花に願いを

水乃谷 アゲハ

第47話

「完成した地獄絵図に、影族の皆は退く事にした。自分達の切り札で相手を無力化しても、そやつらは水分の無くなった身体で動こうとするからな。見る事も辛いと判断して妾達は退いた。父上と妾は狂猛草の影響を受けていないか不安になり、急いで陽朝達の元へ戻った。結果的に無事ではあった。戦地の方から漂う煙を目視で確認した母上が、地下の部屋に二人で避難していたからじゃ。流石に妾達は逃げ出す事を決意した」


「逃げ出すって戦争中の星からか? そんな事無理だろ?」


「いや、結果的に妾達は逃げきれた。妾達の居場所を明かした父上の親友が超医学薬で生き返っておってな。彼の協力で無事に妾達家族は星から逃げ出す事には成功したのじゃ」


「待った。その親友が倒れていた場所ってもしかして……」


「うむうむ、コロノは察しが良くて助かるのぅ。当然妾達の隠れ家すぐ近くじゃ。残念ながら助けを求めに来た時、既に彼は手に負えないほど背中に傷を負っていた。しかしながら復活した彼はどういう訳か普通に歩き回り、自分が逃げる時の為に用意してくれた宇宙船を譲ってくれたのだ」


「察しが良いの?」


「うむ。では分かっていないお嬢に問題じゃ。『薬を扱うとき、一番気を付けなければならない事を答えよ』」


「えぇ?」


突然のクイズに、軽猫は少し首を傾げて考えた後手を叩いた。


「副作用だ! 薬草で作る薬にもあるからいつも一つだけだって仲間に怒られたなぁ」


「そう、薬には当然副作用がある。そして超医学薬、戦場を覆い隠す程の多量な薬は身体全体に浴びた者へ強烈な副作用を起こしだした。ドロドロに体を溶かす副作用。初めにそれを気が付いたのは父上だった。


近くにあった何もない辺鄙へんぴな星に着陸してすぐに自分の足の動きが悪い事に気が付いてな。妾や陽朝は子供だったから母上の重力による説明を信じていたが、父上は衣服の下に起こる自分の身体の変化に気が付かずにいられなかった。
すぐに母上に手紙を残して父上は姿を消した。人から人へ転移する可能性を感じての行動だったのだろうな。しかし手紙を読んだ母上はすぐに小さな妾の身体にも起こっているその変化を目の当たりにした。
とはいえ、薬の成分も分からなければ名も知らぬ星では植物の種類も分からぬ。母上は日に日に溶ける妾の身体に何をする事も出来なかった。とはいえ、幼い陽朝にそんな傷を見せるわけにもいかない母上は最後まで陽朝には隠し通してくれたわ。


三日もすれば船に積んだ食事も切れる。しかし、何故か三日たっても食事が底を尽きる事は無かった。毎朝食事が船の近くに置いてあり、それだけで生活が出来ていたのじゃ。
母上は、その食事を運ぶ主に礼をしようと陽朝に提案し、既に足を失くした妾を船に残して早朝船の前で立っていたそうだ。この時何となく母上にもそれが誰の仕業か分かっていたのだろう。その日の母上はとても悲しそうな顔をしていた。


そして翌日の早朝、食事を抱えて現れた男に陽朝も母上も言葉を失った。その男は父上じゃ。いや、正確には父上だった者じゃ。顔も腕もドロドロに溶け、およそ人間とも言えぬ姿になってなお父上は母上や妾達を生かす為に得物を捕らえては運んできてくれたのじゃ。
母上は、父上のその姿に堪える事が出来ず、涙を流して抱き着いたそうじゃ。圧倒的に強かった父上の身体は簡単に押し倒されてしまったという。衣服の上からでも分かる異常な形をした父上の身体に、幼い陽朝は現実を飲み込めず、妾に助けを呼ぼうと部屋に来てしまった。勿論、父上がその有り様なのじゃ。妾とて変わらない。


陽朝は、ドロドロに溶けた妾の姿を見てしばらく言葉を失っておったわ。だから妾は今までちゃんと言ってやれなかったと思い、最後にこの身体になった旨とずっと大好きだった事を伝えた。陽朝はしばらく固体か液体かも分からぬ妾の身体にすがって泣いておったわ。


そして、陽朝はひとしきり泣いた後に死んだ後妾を何とか呼び出してみせると話してくれた。素直にその時は嬉しかったわ。まぁ、超医学薬の効果は知っての通りで死ぬこと等出来ないがな。
陽朝は妾に背を向けて部屋を去った後、父上だった者と母上の元へと行った。既に父上は喋る事の出来ない身体になっていて、上に覆いかぶさる母上は目に光を失って父上に語り掛けていたそうだ。


そんな母上の頬を叩いて現実へと引き戻した陽朝は、母上に最後の教えを頼んだ。それは、二人が地下に隠れている時に母上が教えてくれたどんな生物でも殺せる魔法。母上は初め、陽朝がなぜそのようなお願いをするのか分からず、小さな体では負担が大きすぎる事を伝えて諦めさせた。
しかし、陽朝の考えを聞いて母上はその呪文を教えた。まぁその魔法を妾は知らぬが、どうやら陽朝はそれを習得出来た様だ。じゃないと妾が今ここにいる事は無かった。


陽朝は、妾に涙を流しながらその魔法を唱えた。どういう訳かドロドロになって動けもしなかった身体でも、陽朝の姿をよく覚えておる。何度も何度も妾に謝りながら、ゆっくりと妾の身体に紋を刻んでおったな。それから先はよく覚えておらぬ。気が付いたらこの身体に入っておってな。


場所も知らぬ部屋の一室で今までの事と、母上も同じ手段を取って父上と共に生きている事、母上はその星に残って住んでいた異星人に医学を教えたり、父上に入れ替わって戦闘のいろはを叩きこんでいる事、その異星人から感謝の印に未来花の存在を教えてもらった事、それを手に入れる為に宇宙船を使ってこの星に移動し、同じく未来花を狙っているギルドというものに入った事を全て手紙でまとめてくれておった。


以上が妾と陽朝の話じゃ。陽朝はその時の父上や妾の様子を思い出してしまう発言をされるとさっきの様になってしまうから気を付けてほしい。……で、なんで竜太郎とお嬢は泣いておるのじゃ」

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