花に願いを

水乃谷 アゲハ

第49話

「こんな裏技が使えるなら川上目指して歩かなくて良かったじゃねぇか」


着地に失敗して痛めた腰を手で擦りながら不満を漏らす竜太郎を無視してコロノは三人の戦闘を進む。川に沿って歩いていた彼等は、数分後に足を止める事になる。川の水はその止まった場所で二股に分かれ、まっすぐ伸び続ける川と大きく右へと逸れている川に分かれている。


「うむ、どうやら右の川は向こう側へつながっている様じゃな。しかし急なカーブを描く川じゃのぅ」


「ガラス片は右から流れて来るね。綺麗なガラスなのに本当にもったいない……」


「にしても結構なげぇ川だな。一時間半弱歩いてようやく合流地点に辿り着くのか。というか……このガラスを捨てているからか? 右から流れてくる川の水が妙に汚いよな」


「……思い出した。この場所に流れている川の名前は『ゴンドー川』だ。この川は大きく一周しているんだよ」


「そんな事が可能なのか? 水って高い場所から低い場所へ向かうものだろ? それが成立するとしたら百歩譲っても平らな土地じゃなきゃ無理だろ?」


「ふむ、では皆の者どうじゃ。お嬢のペットを探す前にこの川について調べてみないか? 別段何もなければそれで良いが、奇妙な事が多すぎる」


月宵の提案に賛成二票、反対一票で川の謎を散策する事となった。竜太郎と軽猫、月宵とコロノの二手に分かれ、竜太郎達が右方向の川上へ、コロノ達が川下へ向かう事になった。


「別に調べる必要無いと思うんだけど……」


一人だけ反対派だった軽猫が頬を膨らませて竜太郎の後を追いつつそんな愚痴を漏らした。竜太郎は川の中にあるガラスを手に取っては空にかざす。しばらくガラスの模様を堪能すると川の中へと投げ入れる。


「なぁ猫女。お前、元盗賊だったんだよな?」


「ふぇ? あ、うんそうだけど?」


「じゃあ宝物が本物か偽物かを見分ける方法とか知ってんのか?」


「んんん? 唐突な質問じゃない? 竜太郎も盗賊に興味があるの? あんまりおすすめできないよ?」


「興味ねぇ興味ねぇ。そうじゃねぇんだ。もしもこのアルカリアで綺麗な宝石を見つけたら、お前に渡せば偽物か分かるのか気になったんだよ」


「ん、まぁ自信はあるかな。こう見えても盗賊団『虹の光』だった時は目利きも少しやっていたから。まぁ団長には劣るけどさ。でも急にどうして?」


「あ、いや……何でもねぇ」


竜太郎が口ごもるのを見て、軽猫はしばらく首を捻っていたが、すぐにその意図を理解して口元に笑みを浮かべる。


「もしかして、妹の為? 花火ちゃん……だっけ?」


「……」


竜太郎の肩が小さく弾むのを見て、軽猫は更に口角を上げる。竜太郎は出来る限り動揺を隠す為か、ガラスを手に取る事を止めて歩みを再開させた。


「あ、もしかして図星?」


「う、うるせぇよ」


「馬鹿にしている訳じゃないよ。竜太郎ってちゃんとお兄ちゃんなんだなぁって思っただけ」


「なんだちゃんとお兄ちゃんって。殴られてぇか」


「いやだよ。いやさ、妹とか姉がいる人って妙に優しい性格になると思うんだ? でもなんか、竜太郎のその白い大きな服とか頭とか見るとそんな一面が見えないからさ。なんか、妹の為に行動しているところを見ると安心する。誰かに託されたものなんだっけ?」


軽猫の言葉に足を止めた竜太郎は、目を閉じた。瞑想をしているのかそれとも何かを思い出しているのか分からない軽猫は、竜太郎の前に移動して彼の顔を覗き込む。しばらく目を閉じる竜太郎とそんな彼を不安そうに見つめる軽猫の間に静かな時間が流れる。


「竜太郎、私変な事言っちゃったかな? それならごめん……」


「悪い事はなんも何も言ってねぇ。謝る必要も全くねぇ。この服も髪の毛も、妹が俺へと託したもんだ。そんな妹に対して土産の一つも持たないで会うわけにはいかねぇだろ」


「それ、花火ちゃんからだったんだ……。そっか、やっぱり竜太郎はお兄ちゃんだね。目利きは任せて! 精一杯やらせてもらう!」


「……おう。ありがとうな」

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