いつか夢見た夢の跡

佐々木篠

第三話 どんとくらい!

【神社、奥の森出口・夜明け前】






 来た道を戻るだけ、隣に居る筈の人は数時間前に死んだ。







 俺の中にあるのは、ただ、果てのない暗い虚無感、先程倒した闇のように暗く深い虚無。








 目の前に神社が見える、あそこの巫女兼神主は今の時間になると掃き掃除を開始するらしい、けれどそこには紅白が特徴色だった巫女は姿形も無い。








 会って数時間だけど良くしてくれた美少女の巫女はもう存在しない事に幻想では無く現実であることを思い知らされた。









【神社境内・曙】

 俺はただボーっとしていた。果てのない虚無に飲まれたまま。
「ひき割り納豆・・・買いに行こ。」
 目が虚ろいでいるままで納豆を買いに行く。
 もしかしたら、まだ何処かで生きているかもしれないそう言う希望・・・いや、願望を胸にボロボロの心体で神社本殿に入り、社務所の鍵を締めるべく台所を直進する
「あ、里に行くなら浅漬けと鮭とみりん買って来てくれない?・・・はい、お金」









 ―――――は?
 ・・・・・・やけに、鮮明な幻聴と幻覚が割烹着を着こなして朝ご飯の準備をしている。
 その上、律儀に代金を摘んで差し出してくる。
「・・・」
「どうしたのよ・・・」
「え、あいや・・・えっと・・・え?」
 そりゃ混乱する。
 受け取ったお金に伝った温もりは彼女の存在がそこにある事を靜に雄弁に声なき声で語っている
「えぇと・・・玲華?だよな?えと・・・あの時、確かに・・・」
「あぁその事、それについてはまた後で・・・」
「後でってこっちゃ納得も行かないんだが!!!!」

【人里・朝食時】

「と、遠い!」
 ただでさえ神社は山の上に建っているってのにその麓に人里があるってだけで遠い。
 ぶっちゃけ降りるときの階段数えたくないほど多い・・・!!
「えい!らっしゃい!」
 豪傑そうな魚屋の店主が元気に客寄せしている。
「親父さん、活きのいい鮭あるかい?」
「おう!兄ちゃん!お初だな。サービスだ!鮭の他にも色々あるが・・・このぶりなんてどうだい!?」
「え!?まじでぇ!?俺鰤大好物なんすよ!」
「おぉ!!そりゃぁいい!それじゃぁ鰤はオマケだ!鮭は1尾で良いか?」
「いえ・・・えと3人分で」
「あいよ!とそかそか、あんさん白煉のお嬢さんの居候になったんだって?」
「何で知ってるんです!?」
「そりゃ、あの巫女さんが神社に泊める位さね。大事にならない方がおかしい。」
「えと何でそれだけで、大事に?」
「昔から、周りには女子しかいないからさ、浮いた話一つとしてないから、話聞いたときは驚いたよ!」
 豪快な笑みを浮かべながらせっせと商品の梱包をする魚屋店主。
 なるほど、話を広めたのはさしずめ茉莉愛辺だろう。
「よっと、はい兄ちゃん!鰤と鮭3尾!気をつけて持ってけよ!」
「はぁい!」
 どうやらこの世界でも保冷技術はあったらしい、にしてもデカイ白い箱だこと、持ってみると・・・お、案外軽い。鰤丸々1尾入っているとは思えない重さだ。
 ただし、氷が入っているから相応の重さではあるのだが、
「これが、忘れ去られた技術って訳か・・・便利なものだな。ただ人力なのはやっぱり昔の物なんだろうな」 
 因みに、光暦になってからと言うもの、技術開発が進んでいるせいか、平成の技術は衰退し、新物質として"アルゲントラス"と呼ばれる重力物質が発見され
ポリ製品はいつの間にか姿を消した。
 当然、彼が発泡スチロールと言う代物があること自体知らないだろう

【人里・朝食時】

「いらっしゃいませ!って貴方は玲華ちゃんの」
「あ、はい。どうも」
「あらあらまぁまぁ、これからよろしくねぇ」
 優しそうな調味料屋のおばさんが挨拶して来る。
「みりんを一つ頂けますか?」
「えぇいいわよぉ、はい、どうぞ」
「ありがとう御座います」
「いいのよ、商売だから。それより、結構な大荷物ねぇ大丈夫?」
「これくらいは」
「まぁ、頼もしいのね」
 クスクス笑いながら我が子を見るような目で見るおばさんに少し、疑問を感じた。
「あの、おばさん」
「なんだい?」
「普通、余所者が来たら気味悪がったり受け入れ無いものだと思うのですが・・・」
「あら?そうかしらねぇ?」
「え?」
「貴方の元いたところに関してはあたしは何も知らないけどさ、余所者が来たって変わりゃしないさ、何せあたしらに話掛ける時点でこの場所に居る人なんだから、あたし達の暗黙のルールってやつさ。『どんな状況でも等しく接せよ』ってね。ほら、ここはおおらかな人が多いでしょ?みんな、あんまり外だからとか内だからとか、そんなの気にしないのよ」
「・・・凄いです。ここの人たちは俺が元いた世界とは全く」
「そんな殺伐としてんのかい!?いやー、おばさんそんなの肩凝っちゃうよ」
「そう・・・てすね」
「せめて、ここにいる間はここで出来ることを目一杯楽しみなさいな」
「はい!」
 激励を貰い振り返る。
 踏み出した足は止まることを恐れないまま、幾千と続く階段のその先を目指して歩く。

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