はありとあらゆる状態異常を"消去"する術。これらチートのような術を俺らの家は継いできたらしい。
 そして
「悪手っ!?―――――」
 蘭さんの体が宙に浮きそのまま吹っ飛んで行った。幸いなのか分からないが防御姿勢を取ったらしいのでダメージは少ないだろう。果たしてそんな常人離れしたキックを見せたのは
「迷惑かけるわね、社。」
「気にすんなって、上手い不意打ちにはなったろ?」
 問いかけて頷くのは、先程見事な、それこそ昔の漫画みたいなキックをかました張本人である玲華だ。
 蘭さんの能力に侵されてその鬱憤が残っているのか、下手したら入院どころの騒ぎではない位の気炎を上げている。
「ちっ・・・白煉の巫女さんがそっちにまわったら勝ち目ないのです。一回撤退して――――」
「させないわよ?」
「・・・へ?」
 次の瞬間、目の前に立っていたはずの玲華は蘭さんに跳躍して詰め寄り武器であるお払い棒を突きつけていた。
 頭上に、宙に浮くようにして。
「ふぁっ!?」
 自分の口から思わない奇声が出た、あれ?人って自力で飛べるの?いや、そんな訳ない!現に立っていられるのは重力があるから、玲華のあの挙動は多少おかしい。
 そんな俺の考えなど他所に玲華は突きつけたお払い棒に霊力―――玲華自身が術を使うための力―――を溜め込み放出。
 どデカいビームのような波動が蘭さんを"掠めた"。
「っ!?」
「威力を殺しきれない!!?」
 だが掠めただけあって風圧は尋常ではなく、蘭さんは錐揉みしながらも空中で姿勢を保ち、空気を踏みしめた。
 ――――何ヶ月か住んでいるけどこの世界では宙に浮くのが当たり前なのかなぁ。
 そうしみじみ感じるが、そんな場合ではない。
「アタシを忘れないで欲しいものです!!」
 と、そんな蘭さんの後ろに黒い影が。
 彼女はバッと振り返るが何もいない。しかし、割と俺にも見えている。多分見えていないのは蘭さんだけかもしれない。何せ
「見えないでしょう?風がもたらす幻覚の堅牢、私を捉えられますか?」
――――いえ、結構見えてますよ?
 超高速で蘭さんの周りを回り続ける綾さんが見えたのはそれが残像だからだ。烏ってあんなに速く飛べるのかなぁと思いつつその様子を眺めていると、付近の風が集められる感覚が体を襲った。
 そういえば、聞いたことあるだろうか、兎は近視で遠くの物がよく見えないと言うことを。その原因もあるのだろうか。
「・・・くっ!?」
 蘭さんは風の檻からの脱出を試みたが肌が浅く切り刻まれ別の策を模索し始めた。かまいたち。風の自然現象として最もポピュラーなものが風の檻に掛けられているらしい。
 ―――しかし、蘭さんはわかりやすい人だ。次に何をするかが手に取るようにわかる。それだけで不利だろう。
「最後!お願いしますよ!」
 仕上げと言わんばかりに綾さんが手に持つ大きな楓の葉っぱを振り下げる。真横から突如風が吹き荒れ、その風に乗るようにして銀髪の獣人の人が躍り出た。
「紅葉!!!」
「・・・【断の型たちのかた裂空れっくう】」
 片手に持った幅広の剣が如何なるエネルギーによるものか知らないが、綾さんが作った風の檻ごと蘭さんを叩き斬った。
 蘭さんの体からは出血が見られないが服が大胆に前に裂かれている。多少豊かな乳房が露わになる・・・と思ったが服も無事だった。
 しかし何故か蘭さんは赤い顔で破れてもいない服を庇うような素振りを見せている。
 その瞳は先程と同じ狂気に溺れた赤色だ。
「なんでさっきから掠ってばっかなんだ!?」
『仕方ないよ・・・兎の、それも月が産んだ兎は幻術に長けているんだ。彼女は名前からして月の兎だろうね。それにさっき、インサニティ・・・狂気と言う意味だが多分彼女は狂気の"波"を相手にぶつけて認識をずらしている。当たっていないように見えているだけだ』
「なるほど!!」
「貴方、一体誰と話しているのです?」
 今まで防衛に徹した蘭さんが一気に攻勢に打ち立てる迫り来る光弾を頬にかすり傷を作りながら紙一重で避ける。獣人の子はその体をすっぽり覆うほどの盾で光弾を防ぎ、玲華はお払い棒で払い除け、綾さんは華麗に避け続けている。
「錺!!どうにかならねぇのか!!?」
『簡単さ!相手は動き続ける訳だから拘束させればいい』
「それはもう綾さんがやった!!風の檻に閉じ込めて見たけど駄目だった!」
『そりゃそうさ、風の檻では意味がない。狂気を打ち消すには正気。まぁ任せてよ。増援も呼ぶから。あと数分耐えてくれ!!』
 心の内で何かをつぶやく。
 それには耳を貸さずに次々と来る光弾を避ける。避け続ける耐久戦、他の皆は隙をねらって反撃を繰り返しているが、体術の心得でもあるのかいなしたり防御したりカウンターしたりと中々攻撃を与えられない。
「・・・このままではっ!!」
 皆が諦めムードに入りかける、太刀打ちできない相手にどう戦えと言うのか。
「ちっくしょ・・・錺!あと何分だ!」
『もう来てる!風圧に耐えろ!!』
 もう来てるって!?そんな影どこにも・・・
「どいて!!お兄様!!」
 振り向いて、空を臨む。
 そこに飛翔する影は陽光を黄金に輝かせ歪な、小さき翼をはためかせ、ただ守る為に力を使う少女。
「フラン!?」
 そこにはあの時、具体的には一ヶ月位以来の、俺の事を兄と慕う、青空を見る事を望んだ吸血鬼の少女。
フラン・VフォンEエルトリア・スカーレットが太陽を背に飛び込んできた。

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