花に願いを

水乃谷 アゲハ

第45話

「どうせ竜太郎、お前も同じ事を思ったんじゃろ?」


「……まぁな」


「そうじゃな。妾とてお主達の立場ならそう思うわ。それでは、まず何から話したものかのぉ。そうじゃ、貴様達の真似をして自己紹介からしてみようか。妾は月宵。陰陽星影族のリーダーにして陽朝の姉じゃ」


全員が静かに月宵の顔を見つめて黙る。


「陰陽星に住む者の特性は『戦闘狂人』とヒーラーには出来ぬ『口寄せ』。陽朝はその特性を生かした能力という訳じゃな。ちなみに妾の魔力は"ウォーリアー"。影刀イチノセは妾以外の者が触れると重さを千倍にする特性があるから、普通の者には持ち上げる事も出来ないはずだったのに、おかしいのぉ」


「ま、一重に俺の腕力がすごいって事だろうな」


「認めざるを得んな。さて、ここから本題といこうか。陽朝と妾の話じゃな。ちょいと長くなるが良いか?」


全員月宵の確認を拒否するはずがなく、首を縦に動かした。


「まず初めに、妾達姉妹は陽族の母上である優包ゆうほうと影族である父上の壊刃かいばの間に生まれた。当然これを聞いた時最初に思い付く疑問といえば、何故反対側に住む者、それもいがみ合っている者同士が子を作れるのかというものだろう。
勿論許される事では無かったのだろうな。許される事だったのなら妾と陽朝がこうなる事も無かったのだから。


父上は影族の中でも相当の実力を持っていた。この妾でも傷無しで倒せるかどうかといったところじゃ。それ故か、父上は陽族との終わらぬ争いに飽きていた。どうせ戦っても勝ててしまう勝負はもううんざりしたと本人も言っておったな。


ある日、父上は戦争に行くフリをして舞台から逃げたそうじゃ。当然後ろから追手は来るものの、父上に勝てる者はおらず全員殺された。とはいえ流石は戦場に立つ者と言うべきじゃな。父上も一人逃げ切った頃には全身傷だらけだった。


体力も限界に近かった父上は、体を休める為に目の前にポツリと置かれた家へと転がり込んだ。そこは不運にも陽族の領域で、中にいた女も陽族であった。


中にいた女性は、一目で父上を影族だと理解して自分の運命を呪う様に台所の包丁を手に取った。その者が自分の心臓へと刃を立てるより先、父上が疲れた体を鞭うって彼女の手を押さえていたから彼女は無事だった。それが、母上の優包と父上の出会いじゃな。


父上はすぐに彼女の手から包丁を取り上げると、両手を挙げて距離を置いた。それが母上に対して最も敵意が無い事を示すと判断したのじゃろう。幸い母上もすぐに父上の伝えたい事を理解し、父上の話を聞いてくれる事になった。


父上は自分が影族側である事、戦争に飽きて逃げ出した事、体を休める為に寄っただけで敵意が無い事を包み隠さずに話した。母上もそれを信用し、自分が陽族側の人間である事、陽族の中でも女王の立場に当たり、敵に殺されない為にこの小屋へと逃がされた事、自分を守ってくれた者は全員死んでしまった事を話した。


父上も母上の話を信じ、父上の提案から母上の身を守る事になった。幸い陽族の女王である母上がそこにいる事は戦場の誰も知らず、ずっと地下に隠れていた為、当時陰陽星がどうなっているのかを知る由も無かった。この時、陰陽星の戦争は普段に比べたら穏やかなものになっていた。おかげで母上も父上も同じ家の中で不自由なく育ててくれた。


丁度その頃、つまり戦争が休戦している時に妾は生を受けた。決して裕福な暮らしでは無く、足音が聞こえれば地下の隠し部屋に隠れるだけの生活だったが、それでも妾はここまで育ててくれた両親に感謝しておる。


妾が喋る様になった頃から、父上は妾に戦闘のいろはを教えてくれた。当然女である妾にそんな事を教える事を母上は反対していたのだが、妾から強くなる事を望んだ。何故かって? 足音に怯えるだけの生活という胃がひっくり返る程気持ちの悪い生活が嫌だったからじゃ。


父上の血を継いでいる事もあり、妾の年齢が十を超える頃には陽族の偵察をする為に家を漁りに来た影族の者など簡単に倒せる様になっていた。丁度陽朝が生まれたのもその頃じゃ。


陽朝は妾とは対照的で戦闘を好まぬタイプじゃった。いつも母上の背中を追いかけ、喋る様になってからはずっと料理や医学を教えてもらっていたわ。父上と手合わせした後などはいつも世話になっておったな。相変わらず隠れて野生の生き物を狩ったり、魚を取ったりするライフスタイルではあったが、とても幸せな生活だったと胸を張って言えるわ。


しかし、幸せのピークにあるならそこからはどんどん不幸になるのが世の常。残念ながら影族の戦闘民族の一人、父上の親友だった者に家にいる事がバレてしまった。親友であったそやつは初めこそ妾達を見逃してくれたのだが、最後でヘマをしおってな。血だらけの姿で父上の元へ助けを乞いに来た挙句、その血痕で影族のリーダーにも居場所が割れてしまった。


父上の必死な頼みによって、母上の命は見逃される事になった。しかし、条件付きでじゃ。妾と父上は影族に戻る事。それが、奴の出した条件じゃ。妾とて戦争に行きたいとは思わなかったのだが、大事な母上と妹を守る為じゃ。父上と戦争に参加する事に承諾した」

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